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第8章 魔王国編

第210話 魔王との会談

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「この者と話が有る。皆の者下がれ」
その一言で殺意も魔素も瞬時に消えてサササッと壁面に戻って行く兵士達。
そして玉座に座っていた者が立ち上がり、階段を下りてエルヴィーノの前に立ったのは額から二本の角が生えている巨漢の男で、軽装の鎧を身に着けていたが身体から立ち込める気配が王の威厳を醸し出していた。

「ここが何処か分かるのか?」
「周りの兵士を見て玉座の間であれば答えは分かったよ」
「我が種族を知っていたのか?」
「昔、魔導書で読んだ。角の生えた一族でオスクロ・マヒアを使うクエルノ族だと。だが人族の間では魔族とも呼ばれているとな」
(なるほど、意外と博識か)
「良かろう、場所を変えるぞ」
「えっ」
そう言って1人だけスタスタと歩いて行った。
「ちょっとぉ俺は?」
直ぐに駆け寄ってきたブスカドールが「一緒に行きますよ」そう言って後を付いて行った。

しばし歩き案内された場所は応接室だ。
腰かける様に案内されて待っていると普段着に着替えた威厳ある男が対面に座った。
「それで、王よ。誰が下手くそな召喚魔法を行なって呼んだ?」
「そう急かすな、儂はノタルム国の国王ハンター・ジャンドールである。俗に魔王とも呼ばれておる」
「へぇノタルム国って言うんだ。場所はどの辺り?」
「お前の国からは遥か彼方だ」
(そんな適当な答え方は無いだろう)
エルヴィーノは念話でフィドキアを呼び出していた。

「お前の事は色々と調べさせてもらった」
応接室の壁面には数人の兵士や男達が並んで立って居た。
その中にはブスカドールも居た。
(チッ、フィドキアのヤツ何で出ない!?)

「聖魔法王国アルモニアの国王にして、獣王国バリエンテの国王でも有る。決して消滅しないと言われていた棘の森と棘城を、黒龍を召喚して焼却し一夜にして巨大な城と街を作り上げたとか? 儂はお前に興味が有り聞きたい事が有る」

(なるほど、俺を調べてこいつが召喚したのか。魔王の魔法操作も大した事無いな)
「それで、俺を召喚したのは誰だ」
「儂だ」
(やっぱり)
すっと立ち上がり
「俺がどんな目に合ったか知っているのか? それとも、そう成る様に召喚したのか?」

「一体何を怒っている。確かに予定では玉座の間に召喚するつもりが手違いで違う場所に出してしまったようだが」
「手違い! 手違いで済むと思っているのか!」
事態が呑み込めていないので魔王に”嬉しかったが”はずかしめを受けた事を話すことにした。
「じゃジャンドール王に置き換えて説明するから目を瞑って聞け」
魔王はエルヴィーノの指示に従い目を閉じた。

「ジャンドール王は王族や貴族との会議をしていた。すると前触れも無く召喚魔法が現れて飲みこまれた。そして転移したのだが、この召喚魔法は欠点が有り本人は転移するが衣服は転移しない」
「何ぃ!」
驚いたジャンドール王に、エルヴィーノは手で制して進める。
「そして転移した先は女風呂だ」
「何だとぉ!」
「「「ザワザワ」」」
驚くジャンドール王に騒がしくなる配下。

「さぁ、真っ裸で女風呂に落ちたジャンドール王はどうなる?」
本人に問いかけてみた。
「考えたくも無いな」
「フザケンナッ! 俺は実際にそうなったんだぞ」
「す、すまん」

気を取り直して話を進めた。
「すると周りは裸の女性達で変質者だとか、痴漢、スケベ、変態と罵詈雑言を浴びせられるのだ。ジャンドール王がだぞ。どう思う」
「う~む。何たる屈辱。そんな場所に落とした奴に目に物を言わせようぞ」
ウンウン。
「それが俺の気持ちだよ、ジャンドール王」
仮にも二か国の国王を無断で召喚し、女風呂に裸で叩き込むと言う、凶悪な悪事を魔王の仕業だとすれば納得もしたのだが、一応腹が立ったので顛末を説明しただけだ。
「すまん。非礼は別の形で返そう」
(良かった。解かってくれたか)

「ところでモンドリアンよ。お前は何者だ」
切り替えが早いジャンドール王が核心を聞いて来た。
「それを聞いてどうするのだ、ジャンドール王」
しばし2人で見つめ合い腹を探っていると重い口を開くジャンドール王。

「お前に合わせたい者が居る、連れてこい。その者はお前に並々ならぬ興味が有るそうだ」
何か嫌な感じがしたエルヴィーノだった。
そして現れた男を紹介してくれた。
「名はアルコンと言う。何者か解かるかモンドリアンよ」
足元から上に眺めて行き顔を見て魔素の波動を感じて驚いた。

「まさかっ! そんなっ! 俺達以外にも生きていたなんて!」
その言葉を聞いてアルコンとジャンドール王は確信した。
「やはりダークエルフだったのか」
アルコンが呟くも、最近は特に隠している気が無くなっているエルヴィーノだ。
「本当に!」
「あぁそうだ。俺と一族が国を出たのは500年ほど前だからな」
それを聞いて年甲斐も無く涙が出てしまった。
「良かった・・・」
その涙と言葉でエルヴィーノが自分達の敵では無いと感じたアルコンとジャンドール王だ。

エルヴィーノは初めて会うアルコンに抱き付いた。
アルコンは驚いて照れていたと言う。
まだ若いエルヴィーノの両肩を掴み、顔をじっくりと見ているアルコンだ。

「な、何?」
「いや誰に似ているのか見ていたのだ」
「あぁ俺は母親似だから分からないと思うぞ」
気を取り直して三人が腰かけてアルコンが話し出した。
「まず俺の事だが、約500年前に親友のディランと王座を争って戦ったが敗れて一族と旅に出た。そして辿り着いたのがノタルム国で、訳あって今はここで暮らして居る」
なるほどと感心しながら自分たち以外にもダークエルフが生き残っていた事に喜びを禁じ得ないエルヴィーノだった。

「俺が知りたいのは何故ダークエルフの国が滅んだのか。そしてお前だ。なぜ親友の名を使っているのか」
当然だろう。
知らない間に国は滅ぼされたのだから怒り心頭のはずだ。
そして俺の事。
(慎重に話さなければ)

「アルコンさんは事実を知ってどうするの?」
「勿論復讐するつもりだ。例え俺一人でも戦いに行く」
(だろうなぁ。そんな気がしたよ。どうしよう)
全部話すのか、知らないと突っぱねるか、少しずつ小出しにしていくか。
(はぁ、強面のオッサン2人に凝視されて困ったよぉフィドキアぁ)

(ったく役立たずフィドキアは当てにならないしコラソンに聞いてみるか。コラソン。コラソン聞こえますか?)
(はいはいモンドリアンさん。大変そうですねぇ)
(見てたのぉ)
(勿論ですよ)
(それでさぁ、どうしよう)
(大丈夫ですよ。モンドリアンさんの思う通りに話してください)
(ええっ大丈夫かなぁ)
(はい、私が付いていますから)
(分かった。何とか説明するよ)

腕を組んで目を瞑り考えているフリをしてコラソンと念話で確認を取り、安心して話し出すエルヴィーノだ。
この時点で2人を信用してしまったエルヴィーノは話す事にした。
アルコンと初めて会った瞬間に家族と同様のオスクロ・マヒアの波動を感じ取ったからだ。
魔王からは、同じオスクロ・マヒアでも、ちょっと違う波動を感じる。
クエルノ族全員がそうだ。

「まず、ダークエルフ王であるディラン・デ・モンドリアンの結婚相手だけど」
「俺は知らん」
(だよねぇ)
「名はカリン・デ・モンドリアンと言い、旧姓カリン・ファン・デ・ブリンクスだ」
「何いぃ!」
立ち上がり驚いたアルコンだった。
「何故だ。どうしてエルフの娘と! 待てよ、その名エルフ王の血筋か?!」
「そうだよ。そして産まれたのがダークエルフの女の子で、名をリーゼロッテ・デ・モンドリアンと言う」
激昂のアルコンだが産まれた子がダークエルフの子だと知って安堵する。

「そしてリーゼロッテの子が俺だ。だからモンドリアンと名乗っている」
「父親は誰だ」
(チッ魔王が余計な事を)
「俺の親父か・・・2人には強烈過ぎるから後日にしよう」
「今言え」
「何故言わん」
2人から追及される。
「だから言ったろ? 寿命が縮むぞ。それに俺がダークエルフとして立証すれば良いだろう」
「確かにお前が証明すれば親は二の次だ」
そして変化へんげの魔法を解いた。
「「おおおっ」」
「その耳は魔法で変えているのか?」
「あぁイロイロ有ってね」
確か過去に思い当たる節は有るが一族の誇りを隠す事はしなかったオッサン達。

生き残った現在の人数を教えて、強くいきどおりを露わにするアルコンだったが、魔王が話を進めた。
「では、お前は何故聖魔法王国アルモニアの国王になったのだ」
「あの国の仕来りを知っているか?」
当然だが2人共知らなかったので、占いで決められた事を明かす。

「国王を占いで決めるだとぉ?!」
大げさな表現であからさまに馬鹿にした態度は室内にいた部下の者も同じだった。
「流石はイディオタだ。その名に相応しい選び方だなぁ」
そう言って全員が笑っているので聞いて見た。
「イディオタって何?」

アルコンに聞くと
「昔々、強大な魔力とその姿に恐れを抱いた人族がクエルノ族を魔族と言ったのが始まりだ」
「へぇ」
「当然クエルノ族は名前に誇りを持っているから怒った」
「ウンウン」
「お返しに愚かでどうしようもない馬鹿な奴らの意味でイディオタ族と呼ぶようになったのだ」

「ぷっ、あぁっははははっ」
大声で笑ってしまったエルヴィーノだ。
「お前は奴らの王だぞ。笑っている場合か?」
「いや、だって俺も最初は馬鹿じゃないのかって思ったよ」
ニヤニヤした顔でエルヴィーノを見ている魔王だった。






魔王との対談は続きます。
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