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第7章 レース編

第182話 クラベルからグリシナ経由のイグレシア2

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グリシナを出発した順位を聞いて、エルヴィーノとマルソ殿は「「おおおっ」」と席立ち、とんでもない事が有ったのかとワクワクしていのだが、ハズレを引いたのが例の2人だと聞いてガックリした所だった。

「なんで?」と素朴な疑問が口から出た。
「多分、何かしらの身体向上魔法を使ったのだろう」
「ああ、なるほど」
(あの2人ならば)と、1人で納得していた。
「しかし、良くハズレばかり引きますよねぇ、あの2人は」
「はははっ。しかし、流石に三度目は無いだろう」
「いや、分かりませんよ。あの2人は」
「ふぅぅむ」

考え込む義祖父とのやり取りをしながらイグレシアの王城に有る家族用の応接室で食後の紅茶を楽しんでいた。
因みにリアム殿が先頭なのは文字が読めるからだ。
ネル殿は聞かなければ解らない。
この事は後日問題となったが、次回から三ヵ国の言葉で表記する事となった。

一行が向っているのはカサドール町(リアムとプリマベラ出会いの町)だ。
それぞれの思いを秘めて、ひたすら山間部を目指して飛んで行く。

カニーチェは後悔していた。
グリシナの事をもっと調べておけば良かったと。
事前に知っていたのに買い物を甘く見ていた結果がこの状況だとブロエ・マルシベーゴォは飛んでいるが気持ちは深く沈んでいた。

そして、リアム以外は既に同じ考えで居た。
特にブオとバスティアンだ。
何故ならば祖国の王城が今日のゴールだからだ。
リアムは後ろに気を付けて先頭を守り、自分達が如何に上位に食い込むか。
順番が変わったので昼までの考えを捨てて、前国王の側に付き従う事に全力を掛けようとしていた。

一方のネル殿は、様子見だ。
さっきの事も有るし、次の町を出た時点で決めようと考えていた。
フリオとローガンはネルと同じ考えだったが後ろの2人の顔つきが違うので、大声で「後ろを警戒しろ」と叫ぶローガンだった。

感づかれたブオ達は距離を縮め、いつでも魔法を当てられる距離を確保していた。
そしてカミラとビエルナスも並んで飛行し、遅れてカニーチェだ。
カニーチェの前方に居る2人は魔法の有効範囲ではないので、少しでも距離を縮めたい所だ。

カサドール町は山間の谷に有る町だ。
こちらも景色が素晴らしい。
山を切り開いて作られた畑や、山に放牧している動物達も見える。
谷には大きな河が流れ豊かな恵みを運んでいるように見えた。
「あの頃と変わらないなぁ」
独り言をつぶやくリアムだった。
そして、遠くに町が見えてきた。

河原に作られた特設会場には町中の人達が集まっていた。
そこに現れた真っ赤な髪の男に大きな声援が送られた。
とても良い気分のリアムは手を振って降り立つと、くじ引きの箱を持つ女性が声を上げた。

「リアム様、こちらです」
直ぐにネル殿も到着したので駆け出すリアム殿。
そして引いたくじを見て土手に向い駆け出した。
そして、ネル殿だ。
「何と書いてある?」
「桶です」
「何処に売っておる?」
「土手を越えて左に行き最初の路地を右に行くと店が見えます」

聞いている最中にカパシダ・フィジィカ身体能力向上魔法・メホラを使い、巨体が物凄い速さで土手を登って行った。
フリオ・カデラは干し肉、ローガンは毛皮、ブオは干し肉、バスティアンは毛皮、カミラは毛皮、ビエルナスは干し肉、そして最後のカニーチェは干し肉だった。

ネル殿の目的の店が見えたと同時に大き目の桶を担いで店から出て来た赤い髪の男が見えた。
すれ違い、店に入り巨漢の獣人が叫ぶのでビックリした店主だ。
「今の男が持って言った桶を寄越せ」
半券を渡し、桶を持って一目散に駆けだした。

カサドール町での当りは干し肉だ。
土手を越えると直ぐ見える場所に有る。
毛皮を売っている店は、干し肉を売っている店の裏側だった。
全員が急いて駆け上る土手。
リアム殿が桶を買った時にはフリオも干し肉を買っていた。
そして、同時に飛び立つ。
無論リアム殿もカパシダ・フィジィカ・メホラを使い神速で走ったからだ。
わずかに送れるネルだ。
以降は(1,ローガン)、(9,ビエルナス)、(6,ブオ)、(5,バスティアン)、(8,カニーチェ)、(2,カミラ)だが、ほぼ一斉に飛び立った。
順位は変わったが、距離の差が無いのだ。

その後順位が送られた。
先頭から(4,リアム)、(3,フリオ・カデラ)、(7,ネル)、(1,ローガン)、(9,ビエルナス)、(6,ブオ)、(5,バスティアン)、(8,カニーチェ)、(2,カミラ)の順で、”間隔に差は無し”と記されていた。
各国関係者の間で順位が読み上げられた。
すると「ああああっフリオォォォォッ」と泣き崩れるエルフが居た。

そして驚いた事にリアム殿が桶を後ろに乗せて飛んでいた。
一応、ブロエ・マルシベーゴォにはアイレ・レシステンシ空気抵抗無効化ア・インバリドが付与してあるので腕力だけ必要だ。
また、機体が大きいと言っても桶は入らないので同様に後ろ側に立てかけて頭で支える姿勢で飛ぶネル殿だ。
2人は決定的な弱点をこの時理解した。
それは、後ろを振り返る事が出来ないのだ。
だから、自分が最悪の状態で先頭に居ると理解したリアム殿とネル殿だった。

思案するリアム達一行はそのままの順位で王都近くまで来ていた。
そしてリアム殿は行動に出た。
機体の後ろに立てかけて、頭の上で手を使い支えていた桶を片手で持ち、機体の後ろを覆うようにしたのだ。
当然だがカパシダ・フィジィカ・メホラを使ってだ。
規約では速度低下魔法は機体に当たらなければ発動しない。
だから隠したのだ。
規約には何も決めていなかった抜け穴を見つけてしまったリアム殿。
それを見ていたフリオは(しまったぁ)と思い、慌てて魔法を発動し桶に着弾するが速度は変わらなかった。

勿論、一部始終を見ていたネル殿も同じ様にした。
そうなると不利になるのはフリオだが、ネル殿にその気は無く今の順位を気に入っていた。
それはレースが今日で決まる訳でも無いが、今日くらい世話になったリアムに花を持たせてやろうと思っていたからだ。
しかし、後続達はそんな事は考えておらず、街の大通りが見え始めると一斉に魔法を使いだした。

ローガンは前方を”見ていた”ので、自分を追い越す者をターゲットにしようとしていた。
仕掛けたのは以外にもバスティアンだった。
やはり祖国で良い所を見せたいのだろう。
ブオと2人掛りでビエルナスを抜き、ブオが囮になりローガンと相討ちとなり4番手に来るもネルのガードに魔法の効果が無く甘んじる。
一方カニーチェが動き、ローガンとブオに追加の魔法を与えバスティアンに迫る。
カミラはカニーチェの後ろをピッタリと付き、ブオとビエルナスに追加の魔法を打つ。

そして、城壁を抜けてバスティアンとカニーチェにカミラの戦いだ。
フリオは後続を意識しながらリアム殿の後ろに付いていた。
カニーチェは1つでも前に進みたいと思って、バスティアンの後ろで動き回っている。
そんなカニーチェの動きを意識しながらバスティアンは巧みに魔法攻撃をかわす。

そんな2人を見ているカミラは漁夫の利を得ようと考えていた。
今の順位でも構わないが、バスティアンが被弾すれば2人で抜き去り、カニーチェを追い回して攻撃する。
2人共被弾して追い抜けば一気に4位になるからだ。
そんなカミラは前方の小さな獣人を心では応援していた。

そしてゴールが見えた。
ゴールは第一城壁の門だ。
門をくぐれば決着で城門周りには順位の審査の為、沢山の人が待っていた。
1位2位3位が城壁をくぐり、カニーチェが執拗に魔法を放つがバスティアンはヒラヒラと交わす。
そして魔弾切れだ。

「チクショウ!」
カニーチェの断末魔が聞こえたのか
「ハハハハハハッ」と笑うバスティアン。
そこに「カニーチェどいて!」
咄嗟に機体をずらした。

すると後方から魔弾が5つ十字で飛んできた。
ロザリーが考えた十字打ちだ。
勿論順番に打つのだが、正面から見ると十字に見えるのだ。
敵の砲弾を交わしきったのが嬉しくて油断したバスティアン。
気が付いて交わすが機体をかすめてしまった。
悔しがるバスティアンがカニーチェを追撃するが、城壁の中でカミラに2人共抜かれてしまったのだ。
そして結果は。

2日目の順位(4,リアム)、(3,フリオ・カデラ)、(7,ネル)、(2,カミラ)、(8,カニーチェ)、(5,バスティアン)、(9,ビエルナス)、(1,ローガン)、(6,ブオ)だ。

後ろの3人だが、壮絶な乱戦を繰り広げ王都を盛り上げたようだった。








どうやら魔法を使い着弾して悔しがる光景が大衆受けするらしいと後から報告を受けた。
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