393 / 430
第13章 建国
第392話 ある日のバリアンテ王族
しおりを挟む
その日、ペンタガラマでは先代獣王の十周忌を弔っていた。
「もう、十年か・・・」
高齢の為、周りからプテオサゥラに騎乗する事を禁止されていたが、反対を押し切って騎乗した挙句、山間部での乱気流により落龍し、浮遊の魔石を使う事も無く地上に叩きつけられて即死したのだ。
そもそも故郷の街メレナに向かっていたのだが、落龍防止の魔石など龍騎士隊発足の時以降、常備はするが使う機会が無かったのだから。
使っていなかったから忘れた。よりも、やはり高齢なので対処できなかったのだろうと部隊の者達の意見だった。
龍騎士、黒龍騎士団隊長として国内を凱旋するのが何よりも楽しみだった先代獣王。
その行動力はしっかりと受け継がれている様だった。
別の言い方をすると、その周りを気にしない迷惑行為は子孫に色濃く受け継がれていた。
一方で、陰で支えていたアンドレアだが、老衰死となっている。
しかし、アレだ。
他の国同様に偽りの葬儀を行い若返らせたのだ。
アンドレアに関しては本人の意思を確認したのだが、本当はエルヴィーノの思惑だ。
エルヴィーノの意思が無ければ事前に確認などする訳がない。
ひとえに、バリアンテの将来が不安だったためだ。
パウリナだけでは巨大な王国を管理できないと不安になったからだ。
パウリナは龍人の力を行使できる。
そして求心力も有る。
だが、それだけだ。
数多の族長や長老たちはパウリナを掲げてくれるが、内政と外政を取り仕切るには未熟なのだ。
老獪たちに対抗する為にアンドレアと相談し、秘策を持って子孫へ未来に繋げる事にした。
若返ったアンドレアは名前を”レア”と変え、サルクロス生まれとした。
そして女王に仕えていたが、”孫たち”が心配で従者を派遣する事にしたリーゼロッテ。と言う計画だ。
セサルとアナもリーゼロッテにはなついていたので、パウリナも承諾したのだ。
しかし、パウリナには本当の事は教えていない。
真実を知れば母親に甘えるからだ。
そこはアンドレアにも納得してもらった。
細かな事を言えば、アンドレアが組織した獣人達の影の部隊も黒龍王が引き継いで、レアに戻せば全ての機能が”生前”と同様に使いこなす事が出来るのだ。
もっとも、そういう触れ込みでレアを紹介してある。
わざわざリーゼロッテがバリアンテに出向き、セサルとアナの前でレアを紹介した。
「二人とも、私が自国で一番信頼する獣人の女性をあなた達の従者に任命するわ」
「解ったわリーゼ」
「別に従者なんていらないのに・・・」
「セサルゥ、貴男のお祖母様から貴男の大好きなお仕置きを全部聞いてレアに教えてあるからね。”おりこうさん”にしてないと、どうなるか解っているわね・・・」
「ええええっ!!・・・解ったよ」
自由奔放な兄と、背伸びして大人ぶる妹だ。
爺さんに似て物事を直感で判断する戦士と、知識と情報で敵対者を知略で戦う戦略家となるべく育てた婆さん。
そんな二人が成長する姿を見守る”レア”だった。
龍騎士隊に黒龍騎士団も代替わりしている。
龍たちは長寿なので未だに成龍にはなっていない。
現在では黒龍騎士団が総勢30騎で10騎ずつの3分隊で分かれている。
龍騎士隊は龍と隊員の訓練部隊だ。
こちらは50騎居る。
龍種の羽化育成に豊富な知識と経験を積み上げて、龍たちからも信頼を得た結果だ。
それと同様に龍騎士団に入隊したい者が多いのだ。
当初は全国から有望な者を集めていたが、従来の警備兵に騎士たちからも応募が多く、条件を満たし試験を通過した者だけが入隊の栄誉が与えられた。
もっとも国内種族で重量級の者達にはあきらめてもらった。
その代わり、優先して城内の警備や騎士に採用した。
龍種であるプテオサウラも100体以上生息するようになったバレンティア山だ。
それでも騎乗できる個体は少ない。
成龍が増えて幼体も増えたのだが成長が遅いのだ。
しかし、プテオサウラの世話をする係も人気の職種だ。
バレンティア山の周りには、専用の牧畜地が有り、専任の調理隊も存在する。
住処が手狭になり、新たな住居を求めるプテオサウラの要望に応えるべく、慌しくする黒龍王だが、一方では問題児が活動していた。
それはセサルが、こっそりと龍騎士の試験を受けたのだ。
当たり前だが、黒龍王と群青の聖戦士の子供であるセサルは次期獣王となる予定だ。
幼いとは言えその存在に、容姿を知らない城勤めの者は存在しない。
ならば、どのようにして身分を隠すか!?
セサルの取った行動は・・・覆面だった。
内緒で専任の召使いに作らせて、この日の為に用意した冒険者の服を着て試験に挑んだ。
セサルとアナはガトー族だ。
しかも父親の特性を色濃く出している。
それは体毛が黒い事だ。
だから尻尾も服の中に隠し、目の部分が開いた覆面で毛を全て隠すようになっている。
鏡を見れば覆面をした人族の様に見えた。
「完璧だぁ!! 絶対に俺だと解らないよなぁ」
「・・・」
側近の召使いは無言だった。
この側近はセサルが”おかしな行動”に出た時に報告する密命が下っている。
“先代の前例”を知っている者達にその情報が送られて可及的速やかに対処される。
しかし、今回の指示はこうだった。
“放置します”
見て見ぬふりをしろ、と言う事だ。
性格の系統に環境と趣向を思い浮かべれば、龍種に乗りたいと言い出すなど、生まれて直ぐに想定していたからだ。
それを子供だから、危険だからと言う理由で遠ざけても、ひねくれた歪んだ思想になると判断した”今は亡き祖母”が、生前に指示を出していた計画を”現王妃”が実行しているのだ。
試験は座学で文字と計算の習得を確認し、実技で身体能力を確認し、面接で質問による受け答えで人柄を確認する物だ。
そして合格発表の際に合格者の番号が呼び出された。
自分の番号が呼ばれるかドキドキしていたセサル。
もしかしたらバレて落とされる可能性も有るかもと不安をよぎらせていた。
しかしあっさりとその番号を耳にし、壁に書き出された番号を確認した。
(よしっ!! これで俺も入団出来るぞぉ!!)
ところが、これで終わりでは無かった。
「今回の合格者は本当に優秀な者達が多いので、更に選りすぐりの者を選別する為に更なる試験を受けてもらう事となった。試験内容は・・・”勇気を示せ”だ」
ザワザワ・・・
(勇気を示せって、意味が解んねぇよ)
セサル以外の者達も同様に困惑していた。
「静かに!! 具体的には、試験場に入り床にある手前の線で横一列に並べ。順番は気にする必要は無いぞ。そして試験が始まれば前方の別の線を越えて立っている事。全員が勇気を持っている事に期待する。以上だ」
説明したのは巨漢のヒラファ族の男だった。
合格者は案内されて試験場の部屋に入った。
床には手前と奥に横線が床にあった。
「それでは試験官をお呼びするので待機するように。試験官の合図で開始するからそのつもりでな」
全員が並び、案内した者が奥に向かった。
案内者と入れ替わりに入って来た者を見て驚いた。
ザワザワ・・・
(ゲェェェッ、なんで親父がぁぁ!!)
「さて諸君、開始と同時にこちらの線を越えて立って勇気を示す様に。良いか? 始めるぞ?」
(((・・・)))
全員が沈黙した。
何故なら手前の線から向こうの線まで、わずかな距離だ。
ただ歩けば良いだけの事。
全員がそう思っていた。
「では開始!!」
その声が聞こえたと同時に走り出そうとする獣人の合格者達。
しかし、瞬時に体が委縮してしまった。
「「うわぁぁぁ!!」」
「「助けてくれぇぇ!!」」
「「ひぃぃぃぃぃ!!」」
「「・・・・・!!」」
「くそぉぉぉぉ!!」
それは獣人達が感じた事の無い物だった。
ある者は恐怖し、ある者は恐れ戦き、またある者はしゃがみ込んでしまった。
実際は黒龍王が濃厚な魔素を噴出しているだけなのだが、戦闘種族の多いバリアンテではこの感覚を闘気に当てられたな感じと錯覚している様だった。
ただ一人を除いて。
幼い頃から大好きな兄たちと魔法の練習をしていたので、兄に教えてもらった魔素の発散は知っていたセサルだ。
現にアロンソから魔素の発散を受けたことが有り当時も驚いたが、今は父の強烈な魔素に押し戻されそうとしていた。
「なるほど・・・」
我が子の意思の強さを知ることが出来、嬉しく思うが後方で蠢いている獣人達に激を飛ばした。
「獣人達はこの程度の力にも屈するのか? 根性のある者は這ってでも来い!!」
「!!!」
「「「・・・くっそうぉぉぉ!!」」」
じりじりとゆっくりと匍匐前進する合格者たち。
その中で、数歩先を行き立って歩こうとする幼い体躯の者。
予想はしていたが、そりなりの時間がかかってしまった。
想定外だったのは大半が線を這って越えてきたのだ。
しかし立てない。
近づけば近づくほど魔素の強風は強くなり、立つことなど出来るはずが無いと思っていた合格者たち。
先に線を越えたがしゃがみ込んでしまったセサルだ。
這ってきた者達含めて5人だ。
「さぁ、立ち上がりお前たちの意を示せ!」
そう言われて闘争心に火が付いたセサルは歯を食いしばり立ち上がった。
「我が名はセサル!! 龍騎士隊に志願する者なり!!」
「合格だ」
するとセサルは黒龍王の後ろに立っていた。
「ええっ!?」
近距離を転移で移動させたのだ。
後ろから仰ぎ見る父の姿。
(やったぁぁ合格って言ったよなぁぁ)
「さぁ、もう居ないのかぁ? 勇気のある奴はいないかぁ?」
「・・・くっ、我が名は・・・」
「我が名は・・・」
1人合格者が出ると次々と意を決した者が立ち上がり宣言した。
9人が合格し、最後の1人は女性だった。そこに
「怖いか? 諦めても良いぞ? “女の身で”ここまで耐えるとは予定外だ」
その言葉に心に火が付いたガトー族の女だった。
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
足はガクガクだがヨワヨワしくも立ち上がった。
「わ、我が名は・・・」
全て宣言する前に意識が飛んでしまったようだ。と、同時に魔素の発散を止めて、倒れ込む女性を助けた黒龍王だ。
「お前たち、この女の意思を見たか? 聞いたか?」
その問いかけに全員がうなづいた。
「ならばこの女は合格か? 不合格か?」
「「「・・・」」」
これには誰も声を出さなかった。しかし
「その女は合格だ!! 俺が聞いていた」
セサルだ。
「他の者達はどうだ?」
「合格だと思う」
「我も合格だと思う」
「我も・・・」
「「「「我も」」」
「全員が思うのならば、この女も合格だ。では行くぞ」
黒龍王に続き別の部屋に向かう合格者たち。
そこでは入隊に関する説明が聞かされる場所だった。
「セサル、良く頑張ったな」
「うん」
頭を撫でてもらい嬉しそうする息子だ。
しかしこの後、崖から突き落とさなければならなかった黒龍王。
「セサルよ、龍騎士隊に入る事を認めよう」
「やったぁぁぁっ!!」
「しかぁぁし、その前にお前には特別な試練がある」
「へっ!?」
「あの扉を抜けてくるのだ。そうすれば誰もお前には口出ししないぞぉ」
「えぇぇぇっ!!」
瞬時に最悪な想定が脳裏を過ったセサルだ。
「さぁ行こうか息子よ」
「ちょっ、ちょっと待ってよ親父ぃぃっ!!」
「さぁさぁテレなくても良いぞ」
「合格だよな? 俺、合格したんだよな!?」
「勿論だとも。俺は合格させたぞ」
(俺は・・・って事は・・・)
にっこりとほほ笑む黒龍王。
「いやだぁぁぁ行きたくなぁぁぁぁい!!」
(許せ息子よ、お前もいつか解る時が来るだろう)
まるで断末魔の様に聞こえた心の叫びは、聞こえなかった事にした合格者達だった。
そもそも立って歩く事など不可能なのに、子供の様な合格者が先行したいた事に疑問だった。
しかし最後の説明場所で覆面を脱ぐと黒龍王と同様の髪で即座に理解した合格者たちだ。
何が起こるのか分からないが、先ほど以上の恐怖が理解できない合格者たちは、赤子の様に嫌がる息子を連れて扉に入っていく親子を黙ってみていた。
簡単な説明をすると、母と妹に教育係兼側近の従者から、ネチネチと文句と嫌味と体罰に再教育を夜遅くまで続けられたとさ。
☆
とある獣人族の親子でした。
「もう、十年か・・・」
高齢の為、周りからプテオサゥラに騎乗する事を禁止されていたが、反対を押し切って騎乗した挙句、山間部での乱気流により落龍し、浮遊の魔石を使う事も無く地上に叩きつけられて即死したのだ。
そもそも故郷の街メレナに向かっていたのだが、落龍防止の魔石など龍騎士隊発足の時以降、常備はするが使う機会が無かったのだから。
使っていなかったから忘れた。よりも、やはり高齢なので対処できなかったのだろうと部隊の者達の意見だった。
龍騎士、黒龍騎士団隊長として国内を凱旋するのが何よりも楽しみだった先代獣王。
その行動力はしっかりと受け継がれている様だった。
別の言い方をすると、その周りを気にしない迷惑行為は子孫に色濃く受け継がれていた。
一方で、陰で支えていたアンドレアだが、老衰死となっている。
しかし、アレだ。
他の国同様に偽りの葬儀を行い若返らせたのだ。
アンドレアに関しては本人の意思を確認したのだが、本当はエルヴィーノの思惑だ。
エルヴィーノの意思が無ければ事前に確認などする訳がない。
ひとえに、バリアンテの将来が不安だったためだ。
パウリナだけでは巨大な王国を管理できないと不安になったからだ。
パウリナは龍人の力を行使できる。
そして求心力も有る。
だが、それだけだ。
数多の族長や長老たちはパウリナを掲げてくれるが、内政と外政を取り仕切るには未熟なのだ。
老獪たちに対抗する為にアンドレアと相談し、秘策を持って子孫へ未来に繋げる事にした。
若返ったアンドレアは名前を”レア”と変え、サルクロス生まれとした。
そして女王に仕えていたが、”孫たち”が心配で従者を派遣する事にしたリーゼロッテ。と言う計画だ。
セサルとアナもリーゼロッテにはなついていたので、パウリナも承諾したのだ。
しかし、パウリナには本当の事は教えていない。
真実を知れば母親に甘えるからだ。
そこはアンドレアにも納得してもらった。
細かな事を言えば、アンドレアが組織した獣人達の影の部隊も黒龍王が引き継いで、レアに戻せば全ての機能が”生前”と同様に使いこなす事が出来るのだ。
もっとも、そういう触れ込みでレアを紹介してある。
わざわざリーゼロッテがバリアンテに出向き、セサルとアナの前でレアを紹介した。
「二人とも、私が自国で一番信頼する獣人の女性をあなた達の従者に任命するわ」
「解ったわリーゼ」
「別に従者なんていらないのに・・・」
「セサルゥ、貴男のお祖母様から貴男の大好きなお仕置きを全部聞いてレアに教えてあるからね。”おりこうさん”にしてないと、どうなるか解っているわね・・・」
「ええええっ!!・・・解ったよ」
自由奔放な兄と、背伸びして大人ぶる妹だ。
爺さんに似て物事を直感で判断する戦士と、知識と情報で敵対者を知略で戦う戦略家となるべく育てた婆さん。
そんな二人が成長する姿を見守る”レア”だった。
龍騎士隊に黒龍騎士団も代替わりしている。
龍たちは長寿なので未だに成龍にはなっていない。
現在では黒龍騎士団が総勢30騎で10騎ずつの3分隊で分かれている。
龍騎士隊は龍と隊員の訓練部隊だ。
こちらは50騎居る。
龍種の羽化育成に豊富な知識と経験を積み上げて、龍たちからも信頼を得た結果だ。
それと同様に龍騎士団に入隊したい者が多いのだ。
当初は全国から有望な者を集めていたが、従来の警備兵に騎士たちからも応募が多く、条件を満たし試験を通過した者だけが入隊の栄誉が与えられた。
もっとも国内種族で重量級の者達にはあきらめてもらった。
その代わり、優先して城内の警備や騎士に採用した。
龍種であるプテオサウラも100体以上生息するようになったバレンティア山だ。
それでも騎乗できる個体は少ない。
成龍が増えて幼体も増えたのだが成長が遅いのだ。
しかし、プテオサウラの世話をする係も人気の職種だ。
バレンティア山の周りには、専用の牧畜地が有り、専任の調理隊も存在する。
住処が手狭になり、新たな住居を求めるプテオサウラの要望に応えるべく、慌しくする黒龍王だが、一方では問題児が活動していた。
それはセサルが、こっそりと龍騎士の試験を受けたのだ。
当たり前だが、黒龍王と群青の聖戦士の子供であるセサルは次期獣王となる予定だ。
幼いとは言えその存在に、容姿を知らない城勤めの者は存在しない。
ならば、どのようにして身分を隠すか!?
セサルの取った行動は・・・覆面だった。
内緒で専任の召使いに作らせて、この日の為に用意した冒険者の服を着て試験に挑んだ。
セサルとアナはガトー族だ。
しかも父親の特性を色濃く出している。
それは体毛が黒い事だ。
だから尻尾も服の中に隠し、目の部分が開いた覆面で毛を全て隠すようになっている。
鏡を見れば覆面をした人族の様に見えた。
「完璧だぁ!! 絶対に俺だと解らないよなぁ」
「・・・」
側近の召使いは無言だった。
この側近はセサルが”おかしな行動”に出た時に報告する密命が下っている。
“先代の前例”を知っている者達にその情報が送られて可及的速やかに対処される。
しかし、今回の指示はこうだった。
“放置します”
見て見ぬふりをしろ、と言う事だ。
性格の系統に環境と趣向を思い浮かべれば、龍種に乗りたいと言い出すなど、生まれて直ぐに想定していたからだ。
それを子供だから、危険だからと言う理由で遠ざけても、ひねくれた歪んだ思想になると判断した”今は亡き祖母”が、生前に指示を出していた計画を”現王妃”が実行しているのだ。
試験は座学で文字と計算の習得を確認し、実技で身体能力を確認し、面接で質問による受け答えで人柄を確認する物だ。
そして合格発表の際に合格者の番号が呼び出された。
自分の番号が呼ばれるかドキドキしていたセサル。
もしかしたらバレて落とされる可能性も有るかもと不安をよぎらせていた。
しかしあっさりとその番号を耳にし、壁に書き出された番号を確認した。
(よしっ!! これで俺も入団出来るぞぉ!!)
ところが、これで終わりでは無かった。
「今回の合格者は本当に優秀な者達が多いので、更に選りすぐりの者を選別する為に更なる試験を受けてもらう事となった。試験内容は・・・”勇気を示せ”だ」
ザワザワ・・・
(勇気を示せって、意味が解んねぇよ)
セサル以外の者達も同様に困惑していた。
「静かに!! 具体的には、試験場に入り床にある手前の線で横一列に並べ。順番は気にする必要は無いぞ。そして試験が始まれば前方の別の線を越えて立っている事。全員が勇気を持っている事に期待する。以上だ」
説明したのは巨漢のヒラファ族の男だった。
合格者は案内されて試験場の部屋に入った。
床には手前と奥に横線が床にあった。
「それでは試験官をお呼びするので待機するように。試験官の合図で開始するからそのつもりでな」
全員が並び、案内した者が奥に向かった。
案内者と入れ替わりに入って来た者を見て驚いた。
ザワザワ・・・
(ゲェェェッ、なんで親父がぁぁ!!)
「さて諸君、開始と同時にこちらの線を越えて立って勇気を示す様に。良いか? 始めるぞ?」
(((・・・)))
全員が沈黙した。
何故なら手前の線から向こうの線まで、わずかな距離だ。
ただ歩けば良いだけの事。
全員がそう思っていた。
「では開始!!」
その声が聞こえたと同時に走り出そうとする獣人の合格者達。
しかし、瞬時に体が委縮してしまった。
「「うわぁぁぁ!!」」
「「助けてくれぇぇ!!」」
「「ひぃぃぃぃぃ!!」」
「「・・・・・!!」」
「くそぉぉぉぉ!!」
それは獣人達が感じた事の無い物だった。
ある者は恐怖し、ある者は恐れ戦き、またある者はしゃがみ込んでしまった。
実際は黒龍王が濃厚な魔素を噴出しているだけなのだが、戦闘種族の多いバリアンテではこの感覚を闘気に当てられたな感じと錯覚している様だった。
ただ一人を除いて。
幼い頃から大好きな兄たちと魔法の練習をしていたので、兄に教えてもらった魔素の発散は知っていたセサルだ。
現にアロンソから魔素の発散を受けたことが有り当時も驚いたが、今は父の強烈な魔素に押し戻されそうとしていた。
「なるほど・・・」
我が子の意思の強さを知ることが出来、嬉しく思うが後方で蠢いている獣人達に激を飛ばした。
「獣人達はこの程度の力にも屈するのか? 根性のある者は這ってでも来い!!」
「!!!」
「「「・・・くっそうぉぉぉ!!」」」
じりじりとゆっくりと匍匐前進する合格者たち。
その中で、数歩先を行き立って歩こうとする幼い体躯の者。
予想はしていたが、そりなりの時間がかかってしまった。
想定外だったのは大半が線を這って越えてきたのだ。
しかし立てない。
近づけば近づくほど魔素の強風は強くなり、立つことなど出来るはずが無いと思っていた合格者たち。
先に線を越えたがしゃがみ込んでしまったセサルだ。
這ってきた者達含めて5人だ。
「さぁ、立ち上がりお前たちの意を示せ!」
そう言われて闘争心に火が付いたセサルは歯を食いしばり立ち上がった。
「我が名はセサル!! 龍騎士隊に志願する者なり!!」
「合格だ」
するとセサルは黒龍王の後ろに立っていた。
「ええっ!?」
近距離を転移で移動させたのだ。
後ろから仰ぎ見る父の姿。
(やったぁぁ合格って言ったよなぁぁ)
「さぁ、もう居ないのかぁ? 勇気のある奴はいないかぁ?」
「・・・くっ、我が名は・・・」
「我が名は・・・」
1人合格者が出ると次々と意を決した者が立ち上がり宣言した。
9人が合格し、最後の1人は女性だった。そこに
「怖いか? 諦めても良いぞ? “女の身で”ここまで耐えるとは予定外だ」
その言葉に心に火が付いたガトー族の女だった。
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
足はガクガクだがヨワヨワしくも立ち上がった。
「わ、我が名は・・・」
全て宣言する前に意識が飛んでしまったようだ。と、同時に魔素の発散を止めて、倒れ込む女性を助けた黒龍王だ。
「お前たち、この女の意思を見たか? 聞いたか?」
その問いかけに全員がうなづいた。
「ならばこの女は合格か? 不合格か?」
「「「・・・」」」
これには誰も声を出さなかった。しかし
「その女は合格だ!! 俺が聞いていた」
セサルだ。
「他の者達はどうだ?」
「合格だと思う」
「我も合格だと思う」
「我も・・・」
「「「「我も」」」
「全員が思うのならば、この女も合格だ。では行くぞ」
黒龍王に続き別の部屋に向かう合格者たち。
そこでは入隊に関する説明が聞かされる場所だった。
「セサル、良く頑張ったな」
「うん」
頭を撫でてもらい嬉しそうする息子だ。
しかしこの後、崖から突き落とさなければならなかった黒龍王。
「セサルよ、龍騎士隊に入る事を認めよう」
「やったぁぁぁっ!!」
「しかぁぁし、その前にお前には特別な試練がある」
「へっ!?」
「あの扉を抜けてくるのだ。そうすれば誰もお前には口出ししないぞぉ」
「えぇぇぇっ!!」
瞬時に最悪な想定が脳裏を過ったセサルだ。
「さぁ行こうか息子よ」
「ちょっ、ちょっと待ってよ親父ぃぃっ!!」
「さぁさぁテレなくても良いぞ」
「合格だよな? 俺、合格したんだよな!?」
「勿論だとも。俺は合格させたぞ」
(俺は・・・って事は・・・)
にっこりとほほ笑む黒龍王。
「いやだぁぁぁ行きたくなぁぁぁぁい!!」
(許せ息子よ、お前もいつか解る時が来るだろう)
まるで断末魔の様に聞こえた心の叫びは、聞こえなかった事にした合格者達だった。
そもそも立って歩く事など不可能なのに、子供の様な合格者が先行したいた事に疑問だった。
しかし最後の説明場所で覆面を脱ぐと黒龍王と同様の髪で即座に理解した合格者たちだ。
何が起こるのか分からないが、先ほど以上の恐怖が理解できない合格者たちは、赤子の様に嫌がる息子を連れて扉に入っていく親子を黙ってみていた。
簡単な説明をすると、母と妹に教育係兼側近の従者から、ネチネチと文句と嫌味と体罰に再教育を夜遅くまで続けられたとさ。
☆
とある獣人族の親子でした。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~
秋刀魚妹子
ファンタジー
お腹が直ぐに空く女子高生、狩人喰は修学旅行の帰り道事故に合い死んでしまう。
そう、良くある異世界召喚に巻き込まれたのだ!
他のクラスメイトが生前のまま異世界に召喚されていく中、喰だけはコンプレックスを打開すべく人間を辞めて巨人に転生!?
自称創造神の爺を口車に乗せて、新しく造ってもらったスキル鑑定は超便利!?
転生先の両親祖父は優しいけど、巨人はやっぱり脳筋だった!
家族や村の人達と仲良く暮らしてたのに、喰はある日とんでもない事に巻き込まれる!
口数は少ないけど、心の中はマシンガントークなJKの日常系コメディの大食い冒険物語り!
食べて食べて食べまくる!
野菜だろうが、果物だろうが、魔物だろうが何だって食べる喰。
だって、直ぐにお腹空くから仕方ない。
食べて食べて、強く大きい巨人になるのだ!
※筆者の妄想からこの作品は成り立っているので、読まれる方によっては不快に思われるかもしれません。
※筆者の本業の状況により、執筆の更新遅延や更新中止になる可能性がございます。
※主人公は多少価値観がズレているので、残酷な描写や不快になる描写がある恐れが有ります。
それでも良いよ、と言って下さる方。
どうか、気長にお付き合い頂けたら幸いです。
ラストで死ぬ主人公に転生したけど死なないから!!
as
ファンタジー
前世で読んだ「孤高の女王」の小説の主人公ユーリアシェに転生した飛鳥。妹のリーシェ姫を溺愛しユーリアシェを空気扱いする両親である王や王妃、王太女であるユーリアシェを軽んじる家臣達。婚約者までリーシェに奪われ最後は国が滅び1人城で死ぬーーーそんな死に方あるかー!?こっちから捨ててやる!
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる