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第8章 魔王国編

第209話 4人目との邂逅

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バッシャーン。
「ぶはっ」

温かいお湯の中に入ったようだ。
慌てて顔を上げると、辺りは湯気が立ち込めて視界は良くないが、そこには片手を胸に、もう片手を腰に当て仁王立ちした褐色の肌の・・・巨大な双丘を隠す女性が目に飛び込んできた。

「き、貴様ぁここを女風呂と知って狼藉を働いたなぁ。覚悟は出来ているのかぁ!」

だがエルヴィーノはその余りにも見事な体型を凝視してしまい、何を言っているのか右から左だった。
しかも彼女の股間は”エルヴィーノと同色”だ。

真っ白だ。
(何! ・・・どうなったんだ)
少しずつだが、この身に降りかかった厄災を冷静に分析して行った。
”俺はね”
しかし、エルヴィーノ以外のヤツはそうでは無い。
この状況を理解せずに戦闘態勢をとる馬鹿者がいた。
しかも制御できない。
”相棒”の事はこの際無視して文句を言っている”霊峰”にはきちんと挨拶しよう。
そう思い立ち上がり同じく両手を腰に当てて返事をした。

「俺の名はエルヴィーノ・デ・モンドリアン。誰かが俺を召喚したようだがココは何処だ?」

間近でその女性の顔を見ると驚いた表情をしているが、均整の整った顔で美しく、自分と同じ漆黒の髪だが真っ赤に燃える瞳と真紅の角が生えていた。

「き、き、貴様ぁ! そ、それで私に乱暴をするつもりだな」
(どう考えても角の方が痛そうだが、最初は相棒も痛いかも)
詰まらない事が脳裏をよぎぎったが、褐色の肌では良く解らなかったが彼女の顔は赤面しているようだった。

会話が全くかみ合っていない。
彼女の脳内は突如風呂場に現れた裸の男が、名を名乗り襲い掛かろうとしている、と考えていた。
一方のエルヴイーノは突然転移で呼ばれたら裸で女風呂に落ちて女性が激怒している。

(そりゃそうだ。誰だって怒る。俺もそうだ。だが俺には怒りの矛先が無い)
だから唯一会話が出来る目の前の女性に自己紹介をするが相手にされていない。
(困った・・・このままでは性犯罪者の汚名を被る事になる。何とかしなければ)

「曲者! 大人しくしろ!」
風呂場の湯気で全く解らなかったが回りには人影で囲まれていた。
程よく広い浴場に1人しか居ないのは不自然だし、他に利用者が居ても不思議では無い。
裸の女性達が戦闘態勢を取っている。

(やっべぇどうしよう)
「誰か警備を呼べ」
数人だった浴場が女性達で埋め尽くされる。
エルヴィーノは辺りを見回しながらおもむろにエスパシオ・ボルサ空間バックから貫頭衣を出した。
以前ロザリーが用意していた物を思い出して取り出した。

浴場には天窓しか無く、出入口は1か所だ。
この場所が何処かも解らないので転移も出来ない。
仮に転移して逃げたとしても、もし戻るのが毎回浴場では面白く無い。
(浴場の細部を調べて、死角に転移するなら面白いけど・・・)
妄想を掻き消し、出入口の奥を見て「エスパシオ・モダンザ近距離空間移動」を唱える。
一瞬にして脱衣所らしき所へ移り、置いて有ったタオルを掴み廊下へ駆けだした。
後ろからは「曲者が逃げたぞぉ!」と叫び声がする。

エルヴィーノは走った。
瞬時に考えたのは大浴場が有ると言う事は、ここはどこかの城で、どこぞの国のお偉いさんか、魔導師が自分を召喚したのだろうと。
思い当たる節は沢山あるが、今は城の外に出る事が先決だと思い走っていた。
未だ血流が戻らないので走りづらいから股間に手を当てているのだが、片方の手は濡れた髪をタオルで拭いている。
そして、後ろからは怒号を上げて女性達が追いかけてくる。

必死だった。
ひたすら迷路のような廊下を走っていた。
前方から人が来ると通路を曲がり、階段を降りようとすれば下から怖そうな兵士達が上がってくる。
仕方なく上の階へ駆けあがり通路を走る。
途中に扉もあるが鍵がかかっているから只管ひたすら走っている。
こんなに必死に走る事は過去に無かった。
すると”ガチャ”。
扉に手をかけたら開いたのだ。
後ろを見て誰も居ないので扉の中に入った。

“はぁはぁはぁはぁはぁっ”
夜のはぁはぁでは無い。
迷宮から逃げ出す程度では無い。
強大な敵から必死で逃げるような恐怖心で走っていたのだ。
ほぼ全裸で未知の場所だ。
敵は激オコの女性達。
転移して逃げるだけが精いっぱいだった。

(とりあえずは一息落ち着こう。どうやって外に出ようかなぁ)
扉の中は物置の様で、とりあえずインヒビション・レコ認識阻害魔法ノシメントを使って暗闇の倉庫で隠れていようと思った矢さき、カチャッ。

「・・・ここには居ないようですね。他を探しましょう」
そう言って扉を閉められた。
(あいつ、俺と目が合ったのに・・・)

身に着けていた物は何も無い。
エマスコも無いので連絡の取り様が無かった。
闖入者の事も考えながら、その場でしばらく思案していると、カチャッ。
また扉を開ける音がした。
闖入者は扉を閉めて話しかけてきた。

「モンドリアンさんですか? 大丈夫ですよ。着る物を持ってきましたから」
そう言ってその男は魔法で室内を明るくした。
「何故俺の名を知っている?」
「それは召喚した者に聞いてください。私は探して連れて来るように言われただけですから」
「なぜ服を?」
「ハイ、女性達が未だかつて無いくらいの恐ろしい形相で探していましたから」
「マジで!? でも俺は悪く無いぞ」
「はい、女達から聞きました。クククッ理解していますよ。本当に噂どおりの凄い方だ」
「笑うなよ。っとに怖かったんだぜ」
「まさか全裸で女湯に落ちるなんて、凄いですねモンドリアンさんは。あっ申し遅れました。私はブスカドールと申します」
「無実の罪を被せられた俺の怒りを召喚した奴に文句を言ってやるから案内してくれ」
「承知しましたモンドリアンさん」

兵士の服を着て、ブスカドールの後を付いて行くと、怖そうなお姉さんたちが”何かを探している”様に見えて仕方が無い。
探し物はココですがとは決して言ってはいけない。
だが単に兵士の服を着ているだけで全く疑われないのは、これはこれでどうだろう。
他国の事だが一言言ってやりたかった。

「ブスカドール。質問していいか?」
「私に答えられる事であれば」
「ここは何処の国だ?」
「その質問は召喚者にお尋ねください」
「俺は何故召喚されたのだ」
「その質問は召喚者にお尋ねください」
「俺を調べてからの召喚だろ? 何を知りたいんだ」
「その質問は召喚者にお尋ねください」
「女性達の怒りは、誤解は解いてくれるのか?」
「その質問は召喚者にお尋ねください」
「風呂場に居た素敵な女性は誰?」
「・・・それは、知らない方が身の為だと思いますよ」
「何にも教えてくれないじゃねぇか」
「仕方ありませんよ。私も余計な事は話すなと言われてますから」
そんな言い合いをしながら歩いていると目的地に到着したようだ。

「おい、ここって」
「はい、謁見の間です」

目の前には禍々しい扉があり、中から嫌な気配がする。
エルヴィーノはこの手の気配には敏感なのだ。
そう強烈な・・・男臭さだ。
確かに強力な魔素も感じられるが、生理的に拒絶しそうな気配だ。
それは、周りをガンソで囲まれた様な嫌悪感が数倍漂って来る。
因みにガンソの事は嫌いでは無い。
1人位は居ても良いし、慣れたからだ。
兎に角入口は閉まっているが熱気が漂ってきそうだった。

「さぁ中に入りますよ」
強制転移させられた怒りもぶつけたいし、覚悟を決めて中に入って行く。
扉開けて視界に飛び込んできたのは壁面を何列も重なって並んでいる異形の戦士達だ。
彼らに共通するのは”角”だ。
見た目も角の形状や色も千差万別だが、一様に角が生えている。
それを見てピンと来ていたエルヴィーノだった。

独特禍々しい色な絨毯を歩き、前方に見える玉座に座る大男の前に来ると、ブスカドールは裾にはけた。
とりあえず先ほどのブスカドールと会話している中で思っていたダークエルフ語を試して見た。

「俺の名はエルヴィーノ・デ・モンドリアン。中途半端で未熟な召喚魔法で俺を呼び出したのは何処のどいつだ。説教してやるから連れてこい!」

「貴様ぁ!」
「無礼者めぇ!」
「殺してやる!」
「身の程を知れ!」
大きな図体の男達が近づいて来た。

「クエルノ族の王よ。こいつら皆殺しにしても良いか?」
「「「貴様ぁ」」」
「「「何おぉ」」」
「「「殺してやる」」」
一斉に近づいて来る者達に微動だにしないエルヴィーノ。

【鎮まれぃ!】
それは腹の底に響き渡る迫力のある声だった。
エルヴィーノに襲いかかる直前で時間停止したように屈強な男達は止まっている。

「この者と話が有る。皆の者下がれ」
その一言で殺意も魔素も瞬時に消えてサササッと壁面に戻って行く兵士達。
そして玉座に座っていた者が立ち上がり、階段を下りてエルヴィーノの前に立った。







結構な身長差です。
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