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第5章 棘城編

第146話 義父を襲う火の粉

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フォーレは絶好調だった。
双剣使いのファルソが大人気なのだ。
今日も扉の前には長い行列が出来ている。
ルブルム・ディアボリスの扉も同様だ。
何故そこまでファルソが人気なのか親衛隊を使って兵士の利用者に聞いて回らせた。
すると・・・


“一般的な女性よりも女性らしい”とか、
“声が可愛い”とか、
“あの表情がたまらない”とか、
“戦闘や魔法の相談も親身になって話してくれる”とか、
“護ってあげたい”とか、
”たまに力任せに体当たりしたら、しゃがみこんで上目使いをする表情が溜まらない” とか、
攻撃して来る時に”揺れるモノ”に見とれている。
などなど。


全く、どいつもこいつも魔物に対して気が触れたのかと思ったが冷静に考えれば“その様に優しく相手をしてくれる女性との触れ合う場が無い"のだと思った。
そしてフォーレから相談される。

「実は困ったことが有るんだ」
「何だ?どうしたんだ?」

話を聞くと兵士達から求婚されていると言う。
それも一人や二人ではない。
何十人もだ。
兵士達の事を考えると、やり切れない思いと”こみ上げてくる怒り”は何故だろうと考えていたが「ルブルム・ディアボリスの女にすれば?」と答えた。

どちらも悪魔だし、元国王なのは周知の事実らしいので丁度良い言い訳だろう。
そして、ファルソはしばらく”その言い訳”を使い乗り切っていた。
しかし、恋い焦がれて告白した男達は崖から突き落とされた錯覚を覚えたのだった。
意を決して告白した後は呆然として、すごすごと戻って行く騎士や冒険者達が何人も居たらしい。

景品の”ファルソとお出かけ出来る権利”を使って必死に口説こうとする兵士達を見て、”他人の姿を見て我が身を直せ”と言う生まれ故郷の格言を思いだしていたフォーレ。

(俺もこんな風にしてんのかなぁ。そして相手は今の俺と同じ様に愛想笑いで・・・) 

自己嫌悪するが過去よりもこれから役に立てようと考えるフォーレだ。
”女の気持ち”が理解出来るようになったフォーレは今一番したい事。
それは早く終わって1人になる事だ。
一方的に思いを話す男にウンザリしていたからだ。
ファルソからは話したくないので何か黙っていても時間の経つ事は無いか考えていたらひらめいた。

「ねぇ、ちょっとお腹空かない?」
ファルソが閃いたのは食事だ。
食べている間は話さないだろうと。

「私、知っている店が有るけど、ちょっと高いのよねぇ」
好きな女が何か食べたいと言っているのに、嫌だと言う男は居ないのだ。

「ホントに高いよ。良いの?」
見栄を張りたい男達はこぞってゲレミオの高級料理店に連れて行かれた。

店の店長には事前に説明してあり
「本当にフォーレさんですか?」と言われ変化を解いてやっと納得してくれたのだ。

因みに外にお出かけする時はグラナダの服を無断で着用している。
店の入り口で店員から常連客のように声を掛けられる。
「いらっしゃいませ。ファルソ様」

50個のハンコでファルソと1時間のお出かけは、フォーレはとても長すぎると思っている。
御手当が出るから良いが相手と話す気も無いので、仕切りの高い店に行くと厳粛な雰囲気で口説く事も出来ないと考えたのだ。
そこで態度を変えなければ、”場をわきまえず常識の無い者とはご一緒出来ません”と言って怒って出て行くのが作戦だった。

席に着いて食事内容の説明書きを渡されて眺める兵士は目が見開いている。
「ホントに高いから、私は安い物で良いわ」
有り難い言葉だが、一番安い料理でも兵士が一度の食事で出した事の無い金額だった。

それでも決め兼ねる兵士には気を使う。
「足りない分は私が出すから大丈夫よ」

そこまで言ってようやく注文する兵士。
「いつもこの様な店に来られるのですか?」
「えぇ、”ココしか”来ないわ」

兵士の額に冷や汗が流れていた。
そして無言で食べる食事を済ませてから優しく話しかけた。
「今日は半々で払いましょう」

それでも十分高い兵士だが、かなり助かったようだ。
そして最後にお約束の言葉だ。

「今日は楽しかったわ。ありがとう」

満面の笑みでそう言われるとデレデレの兵士は手を振って城の宿舎に戻って行った。
当然その夜は質問責めに合う兵士。
何を話して何処に行ったかなどだ。

フォーレはこれを数回繰り返せば、ファルソは金のかかる女だと認識して敬遠されると考えたのだ。
同時に多少だがゲレミオの売上にもつながるし一挙両得だと。



※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez


ある時から、今までに無い憎しみと怒りを向けてくる挑戦者に“やっと本気で戦う気になったか”と喜んでいたルブルム・ディアボリスだった。
しかし現実はファルソが元国王の愛人で変化して戦っていると知って、砕け散った彼らの純情と鬼畜のようにされているファルソを哀れんで、怒りをぶつけていたのが真相だ。

だが、流石にルブルム・ディアボリスには歯が立たないので、一部の兵士達で結成された“ファルソ救出隊”は秘策をとる。
その秘策とは噂を流す事。
それも聖女にだ。
その噂がいずれ妻である聖女プリマベラの耳に入り天罰が下るだろうと考えたファルソ救出隊。
何故、救出隊と言う名前かと言うと”元国王の束縛から解放するのが目的”の為だ。

そしてある日、プリマベラは数人の聖女達に”相談したい事が有る”と呼び出され、王城の聖女専用応接室に向っていた。

「応接室に一人で来て欲しいとは、もしかしたら男性の悩みかも」
勝手に思い込んでいるプリマベラだが応接室に入ると三人の聖女が待っていた。
四人は紅茶を飲みながらくつろいでいる。

「それで、いったいどんな相談事かしら?」
呼び出された本人から聞くが中々話そうとはしない聖女達。
わざわざ呼び出して話さない聖女達に多少イラつくプリマベラの眉間にシワが寄ると。

「あのぉ、まことにお話ししづらい内容なのですが」
「大丈夫よ。言ってみて」
三人がお互いの顔を見て頷く。

「試練の部屋で魔物に変化して闘っているのはリアム様ですよね?」
「あら、知っていたの? 一応兵士を鍛える為にやっている事よ。最近は遠くに行かないと強い魔物が居ないから、自らが魔物に変化して免疫を付ける作戦なの」
初めて変化している意味を知った聖女達は深く感心していた。

「一部の兵士達はルブルム・ディアボリスがリアム様の変化したお姿だと知っているようです」
余り関心の無いプリマベラに問題を投げかける聖女達。

「ところでプリマベラ様は、もう1つの試練の部屋に居る魔物をご存知ですか?」
「確か国王が創ったゴーレムでしょ?」
やはり知らないのだと確信した聖女達。

「プリマベラ様。もう1つの部屋には違う魔物が居るのです。しかも美しい女性型です」
「あら、そうなの」
まだ興味が無いプリマベラ。

「これは兵士の噂ですが、その美しい魔物は人族にそっくりで、背中に小さな翼が有り、服を着ずに戦うらしいのです。それも魔法剣で」
ピクッと動いた。

「だから何?」
「はい、兵士の噂ではリアム様の・・・お手付きの女性では無いかと噂が流れております」
それを聞いて固まったプリマベラ。

「あの、噂です! 兵士達の噂なので、本当の所は分かりません」

小さな震える声で話し始めたプリマベラ。
「なぜ兵士はそんな噂を流すの?」
「それは! 解らません」
「あなた達はその魔物を見たの? 」
「いえっ、直接戦った兵士に聞きました」

沈黙が応接室を支配していた。
非常に重苦しい雰囲気で報告密告した聖女達は石の様に硬くなり冷や汗を流していた。

(もし仮に”本当に”浮気だとしても、城の中に入れるかしら? しかも、とても美しい魔物に変化させて。でも事実は事実、私に教えないで何をやっているのかしら) 

家族の事は何でも知りたいのは直系一族の性格の様だ。
「あなた達、その噂の出所を探って頂戴。何か解れば教えてくれれば良いわ」
まずは噂の真相を調べて、証拠をつかむ為に動き出したプリマベラだった。

ほどなくして、新しい魔物が自ら兵士に話している事が判明した。
執務室で報告を受けたプリマベラはバンッと机を叩いた。
ビクッとした聖女は怒り心頭の元王妃の表情を見て逃げ出したくなる。

「お母様とロリ、いえ、サンクタ・フェミナを呼んで下さるかしら」

私は冷静よ、と言わんばかりに聖女達に丁寧な言葉で指示するが余計に怖かったらしく、一目散で応接室を飛び出した聖女達は二手に分かれて呼びに行った。
本来ならばエマスコで済むのだが、2人が来るまで初めての浮気に対する憎悪を噛み締めるプリマベラだった。

応接室にやって来たアヴリルとロリの顔を見ると無表情のままこぼれる一筋の涙。

「どうしたの?」
母であるアヴリルの優しい言葉に抱き着くプリマベラは嗚咽だけで何も語らない。

「あなた達、何か聞いていますか?」
サンクタ・フェミナの言葉は絶対だ。
三人の聖女が説明した。

「リアム様に他の女性が居るようです」
「詳しく教えなさい」
母と娘が眉間にシワを寄せて、命令するロリだった。






あとがき
怒れる聖女達。
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