いえ、人違いです。

hina

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「今日は第二食堂で食べる?」
昼食の選択肢は四つある。事前に寮でお弁当を頼むか、購買でパンを買うか、高級な料理を出す第一食堂か、庶民の料理を提供する第二食堂か。
あまりお金持ちでない田舎男爵の次男である僕は、必然的にお弁当か購買か第二食堂で食べることになるわけだけれども。
今日はお弁当は頼んでいないので、購買か第二食堂かの二択だ。

「生徒会長来るかなあ」
「ん? 生徒会長?」
入学式の日に友達になったルネが不思議そうに問う。
「あまり大きな声で言えないけど、僕、生徒会長が苦手なんだよね。出来れば会いたくない」
「へー。珍しいな。生徒会長と言えばみんなの憧れなのに」
もう一人親しくなったケネスが会話に入ってくる。
「生徒会長なら第一食堂じゃないかな? 僕も詳しいわけじゃないけど」
ルネも自分のことを僕と言う。蜂蜜色の髪と瞳を持つ可愛いルネにはよく似合っている。
対して僕は平凡な見た目だ。榛色の髪に淡い碧眼。顔立ちも可もなく不可もなくといった感じで特徴らしい特徴がない。スッキリしてるとはよく言われる。涼やかと言って欲しい。なんて、贅沢かな。


「第二食堂は広いし人も多いから、もし生徒会長が来てもすれ違うくらいじゃないか。会長に近付くと親衛隊が怖いしな」
「親衛隊! 会長の親衛隊は過激らしいよね」
「え? そうなの?」
なら、尚更近付きたくない。平穏がいいです、僕は。

「らしいよ。で、どうしよっか?」
「第二食堂に行こっか。ケネスもそれでいい?」
「俺はどこでも」
ケネスは歴史ある伯爵家の長男で、金髪にアイスブルーの瞳のイケメンでもある。僕は除外されるけど、会長といい、貴族ってやっぱり美男美女が多いのかもしれない。
末端の男爵家と由緒正しい貴族家を一緒にしちゃいけないか。
でも平民のルネだって可愛いし、単なる遺伝かな。遺伝って大きいよな……。


「ユーリ? 行くよ?」
「あ、うん。待って!」
ルネに名前を呼ばれて、急いで席を立ち教室の入り口で待つ二人に追いついた。










「日替わりはハンバーグかあ。僕も日替わりにしよっと」
ルネが先に頼んでいた僕の日替わりセットを見て、同じものを頼んでいる。
ケネスは白身魚のムニエルにしたようだ。

先に会計を済ませていたケネスが席を見つけてくれていたのでそこに腰を落ち着ける。
「いただきま「きゃーー!」」

す、まで言えなかった。入り口の方から歓声が上がったので見てみると、そこには紫紺の髪に青い瞳の生徒会長を中心とした五人の生徒会のメンバーが第二食堂に入ってきていた。

不安が的中してしまったような気持ちになって、まだ手をつけていないのに、急速に食欲が無くなっていく。
でも食べるよ、午後の活力源だもん。

「来ちゃったね、生徒会長」
「でも距離あるし、こっちには来ないだろ。窓際の席開けてるみたいだし」
「ところで、なんでユーリは生徒会長が苦手なの? 何か因縁でもあったり?」
「あ、いや。あのオーラが怖いっていうか……」
まさか前世の記憶が甦ったんですとは言えなくて、心苦しいけど、お茶を濁す。

「あー。でも確かに。何か怖いよね。わかる」
「だよね? 身がすくむ気がするんだよ」
「ユーリは小動物っぽいもんな。気配には敏感なのかもな」
「え、僕小動物っぽい?」
「身長低いから」
「ケーネースぅ!」
人が気にしてることを! 僕はこれから伸びるんだ!
ケネスはクスクス笑い、揶揄ったことを反省もしていないようだ。
「困ったものだね」
「本当だよ、もう!」
怒りながらハンバーグを切りわけて口に運ぶ。食欲は無くなったけど、ちゃんと美味しい。
良かったと思って食べ進める。

会長を含めた生徒会のメンバーは窓際に座っていて、ここの中央付近の席からは離れている。
位置的には、生徒会長は斜め前に座っている形なので、視界に入ると言えば入るけど、遠いし、沢山の生徒がいる中で僕に注目するとは思えなかった。

あえてそちらを見ないようにしていたので、生徒会長が僕の方を見ていたなんて僕は気が付かなかったのである。
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