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第13章 建国

第378話 やるべき事と報告

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「シーラ。以前話してあったように、お前のやることは2つだ」
「ええ、解っているわ」

1つは、クエルノ族が生まれるまで大魔王の子を産み続ける事。
1つは、生まれた子の為にダークエルフの国に輿入れする事。

これはシーラとエルヴィーノの魅力に関係無く、王族であり種族としての要望と取り決めでシーラも受け入れた内容なのだ。
更に新興国でのクエルノ族の発言権を増やすためだ。
しっかり魅力で虜になっていても、国としての考えや戦略は以前のままだった。
むしろ過大妄想が激しくなっているのかもしれない。

自らが行動しなくとも娘夫婦が世界を席巻せっけんし、頂上からの眺めを妄想して悦に入る行為がお気に入りのジャンドール王だ。

王としての立場からすれば、大魔王が以前話した闇の戦略は理に叶ったもので、今までのような莫大な戦費と人命を必要とせず、人口の増減も無視できることが一番の利点だ。
何故ならば長命種が繁殖し成長するには長い時間を必要とするからで、内外問わず戦乱は総人口が減少し国力の低下に繋がるからだ。

事実、エルヴィーノとシーラの婚姻に不満だった者達を利用して反旗を振り返した者達が大勢葬られたが、その人数がもとに戻るまでには数百年必要なのだから。


親族に連絡すると部屋を出たエルヴィーノはエマスコを使わなかった。
クエルノ族ではシーラと数人の親衛隊にしか説明してないからだ。
しかし既にジャンジール王に三兄弟も知っている事は知らなかった。
ジャンドール王達はエマスコで知らせるものだと思っている。
今回は訳あって直接家族に報告するつもりだ。


サルクロスに転移で戻ったエルヴィーノは家族とアルコンを呼んだ。

「みんなに嬉しい知らせがある」
「俺が同席しても良いのか?」
なぜ自分が呼ばれたのか分からなかったアルコンだ。

「良いんだよ、一緒に聞いて欲しい」
「何が有ったのとうさん?」
アロンソの問いかけに満面の笑みで応えようとした父親だ。
「シーラに・・・」
「シーラちゃんの子供が生まれたのよ」
夫の説明に割り込んで話した第二夫人のメルヴィだった。

「本当ぉとうさん!?」
「ああ、そうだ」
冷ややかな視線を感じ焦りながら最大の報告をする。

「生まれたのはダークエルフだったよ」
「「「何ぃぃぃぃ!!!」」」
「それも男の子だ」
これには全員が驚いた。
いや1人だけ冷静な妻が居た。

「確かに同系統の魔素と魔法を使うからな、その可能性も有った訳だ」
「俺も今までは妻よりの属性ばかりだったから、てっきりクエルノ族だと思っていたんだ」

男たちは無心に喜んでいた。

「リーゼ、シーラと赤ちゃんをこっちに呼んだ方が良くないかしら」
「メルヴィ、あなた・・・良いの?」
「勿論よ。アロンソにもようやく同族の兄弟が出来たし、私も・・・」
「メルヴィ、あなたもしかして・・・」
「うん、母さん。また面倒をかけるわ」
涙ぐむオリビアがメルヴィを抱きしめると、リ-ゼロッテも抱きついた。

そんなやり取りの光景を見れば、流石に理解するアロンソだ。
「ねぇ母さん、もしかして俺の兄弟が出来たの?」
「ええそうよ、お父さん達に教えてきてあげて」

勢い良くアロンソが駆け出して男たちに説明すると、全員が驚いて駆けてきた。
「「メルヴィ!! 本当か!!」」
デイビットとエルヴィーノだ。

「ええ本当よ」
「なんでもっと早く教えてくれなかったんだ」
「シーラちゃんの子が生まれそうだったからよ」

初産のシーラを気配り、妊娠の報告を後回しにしたメルヴィだが一族は大層喜んだ。
報告の後先は別として同族が1人増えて1人生まれる予定が明らかになったからだ。

エルヴィーノは詳細を手紙にしたためて親族へエマスコした。
無論妻たちには個別対応の手記だ。

メルヴィからも婦人たちに連絡が送られた。
“しばらくの間、お願いね”
簡単な文だが、何をお願いされたのか理解出来ない妻は居なかった。

しばらくすると一斉に送られてくるエマスコのお祝い状だ。
シーラには出産のお祝いと、訪問日の連絡だ。
メルヴィにも同様の連絡が届いた。
そしてエルヴィーノにも。

手紙を読むと”相談したいことがあるから来て”だった。

可愛い子供も生まれたし、名前も決まっているので今更何の相談なのか思う当たらないエルヴィーノだった。
慌ててシーラの元に戻り要件を聞いた。すると・・・

「トゥルボはあなたと同じ種族でしょ? だから私たちと親衛隊はあなたの国に移住するわ」
「・・・そうか。解った」

エルヴィーノが迷ったのは移住ではない。
移住は歓迎するが、どこに住まわせるかだ。
シーラとトゥルボは家族にお願いするとして、シーラ親衛隊だ。
10人いるから城に居住する場所は無い。
必然的に城下町に住まう事になる。
その前に家族やアルコン達にも説明して居住場所を確保しなければならない。
悶々と考えていると更なる難問を投げかけられた。



※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez



そこは地上ではない特別な場所での会話だ。

大画面で一部始終を見ていた者たちは、密偵からのエマスコで内容を即座に理解したのだ。
「なぁ、妊娠したのか?」
「そうみたいね」
「良いのか?」
「ダメなの?」
「そうじゃなくてさぁ」
「出来た後にそんなこと言わないの」
「だから違うって。あっちが出来て、お前は良いのかよ」
「勿論よ。あれは私とあなたの子だもの。私たちの代わりに産んでくれるのよ」
「なんか釈然としないよなぁ」
「言っとくけど、もしも私が妊娠しても、あなたはずっとここから出られないからねぇぇだ」
「ぐっ・・・なぁ、たまには外でしないかぁ?」
「ほらっ、抜け出したいのが見え見えよ。絶対にダメよ。お兄ちゃんは永遠にここで愛し合うんだから」

「だけどシーラがサルクロスに来たら、将来は第二王妃になるのかぁ」
「そうね、一応シーラちゃんに話した方が良さそうね」
「ああ本人は王妃を夢見てたようだからな」
「下界のあなたがするのよ」
「ええっ俺がぁ!?」
「当り前じゃない」




今更の難問。
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