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第6章 棘城編2

第169話 出産!

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ビエルナスから陣痛の知らせを聞いて、エルヴィーノとアンドレアは急いでパウリナの部屋へ向かった。
部屋の中へ入り、召使いや乳母達に聞く。

「陣痛は始まったばかりですが、ずいぶんと辛そう様子なので時間が掛るかも知れません」
「誰かネル殿を呼んで来てくれ」

誰となく指示したエルヴイーノは”今までと同様に”パウリナの手を握り声を掛けた。
「がんばれパウリナ」


「後は我ら女達にお任せ下さって、黒龍王様は隣の部屋でお待ちください」
「パウリナ! 待っているからな」
うなずくパウリナを見て退室した。

隣の部屋で椅子に座り待っているエルヴイーノ。
毎度の事ながら不安と期待でイライラする。
そこに1人の召使いが入室してきた。

「あのぉ、黒龍王様。モンドラゴン様が卵が孵化しそうなので目が離せないと言われていますがどうしましょう」
ハァと溜息をついて助言した。

「その事を”義母さん”に報告した事にしろ。そしたら彼女の頭に角が生えたように怒っていたと伝えてくれ」
「はい」
「あっ、これも付け加えてくれ。直ぐに来ない場合は”下半身を石にしてやる”と言われたと」
「畏まりました!」
イラついたのでガトー族だけに解る意地悪をした。

専用の保育箱の中に入れられた卵は、特別製の保温室に入れられてプテオサウラ達も見に来られる様になっている。
早い卵はカラを自らの力で割ろうとグラグラと揺れていたのだ。
その場所に卵の親達とネル殿に世話係達がジッと孵化するのを見守っていた。
そこに、先程追い返した召使いが再びやって来た。

「モンドラゴン様!」
「何度も言わせるな。今が一番大事な時だ」
「アンドレア様から伝言が有ります」
「何ぃ?」
召使いは大きな声で報告した。

「アンドレア様の頭に角が生えたように怒っておられるようで“自分の娘の出産に”直ぐに来ない場合は”下半身を石にしてやる”と言われましたがどうしましょう」
同じ女性として若干膨らませての発言に気を使う者が居た。

(ライオネルよ、ここは良いから我が子の所へ向え)
フィドが事情を察し気を使うと周りの世話係も諫言する。

「ここは我々が見ていますので、王妃様の元へ」
全員がネル殿の顔を見ている。

流石に雰囲気を察したのか諦めて出て行こうとする。
「分かった。産まれたら知らせてくれ」

廊下に出るまで何度も振り返り、後ろ髪を引かれる思いで部屋を後にしたネル殿だ。
エルヴイーノが待つ待機室まではブツブツと大きな独り言をつぶやいていたと後から召使いから聞いた。
駆けつけた待機室には黒龍王と召使いが2人だ。
無言のまま入り不機嫌な感じで椅子に座るネル殿だ。
そして、時間は流れる。
ソワソワと足を動かし自慢のたてがみをいじりながら居ると、今度は両腕を後ろに組んで部屋の中をウロウロと歩き出した。

(落ち着きの無い人だなぁ)
と考えていたがイライラするのなら何か食べさせようと思った。

「ネル殿、ちょっとお腹が空きませんか?」
「んっ? そうだな」
紅茶ばかり飲んでいたので多少入るだろうと思い何か食べさせる事にした。

「何か食べたい物は有りますか?」
「特には無いが余り量は入らんぞ」
「では肉串にしますか?」
「ふむ、それで良い」

エルヴイーノは召使いに、厨房に行き肉串を30本とタレを用意させるよう指示した。
そしてしばし待つ。
余り食べる気のしなかったネル殿か五回目の「遅いなぁ、串はまだなのかぁ?」と行った後、扉を叩く音がした。

「お待たせしました」
プテオサウラに所に戻りたいイライラと、パウリナの出産に時間が掛っているイライラと、折角なら早く肉串を食べたいイライラが重なって、イライラ思考は食欲に変換されていたネル殿だ。
「おおおっ、やっと来たか。随分と時間が掛ったな」

エルヴイーノもネル殿のイライラを見ていて移っていたようだ。
2人して肉串を無言で頬張っている姿を召使いたちにガン見されているが一向に気にならなかった。
だが流石に龍人たちの様には行かず、エルヴィーノは5本でお腹が一杯になっていた。
ネル殿はそのまま食べ続けている。
(これのどこが量は入らないだ)と思って紅茶を飲んでいたら「ふぅ、喰った喰った」と満足そうだった。

「んっ、黒龍王はそれっぽっちか? まだ残っているぞ」
「いやぁもう一杯で入らないよ」
「そうか、胃の腑の大きさは我の方が勝ちだな」

別に競ったわけでは無いが、負けても全く悔しく無い。
むしろ食べれないと言った割には自分よりも多く食べた事に呆れていたのだ。

満腹になった2人は椅子に座り色んな話をしていた。
アンドレアの出産の時はどうだったのかとか獣人族の子育てなどだ。
意識してプテオサウラの事は話さないでいた。
しばらく話していると2人がウトウトとしていい気分で過ごしていたら
「オギャァ―! オギャァ―! オギャァ―!」と鳴き声が聞こえて来た。

「良し、産まれたぞ!」
部屋から出て行こうとするネル殿の手を掴み首を横に振った。

「しかし・・・」
「顔を見るまでダメです。後でどんな仕打ちが有っても俺は知りませんよ」
「ムグッ」
ドスンと座るネル殿だ。
すると次の瞬間。

「オギャ! オギャ! オギャ!」
「あれ? ちょっと違う声だったぜ?! もしかして2人目か?」
「なんと! 双子か! それは縁起が良い」
獣人族では種族繁栄で双子以上は縁起が良い物とされていた。

しばらく待っていたら扉が開き、泣きながらビエルナスが出て来た。
「黒龍王様、元気な双子のお子様です」
「ありがとうビエルナス」
笑顔で答えると「男か?女か?」ネル殿が聞いて来た。

「男女1人ずつです」
「「おおぉっ」」
ネル殿と重なった。
「もう暫らくお待ちください、中にご案内しますから」
2人はうなずいて椅子に座った。

「ネル殿、まだですよ」
「分かっておる。もう孫が優先だ」
一安心したエルヴイーノだった。

扉を開けて出て来たのはアンドレアだった。
「あら、あなた。居たのね」
「うっ、うむ」

さっき聞いた自分の出産の時には居なかったのにパウリナの時は居たから出た言葉だ。
ネル殿の目が”お前が呼びつけたからだろ”って目をしている。
だが何も話さない。

「パウリナは?」
心配だったので聞いた。

「頑張ったわよ。まさか双子だとは思わなかったもの。通りで大きなお腹だったわ」
アンドレアも疲れている様子だがパウリナが一番疲れているだろう。

「中に入っていいの?」
「その為に呼びに来たのよ」

部屋に入ると召使いたちが慌ただしく動き回っている。
ベッドで休んでするパウリナの所に行った。

「パウリナ、お疲れ様。良く頑張ったな」
「うん」
「流石は我が娘だ。双子とは大したものだ、ガハハハハッ」
「アグッ」
「声が大きい!」
足を踏まれアンドレアに怒られるネル殿だった。
アンドレアの両腕には真っ白な布にくるまった赤子が2人居た。

「おおっ来たか我が孫よ」
手を伸ばして抱こうとしたネル殿が注意された。

「ダメよ。最初は夫婦が抱くものよ」
そう言って黒龍王に2人を渡された。
毎回思うが、小さいくて、温かいくて、クシャクシャだ。
パウリナの左右に子供達を寝かせ、この幸せの光景のお礼を言った。

「可愛い子供達をありがとうパウリナ」
「うふふ、私こそ感謝してますよ、あなた」

双子は魔素の濃い漆黒の髪を持つ虹彩異色こうさいいしょくの双子で兄妹だ。
どちらも右目が碧眼で左目が金眼になっている。
後日パウリナと考えて兄はセサル。
妹はアナと名付ける事となる。

「この子達は産まれたばかりだけど魔素が濃いわ」
「うむ、全くだ。流石は黒龍王の子だな」
御婆さんと御爺さんが嬉しそうにしていた。

「ところで、あなた。向こうは宜しいのかしら?」
ようやくアンドレアからお許しが出たようだ。

「では、行くか黒龍王よ」
「ええっ!?」
(何故俺も?)

「そうね、パウリナも疲れているから寝かせてあげたいし行ってきたらどう?」
自分はこの場所に居たかったけど、そう言う事なら仕方が無い。

「では、お言葉に甘えてプテオサウラ達の様子を見てきます」
パウリナが疲れて眠そうな顔で言ってきた。
「後で教えてね」
「ゆっくり休みな」
頭を撫でて部屋を立ち去った。

廊下を歩きながら2人で話していた。
「しかし、双子とは驚いたな」
「ははっそうですね」
ここで思い出した。
あの2人に報告しなければ。
持っていた紙を壁に当てサラサラと文字を書きエマスコする。


”産まれたよ、ビックリするな、双子だった。今は安静にしてるから”


エルヴイーノに返信は無かった。
多分パウリナに連絡しただろう。
(パウリナは、数日間安静にするからその間は”あの2人”に襲われ続ける事になるなぁ)

思考は場違いな事を考えつつプテオサウラ達の居る特別製の保温室に入る。
先ほどとは違い慌ただしくしている様子に声をかけた。

「どうした、もしかして産まれたか?」
側にいたペロ族の隊員が教えてくれた。

「はい、つい先ほどフィドの子が二体とも無事に孵化しました」
「おおっ! そうか」

卵から孵化した子供は別の場所に移されていた。
暖かい部屋の中に二体のプテオサウラが居る。
フィドと母親だ。

「フィド、おめでとう」
(うむ、ありがとう)

「フィドよ、我が孫も一度に2人産まれたぞ!」
(それは奇遇だな。もしや、我が子達は共に戦士になる運命かもしれんな)

「ガハハハハッ、全くだ」
調子の良いネル殿だ。






あとがき
双子誕生!
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