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第9章 魔王国編2

第255話 シーラの潜入

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結論から言うとシーラが夕方来る事は叶わなかった。
パウリナも昨日の今日なのでアンドレアの監視が厳しくなっている。
エルヴィーノにお願いしてシーラとエマスコ出来るようにしてもらい、今日は”大人しく”する2人だった。

先にパウリナのエマスコを調整し、ノタルム国に戻りシーラのエマスコを調整した。
パウリナから説明が有ったが、転移でも距離が遠くなるほど魔素量が増えるので念話も同様ならば、パウリナに長距離念話は出来ないと直ぐに理解しての調整だ。

そして、使わせてみた。
何度かやり取りをする光景を見ていたがシーラが嬉しそうに近づいて来た。
「どうした?」
「ふふふっ。パウリナお姉様が今日は1人で楽しんでだって」
ヤレヤレだと思っていると
「ねぇ、シオンの四天王を連れて行く時は私も行くわ。お母様にもお会いしたいし、あなたの国を見たいの。ねぇ良いでしょう?」
パウリナの騒動が終わり、今は何も問題が無いと判断して許可を出した。
「国には言うのか?」
「内緒にする」
「お前なぁ」
一体何を考えているのか知らないが楽しそうに微笑んでいるシーラだ。

「私の召使い達には言うわよ。それと2人程連れて行くわ」
どうやらパウリナと同じく密入国をしたいらしい。
「どうせ反対しても、パウリナと同じ様にするなら俺は知らない事にするぞ」
シーラがニコニコと近づいて唇を吸われてしまった。

そして一行がノタルム国に着いて三日目の昼に戻る事となった。
四天王と密入国者三人? が隠れているので、シオンの時と同様にペンタガラマ郊外に転移した。
するとエルヴィーノの前に跪く四天王が告白してきた。

「陛下、どうか我らをお許しください!」
「何事だ、お前達」
驚いたシオンが問いただした。
「実はシーラ様の命令で今回の訪問の際に極秘で入国する手引きをしました」
「なんだとぉ、シーラ様は何処に居らっしゃるのだ」
それはパウリナが隠れていた大きな木箱だった。
ガルガンダは箱から出てくるシーラを見て察した。
(あの2人、遊んでるなぁ、陛下も大変だこりゃ)

ノタルム国同様天気の良い空に荒廃した大地が見え、振り返ると畑が広がっていた。
そして森の奥に小さく見える城も確認できた。
「ここがバリアンテかぁ」
感激のシーラと召使の2人だ。
(お姉様、着きましたよぉ)
(シーラ! 早かったわねぇ。城に来るまでは街を見学するはずだから楽しんできて)
(分かったわ、じゃ後で)

取りあえずシーラ達の角を隠しシオンと親衛隊が護衛として付き、四天王にはゲレミオの幹部達が案内する事にした。
そして、大型のブエロ・マシルベーゴォに荷物も全部乗せて出発すると驚く一同だった。

「「「おおおっ」」」
「オイ、浮いたぞ」
「あなた、どうなっているの?」

エルヴィーノに聞いて来たが、説明好きのガンソに目で合図を送った。
そして始まる観光案内だ。
ブエロ・マシルベーゴォの話しから始まり街全体が見渡せる高さまで上昇した後は、海辺の街にむかいゆっくりと迂回して下降して行く。
細かな説明を聞きその完成された街並みを目の当たりにするシーラ達からは質問攻めだった。
そして余りにも大きな城に見とれていると、横に回った時に気づいた物が有った。

「な、何だ。アレは!」
四天王が指を指して驚いている。
シーラも同様だった。

その驚いた者達に自慢げに説明するガンソにガルガンダを、黒い龍人に見られなくてホッとしているエルヴィーノだ。
この巨大なレリーフを見ると誰もが絶賛し、獣人達は自慢したがるのだ。
そんな光景をとある龍人が見ると”ふっ”と鼻で笑うが、それが最高に得意げになっている状態だと知っているエルヴィーノ。
何故かそれが腹立たしいので本人には一切言わないのだ。

全体を一周した後、城の正門に繋がる大通りの先端にある畑に戻って来た。
そしてゆっくりと低空飛行で城に向って行く。
第二城壁に差し掛かると重装備の兵士達が駆けつけて跪いた。
「挨拶は良い、ペロ族の者を呼んでくれ」
「ハッ」

城壁の上にはアベス族が配置している。
ブエロ・マシルベーゴォに乗っている時には、既に監視され人数も掌握されているのだ。その位、目の良い者達が見張り鼻の利く者達が人物確認させているので、シーラ達の匂いを覚えさせることにした。

まずは主要門のペロ族だが、後日汗の付いた服などを持って回らせるのだ。
優秀なペロ族は三桁にも及ぶ数の匂いと名前を憶えているらしい。
余談だが、エルフ国メディテッラネウスに聖魔法王国アルモニアには、かなりのペロ族が派遣されている。
当初は王族だけだったが、噂を聞き付けた有力者(金持ちの領主や貴族)が大金を積んで呼んでいると言う。

なので、今はペロ族が大人気なのだ。
門番にペロ族を配置してある家こそ王家同様に格式が有り、外敵に対して対策を講じていると言う宣伝にもなるらしい。
ペロ族の街ルヒドには各国からの使者が住みつき、中には親子に夫婦で住み込んでほしいと依頼が有るくらいだ。

一見奴隷制の様に思えるが、労働では無く正規の門番として雇い入れる契約を取っている。
契約は年単位で、契約金の二割がペロ族の街ルヒドに入る仕組みだ。
更新時は国とルヒドから使者が来て交渉を行う。
その際に契約に違反している場合はそれぞれの国から罰則が執行される。
重要なのは違反を外部に教える方法だが、ペロ族にとっては簡単な事だった。

ペロ族以外には解らない匂いを出すのだそうだ。
言葉では否定しても匂いで返事をされると全て明らかになってしまう。
違反事例は全体の数割だが、ペロ族と各国で契約条件の見直しと違反者の実名と処置を公にする事で再発防止に努力していた。

全員と握手して匂いを覚えられる光景が面白かったのだろう。
「シーラ様、今回の様な御忍びもこれで出来なくなりますぞ」
「次からは堂々と来るわよ。でもさぁシオン、これ良いわよねぇ」
「はっ流石は陛下の御考えだと感服致します」

笑顔で満足そうなシーラは自国でも真似したいと思ったのだ。
奥行きの有る城壁を越えると街並みと喧騒が一行を包み込む。
感心して見ている四天王にキョロキョロしているシーラ達だ。

始めてみる異国の街並みは全てが新鮮だった。
様々な種族の獣人に食欲をソソル良い匂いが漂って来る。
街並みには木々が規則正しく植えられて色とりどりの花が咲いていた。
次々に質問する光景を見て自分も同様だったことを思いだし照れ笑いするシオンだ。
そして到着したのは超高級旅館エスピナで、シオン達に案内を頼み実家に向かうエルヴィーノだ。
来てしまったからには仕方なくリーゼロッテに報告しに向かった。


※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez


昨日の夜、シーラとのやり取りで密入国し、リーゼロッテに挨拶に行く事をパウリナに連絡し段取りしてもらっていた用意周到の婚約者だ。
「お母様、折り入ってお話が有ります」
ダークエルフの居住区の居間に訪問したパウリナがリーゼロッテに切り出した。
「あら、どうしたの? あらたまって」
「実は・・・」

一連のノタルム国で新しい嫁と婚約した事に、義姉2人から婚約者の調査と妻としての指導を仰せつかり、指導中だがリーゼロッテに御挨拶したいと申し出ている事を伝えたのだ。

無論リーゼロッテが拒む事は無く日時を教えて欲しいと告げてパウリナに印象を聞いた。
「それでパウリナさんは、その子の事をどう思っているの?」
「シーラは良い子だよ」
笑顔で答えたパウリナに、シーラに対する好感が上がったようだった。


※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez


実母のリーゼロッテが、婚約者のシーラが挨拶に来ている事を前持って知っているとは露知らず、どうやって話しを切り出すか悩んでいたが、既に目の前にリーゼロッテが座っている状態だ。

「それで、何なの話って」
覚悟を決めて切り出した。
「実は・・・」
「ノタルム国の婚約者が来ているの?」
「ええっ何で!?」
「あなたの事は何でも知っているわよ」
そのように言われて、赤面している事を自覚していたエルヴィーノだ。
「・・・でさぁ、会ってやってほしいんだ」
「良いわよ。連れてらっしゃい」





何でもお見通しの母親に、一瞬恥ずかしさと恐怖が混ざった感覚が有ったが、冷静に考えてみれば内通者ばかりだと思い知った愚息だった。
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