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第7章 レース編

第188話 アレグリアからペンタガラマ

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翌朝、選手や関係者が全員で朝食を取りながら和やかにしていると、大会委員長のマルソから重要な通達が言い渡された。

「最終レースの全貌を皆さんにお伝えする。スタートはここ、アレグリアから始まりペンタガラマまでは大きく蛇行するようなコースです。そして、ペンタガラマでは、外側の田園地帯に農耕地帯を右に回り一路海の町に向います。海側の橋を回り再度ペンタガラマへ向かってもらいます。そして北門をくぐり、左回りで城壁の内側に沿って進みます。その途中で街角を利用した直角に曲がる凹みを2カ所用意しました。それらを越えて南門から大通りを真っ直ぐ城に向ってもらいます。この直線が最後の追い越し区間ですから皆さん頑張ってください」

簡単なコースの絵が描かれた書類を渡されて全員が見ている。
「街中の警備と順路の案内はどのようになっていますか?」
先頭のカミラからの質問だ。
「郊外を含め、係りの者が大きな矢印の案内板を持っているから、かなり目立つはずだ」

マルソの説明で納得した様子だった。
再度、国別で念入りにコースを検討され個々に注意が促がされていたが、時間は刻々と過ぎスタート時刻が迫っていた。

最終レースは初日と同じで、機体が並ぶ場所へ走って行き一斉に飛び出すスタイルだ。
1位からカミラ、フリオ・カデラ、ビエルナス、カニーチェ、ネル、バスティアン、リアム、ローガン、ブオの順番だ。
カニーチェは足を生かしてフリオの後ろを狙っている。
しかし、ネル、リアム、フリオ・カデラは初めからカパシダ・フィジィカ・メホラ(身体能力向上魔法)を使おうと考えている。
そして何故か最後尾の2人は不敵な微笑みを浮かべていた。

昨夜の食事の後、とある兵士と教会関係者が2人で話していた。
「我らは無事完走が目標ですな」
酒をあおり、質問に答える兵士。
「いいのか? そんなことで。噂を聞いたぞ。教会関係者たちがお前に期待している事を」
「ああっお耳に入りましたか。困ったものですよ。我らは上からの指示で参加しているのですからね」
「そう言うな。我らもレースを盛り上げようじゃないか」
「ほう、と言うと」
「ウム。ごにょごにょごにょ」
「なるほど、それは混乱するでしょねぇ。しかし、大丈夫ですか?」
「何がだ?」
「添え物の我らがレースを混乱させて良い物かです」
「王の言葉を覚えているか? 三ヵ国の為とは、それぞれの国民の為だ。そして大会委員長はワザと面白くさせている節がある。言い換えれば国民にこのレースを如何に楽しませるかを考えておられる」

「なるほど」
「国民にとっては買った券の選手が固定されたり、入れ替わったりする事で一喜一憂するだろう。今までの生活には無かった事だ」
「そこまでお考えとは!」
「ここまでの経緯を見聞きして感じた事だがな。それだけ国王達は真剣に考えていると言う事だ」
「分かりました。ただ・・・」
「何だ、まだ何かあるのか?」
「機体の耐久性です」
「ふむ、練習機でかなり体当たりをしたが問題無かったぞ」
「そうですね。数回当たっても何も無いでしたからね」
「まぁ小の機体がどの程度持つかだが、小を乗りこなす者達は避ける可能性が高いからなぁ」
「そうですな。まして女性用は防御力が高いと聞いていますし」
「ふむ、我らも大いに楽しもうではないか」
ローガンとブオの密談がレースを面白くさせると言うのだが・・・

最終日のスタートは、エルヴィーノの3番目の妻であるパウリナ・モンドラゴンが務める。大きな白い旗を振り下ろせば開始の合図だ。

「位置についてぇぇぇ、用意ぃぃぃ。ドンッ!」

一斉に走り出す選手達。
カミラ、ビエルナス、カニーチェは驚いた。
一気に抜き去って行く数人が居たからだ。
バスティアンはカパシダ・フィジィカ・メホラを使わなくてもテクニックで追い越す自信あった。
ローガンにブオは優勝に固執しておらず、マルソの考えを理解して楽しもうとしていたのでカパシダ・フィジィカ・メホラを使ったのだ。

その為に飛び立った順番はフリオ・カデラ、ネル、リアム、カニーチェ、カミラ、ローガン、ブオ、ビエルナス、バスティアンだった。
これには、ほとんどの者が驚いていた。
選手全員が一列になって飛んで行く。
ここで、ベルデボラの特派員からエマスコが送られた。
各国のレース券売り場では”金山の人盛り”だ。
そして雄叫びや、ガックリと項垂れる者や、文句を言う者が大勢居たと言う。
それは順位で”当り”が変わるからだ。

数々のカーブを巧みに機体操作して進むフリオ・カデラ。
(まだ若いのに良く乗りこなす者だ)と後ろから2人の前国王が感心して見ている。
選手たちの差はほとんど無く、接近して飛行していた。
そんな状態を、口元をほころばせて楽しんで居る者が三人居た。
緩やかなカーブ、直角カーブ、Uターンなど、一時は横並びで飛行したがペンタガラマまでは特に順位の変更は無かった。

本来、前日の会議ではペンタガラマに到着するまでに体当たり攻撃と魔弾で敵を追い越し、順位を上げる作戦だったが、今朝ほどの通達で決戦は海のUターン以降、城内の凹み2箇所で決まると3人の参謀が同じ事を考えていた。
そして、変化はペンタガラマの外側、田園地帯に農耕地帯をUターンする場所で起きた。

接近して飛行する選手達。
フリオ・カデラが急減速すると後に続くが「カミラ、下に避けろ!」と叫ぶ声がした。
ネル、リアム、カニーチェが減速し、カミラが潜るようにして減速。
そこにローガンが突っ込む。
ビエルナスとバスティアンは減速している。
減速せずにカニーチェの後ろから突っ込み前の2人にも接触するが、衝撃はカニーチェの比では無く、その衝撃で機体は外に弾き飛ばされてしまう。
そこに魔弾を撃つブオだ。
体勢を立て直すも最後尾からのスタートとなるカニーチェはかなりの距離が開いてしまった。

選手達は基本的に、上限速度を上限高度で飛んでいる。
だから下降は出来るが上昇は出来ない。
農耕地帯を越えて海に流れる龍工の川を進み、左右の海の町を繋ぐ石橋をUターンする時に、またもや仕掛けるローガンだ。

「カミラ!」と叫ぶと下降し急減速するカミラ。
そして、リアムに突っ込む。
しかし、察知していたリアムは外側に膨れて躱し急減速。
するとネルの機体に接触するが大事にはいたらずローガンは大そと回りで順位を落とした。

川沿いも無難に進み牧畜地帯を進み北門手前で仕掛ける者が居た。
それはペロ族の女だった。
北門へ直角に曲がる寸前ローガンに向けて魔弾を放つ、着弾しビエルナスとバスティアンに抜かれてしまう。
そして、城壁を潜り左に曲がるときリアムが仕掛けた。
すんなりとネルの機体に着弾し抜き去るが、その時に狙いを定めていたネルだった。
リアムは躱すがかすめてしまい着弾。
2人が遅くなった隙にカミラとブオに抜かれてしまう。

先頭グループのフリオ・カデラ、カミラ、ブオ。遅れてネル、リアム、ビエルナス、バスティアン。
最後尾のローガンにカニーチェだ。
しかし、ここでネルが仕掛けた。
リアムを城壁に押し付けて機体を損傷させる計画なのだ。
その状況を見て動いたのはビエルナス、バスティアンだ。
ビエルナスはリアムに、バスティアンはネルに魔弾を放つ。
リアムの速度が落ちると現状を脱却できないので、速度を合わせていたがネルの前に移動するバスティアン減速して体当たりするが小が大の機体にぶつけても効果は無かった。

「お前は先に行け」
「・・・ハッ!」
「ビエルナス! 奴を撃て」
「ハッ」しかし、先頭グループとかなり差が有る。

壁に擦り付けられて激しい音を立てながら進んでいるとローガンとカニーチェが追い付く。
「モンドラゴン様!」
「先を進め」
「しかし!」
「構わぬ、行け」
「ハッ」
わずかなやりとりだが、ローガンは無視して先を進んでしまった。

(さてと、後ろに邪魔者は居なくなったから暴れるか)
そう思い、城壁を蹴りつけたリアム。
二つの機体が外に飛ばされた瞬間、リアムの魔法効力が切れた。
ネルの魔法効力が切れるまで数秒あり、距離を取ろうと思ったが直ぐに魔弾を受けてしまう。

一方、城内を左に曲がり城壁沿いに進む先頭集団フリオ・カデラ、カミラ、ブオだ。ブオは既に3位で満足しているので余計な争いを好まず、むしろ思考は3位で浮かれていた。
少し距離を置いてビエルナスとバスティアンだ。
その後にローガン、カニーチェ。最後にネルとリアムが個人争いをしている。







残りわずかです。
”金山の人盛り”は黒髪がほぼ居ないので黒山の人盛りくろやまのひとざかりと同意
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