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第8章 魔王国編

第217話 大魔王なんて嫌だ

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エルヴィーノは確認を取る為に、どこまで調べたのか聞いて見た。
「それであればこれを見よ」
普通は見せないだろう報告書を見せてくれた。
数枚に書かれているが一通り見てガッカリした。
その表情を見たジャンドール王とアルコンが「何だ、どうした」と聞くので答えてやった。

「あのさ、もっとマシな間諜はいないの? この程度の調査だったら子供でも出来るぜ?」
驚いたのはその場に居た全員だった。
「そうは言うがモンドリアン」
配下の者をかばうようにアルコンが良い訳をするので手で止めて聞いて見た。

「間諜はクエルノ族ですか? それとも外部の者ですか?」
答えたのはジャンドール王だ。
「基本的に外部の者は使わん。一族の中で角が小さい者や、訳有って角が折れた者達を使っている。だが最近はアルコンに頼む事も多いがな」
確かに角が無いだけで印象が違うのは間違いない。
この場合の印象とは怖さだ。
「魔法を使って隠したりはしないの?」
「我らの誇りを隠す必要は無い」
長兄のデセオが答えたが末弟のブスカドールが教えてくれた。
「大体角を隠せる魔法なんて無いぞ」

「ジャンドール王、角を触っても良い?」
「構わんが」
お許しが出たので触ってみた。
額から上方に反りあがった立派な黒い角だ。
良く観察して魔法を唱える。

「カンビオ」
魔法を発すると、ジャンドール王の様に太さ、長さ、色は同じだがゴツゴツとした角とは違い、ピッカピカに黒光りした立派な角が突然エルヴィーノの額に現れた。
「馬鹿な!」
「そんな!」
「嘘だろ!」
「信じられない!」
「う~む」
「つ、角が生えた!」

長兄デセオ、次兄レスペト、末弟ブスカドール、妹のシーラ、ジャンドール王、アルコンの順で思い思いの言葉で評価してくれた。
中でも一番反応したのは何故かシーラ嬢だった。
眼つきが先ほどまでとは違いウットリと見られていた。

そしてジャンドール王を見て「カンビオ」と発すると角が消えた。
ただ、これには全員が驚きの表情で絶句したので「間諜者はこの位しないとね」と言って直ぐ元に戻した。
当然ジャンドール王は不満だ。
自分は見ていないのだから。
そんな訳で三兄弟の角を取った。

「おおっ、お前達イディオタ族みたいだぞ!」
その言葉に「ぷっ」と吹き出したシーラ嬢と不機嫌になった三兄弟だ。
シーラ嬢がブスカドールの頭を触っている。
「本当に無くなってる」
段々と長兄デセオの怒気が膨れ上がって来るので魔法を解除した。

「今のは変化へんげの魔法で、元々は獣王国に伝わる魔法です」
「獣人は魔法が使えないはずだが?」
末弟のブスカドールが聞いて来た。
「彼らは魔石を使って変化します」
「なるほど」

本当は昔、獣人族が捕まって奴隷にされる事を回避するために誰かが考えた魔法だとは言わないエルヴィーノだ。
「ええっと、話しが脱線したけど俺が言いたいのは誰が調べたかでは無くて、ほとんど調べて無いと言うがこの報告書を読んで分かったよ」
諜報活動は各国の諜報員達が潜入国において調べるのだが、諜報員や間諜達を指導し管理するのも通常は王家直轄が多い。

エルヴィーノが報告書を読んで答えた。
「全く調べて無い、情報が少ない」
と言う発言は調査員のレベルの低さと、敵国の情報操作や機密防御が優れている事を指している。
当然、聞いているジャンドール王と長兄に次兄は厳しい視線をアルコンに向けていた。

何故ならば最近のノタルム国での間諜は角の無いダークエルフ一族が取り仕切っていたからだ。
一目で分かる角の無い者の方が間諜には適していると判断したからで、アルコンにも”思惑”が有ったから、この国での仕事は諜報活動が主としていた。
とは言うものの諜報員全てがダークエルフでは無い。

以前から従事していた角の短いクエルノ族を統合しての活動だ。
ノタルム国が有る大陸を出た諜報活動については、従来の者よりも明らかに効果が有った為だ。
しかし、報告書によれば聖魔法王国アルモニアや獣王国バリエンテは国民の噂話がほとんどで、エルフ国メディテッラネウスに至っては噂の噂程度の内容だった。

「アルコンよ、今後はモンドリアンの指示の元、変化の魔法を使い諜報活動に当ってくれ」
「ハッ」
エルヴィーノ的に言うと本日只今から、この国の諜報活動が始まったと言える出来事だった。
確かにアルコンは同族なので”もらい物”の魔法を伝授するのはやぶさかでは無い。

「しかし、よくまぁこれだけの調査で俺を召喚したもんだよなぁ」
「そう言うなモンドリアンよ」
エルヴィーノがこぼす愚痴を召喚者本人が丁寧に拾うやり取りを見ていた一同だった。

「ところで本題に入る前に聞きたい事が有るけど良いかな、ジャンドール王」
「うむ、何だ」
「この国でも、いやクエルノ族でも犯罪者は居ると思うけど、犯罪者組織を作ったヤツは居るか?」
ハッとしたジャンドール王の表情を見逃さなかったエルヴィーノだ。
「何故そんな事を知りたい?」
「俺が国王として納めている国にも、そんな組織が有ったからさ」
(必要の無い者は全て処刑したけど)
兄弟達の顔を見て頷いたジャンドール王だった。

「数日前、この国で一番大きな犯罪者組織を仕切っていた男を捕らえたばかりだ」
長兄のデセオが教えてくれた。
「へぇ、凄いやデセオさんが捕まえたの?」
「うむ、全員で協力してだ」
「組織の仲間は?」
「捕らえてある」
「そいつら、どうするの?」
「いずれ処刑されるか、良くて角を折られて奴隷落ちだな」
「じゃさ、俺に頂戴」
「「「何ぃ!」」」
「どういう事だ、モンドリアン」
「ん? 俺の従者に仕上げるよ」
流石にその言葉は信じられない三兄弟だ。

クエルノ族で力の有る者も犯罪を行なう場合が多いが、そいつらを束ねるその男もかなりの力を持っている。
事実、実力だけでは長兄デセオよりも上だ。
デセオも先ほどから父王の言葉を全て信じる訳では無いが嘘を言って我ら、敷いては一族がモンドリアンに対してどんな利点が有るのか解らなかった。

「一体どうやって従者にするつもりだ?」
「それはねぇ、教えないよぉ」
「なっ!」
「当たり前さ、教える訳ないだろぉ。国の秘密なんだからさぁ」
「むっ」
国の秘密と言われ、どの国なのか分からない一同だ。
実際はエルヴィーノの適当な嘘だが、ここまでの経緯が信憑性を出していた。

「それが大魔王にならないのと、どう関係しているのだ?」
大魔王には嫌だと言った理由が気になって仕方が無かったジャンドール王が口を開いた。
その言葉を聞いてうなづく一同。

「俺は既に違う組織を持っている」
「違う組織だと?」
「組織とは国そのものだよ、ジャンドール王」
「別の国が有ると言うのか!」
「微妙に違うけど国では無くて、組織だ。だが俺は形の無い国だと思っている」
「詳しく聞かせてくれるか、モンドリアン」
ジャンドール王が身を乗り出して問いただしてきた。

「我にも聞かせてくれ」長兄が同様に身を乗り出すと「我も知りたい」と次兄も同様の体勢だ。
そのあと「俺も」と軽くブスカドールが入って来た。
アルコンは沈黙している。
シーラ嬢は余り関心が無いようだ。

「形の有るモノ。それは生命でも有り、無異質でも有る。考え方に個人や国の主義主張のように形の無い物も叱り、全てに光が当たらず影を落とす所が有る。国が管理しているのは、ほとんどの場合光のあたる部分だ。そして影は集まって闇と成る。その闇が犯罪の温床となっているのはどこの国でも同じ事だ。俺はそんな闇を集めて1つの組織にした。細かな内容は秘密だが、このノタルム国の”倍以上”広い国土を闇から支配しているのが俺の組織だ」

切っ掛けはエルヴィーノの小さな欲望だったが、現在は大きな組織になっているし話している内容も報告を受ける限り嘘では無い。
だが本当に必要の無い”モノ”は処分している。

「「「馬鹿な! 倍以上だとぉ!」」」
昨日の宴会で、それとなくノタルム国の地理を聞いていたので、三ヵ国同盟の国を合わせれば当然その面積は優に有る。
実際の所、遠く離れた他国の国土を詳しく知らないのがノタルム国の現状だ。
自国の土地も厳密に把握しているともいえない一同は想像で驚愕していた。

“信じられない”そんな眼差しで一同から見つめられるエルヴィーノだ。
「まっ、信じられないのが普通だよ。だからさぁ、捕まえたその男に会わせてよ。俺1人だけで」
「会ってどうするのだ?」
「とうって、話して勧誘するのさ」
クククッ長兄のデセオが馬鹿にした笑いをした。
「奴には何を話しても無駄な事。既に処刑は決まっている」
「だから、殺すなら俺に頂戴よ」
嬉しそうな顔でお願いするエルヴィーノだ。
何の苦労も無く、その国の夜の支配者を手に入れられるのだから笑いが込み上げてくる。
「まぁ、厳重な鍵も付けてあるが、行くだけ無駄だと思うがな」
御手並み拝見って顔をしているデセオだ。







その男の名は。
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