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第9章 魔王国編2

第271話 保護対象者

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ムカつく黒い龍人の事は後回しにしてイグレシアに転移した。
ロリの部屋に直接転移も出来るが今は立て込んでいるだろうと思い転移室から部屋に向う。
扉を開けて中に入るとクララの時と同じく慌ただしくしているメイド達を余所に奥の寝室へ向かう。

「ロリッ!」
ニッコリと微笑んで娘の名前を教えてくれた。
「あなた、次女のベルダーよ」
唇を重ねて労をねぎらい産まれたばかりの次女を見る。

次女ベルダーも長女クララと同じくピンク色の髪と黒い瞳を持つ女の子だ。
(信実ベルダーかぁ)
ロリがベルダーに何を知って欲しいのか解らないが、愛称はベルに決まりだと瞬時に思ったお父さんだった。
長女のクララは祖母であるプリマベラが抱っこしている。
産まれたばかりの”ベル”に、まだ幼いクララがロリの様に占いで男を探しに旅に出るなど考えたくも無い。

娘達の顔を見ると”歴代の婿達”の気持ちがヒシヒシと分かる国王だった。
(占いで結婚相手を決めるなど断固反対だ! そんなものは廃止にするべきだ)と強く思うのだ。

しかし、面と向かってロリには言えない。
何故ならば結果は解っているからだ。
以前”リアム殿とマルソ殿”が暴走しかけたが妻達の言葉で鎮静化されている現場を見ているからだ。
それでも心の葛藤は有る。
そうと成れば極秘の緊急収集を呼びかける。

久しぶりの男だけ婿だけの飲み会だ。
今回は早い時間からなので食事をしてから、例の飲み屋に行く。
既に出来上がっている国王は全員に問いかけた。


「皆さん、娘が男を探しに旅に出るなんておかしいでしょ! 何で止めさせられなかったのですか!」

個室にはフェブレロ、マルソ、リアムにエルヴィーノと数人の”花”が居る。
言い換えれば大司教、大司教補佐で次期大司教と前国王と現国王に綺麗なお姉さん達だ。

当然変化の魔法で擬装しているが、話の内容を聞いて”お姉さん”達が「今時そんな事をしている家が有るのぉ?」と笑っていた。

「「まあまあ、落着け」」と両側から先代国王と次期大司教に宥められる。

大司教はお姉さん達に「昼間の吟遊詩人の物語が余程面白かったらしいのぉ」とさりげなく話を誤魔化していた。

それからも国王の不満は”花”に飛び火して「君たちが親から占いで決まった男を探して結婚しろって言われたらどうする?」などと聞いて回っていた。

おかげでヘベレケになった姿を見て流石にマズイと判断した先代達は転移する事も出来ず、ゲレミオのフォーレを呼び出して国王を担いでもらい資材運搬の中に紛れて城に戻った。
酔ったままで変化の魔法解除を行なったので記憶に無いが、早目に戻ったので妻達には見つからなかったようだ。

後日婿達から「ようやく”仲間”になったな」と言われた。
既に家族の自覚は有ったが”父親の特別な思い”を持つ仲間として受け入れられた様だった。

その事は10年以上も先の事なので、とりあえず保留にした国王だ。
五体満足で産まれた娘をあやしながら、例によって数日後の”奉仕”を宣告された。
命令されたと言っても過言では無い。
勿論理解しているし、タップリと誠心誠意努めるつもりだ。
残る問題はアロンソの転移魔法なのでペンタガラマに戻り、リーゼロッテに会いに行く。
この時点でフィドキアの呼び出しは完璧に忘却の彼方へ消えていた。


※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez


一族の居住区へ戻り母親であるリーゼロッテに相談するとそれとなく教えてくれる内容に驚いた。

「アロンソから聞いたけど、親しいお友達がとても優秀で転移魔法を使えると言うのよ。最近、魔法の練習はお友達とどこか遠くで練習している様ね」

「へぇ凄いなぁ。転移魔法は扱える者が限られているはずだぜ?」
「あら、あなたも早い時期から使えていたでしょ?」
「俺みたいに、どこかの国の隠し子が居るのか?」
「さぁそれは解らないけど、アロンソと仲良しらしいから一度会って見たら?」

なるほど、それも一理ある。
自分には友達と言える存在が居なかったので、同世代にうまく打ち解けている事に安心したお父さんだった。
アロンソが帰ってくるとアロンソの自室で聞いてみた。
最近の事や学校の事、何気ない会話から始まり魔法の練習場所を見つけた事を説明し、仲良しの友達が転移魔法を使える事を聞いたので、一度会って見たいと話した。すると

「いいよ、フィドキアって言う奴だけど、凄いんだぜアイツ」

何いいっ! と言いかけたが飲み込んで息子の話しを聞いているが、本当にアロンソの口からその固有名称が出た事に驚きを隠せないお父さんだ。


そして、全て理解した。
しばらく音信不通の理由。
つい先日話しが有ると一方的に念話してきた事、更にはかなり前だが自分以外にもう1人重要な者が居ると言っていた事。

「じゃ今度合わせてくれるか?」
顔が引き攣りながら話しているのが自分でも分かった。
「うん。明日話しておくよ」
内心は今のやり取りも見ているはずだと、腹立たしく思うエルヴィーノだ。

1人になり(おい、フィドキア。今からそっちに行くぞ。返事が無くても行くからな)と念話すると(分かった)と返事があった。
やはり見ていたのだと確信して転移する。
フィドキアの為に作った専用の部屋に転移して、ズカズカと入り込む保護者だ。

「一体どういう事か説明して貰おうか」
扉を開けて邂逅一番に文句を言ってフィドキアを見ると「何だそりゃ!!」
良く知っている姿では無くてアロンソと同じ位の身長になっている子供の姿をしたフィドキアが椅子に座っていた。

「お前の知っている姿では学校に行けないからな」
そんな事を当たり前のように言い出す子供の姿でも腹立たしい龍人だ。
「大体アロンソに会うなら先に俺に言えよなぁ。まさかお前の正体は教えて無いだろうな」
「無論だ」
「目的は何だ」
本来自分に近づいて来た事自体疑問が有るのにアロンソに近づく理由が解らないエルヴィーノだ。

「我がお前に言える事は1つだけだ」
「何だ」
「我の命を賭けてアロンソを守る」
「はぁ?」
訳の分からない事を言いだす龍人の真意がサッパリ解らないエルヴィーノだ。

しかし、”あの”アィドキアが命を賭けて守ると言った事が意味深だった。
龍人が只の子供に命を賭けて守るだなんて異常だ。

「何でだ?」
「それは言えん」
「コラソンに聞くぞ」
「コラソン様も教えはしない」
何が何だかさっぱりだ。
(コラソンはフィドキアの親であり上位の存在だ。そのコラソンが説明できないとは更に上位の存在が居るのか?)

 それは考え過ぎだと否定して一介のダークエルフが龍人達の考えが理解できるはずも無いとあきらめ、将来アロンソが何か途轍もない事を成し遂げる為にフィドキアを常に付き従わせているのだと勝手に妄想している親馬鹿だった。

「でぇ、俺がしたい事は分かってるんだろぉ?」
「うむ」
「周りの奴らに感づかれるなよ」
「当然だ」
「それから、殲滅魔法とか教えるなよ」
「解っている」
「周りの者が死なない様にしてくれよ。当然アロンソも」
「ふむ」
「練習の終了時間は統一してくれ。帰りが遅れる事の無いようにな」
「うむ」
他にも細かい事を言うが”うむ”としか返事をしなくなったフィドキアだった。

だが、可愛い息子の護衛が最強の龍人であれば一安心のお父さんだ。
翌日からアロンソとフィドキアの組に、エアハルトとナタリアとフリオ組が転移をして魔法の練習を始める事と成った。

フリオは魔法が得意では無いのでナタリアが全面的に手取り足取り親切丁寧に教える事となる。
フィドキアの紹介も済み、エアハルトとアロンソはオスクロ・マヒアの練習とアロンソは個別にサント・マヒアとディオス・マヒアの練習も行う。

2人の兄弟は互いに高め合い、コツを教え合って驚くべき速さで上達して行くのだった。
たまにコッソリと除き見て感慨深い物を感じるエルヴイーノは感動していた。

その後、正式にロリと対面してから通う方が良いとシーラからの申し出で、ロリへの奉仕を早く終わらせて欲しいと我が儘を言うシーラだった。





ロリとシーラの邂逅は嵐の予感しかしないエルヴィーノだった。
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