欲しいのはただ君一人

hina

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最近、繰り返し見る夢がある。

それは細い三日月の明かりが頼りの暗い夜のこと。
金髪碧眼の男性が僕を庇い、襲って来る敵の刃に倒れる夢。
音は聞こえないけれど、僕は泣きじゃくりその男性の名前を何度も呼ぶ。
その男性も僕の名を呼んでいるのか、力無く僕の頬に手を伸ばし何事かを囁いて、そして……。


「何て言ったの……」
貴方は誰……?

目覚めたばかりだけど頬が濡れていて、僕は無造作に淡い緑のパジャマの胸元に顔を寄せそれを拭った。

なんでこの夢ばかり見るのか分からないけれど、僕の心は沈んだ。

何か意味があるのかな?

それからしばらくぼんやりして、僕は小型端末を確認した後、ベッドから抜け出した。






「湊様、本日は午後八時より静様とのご予定が」
「ああ、そういえばそうだったな。兄さんと会うのは久しぶりだな」
幼い頃から俺の側近をしている九重が、今日のスケジュールを部屋の黒い革張りのソファに座る俺に告げている。

防音設備の整う都心のマンションは父がオーナーだ。音楽家を支援したいと建てられたマンションは音大生にも人気で、そんなに部屋数はないが今のところ部屋は全て埋まっている。

俺は去年まで海外の大学に通っていたが、今はもう卒業して日本に帰ってきた。
音楽はその傍らでやっていたけれど、ネットで話題になってから、俺を取り巻く環境は目まぐるしく変わった。

大手レコード会社との契約の話も持ち上がっているが、今は待ってもらっている。

「我が家は厄介だな」

我が月白家は月白財閥の創業者一族で、資産が沢山ある。一族の直系としての責務を果たして欲しいと言われた事もある。

だから音楽活動を主軸としていくのは、歓迎されているばかりではないのだ。

「兄さんには何を言われるだろう」
「静様は昔から湊様の味方でしょう?」
「そうだな……」
「私もですよ、湊様。諦めないで下さい」
「ああ。俺もそうしたい」

ごく親しい人には大事な人を探していることは言っている。
九重と兄には前世の番のことも。

二人とも笑ったりせず、馬鹿にしないで聞いてくれた。
それがどれほど嬉しくてありがたかったことか。
だから俺はまだ頑張れているのかもしれない。
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