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第10章 冒険編

第280話 新しい認識票

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親族の共同応接室に入室する事を許された知らない男達2人が挨拶してきた。
「初めまして黒龍王様、私どもはペンタガラマに設置させて頂いたギルド者です」
「初めまして黒龍王様、私がペンタガラマのギルドマスターを任せられたグリスと申します。こちらは部下のベルデです。以後お見知り置きください」

ギルマスのグリスは年季の入った風貌が漂う冒険者風の容姿で、その顔は如何にもその道の強者を彷彿とさせていた。
一方のベルデは獣人族でペロ族の者だ。
それなりに経験を積んでいる様だが、グリスとの技量の差は歳の差と比例して一目瞭然だった。
また、責任者のグリスはベルデをマスターとして育てる為に配置されたと後日聞いた。

この状況に至るまでは、ジャンドール王がシーラを煽って、シーラからパウリナに話したのだろう。
身体を動かす事が大好きな獣人族で冒険に出る為にギルドの認識票を作る事がパウリナにとって嬉しかったのだろう。
2人でロリを口説いた事も容易に想像できる。

「龍人に認められた者として、夫を支えるのは当たり前よ」
何て事をロリに言えばコロッと味方に付くだろうから。

外堀を埋められて、もはや逃げ場の無くなったエルヴィーノ。
(おのれっ、策士ジャンドール王の罠に嵌められた訳か) 

今更、認識票のグラドスなど気にしていなかったが、妻達が揃って最上級の認識票を首からげてこちらを見る眼差しが、かなり上からの態度なのが癪にさわるけど、気にしては負けだと思い聞かせるのだった。

全員が見守る中「さぁどうぞ、御手を」とギルマスのグリスに進められて手を伸ばす。
その魔導具は見るからに古そうな物で、いつ作成された物なのか誰も知る者がおらず、各国に存在するギルドの魔導具は全て同じ物だと言う。

さほど大きくは無いが四角い箱は幾何学模様で装飾されており上部の蓋を開けて手を翳すと、種族、性別、年齢、職種、経験値、魔素量に所有魔法、特殊能力など技量が加味されて、側面の中央下方に排出口が有り自動的に認識票が出て来ると言う冒険者ギルド専用の魔導具だ。

全員が固唾を飲んで、排出口から出てくる認識票を待っていた。
手を翳すと魔導具が激しく輝き測定された。
すると”ガコンッ”と音がして排出口から認識票が出ると同時に叫び声を上げた。

「「「キャァァァ」」」
「どわぁっ」
「ぐっ」
「ぶはぁぁっ」
「なっなんだっ」
1人を除いで掛けていた椅子から吹き飛ばされるようにして全員が後方に転げるように倒れて行った。
「えっ!? 何!!どうした? 大丈夫か?」
唖然として辺りに声を掛ける黒龍王だった。

自分以外全員が吹き飛ばされた様に一斉に後方に倒れたのだ。
何かしらの攻撃で有れば同様になるのだが、自分だけが何とも無いので不思議がり、全員でふざけているとも思ったが、リーゼロッテやアンドレアにプリマベラの大人の女性まで巻き込んで、ふざけるはずが無いと直ぐに訂正して皆を確かめる。

この時、刹那の瞬間で誰から声を掛けるかエルヴィーノの頭脳は高速思考した。
一番近い女性の親族でリーゼロッテを始まりとして順番に声を掛けた。
「かあさん、大丈夫か?」
「ええ、吹き飛ばされただけよ。他の人を見てあげて」
順番に声を掛けるがシーラの質問する意味が何の事だかわからないエルヴィーノだ。
「あなた、凄い魔素が溢れているけど大丈夫?」

全員の無事を確認するがネル殿がベルデに問いかけた。
「ギルマスよ、魔導具が壊れたのではないのか?」
「決してそんな事はございません。未だかつて、この魔導具が壊れたと言う報告は聞いた事が無いが、今回の様な事は初めてです」
一同全員が立ったまま眉間にシワを寄せて魔導具の方を見ていた。
「ビックリしたけど、立ち話も何だから座ったらどうだ」
そう言って率先して椅子に腰かけた黒龍王だ。
「あなたっ」
「国王よ。何とも無いのか?」
ロリとリアム殿が問いかける。
「何が?」
「「大丈夫なの?」」
その態度を見ていたパウリナにリーゼロッテも問いただす。

「ふぅむ。どうやら本当に黒龍王は解らないらしいな」
全員から睨まれるが、サッパリ意味が解らない黒龍王だ。
その状況を余所に、元凶であるモノにギルマスのグリスが手を差し伸べると苦悶の表情で手を伸ばしたまま固まって、プルプルと震えていた。
「ぬぅぅっ」
「何をしているグリス。早く認識票を」
「それが、物凄い魔素の圧力で押し返されるんだ」
「「「何いぃ!」」」
義父が2人とも「そんな馬鹿な事が有るか」と認識票を取ろうとするとグリスと同じ体勢になった。

まるで金縛りにあっているような感覚の三人だが、周りから見ると間抜けな醜態をさらしているだけだ。
しかし、ここで先ほどの不思議な状況を理解したかに思われたのだ。
全員が吹き飛ばされたのは魔法では無く、魔素の爆発の様な物で全員が嫌悪感を抱いていたのは、未だに魔導具辺りから発せられる膨大な魔素によるものだ。
しかし、その事を1人だけ理解出来ない者が居た。

「あのさぁ、何してんの?」
「あなたっ本気で言っているのっ!」
怒り気味で答えるロリだが、本当に解らない黒龍王だ。
「「「カパシダ・フィジィカ・メホラ」」」
三人が身体能力向上魔法の魔法を使うが全く効果が無いのを目の当たりにするが、自身が何の影響も受けていないので、代わりに認識票を取ろうとする。
「エルヴィーノ、危険よ!」
リーゼロッテが心配するが本当に解らないので認識票に触ると・・・

「「「何っ」」」
「どわっ」
「痛てぇぇ」
「くうぅぅぅ」
先ほどまで有った魔素の嵐と言うか、壁の様なモノが急に無くなって魔法をかけていた三人が鑑定機目掛けて突っ込んだのだ。
「何してんの三人とも」
「「痛ててっ」」
「何してるとは、こっちのセリフだぞ国王よ」
転がった三人を介抱して全員に話を聞いて、自分が何の影響も受けて居なかった事を説明した。

「えぇぇ何でぇ?」
「その認識票の影響?」
「何て書いてあるの?」
妻達から次々に質問されるので、持っていた認識票を机の上に置く。

「「「うわあぁぁ」」」
「何!?どうした?」
「又、さっきの魔素嵐が!!」
そう聞いて認識票を手に取る。
「あれっ? 無くなった」
「ふぅ、どうやら持ち主から離れると膨大な魔素を放出するようですな」
しかし、本人には実感は無い。
「それで、その認識票は何だグリスよ」
全員が期待していた虹色の認識票では無く白みがかった灰色だ。
ハッキリ言うと白い大理石の様な色と風合いが見て取れた。

「この様な素材は初めて見ます」
エルヴィーノの手に収まる認識票を見るグリスも初め見る素材だった。
表裏を良く見ると幾何学模様が彫り込まれている。すると
(モンドリアンさん、聞こえますか?) 

その念話で何と無く理解したエルヴィーノだった。
(あなたの為に新しく用意した階級と、特別な認識票ですよ)
そんな物は必要無いがお節介なヤツに礼を言って置く事にした。
(あぁ、ありがとうコラソン。だけど文字が読めないけど)
(そう思って念話したんだよ)

本当にお節介だと思いながら折角もらったモノだから説明を聞く事にした。
(その素材はピエデラ・デ・ルナと言って、所有者へ無限に魔素を供給する魔導具も兼ねているよ)
その性質だけでも物凄い代物だと理解した。
(新しいグラドスはレグラ・デル・カオス混沌の支配者で地上における生物を支配する者と言う意味だよ)
サラッとトンデモナイ事を言ってのけるコラソンだ。
因みに階級は2だ。
(解かった。ありがとうコラソン) 
この事は口にしてはいけない事だと思い誤魔化す口実を考えていると・・・

「レグラ・デル・カオスっですってぇ! 混沌の支配者よぉ」
ロリがデカい声で焚き立てる様に周りに説明した。
「その素材は地上に無い物でピエデラ・デ・ルナだって! ルナってお月様の事よねぇ」
パウリナまでペラペラと説明しだした。
「あなた、無限に魔素を供給してくれるそうよ!」

止めはシーラが話した通りだ。
周りの者達は、妻達が説明する言葉に驚きを隠せない様だった。
妻達が説明した理由は解っていた。
龍人達に彼女達が聞いたのか、一方的に説明されたのか、多分後者だろうと思いながら興味津々の眼差しが八方から寄せられて、嫌な汗が出て来るのが解った。





さてと、どんな言い訳をしてこの場を切り抜けようかな。
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