上 下
316 / 430
第12章 戻ってから四度目の儀式

第315話 試練の報告

しおりを挟む
獣王国バリエンテで一族とアンドレアに挨拶を済ませ、アロンソと一緒にパウリナの幼い子供達、長男セサルに次女アナをあやした後で、ノタムル国へ向かう四人だ。

因みにパウリナが外出する際は、どちらかの御祖母ちゃんが面倒を見ている。
孫が可愛くて仕方が無いアンドレアだが、内政で忙しい時はリーゼロッテに預けている。
種族違いになるが孫に当たるので身内として幼い双子に躾を頼まれている。

メルヴィにはリーゼロッテからアルコンに会い、同族の現状とアロンソの嫁候補を見て来て欲しいと指示を受けていた。
事前にその話をするとシーラが既に面接している事を説明し一緒に同行する事となった。
当然だがパウリナが黙っているはずが無い。

とにかくメルヴィの考えは、まずはシーラの一族へ試練達成の報告と、ダークエルフ一族との面談に嫁候補の面接。
そしてジャンドール王に保有する島の受け渡しの確認だ。

一方のシーラは、試練は乗り越えたので報告はどうでも良くて、結婚式の事で一杯だった。
昨晩はパウリナから結婚式の内容を聞いて、自分の結婚式は月単位ですると決めていたのだ。
一重に女の見栄であり意地である。
当然ながら結果的にいろんな意味で被害者が1人出るのは仕方の無い事だ。

確かに嫁が増えるたびに式が盛大になったような記憶が有るが、全て嫁側の都合であり夫の意見など一切無い(たしかほとんど無いはずだ)し、受け入れてもらえない。と、勝手にパウリナの時の騒動は無かった事になっている都合の良いエルヴィーノだ。
ただ何故か”そこ”(盛大になる事)だけはどの種族の嫁も同じで、”そこ”をとやかく言ってこじらせるほど子供では無いエルヴィーノだ。
今までのように激流に身を任せて、過ぎ去るまで大人しくしているつもりだ。

布に包まった大きな荷物を軽々と持つシーラを先頭に城下町ペンタガラマの郊外へ向かい、転移魔法陣の上に立ち並ぶ。
向かう先はノタルム国の王城にある転移室だ。

転移室の前では常に報告番と言う者が待機している。
これは誰が転移して現れたかを速やかに城内の国王に知らせる為だ。
もっともエマスコを支給すれば良いのだが、イケイケの種族なので軍事的に活用される事を懸念して教えていないエルヴィーノだ。


「そうか、戻ったか。意外と早かったな」


ジャンドール王が安心したかのように、大きな声で独り言を発した。
シーラとパウリナにメルヴィとエルヴィーノは、一旦シーラ専用の応接室に向った。
シーラ専属の召使い達に迎え入れられると、試練達成とその証しを見せて絶賛された。
そのあとメルヴィの説明をして「畏まりました。メルヴィ様どうか宜しくお願い致します」と挨拶をする召使い達だった。

すると1人の召使いが報告して来た。
「ご主人様、宜しいでしょうか?」
「どうした?」
「はい、ご主人様がお戻りになられましたら、シオン様が御目通りをしたいと言付かっておりますが」
「そうか、じゃ呼んで来てくれ」
「はい、畏まりました」
すると、その召使いはシオンを呼びに向かった。

同時に国王と兄達に報告する為の連絡を召使いにさせるシーラだ。
シーラの思考は結婚式で一杯なので、終始パウリナと式の話しで事欠かないでいた。
そんな2人を目の前にするとメルヴィの結婚式を行なっていないので聞いて見た。すると

「わたしは家族だけで、お家でしたいなぁ」
「解かったよ。おまえの好きにするが良いさ」

実に質素だが健気で家族思いのメルヴィらしく、キュンとエルヴィーノの心を鷲掴みにされた様な気分だった。
そんな2人だけの世界に浸っていると敏感に気が付く者が居た。

「ちょっとぉ! 私の応接室で何良い雰囲気になってるのよぉぉ!」

話しに夢中のシーラだったが、鋭い洞察力で場違いな雰囲気を察知したらしい。

「絶対スケベな事考えてたのよ!」

根も葉もない勝手な妄想は全くの誤解で、パウリナにどのように見えたのか定かでは無いが、随分と御立腹の様だった。

(ただ見つめ合ってただけなのになぁ・・・)

ニコニコと微笑んでいるメルヴィと、アタフタとするエルヴィーノだ。
一方的に攻められる夫を楽しむ様に三人を見ていた新第二夫人たった。

すると、そこえ扉を叩く音がした。
挨拶を交わし入って来た巨漢の男、レボル・シオンだ。

「陛下、シーラ様、パウリナ様。お帰りなさいませ」

当然ながらシオンはメルヴィの事を知るはずが無いのでシーラから説明する事になっていた。

「シオン、こちらの方を紹介します。別け合って”暫く留守”にされていた本来の第二夫人でいらっしゃるメルヴィ様です」
「おお、それでは”あのダークエルフ”の奥方で・・・」
「シオンさん、噂は聞いていますよ。メルヴィです宜しくね」
「ははっ、このレボル・シオン、陛下の従者として側に仕える身であれば、何なりとご用命くださいませ」

「ところで陛下。陛下がシーラ様の試練を協力されている間に、部下や教会の親衛隊達にゲレミオの者達と協力して、この国の地盤となる組織が出来つつあります」
ノタルム国でのゲレミオ設立の報告を受けたエルヴィーノだ。

「そうか、ご苦労だったな」
「いえ、滅相もございません」
「苦労ついでだがなシオン、今回ジャンドール王に俺達の国を作る島を譲渡してもらう話をする訳だが・・・」

話し終わる前にシオンが理解し歓喜の声を上げる。
「おおおっ、ついに国興しでしょうか!」

「まぁそうなんだがな、並行してやるべき事が有る」
そう言ってシーラを見て目配せする。

「シオン、私達の結婚式を準備したいの」
「おおおっ! それは祝い事続きですなぁ」
「確かにそうだが、どちらも大がかりな準備が必要だ」
「まさしく、仰る通りです」
「メルヴィをアルコン達に会わせたいし、国興しの準備も手伝わせたいから、その事をアルコンに伝えてくれないか? 俺達はまずジャンドール王に報告に行って来るから」
「は、御意のままに」
そのままシオンはアルコンの元へ向かった。

ジャンドール王の元へ向かわせた召使いが戻り、兄弟そろって待つと伝言を言付かって来た。
シーラを先頭にぞろぞろと列を成して歩く後ろには、台車に乗せられ布を被せてある大きな”土産物”を召使いが仰々しく運んでいた。

「ただいま戻りましたお父様、お兄様達」
「お帰りシーラ」
返事をしてくれたのはブスカドールだけだった。

「して、首尾は?」
結果だけ教えろと父王が言う。
今回の試練はあくまでも種族の仕来たりであり家族の決め事だ。
たまたま、シーラが王家だっただけの事で話しが大きくなってしまったのだ。

「はい、仲間と力を合わせて試練である古き龍と会って戦い、私達の力が龍に認められて、その証しを頂いて来ました」

「なにぃ!?」
そこに首を突っ込んで来たのは長兄のデセオだ。
「認められた証しとは、その布の下の物か?」
「はい」
相槌を召使いに送り、運ばれて来た台車だ。
大きすぎて机の上には置けないのだ。

召使いが、かぶせてある布を取ると父王と兄弟達が口をそろえて驚いた。
「「「おおおおっ!!」」」

半分が半透明で、もう半分が赤黒い”それ”は一見して巨大な鱗だと識別できる品物だった。
鱗と言っても魚の類では無いのは十分に理解出来るほどの巨大さだ。

親子達は考えた、
(どう見ても、”あの巨龍”ほどの体躯でなければ、このような鱗の持ち主は居ないはず・・・)

「見事だ、シーラよ。よくぞ試練を乗り越えた。認めようではないか、お前達の力を」
「うむ、認めよう」
「大したもの、シーラ」
「おめでとうシーラ」
父王と三兄弟が認めてくれて、無事に試練が終わった事に一安心するシーラだった。

「ところでシーラに婿殿。そちらの方は?」
どうやらメルヴィの事が気になっていたジャンドール王だ。

「ああ、紹介しよう。以前話したと思うが消息が途絶えていた同族の妻でメルヴィだ」
「初めまして皆さん。第二夫人のメルヴィと申します」

「ああ・・・」
「うむ・・・」
「・・・」
「よろしく・・・」

夫達には内緒だが、シーラの魔眼より強力な魅力の力を持っているメルヴィだ。
質問を受け付かない為にも強制的に支配するのだった。
メルヴィが魅力を使うのは今回が初めてで、事前に使う相手を決めて有った。
1つはノタルム国の者達。
1つは聖魔法王国アルモニアの者達だ。
メルヴィの存在をとやかく言いそうな国はこの二か国だと判断しての行為だ。

ジャンドール王に三兄弟にも”挨拶”を済ませたメルヴィは、何食わぬ顔で一同と一緒に部屋を出て行った。
今日は城下町を見学して、”あの大浴場”に妻達だけで入る予定なのだ。

ペンタガラマで思い知ったメルヴィは、見て知る事も重要だが体感して初めて理解出来る事もあると認識したからだ。
だから”現存する浮気現場”を目視したいとする考えを2人に説明すると、パウリナは大賛成でシーラは恥ずかしいが納得したのだった。

パウリナの”初めての場所”は消失して見る事は出来ないので、誰にも知られる事は無いと高を括っているのだった。
シーラに取っては初めて邂逅した恥ずかしい場所だが、不可抗力の出来事なので2人には案内しても特に恥ずかしくは無かった。

「へぇ、ここで初めてしたのぉ?」
「したんじゃ無くて、会ったの」
「でも見たんでしょ?」
「モヤッてて見えなかったから!」
「嘘だぁ、絶対にガン見してたと思ぉう!」
「してないから。本当に見えなかったからね」
2人のやり取りをクスクスと笑っているメルヴィだった。





突然の出来事に冷静に対応できる程、経験が無かった事を思い返すシーラだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子
ファンタジー
お腹が直ぐに空く女子高生、狩人喰は修学旅行の帰り道事故に合い死んでしまう。 そう、良くある異世界召喚に巻き込まれたのだ! 他のクラスメイトが生前のまま異世界に召喚されていく中、喰だけはコンプレックスを打開すべく人間を辞めて巨人に転生!? 自称創造神の爺を口車に乗せて、新しく造ってもらったスキル鑑定は超便利!? 転生先の両親祖父は優しいけど、巨人はやっぱり脳筋だった! 家族や村の人達と仲良く暮らしてたのに、喰はある日とんでもない事に巻き込まれる! 口数は少ないけど、心の中はマシンガントークなJKの日常系コメディの大食い冒険物語り! 食べて食べて食べまくる! 野菜だろうが、果物だろうが、魔物だろうが何だって食べる喰。 だって、直ぐにお腹空くから仕方ない。 食べて食べて、強く大きい巨人になるのだ! ※筆者の妄想からこの作品は成り立っているので、読まれる方によっては不快に思われるかもしれません。 ※筆者の本業の状況により、執筆の更新遅延や更新中止になる可能性がございます。 ※主人公は多少価値観がズレているので、残酷な描写や不快になる描写がある恐れが有ります。 それでも良いよ、と言って下さる方。 どうか、気長にお付き合い頂けたら幸いです。

ラストで死ぬ主人公に転生したけど死なないから!!

as
ファンタジー
前世で読んだ「孤高の女王」の小説の主人公ユーリアシェに転生した飛鳥。妹のリーシェ姫を溺愛しユーリアシェを空気扱いする両親である王や王妃、王太女であるユーリアシェを軽んじる家臣達。婚約者までリーシェに奪われ最後は国が滅び1人城で死ぬーーーそんな死に方あるかー!?こっちから捨ててやる!

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

勇者はいいですって言ったよね!〜死地のダンジョンから幼馴染を救え!勇者?いらないです!僕は好きな女性を守りたいだけだから!〜

KeyBow
ファンタジー
異世界に転生する時に神に対し勇者はやっぱいいですとやらないとの意味で言ったが、良いですと思われたようで、意にそぐわないのに勇者として転生させられた。そして16歳になり、通称死地のダンジョンに大事な幼馴染と共に送り込まれた。スローライフを希望している勇者転生した男の悲哀の物語。目指せスローライフ!何故かチート能力を身に着ける。その力を使い好きな子を救いたかっただけだが、ダンジョンで多くの恋と出会う?・・・

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

処理中です...