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第12章 戻ってから四度目の儀式

第331話 シーラの記念日

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とうとうその時がやって来た。
十二分に準備を済ませて待ち望んだ一族と婚約者の女。
覚悟を決めて、この行事がいち早く過ぎ去る事を祈る男。


(やっと私の番が回って来たわ)


昨夜は今夜の戦闘に備えて英気を養うために、あえて夫となる男を姉嫁達淫獣の中に放り込んだ。
それは餓えた魔獣の中に餌を投げたような錯覚を覚えるほど姉嫁達の目がぎらついた事を覚えている。


(ふふふっ、お姉様達は少しくらい寝かせてくれたかしら)


心の中では”今夜は寝かせない”と決心し、巨大な鏡の前でこれから始まる式典の準備をしているシーラと、周りを忙しく駆けまわっている召使いの女達。

シーラが用意した婚姻の衣装はリャーマ・デ・ラ・エクスプロシオン爆炎魔闘鎧・アルマドゥラを彷彿とさせるような真っ赤に燃えているように錯覚さえしてしまうような花嫁衣装だ。

派手な花嫁に引き換えてエルヴィーノの衣装は黒一色だ。
実に地味だが、逆にそれが気に入っている夫だった。



2人が誓う場所はノタルム国の王城に急遽作った神殿様式だ。
と言っても飾りつけを変えた程度の物だ。
普段は国王との謁見の場に使われている。

一番格式の有る場所で費用も抑えられるのでジャンドール王の許可を貰ってある。
実際問題として、アルモニア教が認可されたのはよいが教会や大聖堂が直ぐに完成するはずも無いので急場を凌ぐ案として無理やりに改装したのだ。


そこまでしたのには理由が有った。
それはシーラの強い願望が芽生えた為だ。


先妻たちと仲良くなるにつれ、交流の機会が増え会話も多岐にわたる。
その中で自然にシーラが目にするのは、それぞれの子供達だ。
既に少年になっている子たちに、まだ幼い女の子。
産まれたばかりの子供達にヨチヨチ歩きの双子を身近にすれば、自分が”持っていない存在”を欲しくなるのは必然と言っても良いだろう。

そんな訳で試練も終わり、一族の見栄や外聞よりも自分の幸せ(先妻たちの同列に立つための気持ちが強い)の為に式典を急がせたのは、当然の如く誰にも言えない秘密だ。



※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez



既に式場には沢山の招待客で賑わっていた。

会場を二分する片方にはノタルム国のお歴々に親族や貴族、将軍、名の有る強者つわものが並んでいた。

もう片方には、エルフ国メディテッラネウスからロザリーと数名。
聖魔法王国アルモニアからロリと親衛隊が数名。
獣王国バリエンテからパウリナとネル殿と数名。
そしてエルヴィーノの親族とアルコン達数名だ。
ゲレミオからも数人出席している。
例外で従者のレボル・シオンも席を並べている。


主役の2人が入場する前に、2人の説明がされた。
新婦の偉業は何と言っても全身アルマドゥラ魔闘鎧の発現と勇者と言う称号だ。
新郎は二大国の現役国王につきる。
打合せで他の事は無しにした。
要はシーラを目立たせるためだ。

そして、2人でドラゴンを召喚し強敵を滅殺。
これは説明がかなり盛り付けてあったと後から聞いたエルヴィーノ。

そしてシーラの試練。
これが一番効果的だったようだ。
やはり、説明よりも現物だ。
クエルノ族の強者達も、現物を目の前にして唸っている者ばかりだったと言う。
会場の一角に特設展示場を作り、祀られている”誰かさんの巨大な鱗”だ。
物欲しそうに見ている者や、うやうやしく拝んで居る者に、うっとりとして見惚れている者までいたと言う。



因みに今回の司祭はリアム殿だ。
大司教のフェブレロ殿と大司教補佐のマルソ殿は既に一度”お願い”したので、リアム殿の番となった。
それが理由か解らないが”悪友”のネル殿が来ているのが心配の種だが、大事な国儀で恥を掻くような行動は慎む様にと影の支配者アンドレアからキツク言われているので多少安心しているエルヴィーノだ。

余談だが、リアム殿からは”もう後が居ないからな”と釘を刺されたエルヴィーノ。
全く持って心外だと憤る新郎だ。
何度も何度も説明しているのに、まるで自分が沢山妻を欲しているように思われるのが腹立たしいのだ。

そんなエルヴィーノの気持ちは誰にも理解されず本日の式典は始まって行く。

会場にどよめきが走り、静寂が支配する。
その無音の中を2人がゆっくりと歩く。
幾つもの視線を集め”司祭殿”の前に辿り着く。

司祭殿の長い説明の後に2人に同意を求められ、誓いの行為を求められた。


(この時をどれだけ待ち望んだ事か。さぁお姉様、よぉぉぉく見ているが良いわ)


シーラはパウリナからその時の事を自慢げに聞かされたのだ。
何度も何度も。
その度に必ず自分がそれ以上の事をしてやると心に誓っていた。

城の外に取り付けた大きな鐘の説明も抜かり無い。
“どれだけ長い間誓っているのか示す”鐘だ。

誓いの口付けが始まった。
エルヴィーノの背中には一族と妻達が並んでいる。
そしてシーラは肩越しに薄目を開けて姉嫁達を見ていた。

新婦の両腕はガッシリと新郎を抱きしめて戦闘状態だった。

小さな声で神父殿が囁いた。
「あぁ国王よ、余り長いと招待客がじれるぞ」

(そんな事は解かってるし、俺だってもう止めたいけど離してくれないんだよおォォ)

心で叫ぶが伝わらないのが虚しいエルヴィーノだ。

無情にも鐘の音だけがゆっくりと聞こえ、自らの背中に痛いほどの視線の矢が刺さっている事も理解しているが、これも試練と諦めて妻達に新たな”お仕置きの元”を作ってしまった事を認識し諦めた。


(あの子・・・)
(ええ、私達に当て付けね)
(私の時より長いなんて許せない)
(・・・本当に退屈しないわねぇ)


(ふふっ、パウリナお姉様があんなに怖い顔して睨んでいるなんて・・・もう私が一番長いわよねぇ・・・)


シーラの欲求は四人の姉嫁の顔を見れば満たされていた。
流石のメルヴィも公衆の面前で夫が他の女と唇を重ね、舌を吸う行為がこれほどまでに長いとは想像して無かった。

四人の嫉妬心は同じだった。
((((この気持ち、次の機会にお仕置きで晴らすわ。覚悟しなさい、エルヴィーノォ))))

取りあえずは目的の1つの目的を果たしたシーラは満足だった。
姉嫁達の嫉妬の眼差しで睨まれていたが、欲望が満たされた気分だった。





嫁達の争いに巻き込まれる哀れな夫
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