珊瑚の恋

hina

文字の大きさ
上 下
2 / 7

しおりを挟む
「もう少し父上を説得してみるから待っててくれ」
「ありがとう。でも無理だと思ったら引いて下さいね?」
「ああ。父は怖いからな」
「青様の真顔も同じくらい怖いわ」
「なんだって? そんなこと言う奴はこうだ」
「やだ! やめて下さい!」

青様が抱きついてきて、ぎゅっと締め付けてくるので、笑いながら青様の腕を叩く。
同時に頬に顔を寄せて口付けてくるから油断ならない。

「もう!」
「怒る桜も可愛い」
「でれでれする青様はかっこ悪いです」
「それは大問題だ」
まったく堪えてないようなあっさりした返答に、太刀打ちが出来ない。
「思ってませんね」
「わかる?」
「わかるも何も……」

脱力して項垂れる。すると、悪いと思ったのか腕の力が弱まる。


「早く自由に外に出られるようになりたいです」
「そうだね。でも危ないから独りで出歩いたらダメだよ」
「結局青様は過保護ですね」
「桜が魅力的だからだよ」
「それはどうも」
「信じてないな」
「わかります?」
「私は心配だよ……」


私の白い髪を青様の大きな手がゆっくり撫でてくる。
うっとりして身を任せると、ふっと微笑んだ青様の吐息がかかった。

私の桜という名は、瞳が淡く少しくすんだ桜色をしていることから来ている。
外見から名前が決められたのは、青様と一緒で、二人で笑い合ったこともある。
特別な共通点が嬉しかった。

「早く夕方にならないかな! 楽しみです」
「行きたいところ考えておいて。私はまじないの術者を頼んでくるから、また後でね」
「はい!」











「ん、美味しいです」
コシのある冷たい蕎麦を啜りながら、にぱっと笑った。
「蕎麦で良かったの? 牛鍋とか懐石とかでも食べさせてあげられたよ?」
「高級な料理は普段から食べてるじゃないですか」
「まあ、それもそうだけど。家で食べるのと店で食べるのはまた違うから」
「だからこそですよ。この気安い雰囲気を味わいたかったんです」
「そうかい? 楽しんでるならいいけど」
「楽しいし嬉しいです」



店内は満席でとても騒がしい。活気に満ちた感じが気分を上げてくれる。
手頃な値段設定のお店だから、客層も庶民的だ。

「口に合いませんでした?」
「いや、美味しいよ。もちろん」
「青様はこういうお店あんまり来なかったりします?」
「そんなことないよ。仲間や同僚と来たりするし」
「また連れてきて下さいね! 他のも食べてみたいし」
「喜んで」


蕎麦に天ぷらも食べ、蕎麦湯を飲んでお腹がいっぱいになった私達は、次の目的地に向かうことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

処理中です...