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第8章 魔王国編

第221話 先輩と後輩

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「所で王よ。また妻を娶ったのですかな?」
シーラ嬢を見て質問したシオンだ。
若い嫁と思ったのか、新しい嫁との子だと思ったのだ。
何故ならば三兄弟とは全く似て良いからである。
「んっ、そ、そうだ」
子供たちの前では多少恥ずかしそうにするジャンドール王。

だが、その事に食いついた者が1人居た。
「クエルノ族は一夫多妻なのですか?」
「そうでは無い。たまたまだ」
「ではたまたま、何人妻が居るのですか?」
「・・・四人だ」
どうやらその事は余り触れられたく無い話しの様だ。
四兄弟にシオンが腕組みし溜息を付いている。
そう、実は四兄弟全員の母親が違う事を知ったエルヴィーノは思わず叫んでしまった。
「せ、先輩!」
”ああぁ?” って顔で全員がエルヴィーノを見た。

「どういう事だ?」
「俺は今三人の妻が居るのは、さっき説明しただろ? 色々と気苦労が多くてさぁ、相談できる者も居ないし。でもこれからは”先輩”に聞けば良いかな?」
喜んで話すエルヴィーノと困惑のジャンドール王だ。だが
「それは止めた方が良いだろう」
長兄のデセオだ。
「我も止めた方が良いと思う」
「俺も」
「私も」
「我も」
次兄、末弟、シーラ嬢にシオンも同意してきた。
「えっ、一体どういう事だ?」

「国王は大変忙しいので、奥様達を構っている時間が無いのだ」
何故かシオンが説明してくれた。
200年近く前に謀反で城を出たが、今この場では一番事情を知っているのはシオンだった。

(やはり俺の様に色んなタイプの女なのかなぁ。まぁこの国の場合は力有きだからロリやパウリナの様な事は無いだろう。ましてロザリーの様な事をこのジャンドール王がされたとは考えたくないし)

妄想の中でどんなクエルノ族の女性なのか興味津々のエルヴィーノだった。
(ああ、でも政略結婚っぽいなぁ。構っていないとは余り愛し合っていないと言う事か? まぁ他人の家庭に口を挟むのは止そう)

「では先輩として一言だけ」
1人で問題提議し自己完結してしまったエルヴィーノに急に喜怒哀楽の表情が無く真剣な顔つきになったジャンドール王が最後の口撃を放って来た。

「モンドリアンよ。娘のシーラを頼む」
(げっ、何とか躱して切り抜けようと思っていたのにっクソッ)
「シーラを頼むモンドリアン」
「お前に託そうモンドリアンよ」
「2人ならお似合いだな」
続けて三兄弟がかぶせて来た。
シーラ嬢は真っ赤な顔になり俯いている。
「陛下。どういう事ですかな?」
シオンには教えてなかったので説明する。
「流石は陛下ですな。お二人のお子様が三兄弟を力で越えるまで我は死ぬことは許されませんな、はあっはっはっはっ」
何故か爺やのポジションを自己申告するシオンに戸惑う一同。

改めて確認する事が有った。
「確認だけど、シオンは貰っていいな」
「我は既に陛下へ忠誠を誓った身。何処に居てもご命令とあらば、どのような指令でも完遂いたして御覧に差し上げましょうぞ」
周りを無視してジャンドール王にも発した事の無い忠誠を誓うシオンに呆れ顔で告げる。
「シオンよ。お前は一族を代表してモンドリアンに付いて行け」
「はっ」
元の主から最後の指示が下された。
「ところでシオンの部下で使える者を五人選出してくれ」
「陛下、その者達は何か条件が必要ですかな?」
「ああ、食事に興味のある者、物を売る事に興味の有る者、武術に秀でて説明上手な者、力よりも口が上手な者に、女の管理が出来る者を選んで欲しい」
最後の候補者に非常に興味を示す者が1人居たが意識して無視した。

「俺が帰って来るまで牢屋に入れて置いてくれ」
「陛下。帰ってくるとは、何処いづこかへ向かわれるのですか?」
「ああ、急に召喚されたから国の者達も騒いでいるだろうし、一度戻って又来るよ」
「お供致します」
間髪入れずにシオンが跪き、お伺いを立てている。
「まぁ急ぐこととは有るまい。せめて明日の朝にでも戻れば良いだろう」
「おお、流石は国王」
「我もその方が良いと思う」
「我も」
シオンに長兄次兄と、うなづくブスカドールに「俺もだ」とアルコンも同意してきた。

(はぁ、2泊も無断外泊なんて、どんな言い訳を用意しよう・・・)
心では葛藤し周りの雰囲気で合意してしまったエルヴィーノだ。
「国王、我らは宴の準備があるので一度席を外す」
「うむ」
父王の同意を得て4兄弟が席を立った。
去り際にシーラ嬢が無言でエルヴィーノを見ていたが目がキラキラしていた。
応接室に残ったのはエルヴィーノとレボル・シオンにアルコンとジャンドール王だ。
改めてレボル・シオンにアルコンを説明しお互いを知ってもらう。

シオンが城を離れた後に入って来たアルコンだ。
お互いに噂話しでは聞いていたが会うのは初めてで、敵対関係が無かった事が救いだった。
アルコンは主に国外の諜報が中心だ。
シオンは国の内政や武力の柱だった為、国外の諜報は携わって無かった。
種族も違うので適材適所といった所か。

エルヴィーノの従者となったシオンはダークエルフ一族の話しを聞いて「陛下のしもべとして是非協力させてほしい」とアルコンに迫った。
当のアルコンもジャンドール王に取り入り、間諜の仕事をこなして自らの目的エルヴィーノと同じを成しえようとしていたのだ。

アルコンの考えは広大なノタルム国には幾つかの島が点在する。
功績を上げて、そのどれかを貰い受け新しいダークエルフの国にする考えだった。
勿論この考えはジャンドール王に説明し、世界に2種族しか存在しないオスクロ・マヒアを使うダークエルフに小さな島を与える事はさほど難しくも無かったが、見知らぬ一行である20人足らずに何の成果も無く物だけを与えるつもりは当然無い。
そこで、国内のゴタゴタも有るが国外の情報収集が芳しく無かったのでアルコンと取引をしたジャンドール王だ。

「国外の情報を集め報告せよ。成果を上げる事が出来れば我が領土の中に有る島を1つやろう。そこをお前達の国として認める事も許可しよう」

一件聞くと、物凄い好条件だが、そんな甘い話がある訳が無い。
「その条件とは?」
恐る恐る聞くアルコンが確かめた。
「世界中、全ての国の情報だ」
(世界と来たか。参ったなぁ)
しかし、考える猶予も無く即答を余儀なくされる。

ノタルム国の近隣から調査し、徐々に範囲を広めある程度の信用と調査結果を出してから、北と西に範囲を広めていった際に、懐かしの故郷へ立ち寄ったのが今回のエルヴィーノが召喚される事件の始まりだった。
その事を目の前で話すアルコンに「そっか、俺と同じ考えだったんだ」嬉しそうにお互いを見つめる2人にトンデモナイ事を言いだす魔王だった。

「モンドリアンが”我が提案”を受け入れてれるならアルコンとの約束は無しで、島を分けても構わないが・・・あぁ、アルコンの仕事は今までのままだぞ」
2人の足元を見て、姑息な条件を出してきたジャンドール王。
「モンドリアン!」
それはもう、まるで子供の様に欲しい、欲しい、欲しいって顔をしているアルコンに呆れたエルヴィーノだ。
「その話は一旦帰って母さんや一族と相談してからで良いですか?」
「何故だ。お前が王だぞ」
即答が欲しいジャンドール王は納得がいかなかった。

「確かに俺はアルモニアとバリエンテの国王を兼任しているけどダークエルフの国として言えば、俺の母さんが正当な女王だ。だから母さんに相談するのが筋だと思うが?」

腕組みして考えるオッサン3人。
「ところでさぁ、その島は何処に有るの? どの位の大きさ?説明するのに具体的な条件や場所も出来れば見ておきたいなぁ」
「確かに一理ありますぞ国王。口だけより見せて頂いた方が陛下もその気になるやもしれませんからな」
続けて言い放つシオンの内容はどちら側にもとれる内容だが、単に陛下の”昼の国が見たい”と言う欲望だった。

「仕方が無い、ちょっと行ってみるか」
「「「おおっ」」」
一緒に喜んだエルヴィーノだが一仕事済ませたいと思い提案した。
「ジャンドール王。その前に城に小部屋を1つ用意して欲しい」
島へ移動する気になっていたのに横槍が入ってブスッとする国王が問いただす。
「一体何に使うのだ?」
「転移魔法陣を設置しようと思うけど」
「何ぃ、魔法陣を作れるのか?」
魔法陣を自分で作れる事に驚いた”魔王”だ。
「ああ、出来るよ」
すると従者のシオンが褒めちぎる。

「流石は陛下ですなぁ。ノタルム国では剣技と魔導は個人の得手不得手で別れていましてな、剣技を得意とする者は率先して戦いの先頭に立ち、魔導を得意とする者は後方支援と戦略を重視しております。さしずめ陛下は魔導派ですかな? 陛下で有れば何が出来ても驚きませんぞぉ」

自国では我こそが最強と自負していたが力の差を見せつけられて、何とか血族にしたいとする国王が褒めちぎる。
「いや、シオンよ。モンドリアンは剣技も凄いぞ」
「ほおっ」
「我が剣と腕を一瞬で切り落とす才を持っておる」
「おおおっ」
「しかも、一瞬で繋ぎ合わせる治癒魔法も使えるぞ」
「なんと、流石は陛下。御見それしました」
多少大げさに驚いているシオンだが、アルコンは絶句していた。






(腕を切ったのは口止めしないと不味いな)と思っていたエルヴィーノ。
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