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第9章 魔王国編2

第242話 交渉と準備

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(これでお前の希望通りになったぞ)
(ありがとうインスティント様ぁ)
(では、我が願いも叶えてもらいましょうか)
「はぁ?」
思わず口に出てしまった。
「当然でしょう」
余計なお願いをして無理難題を言われては溜まらないが、時既に遅くインスティントは不敵な微笑みを浮かべていた。

「それで、要望はなんだ? 言って置くが俺にも出来ない事はあるぞ」
牽制しながら相手の出方を待つエルヴィーノだ。
「何、簡単な事よ・・・」
「・・・何だ言ってみろよ」
「それは・・・」
「それは?」
「・・・」
「えっ良く聞こえないよ」
「フィ・・・」
「だから聞こえないって」
「ああぁもう、フィドキアと食事がしたいぃ!」
色んな部分が赤いので分からないが照れている様だ。
「それで?」
「それだけよ」
「それだけ? フィドキアと食事するだけ?」
「ああそうだ文句あるか!」

内心ホッとしたエルヴィーノだ。
そんな簡単な事でチャラに出来るならお安い御用だが、話しの前後を思い出して確認した。

「分かったフィドキアとインスティントが食事をする機会を作れば良いのだな? 他に同席は?」
「誰も必要無い」
「俺達は?」
「お前達は構わんが」
「他の龍人やコラソンは?」
「必要無いし絶対に話すな」

(何か怒ってるよな? 話すなって、皆”見てる”から意味無いだろ)
「場所は? 何を食べたい?」
「お、お前達が良く行く”あの”料理屋だ」
「あの料理屋はフィドキアのお気に入りだけどインスティントは良いのか? 行った事無いよな?」
「だからあの店だ」

“あの龍人の名前”を出さずに聞いて良かった。
何故なら他の龍人の事を聞いた時は殺気が有ったからだ。

「じゃ最後に日時は?」
「それはこちらから連絡しよう」
「分かったけど、最近忙しいのかフィドキアに連絡が取れないんだよなぁ」
「大丈夫。コラソン様に聞けば良い」
流石に龍人の事は龍人が良く知っている。
自分には話せない事も有るのだろうと思っていたエルヴィーノだ。

「じゃそろそろ帰るか」
「頼んだわね、モンドリアン」
「ああ、じゃまた」
そう言ってシーラと城に戻った。
帰るや否や待ち構えていた者達に取り囲まれて質問攻めだ。
「今日は疲れたから明日にしてくれ!」
「私達は休みますから」

シーラが発言すると質問は無くなり解放された。
やはり城内ではシーラの権限の方が上の様だ。
それは構わない。
シーラ個人が自分の言いなりだから不満は無いのだ。

その夜、シーラは終始上機嫌だった。
口を開けば自分専用の見た事も無い、聞いた事も無いリャーマ・デ・ラ・エ爆炎魔闘鎧クスプロシオン・アルマドゥラを一族や同朋に自慢したくてウズウズしていたのだ。
しかし、それをうまく丸め込むエルヴィーノ。

「シーラ、あの鎧が特別なのは理解するだろ? だからお披露目するのも考えないといけないぞ。この国に1つしか無い龍人の腕輪がもたらす至高の鎧だからさ」

ベッタリと寄り添って腕輪を眺めてニヤニヤしているシーラ。
今日はこのまま眠れると思っていたが、そう都合良く思い通りにはならずシーラに求められグッタリして就寝した2人だった。


※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez


翌朝、ジャンドール王達は朝から話し合っていた様だ。
その内容は、昨夜会場に突如現れた強烈な魔素を放ち炎の様に燃える衣装そのように見えたを着た女性。
つまり龍人のインスティントについてだった。

まず国王であるジャンドール王も知らない存在で、あれ程の魔力を持つ者ならば噂位流れて来ても良いはずなのだ。
三兄弟は兎も角、シオンも同様に知らなかった。
国内の実力者はその存在が気になって仕方なく、昨夜からあらゆる情報を手に入れようと躍起やっきになっていた。

もちろんエルヴイーノに聞けば簡単なのだが、シーラの言葉は絶対だった。
そのおかげでぐっすりと眠れた2人は、シーラ専任の召使いの用意する朝食を美味しく頂いていた。
城内の事は些細な事でも召使いの耳に入り、重要度を考慮してシーラに報告される。
食事をしながら聞いているとインスティントの件で噂話が飛び交っているようだった。

荒れ狂う魔素を撒き散らすモノだから、余計に勘ぐられその正体を暴く事に主旨が変わっているそうだが、他にも女が居た説が有力だそうだ。
「ぷっははははっ」
「くすくすくす」
それを聞いた2人が笑い出すと呆気にとられる召使い達。
「シーラ姫様? モンドリアン様?」
「すまんすまん。みんなの妄想が可笑しくてさ。なぁシーラ?」
「ええ、あの女性は」
龍人と言いそうなシーラを一旦止めて。
「シーラ。言葉を選んでな」
「はい。あの方はね、とても尊き御方なの」

「ですがシーラ姫様。あのような恐ろしい魔素は誰も体感した事が無いと将軍達も話していましたが」
「当然ですよ、あのお方は我らクエルノ族よりも高位の存在なのです」
驚き騒然とする召使い達。
「シーラ姫様、あのお方が誰なのかご存じなのですか?」
「勿論ですとも。我が伴侶に教えて頂きましたから」
「シーラ姫様、宜しければわたくし達にも教えて頂く事は叶いますか?」
シーラは待っていましたとばかりに自慢したくてエルヴィーノを見ながら手で机を叩きながら許可を待っている。

御預けしている小動物の様な可愛い仕草を、しばらく見ていたい気もするが、この10人であれば制約を付けて説明しようと考えたエルヴィーノだ。
「シーラ専任で10人の召使いよ。俺が今から話す事はシーラの言葉だと思い、一族や城内の者にも他言無用と知れ。良いな?」
「「「ハイ」」」
「あの女性は、龍人だ」
「「「・・・」」」

キョトンとする召使い達。
彼女達はそれぞれが闘う事と、召使いとしての職務に種族としての知識しか無く龍人と言う言葉さえ知らなかった。
確かに魔物としての龍種は言葉ぐらい知っているが、どこの国も一般人に龍人と言う存在自体が知らされておらず知る者も皆無だった。

「えっ知らないの?」
「「「ハイ」」」
「ふぅぅむ」
(どう説明すれば良いのかなぁ?)
「じゃ城の図書室で調べて見たらどうかしら?」
「それ、イイネ!」
「畏まりました」
そう言って三人の召使いがシーラの言葉に従い図書室に向った。

そして、扉を叩く音。
待ちくたびれた者達が痺れを切らしシオンが様子を見に来たのだった。
「おはようございます陛下、シーラ姫様」
「おはようシオン」
「おはよう」
城の会議室では謎の女インスティントの件で持ち切りの様だった。
「陛下のご説明をジャンドール王と関係者が首を長くしてお待ちになられております」

「ああ、その事だがシオン。召使い達に話したけど誰も知らなくてさ、説明する為に図書館で調べさせているから、もう暫らく待たせて欲しい」
「畏まりました。そのように伝えます」
「あ、シオンはさぁ、昨日の女性の事をどう感じた?」

「はい、あのように魔素の爆風を操る者など、未だかつて見た事も有りません。一体どれほどの潜在能力をお持ちなのか、我の想像を超えております」

「だろうな。俺もそう思う」
「陛下はあの者の事をご存じなのですか?」
「ああ、知ってるよ。シーラにも教えた」

「流石は陛下。我にもご教授願えますか?」
「シオンだったら知っていても不思議では無いが、もしかすると知らない可能性もあるから、全員に説明する時でいいか? 今、折角調べに行っているからさ」
「ハッ畏まりました」

「で、会議室でどんな話をしているんだ?」
「それが・・・」
チラッとシーラの顔を見るシオン。
「良いのよ、昨日お兄様たちが話していたような事でしょ?」
「ハッ」
「まったく、お兄様たちときたら」
「本当だよ。俺は妻しか愛さないのになぁ」
ウッカリ口が滑ってしまった様だ。
シーラの目から殺意の眼差しが突き刺さる。
(なんでぇ? どうして睨む訳ぇ?)
「と、兎に角、調べに行った者が戻り次第、会議室に行って説明させよう」
「はっ畏まりました」
(召使い達よぉ、早く戻って来ぉい。今はこの場を逃れたぁい!)







口は災いの元です。
シーラは婚約者で、まだ妻では無いからでした。
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