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第9章 魔王国編2

第260話 巨大魔法陣と石像

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ペンタガラマの城壁は二つ存在し、それぞれに守護像の設置場所が五カ所有り、四カ所に龍の彫刻が備えられている。
街中には四か所の龍人の塔が有り、城の中心にも一番高い塔が存在する。
しかし、第一第二城壁の一か所ずつと、彫刻の無い龍人の塔が存在した。
それはインスティントの像が設置される場所であり、今回バレンティアを呼んで石像を作る段取りする事となった。

全ての像が配置されると魔法陣が発動すると聞いている。
城壁に備えられている配置は防御の陣で、塔の配置は攻撃力を上げる配置で建てられているそうだ。
その魔法陣が石像の完成と共に発動するのだが、獣人族に人族も視覚で見る事は出来ない代物だ。

攻撃力を上げる魔法陣は戦闘の際もさることながら、普段の生活にも疲労を軽減する効果があると言う。
今の時代は凶暴な魔物もほとんど居なくなり、そこまでする必要が有るとは思えないがタダでしてくれるのだから文句は言わない黒龍王だ。

その効果は後に獣人達に身を持って体感する事となりアンドレアから王都在住の種族代理に告げられ、龍の加護に守られる都市としてバリアンテに広く伝わるのだった。

限られた至福の時を満喫し、記憶に留めるインスティントを連れてフィドキアが転移した。
「何処に行くつもりなの」
「我に付いて来い」
「・・・はい」
特に説明もされずに強引に転移したが、その言葉がインスティントを縛り付けていた。
”我に付いて来い”
何とも心地よい響きがインスティントを支配していた。
エルヴィーノ達は別組で転移して2人の龍人に気を使っていた。

初めて訪れるバリアンテに驚きを隠せないインスティント。
遠く離れた場所でも任意に”観る”事が出来るが、訪れて体感する違いは明らかだった。
「まさか、これ程とは・・・」
口の端が動くフィドキアに気づく事無く街並みを見ているインスティント。
エルヴィーノ達も転移し目的の場所へ向かっている。
歩きながらシーラに説明する。
「街の彫刻も全部アルセ・ティロが魔法で作ったんだぜ」
「凄い凄い! “私の城”も綺麗にして欲しいなぁ」
シーラの中ではノタルム国の王城は自分の城らしい。

シーラが絶賛するほど、街の要所には棘を模した彫刻が刻まれており、角面に多く見られる。
そして目的地に着くと、フィドキアとインスティントにバレンティアが扉の前で待っていた。
「遅いぞ。早く開けてくれ」
オスクロ・マヒアで開く事は教えてあるはずだが、エルヴィーノに命令するフィドキアだった。
そんな事よりも違う事が気になっていた。
バレンティアの腕を引っ張り小声で話すエルヴィーノ。
(ラソンの時みたいな事ないよねぇ?)

ギョッとして嫌な顔をするバレンティアは心配そうに答えた。
「人型では無いから大丈夫だと思うけど・・・」

実は龍人の塔でラソンの彫刻を作る際も、”それなり”の時間が掛ったのだ。
付き合わされる身にもなって欲しいと、あの時は思っていたが今回はコラソンが居るのでバレンティアと作戦を立てた。
それは像の造形をコラソンに決定してもらい、責任の丸投げを目論んでいた。

「ですがモンドリアンさん、他の像を見せた方が良いですかねぇ?」
「他の像じゃ無くラソンの像だろ?」
「うっ、知っていましたか?」
「ここまで来たら何と無く分かるさ」
「流石はモンドリアンさん。感服しました」
バレンティアは同朋を見るようないたわりと信頼の眼差しでエルヴィーノを見ていた。


※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez


(おのれ、自分だけ全てを悟った様な顔で下々の者を見下した目で見やがって。お前がその気ならば私は・・・)
一応全ての像を見学して最後に来たラソンの成龍形態の彫刻の前でブツブツと独り言を言うインスティント。
城の裏側にある巨大な”誰かさん”を見てウットリとしていたが、忘れる事にしようと全員が思っていた。

「コラソン様、塔の彫刻は人型ではダメなのですか?」
「それは・・・モンドリアンさんに聞いて欲しいな。この国はモンドリアンさんの物だからねぇ」
面倒だと判断し投げつけて来たコラソンだ。
「モンドリアン!」
「はいっ!」
勢いよく返事してしまった。
「私の像は人型にしたいのだが良いか?」
「・・・一応理由を聞かせてくれるか?」
「ふむ。私は愛情を司る赤龍として教会に認知してもらう手配だが、その為にも成龍形態では無く人型の方が受け入れやすいと思うのだ」
「まぁ・・・確かにそうかもね」
「愛を語る以上その方が良いと思うがどうだろうモンドリアン? シーラ?」
クイクイ服の裾を引っ張るシーラが何を言いたいのか分かるエルヴィーノだ。

しかし、ここはコラソンの指示で仕方なく”そうなった”事に仕向けるべく声を掛ける。
「俺はコラソンが許可するなら良いよ」
全てはラソンを牽制する為だ。
と言うよりも、結果的にロリから攻められる事を回避する為だ。
バレンティアと目が合うと軽く頷いてくれた。
結果、許可されて一番重要なポーズの話しになる。
シーラと話している様だが色んなポーズをしている。
バレンティアと相談して、まずは等身大で作り許可が出たら巨大な石像を作ると言う。

・・・既に5体作ったが納得していない様だ。

ポーズは両手を前方少し下寄りに広げて、多くの愛の受け渡しをするポーズだと言う。
しかし、顔の表情で文句が出ている。
しかもインスティントでは無くコラソンからだ。
「表情が硬い。本来の優しさが出ていない」
などと、誰の像なのかと言いたくなる始末。
そこで閃いたエルヴィーノ。
今までのポーズのままで目を瞑らせた。

「いいよと言うまで目を瞑ってて」
バレンティアにはインスティントの顔を良く見ているように指示し、フィドキアをインスティントの目の前に立たせる。

「目を開けてインスティント」
すると目の前にフィドキアの顔が有り、驚くが次第に笑顔になって微笑ましい顔になって行く。
それは憂いた眼差しで、今にも何か言いたそうな微笑んだ口元。
それを見て声を掛ける。
「バレンティア!」

エルヴィーノの掛け声で瞬間的に集中して石像を作り上げた。
本物とそっくりな石像はコラソンも唸らせる程の出来栄えだった。

「インスティント様ぁ素敵です!」
シーラも見とれるほどの優しさと愛情が伝わってくると錯覚させる程の表情だった。
「うぅぅむ。中々の出来栄えだ」
フィドキアの一言で決まった様だ。

仕上げは着色だ。
インスティントは、ほとんど赤だ。
巨大な石像も作り、等身大はシーラが自国でたてまつる様にエルヴィーノがエスパシオ・ボルザで保管した。
最終仕上げとして、彫刻像にインスティントが魔素を付与させていく。
すると塔がボンヤリと光出した。

自動的に魔法陣が発動したらしい。
城壁の像はバレンティアにお任せとなった。
それは皆そのようにしたと聞いたからだ。
パパッと作り魔素を付与しエルヴィーノが所定の場所に運ぶと、こちらも自動的に防御魔法陣が発動したようだ。

ようやく龍人の彫刻も出来て、街が完成したと思っていたらインスティントに小声で質問された。
「モンドリアン、ちょっと。フィドキアに聞いたが街に秘密の部屋を与えている様だが、私にはくれないのか?」
気になっていたアルセ・ティロも森の中に住んで居ると言うしインスティントだけ無しには出来なかった。
「解かった。この区画だけ未使用だったのは像が無かったからなのさ。今日完成したし、教会の布教も兼ねて解放する手はずを進めるよ。で、どの場所が良い?」
「私が決めても良いのか?」
「構わないぞ。何だったらフィドキアと一緒に周辺を見て回ったらどうだ?」
コラソンの助力も借りて2人で周辺を見て来るらしい。

「ところでバレンティアはあの場所に来ているのか?」
バレンティアにカマラダにも塔の近くに住家を用意してあげたのだ。
龍人達には全て最上階の部屋を用意してある。
何故ならば最上階に行く者は少ないからだ。
ましてや転移で部屋に入る事が可能な龍人に住民との接触を避ける為だった。
だが以外にもコラソンが教えてくれた。

「バレンティアは頻繁に来ているようですねぇ」
「コラソン様! 良いでしょ? 串焼きが恋しくて訪れる事くらい」
照れながら答えるバレンティアだ。
「確かに、たまに来るがカマラダもそうですよ」
別に悪い事でもないのに、ちょくちょく串焼きを食べに来ているようだった。
管轄外の場所に来るのは気が引けるのだろうと勝手に判断するエルヴィーノだった。





ペンタガラマが真の意味で完成したようです。
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