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第8章 魔王国編

第236話 再びノタルム国へ

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翌朝ブオがペンタガラマへ戻り、親衛隊とシオンにエルヴィーノと一緒に献上品の確認を行なった。
ブオは覚えたてのエスパシオ・ボルサ空間バックから数々の品物を出した。
初めての訪問で献上する貴重な品々だが、許容量の少ないブオの魔法だからそれほど多くは無かったが、見る限り煌びやかで手の込んだ細工が施されている高価な物ばかりだった。

「流石はアルモニア国ですな。どれも超一級品の様ですぞ」
言われてみればそうだが、余り高価な調度品や身に着ける物に関心の無いエルヴィーノだ。

エルヴィーノは普段から普通の衣服を着ている。
知らなければ、とても国王とは思えない姿だ。
国の行事などでは仕方なく専用の衣装を着るが普段は頑なに否定するのだ。
折角自由に街に出られるのに目立つ格好では国王だとバレてしまうからだ。
そんな自分勝手なエルヴィーノに、アルモニアとバリエンテでは妻達の意見に基づき隠密の護衛が数人付いている。

しかも、この事はエルヴィーノに教えられてはいない。
この隠密はエルヴィーノの行動を疑っている”耳の長い”妻が指示を出したのだ。
これは極秘なので隠密は妻達三人しか知らない者達だ。
義母達には知らせてあるが顔まで知らない。
だが、新しい妻(既に三人の妻には決定事項として考えられている)が加わる事も想定してノタルム国にも隠密をどうやって配置するかを”妊婦2人”が思案している。

そんな事とは露知らず、エルヴィーノはシーラに出した命令がどのようになっているか楽しみだった。
魅力の力が失効した事は無いので大丈夫だと思っているが、本当はクエルノ族に余計な事を言わせないのが目的だ。
余計な事とは妻達の事やシーラとの婚儀の事に大魔王だ。
アルモニア教の話しをしたいので波風立たせずに乗り切りたいと思っているが、仮に話したとしても親衛隊の三人であれば何とかなると安易に考えていた。

ノタルム国への専用魔法陣を大聖堂から離れた場所に作った。
一応、気を使ったエルヴィーノは、まだ住居などに開放していない地区を使う事にした。
そこはブルデール娼館関係で賑わう場所で、ここには未だに石像の無い龍人の塔が存在しブルデール以外は人の気配が無い地域だ。
当然だが無断で使用する者がいないかペロ族が巡回している。
そして専用魔法陣の扉はオスクロ・マヒアが使えないと開かなくしてある。
だから、クエルノ族専用になると言っても過言では無い。

転移室は広く小部屋を幾つか配置してある。
一応ジャンドール王含めて王族も使うだろうし、利用者が多くなれば上流階級の者(ノタルム国にも貴族的な階級が有ると想定して)が絶対に来たいはずだ。
細かな階級までは知らないので混雑を想定した小部屋だ。
「たかが転移室でこれ程の部屋を用意して頂くとは感謝いたします陛下」

因みに各国の貴族事情は多少違う。
エルフ族が一番血族を重んじているのに対して、アルモニアは領土を増やしてきた歴史から、地場の領主をそのまま採用している。
重要なのは教会の勢力であり地域の権限はそのままだ。
ただし税は王国(教祖一族)が徴収している。
教会の繁栄と聖女の育成など王国の発展に協力するのが、取り込んだ地域に先住している領主や自称貴族はそのままだ。
細かな階級も王国が算定しているらしいが、エルヴィーノは興味無いので知らなかった。

そしてバリエンテにも特権階級は有る。
国を代表する種族の族長達だ。
族長=貴族の様な意味合いで、時期に成れば引退し候補が選出される。
他の国と違い一族には引き継がれないが種族の仲間意識が強く、より強く力と才能の有る者が選ばれて一族を受け継ぐ様だ。
現族長が第一級貴族。
先代が第二級貴族。
それ以降の族長や長老は全て第三級貴族の扱いだ。
しかし、これは他種多様な種族が有る中で勢力が強い種族に限っての事だ。
少数民族は血族らしい。

前回はジャンドール王の一族(主に子供)と兵士達に召使いとしか話していないので、シオンが元将軍であれば現将軍も居るはずだし、面倒事に巻き込まれない様に神経をすり減らして対応するのは”嫌”だから、シオンと親衛隊に任せようと思っている。
今回ノタルム国での目的は今後の国同士の付き合いをどうするかだ。
アルモニアは布教に際して教会の建設をしたい。
それに対してジャンドール王は何を求めて来るか?

交流はどうしたモノか。
角を出したり消したりする事に際してクエルノ族がどのような反応を示すか。
アルモニアに関しては当分訪問出来ないだろう。
王族の采配次第だが、それでも親衛隊やプリマベラを見る限り厳しいと思う。
やはりバリアンテで交流を図るしかないか。
獣人達の浮かれようを見ていると問題なさそうだが、普通のクエルノ族がどう思うのか。
これもゲレミオに入れる者達を観察しよう。

そんな事を考えていると
「陛下、そろそろ参りますか?」
準備は終わりシオンから出発の打診が有った。
「では、まず角を出すぞ」
エルヴィーノと親衛隊に角を出して転移室に入る。
「ブオ、ポヨォ、ファイサン。覚悟は良いな!?」
「「「ハイ」」」
「良し、ノタルム国へ転移!」
明るい転移室から薄暗い転移室に変わった事が、その場所が魔族の住む場所だと認識した親衛隊だ。
「皆さん。胸を張って堂々としてください」
シオンから何度となく言われている三人だ。

「じゃ、付いて来い」
そう言ってディオス・マヒアの操作で開く扉を開けると
「あっ、モンドリアン様!」
「モンドリアン様がお戻りになられましたぁ!」
「お戻りになられましたぁ!」
そう言って駆け出すシーラ付きの召使いが数人。
(帰って来るのを待ち伏せていたのか?) 
戻ってきて行く先はジャンドール王の応接室だ。
あの広い謁見の間にクエルノ族が大勢居たら親衛隊の三人は縮こまるだろう。

先頭はエルヴィーノで後ろに親衛隊が続き、最後にシオンが付き従う。
一応知らないクエルノ族より見知っているシオンの方が安心らしい。
途中数人の兵士に出くわすが立ち止まり敬礼をされた。
初めて来た時とは大違いだと内心思っていたが直ぐに問題が発生した。

長い廊下を歩いていたら向こうから女性の一団がやって来たのだ。
それはもう直ぐに解かったエルヴィーノ。
先にジャンドール王と会って話をする予定だったが親衛隊の手前、何と言うか数秒で考えなければならない。
シーラを睨みながら神速の思考で対処したいのが本音だ。

「お帰りなさいませ。モンドリアン様」
「ああ、戻ったよシーラ。紹介しよう、アルモニアで俺は国王だから親衛隊が付き従うのだが、今回はジャンドール王にお願いが有るらしく連れて来た」
「そうですか。わたくしの紹介はどの様に?」
「これからだ。親衛隊の諸君、ノタルム国のジャンドール王から、俺に全てを捧げる為に選ばれた女性だ。失礼の無い様にな」

「あら、ちょっと違いますわよ」
さっきから気になっていたが話す口調が以前と違う。
「わたくしとモンドリアン様は将来を賭けて何度も戦った末、私の全てを手に入れられたのです」

「どう言う事でしょうか陛下?」
ブオが当たり前にたずねた。
「詳しくは後で説明するが、妻になる予定の女性だ」

その言葉に返事は無かったが、”ああやっぱり”的な顔のブオに、眉間にシワを寄せて怖がるポヨォと、角さえなければ凄く美人と思っていたファイサンだった。

「兎に角、ジャンドール王と話したいけど」
「畏まりました。ではこちらへ」
しずしずと歩くシーラの後を付いて行く一行。

途中でブオを呼び注意する。
「まだ余計な事を報告するなよ。全部説明してからにしろ」
「畏まりました」
”既にノタルム国に女が居た”だなんて報告されたら堪ったもんじゃない。
神速の思考も追いつかない程、シーラの変わり様に戸惑ってしまったエルヴィーノだ。

「では、わたくしは後程」
応接室に案内されると笑顔で退出するシーラがちょっとだけ怖かった。
この場合の怖さは、以前と比べての事だ。
魅力が効いているのは確かだが、前例の無い変わり様なので、何か企んでいる事も考慮しなければならないと心配していた小心者だった。
それに後程とは”あれ”か? ベッドの戦闘か? 多分そうだと思いながらチョット不安だが、まずはジャンドール王と三兄弟に合うのが先だと待っていると扉を叩く音がした。

「ハイ、どうぞ」
入って来たのは兵士数人とジャンドール王に三兄弟だ。
「モンドリアン殿。良くぞ戻られた」
(モンドリアン”殿”?) 
疑問に思ったが聞き流したエルヴィーノだ。
「まずは紹介しよう。こちらがノタルム国のジャンドール王で、ご子息のデセオさんにレスペトさんとブスカドールさんだ」

四人は座ったままだが親衛隊の三人は立ち上がり、それぞれが自己紹介した。
「私は聖魔法王国アルモニアの国王、モンドリアン陛下の親衛隊を拝命しておりますブオと申します。宜しくお見知り置きくださいませ」
「同じく・・・」
ポヨォとファイサンも同様に挨拶を済ませた。

「ところで三人に角が有るのはモンドリアン殿の魔法かな?」
デセオまでが口調を変えている。
これはきっと深く練り込んだ罠が有ると疑いだしたエルヴィーノだ。
「一応、イディオタを目の前にするよりも、礼儀として変化させましたが」
親衛隊には解らない”単語”だ。
「流石はモンドリアン殿だ。アルモニア国の心配りが感じられる」
(うぅむレペストまで)
「今回親衛隊を連れて来たのは互いの国と交流を図るために、まずは相手を知る所から始めたいと教会側が打診しているのさ」

献上品を思いだしブスカドールに台車を用意してもらいブオが準備してジャンドール王の前に出した。
「ほぉ、どれも中々の一品だな」
「本当に素晴らしい物だ」
親子が手に取って満足そうに見ていた。

「それで、アルモニア教は何が望みなのだ」
核心に触れる質問をジャンドール王自らが聞いて来た。
「我らアルモニアの教祖はノタルム国での布教を希望しております。その際には教会の設置許可を頂きたいのですが、如何でしょうか?」
間髪入れずにブオが問うてきた。

「簡単な事だ。両国が戦争に発展する恐れはモンドリアン殿のお蔭で事無きを得た」
「ちょっとお待ちください。戦争の可能性が有ったのでしょうか? しかも陛下が既に対処されたとは聞いておりませんが!」

驚きの表情でファイサンが訊ねて来た。
これはエルヴィーノの筋書きでシーラからジャンドール王達に伝えるようにしたが、シーラを娶る大義名分を親衛隊から教祖と一族に伝えるのが目的だ。
しかし、本当は妻達への良い訳に過ぎない哀れな性奴隷だ。
「うむ、我が娘を嫁にする事で血縁と成り、争う事を止めたのだ」
親衛隊は絶句した。

「布教と異国の教会建設は新たにもう1つ願いを叶えてくれれば許可すると教祖に伝えるが良い。何、簡単な事で誰も困らんぞ」
ごくりと唾を飲む親衛隊の三人。

「それは一体?」
「モンドリアン殿が大魔王と成れば良いのだ」
(しまったぁ!) 
ここでそんな条件を出してくるなんて思っても居なかったエルヴィーノ。
「「「それは!!」」」
「・・・一度戻り教会で審議して見ます」
「いや、ちょっと待て」
ブオが勝手に進めるので止めようと思ったら
「まあまあモンドリアン殿、落ち着いて」
ブスカドールまで別人の様だ。

「親衛隊の諸君、他に何か有るか?」
「いえ、今回の我らはジャンドール王様に布教と教会建設の申請許可が唯一の望みです」
「ふむ。我らもモンドリアン殿の大魔王昇格が唯一の望みだ。教祖殿にくれぐれも宜しくと伝えて欲しい」
「「「はっ畏まりました」」」





本人の意思は無視して進む2国間交渉だ。
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