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第6章 棘城編2

第154話 ネル殿の隊員発掘の旅4

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一行が目指す次の街は山林に囲まれたガトー族の街メレナだ。
メレナはペロ族の街ルヒドとカスティリオ・エスピナの丁度中間地点にある内陸の山間やまあいに有る街だ。
街の中心を流れる大河の両脇に街が並び、山の中腹ちゅうふくまで民家が立ち並んでいた。
大河には何本もの橋が渡されており昔は河を挟んでいがみ合いも有ったらしいが、数代前にガトー族から獣王が誕生してからは統一された一族になっていた。

街の上空を旋回しフィド達に雄叫びをあげる様にお願いして、街の住民が空を見上げているのを確認してから地上に降り立った龍騎士隊達だ。
当然の様に人盛りになる。

「「「ライオネル! ライオネル! ライオネル!」」」

ネル殿の名前を連呼する住民達にとって、先代とはいえ獣王になった男は一族の誇りだからだ。
それが龍の背に乗り故郷に凱旋しに来たのだから一族は熱狂して歓迎した。
ネル殿にとってもう1つの、いや、一番の目的でもある故郷に龍の背に乗り帰る事だ。
それはモンドラゴン家の名前に由来する事だから。

モンドラゴン。
それは遥か昔、ある部族の方言とドラゴンを足した事で名前としたのだった。
その方言とは”一族はドラゴンの末裔で真の勇者はドラゴンを呼び出すことが出来る”と言う物。
その真の勇者の”真”が方言として”モン”と言ったのだ。
正式には”真の勇者はドラゴンと共に”が、モンドラゴンの由来だ。

様々なガトー族が見守る中、族長達や長老達が出迎えてくれた。
「ライオネル! まさにドラゴンの背に乗る勇者よ。そくぞ、帰って来た」
街を治める族長だ。

「皆も変わりは無いようだな」
見知った顔を眺め安心した表情のネル殿。

「紹介しよう。我が国の龍騎士隊だ。今回は4騎で回っているが。まだ数体が城で待機している」
「「「おおおおっ」」」

「ところでライオネルよ、ペロ族の者ばかりだがどう言う訳だ?」
「うむ、それは落ち着いた所で話そう」
そう言って用意してあった会場に向かった。

一番近いガトー族には城から連絡して有りプテオサウラ達の対策もして、いつ来ても良い様に準備されていた。
夕方に到着したので直ぐに宴会の準備が始まるネル殿が今回の目的が知らされ、ガトー族が腕を組んで悩んでいた。
それは期待した龍騎士隊の条件が”厳しい”からだ。
黒竜王からの具体的な条件は"体重が軽い者"で"力が有り品行方正"で国の代表及び"種族の代表として適切な者"、"弓など遠距離攻撃が得意な者"だ。

ガトー族は弓を使わない種族だが決して弓が使えない訳では無い。
ネル殿も練習して上手になったから。
ただし、ペロ族の隊員たちには敵わない。
それに黒龍王の取り決めであれば部族が合わせるしかないのだ。
上空からの攻撃なので言われる事も納得できる。

「一族の者よ。お前達ならばいずれペロ族の者に、勝るとも劣らない腕を持つ者が現れるだろう。今までの様に自分たちの力でのし上がって来い。隊員になりたいと思っている強敵は国中にいるぞ。ほれ、そこのアベス族の者もそうだ」

「アギラ族のアベントゥラは目が良い。遠くからでも、どんな敵が居るか察知してくれる。ここには居ないが、ストラシオ族のボエロは大柄な割には軽く、アベス族の中でも弓が得意な部族だ。このように我らの国には優秀な者が沢山隠れている。お前達も負けない様に努力する事だ」

ガトー族にとって、隠れて遠くから獲物を取るのは勇敢では無いとされて来たから仕方が無いが、龍の背に乗り龍騎士隊として空を舞うのであればとガトー族の若者は妄想していた。

事実、獲物を取る為では無く敵を殺す為の手段で、最も危険性が少なく安全に敵を撃つ事が出来る上空からの攻撃方法なので、異論は無く特訓有るのみだ。

歓迎会も盛り上がっていて話しは大爆発の事で騒いでいた。

「ところでライオネルよ、あの大爆発は凄かったのぉ」

そうだと皆が騒いでいる。
ガトー族の街メレナは避難勧告を出した1000kmから少し遠いのだ。
なので、山を越えた棘の森に近い村人は避難していていたが、決戦日にメレナの者は特に何もしていなかった。

「そうだそうだ。この世の終わりかと思ったぞ!」
前王都のアレグリアに居ても凄まじかったのだから、この街はとんでもない被害が出たのではないかと思ったネル殿だ。

「特に被害は無かったが、あの爆音と、向こう山の反対側の木がまるごと無くなったぞ」
山間だから良かったのだろうと考えたネル殿。

「しかも、谷を吹く風が物凄かったわい。木々や岩も空を飛んどったからのぉ。まったく、棘王との決戦だと知らんかったら逃げ出しておったぞ。河の水は逆流するし、女子供は泣き叫ぶしワシ等は震えるだけだったぞ」

当時を想像させる族長達の言葉を聞いて、黒龍王の代わりに謝罪するネル殿は忌まわしき森が無くなった事を集まった一族たちに再確認させる。

「しかし、黒龍王のお蔭で我が娘も無事に帰って来たし、棘の森に挑んだ者達をとむらう事が出来た訳だからな」
ガトー族からも数多の者が救出者や、挑戦者として棘の森に挑んだのだが誰も帰らなかったからだ。

「全くじゃ、あの黒龍様が使った魔法であれば当然じゃな」
ガトー族の長老達も婚姻の儀式には旧王都に来て成龍状態のフィドキアを見ていて、族長達も魅力で支配され黒龍信仰が芽生えていた。

「皆聞いてくれ。カスティリオ・エスピナではアルモニア教の大聖堂が存在するが、黒龍王とアルモニア教祖が許可して黒龍様もアルモニア教として信仰の対象となった。近い内にこの街にも教会が建てられて黒龍様の像も出来るだろう」

「本当か! ライオネルよ!」
大喜びの族長達だ。

そして、例によって”あの話”になる。

「ところでライオネルよ。世継ぎが出来たと聞いたが本当か?」
嫌な予感がしたが頷いた。

「では黒龍王の力を分けて貰おうかの。お前の時の様に」
ニヤニヤしながら長老達が”あたりまえ”の様に言ってきた。

「”アレ”は女の好みがうるさいらしいからなぁ、難しいと思うぞ」
「ソコはお前が義父としてだな」
ヤレヤレどいつもこいつもと思いながら説得する。

「黒龍王は人族だから我らとは常識も違うし、何より我らの一族として娘に力を授かったではないか」
それとこれは違うと言う長老達をなだめながら、のらりくらりと話を誤魔化すネル殿だったが余りのしつこさにポロッと愚痴が出た。

「余りしつこいと黒龍王に嫌われるぞ」
「すまんかった。頼むから黒龍王には内緒にしてくれ」
コロッと態度が変わる族長達だ。

「ところで話は変わるがライオネルよ、最近例の場所が活発化しているらしい」
「何ぃ!」

例の場所とはガトー族の街メレナから大分離れているが、河の上流の1つでビボラの谷と言う場所に住んでいる部族の事だ。

「あいつらが又、河を下って来たのか!?」
「見たと言う者がおるだけじゃ」
ホッとするネル殿。

ビボラの谷に住む者とはセルビエンテ族の事で、稀に一族をさらって行く厄介な連中なのだ。
なぜ攫うかと言うと繁殖の為らしい。
昔、捕まったガトー族の者が隙を見て逃げ出して来たのでセルビエンテ族の事を詳しく教えられていた。
それは捕まれば死ぬまで精を取られる事だ。
谷に住むセルビエンテ族は男が産まれずに女性だけの一族らしい。
そして恐ろしい魔法を使う事でも知られている。
それは石化の魔法だ。
抵抗する者は石にされてしまうのだ。
しかし、外見は妖艶な女性なので男を引き付けるらしいのだが、下半身は蜷局とぐろいている。

「奴らが動き出したのなら厄介だな。警戒体勢を敷いてくれ、見回りの警備を強化だ」
「分かっとる。お前はいつまで居るのだ」
「後は城に戻るだけだから明日にでも空から様子を見に行くか」
そして、ネル殿の指示で翌日に対策会議が行われる事になった。

歓迎会を楽しんだ翌朝は早朝から部隊の全員が集まっていた。
「龍騎士隊に告ぐ。今日は予定を変更して、河の上流に有るビボラの谷まで偵察に行く。そこに暮らして居るセルビエンテ族を調査する為だ」

ネル殿から詳しく説明されて教えられる特徴だ。
「いいか、もし見つけても決して近づくなよ。奴らは石化の魔法を使って来るから、必ず距離を取る事だ」
プテオサウラ達やアベス族の2人も頷いている。

「見つけたら合図をして欲しい。今回は何体外に出ていて、どこまで下って来ているのかを調べるのが目的だ」
「「「ハッ!!」」」
「宜しい。では龍騎士隊出動!」

偵察だが初めての仕事らしい出発に気合が入るペロ族の者達に良い所を見せようとするアベス族の2人だ。






あとがき
ニョロリ。セルビエンテ族で石化? それって・・・
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