いえ、人違いです。

hina

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「よく晴れた麗かなこの日────」

王立魔法学園。この全寮制高等学校に十五歳で入学することになった僕は、呆然と壇上で話す生徒会長を見ていた。
心臓がバクバクとうるさい。このタイミングで思い出すなんて。恐らく間違いない。彼は……あいつだ。

─────魔王。


転生しても纏う雰囲気が同じだ。得体の知れない、威圧感のようなオーラと魔力を感じる。在校生代表の挨拶でそこまでの覇気を見せる必要なんてないんじゃないかなと思うけど、先程の黄色い声援から想像するにカリスマ性のある生徒会長として人気なようだ。

今、思い出した。
僕の前世。

この世界とは違うけれど似た世界で勇者として魔王討伐を託された記憶を。
しかしそれは上手くいかなかった。
僕は圧倒的大差で負けてしまった。世界は魔王に支配され、僕は人類から恨まれ、魔王に性奴隷にされた。
淫紋を刻まれ、飢えに苦しむ凌辱の日々は長く続いた。
最期の時は覚えていないけど、腹上死だったんじゃないかと思う。多分。あんまり思い出したくないけど。
薄くて細い今世とは違い、逞しかった前世の僕なんて抱いて魔王は楽しいのかと聞いたが、そういう男を屈服させるのが楽しいとのたまっていた。

変態さんの考えることはよくわかりません。うん。


「─────以上。生徒会長、エドアルド・フィーン・ルクレス」

あ、一人でパニクってるうちに挨拶終わってた。

これはあれだな。なるべく関わらないようにしよう。

彼に前世の記憶があるのかはわからないけれど、もし無かったとしても、僕がトリガーになるなんてことも考えられるじゃないか。僕がそうだったように。
でも全て僕の勘違いで、まったくの別人の可能性だってないわけじゃない。
もし、本人で前世の記憶があった場合は、意地でも見つかったらいけない。
今世は前世と違って、一人称は俺じゃなくて僕だし、身体だって違うし、世界も違うから魔王はいないし、淫紋もないけど、同性同士でも魔法で子供が成せたりするから油断は出来ない。
前世の彼の僕への執着ぶりは今思い出しても震える。
もし前世を引きずって拗らせていたら、僕は見つかったら最後、また貪り尽くされるだけだろう。
それは何としても避けたい。

なんでこんなに身近に転生してるんだろう。
神様、酷いです。
せめて関わりのないところに生まれるとか時をずらすとか、あっても良かったのに。


「知ってる?生徒会長って一年間首席キープしてて今年も首席で始まって頭も良いし、次期公爵なんだって。それであの美貌。天は何物も与えたのよね。生徒会長なのも頷けるわ」
「知ってる知ってる。親衛隊もいるらしいけど、お近付きになりたいなあ」
「会長目当てにこの学園に入った人もいるらしいし」
「それだけ魅力的ってことだよね」
「うん。かなり」

前に座ってる二人の女の子の会話が耳に入ってくる。
そんな話を聞いても僕の心は動かない。
接点なんてないと思うけど、背中に嫌な汗が伝っている。
これから先どうなるかはわからないけれど、どうか彼が僕という存在に気が付きませんように。お願いします。

僕には祈ることしか出来なさそうだ。

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