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第7章 レース編

第180話 アルバからクラベル2

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ナコル町を越えた選手たちは、一路最大の難所でもある山脈越えに向った。
標高約3000mある山脈だが全てでは無い。
一部の谷はもっと低いのだ。
しかし、山には標高の高い場所になればなるほど強い魔物が生息している。
現代はほぼ住み分けが出来ているので被害は無いが、魔物の生息地に踏み込むとなれば話は別だ。
山脈にも龍種は居るのだ。

そしてルートは谷だ。
水飲み場としても危険だが上空には龍戦隊が例の”咆哮”を放つ体制で旋回するので危険は無くなる。
あとは一般の魔物だが、特に問題無いだろうとの事だ。
何故ならば空中をかなりの速さで移動するからだ。
強い魔物はエルフ国側も聖魔法王国側も山の中腹から上に生息している。
よっぽど運が悪く無ければ出会う事も無いだろうと考えていた。

出会わなければ、ただの山越えだ。
余計な魔法を使わずに上限速度を、上限高度で山を駆け上り、谷を越え、麓に向って降りようとしたその時、空を横切る大きな影が幾つか有った。
これに驚いたのが龍戦隊だった。
想定していた事が現実になるとは思っていなかったのだ。
しかし、対策も講じてあるので、全ての龍戦隊が一斉に所定の魔法を使った。
すると轟く咆哮が鳴り響いている。
今度は巨大な影の持ち主が驚いた。

「ガッ、グルルルルルルッ」
(えっ、何でフィドキア様の声がするんだ?)

もともと賢い龍種達。
その咆哮の出所も発見し考える。
選手たちが通過して龍戦隊も後に続くと空に居た者達も消えていた。

そして、初日のレースで重要な場所に差し掛かる。
山を下り、クラベルまでは何も無い平坦な土地を最速で進むがここで魔法合戦が始まる。
後続機が前方の機体に速度低下魔法を使うのだが交わす事も可能だ。
それは魔法が直線に発射されるからだ。

一番チームワークが重要視されるのだが、順位も有り練習した様には簡単には出来ないと選手の誰しもが思っていた。
現在の順位はナコル町を出た時と変わっていなかったが、そこに咆哮を放つ男が居た。
それを合図に近場の機体へ魔法を放つ黒い機体たち。
だが、カニーチェはフリオ・カデラと横並びなので魔法を使えなかった。

まず、ネル殿がカミラに魔法を放ち着弾。
ビエルナスがリアム殿に魔法を放つが交わされてしまい、その魔法がブオに着弾。
ローガンはネル殿に放ち着弾。
リアム殿の放つ魔法をローガンが交わすも、ビエルナスの魔法がローガンに着弾。
リアム殿も抜き去り際にカミラの放つ魔法が着弾。
後方は泥試合のような状況だった。

その光景を、チラチラと振り返って見る先頭の三人。
そしてカニーチェとフリオ・カデラはお互いの顔を見て頷いた。
並走していた2人は間隔を開けたのだ。
何故ならば後ろにはバスティアンがピッタリと付いて来ていたからだった。
当のバスティアンは初日で一位になっても優勝では無いので、このままで良いと考えていた。

仮に今魔法を放ったとしても、後続と同じになるのでは意味が無い事も理解していた。
重要なのは最終日にどの順位に居るか。
それには、今の順位が一番良いと考えていたからだ。

先頭の三人は一位を強く望んでいたのだった。
そして、ゴールのクラベル特設会場が見えてきた。
ほぼ横並びで見えてきた機体。
ゴールの白線の周りには沢山の人達がその瞬間を見ようと待ち構えていた。
お互いの顔をチラチラと見ながら最速で進むカニーチェとフリオ・カデラ。
そしてゴール手前でフリオが叫び、手を伸ばした。
一瞬の出来事で、同時に線を越えたから判定を聞きに駆けつけたカニーチェとフリオ・カデラだが意外な結果だった。

初日のレース結果は(3,フリオ・カデラ)、(8,カニーチェ) 、(5,バスティアン)、(2,カミラ)、(9,ビエルナス)、(6,ブオ)、(7,ネル)、(4,リアム)、(1,ローガン)の順だ。

最後の三人は魔法の乱打戦だったようで最後までゆっくりと進んできたらして。
因みにカミラが最初に遅くなったので回復したのも彼女が一番早かったからだ。

そして、一位二位三位が発表されて一位と二位の機体は、ほぼ同時だったが手を伸ばした分フリオが先だったと審査員全員が目撃していた。

運営委員の司会者がフリオに質問した。
「そう言えばカデラさん、ゴールの時に何か叫んでいましたよね?」
「あっ、私も何か聞こえましたよ」
とカニーチェが聞いて来た。

「あっ、いえ、あのぉ、最愛の人の名前を叫びました」
「「おおおおぉぉ」」
「私には居ないから負けたのかぁ」

ガックリするカニーチェと、真っ赤な顔のフリオ。
楽しそうに見ているバスティアンと、大げさに言いふらしている司会者。
会場は盛り上がっていた。

初日のレース結果を紙に何枚も書き、一斉に飛んでいくアベス族達。
今夜まで券が買えるからその結果を見て考え直すのだ。



※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez



時は選手たちがナコル町を出ていた頃、公爵家では予定を大幅に変更していた。
それは、応援に行く事だ。
初めてづくしのレースで、しかも成人前の男の子と、成人はしているが女子の参加だ。
順位はともかく怪我をせずに良い経験をすれば2人の為になると、ほぼ全員が考えていた。

所が、結果もさることながら、その奮戦がメイド達や仲間の騎士達にも感動を呼び、急遽応援に向う事になったのだ。
当初は手の空いているメイドとグンデリックだったが、ロザリーを筆頭にナタリー、グンデリックにメイド達の全五人だ。

一行はエルフ国に出来たばかりの大聖堂に向い、ロザリーは当然の様に”わたくしは関係者ですの”的に一同を連れてクラベルの教会へ転移する。
勿論事前にサンクタ・フェミナから説明されている。
そしてクラベルの教会を一歩出ると、物凄い人でごった返していた。
以前のクラベルを知っている者ならば、別の場所に来たと勘違いしてしまうほどの人波だった。

「凄いわ。これ程の人が居るとは思わなかったわ」
「全くです。以前とは比べ物になりませんねぇ」
ロザリーとナタリーが呆気にとられていた。

そしてレース関係者の居る場所へ向かうと、関係者以外立ち入り禁止で関係者の印であるたすきを付けていなければ入れないと言われたのだ。
当然そんなクレームわがままは直ぐにエルヴィーノに送られて、”大至急、関係者の襷を五人分クラベルに持って来て”とエマスコしたロザリーだ。

既に似たような連絡が数件有ったので自分の襷を複製して関係者の居る建物に転移した。
ロリ達には渡したし、パウリナ達にも渡してある。
2人は父親が参戦しているからしょうが無いが、そこに行かないと言っていたロザリー達だ。
今回のレースには立場的に中立で居るエルヴィーノだった。

関係者専用の建物から出て来たエルヴィーノはロザリー達を見つけ、お望みの物を渡し中に入れた。
そして向かうのはエルフ達選手の部屋だ。
フリオは凄く照れているようで、カミラも仲間のメイドやロザリーから褒められている。
最下位のローガンは「まだまだこれからだ。明日も頼むぞ」とグンデリックに励まされていた。
エルヴィーノはその後、アルモニア選手達の部屋とバリエンテ選手達の部屋にも顔を見せる。

まずはアルモニア選手達の部屋では。
バスティアンとブオはプリマベラから今日の結果と明日の作戦を立てていて、リアム殿はと言うと娘と義母にチクチクと嫌味を言われていた。
調子に乗って速度低下魔法を乱打し、本来は避ける予定が恰好の的になっていたのだから。
国民に対して見っとも無いとか、恥を知りなさいだの言葉攻めに合っていた。
バスティアンとブオに明日もガンバレと伝え、”とばっちり”が来ない内に退散した。

続いてバリエンテ選手達の部屋では。
カニーチェとビエルナスの健闘を称えつつ、横目でネル殿が娘と妻にクドクドと文句を言われているのを見ていた。
アンドレアの作戦では、初日は出来るだけ様子を見て仕掛けるのは最後の平坦な場所を計画していたのだ。
だから、機体の横にしっかりと付いた傷を説明させられていたのだ。
こちらも”とばっちり”が来ない内に退散した。

開催地では参加者全員での夕食会を催す事となっていた。
とは言っても簡単な食事だ。
それぞれが思い思いの話しをしている。
レースは練習とは違う緊張感で、最初は反対だった記憶が有るローガンも、他国の前国王達が「やはり、各国で選手権大会を開こう」と言う声に、一緒になって大賛成したり、フリオとカミラをベタ褒めする変わり様だった。
楽しい一時を過ごしながらも、選手や関係者以外の泊る場所が無いので、妻達から朝晩の転移係りにエルヴィーノが指名されていた。
もちろん笑顔でおおせつかった。








次回二日目買い物レース。
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