134 / 430
第5章 棘城編
第134話 黒龍王との謁見
しおりを挟む
コルト家では黒竜王との謁見に向けて準備が始まる。
謁見しなくとも獣王国との取引は有り、さして困りはしないのだが、産まれてから500年以上”巨大な龍”を召喚したなど聞いた事など無かったので、年甲斐も無くワクワクしていたポルトンだった。
献上品の品々を念入りに確認していたら、フッと思いついた事が有った。
聖魔法王国アルモニアと獣王国バリエンテの国王が同じ名前で同一人物ならばアルモニアで会っても良いのでは?
エルフ国からはアルモニアの方が近いのだから、こちらとしては同じ人物に会うのだから近い方が、都合が良いので連絡係としてエルフ国に残っているプライヤを呼び聞いてみた。
「・・・なので、どうだろう? アルモニアでの謁見で良いかな?」
「黒竜王様とお会いなされるのであれば、カスティリオ・エスピナでなければお会いする事は出来ないと聞いております。アルモニアでは、かつてのマルソ様のように聖魔法王国の国王としての対処をされると聞き及んでおります。私はどちらもお会いした事は無いですが聞いた話しによりますと、国によって衣装と接し方が違うそうですが、そのお姿は威厳が有り、全てを見通す目と、圧倒的な力を感じさせられるそうです」
ポルトンは身を乗り出してプライヤの話しを聞いていた。
「しかし、献上品や謁見に同行する者がいるので何日も掛ってしまうから、無理を承知で聞いているのだ」
ニッコリと微笑んで答えるプライヤ。
「それでしたらご心配無く。エルフ国から獣王国までは転移魔法陣の設置を準備しております」
「なにぃ!」
「勿論ブリンクス王も内務大臣もご存知です。また、この件は極秘扱いされていますが、コルト様で有れば信頼できるので構わないとブリンクス王から許可を頂きました」
「ふ~む」
執務室にある椅子に、どっしりと座り直すポルトン。
(常に先手を打たれているか・・・)
「予定としましては、城下街ペンタガラマの外に転移して、お手数ですが城内までの移動となります」
「直接城に行くのでは無いのか?」
「ハイ、折角ですので簡単に街を見学されつつ城に向います」
「街の外からではかなり時間が掛ると思うが?」
「ご安心を。専用の乗り物をご用意致しますので、お時間は取らせません」
ポルトンは、どうせ馬車に決まっていると思っていた。
聖魔法王国のクラベルと言う田舎町がここ近年で急激に人口が増え、街が拡張して魔導具で人や物を運ぶ制度に組織も出来ていると情報が入っているが、魔素量の少ない獣人は扱えないし、獣王国で産出する高価な魔石を使っては意味が無いので、それは無いだろうと考えていた。
※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez
コルト家当主ポルトン・デ・コルトが黒龍王に会いたいと連絡を受け、条件に入っているなら会うしかないとフォーレに返事をした後で、ロザリーと打ち合わせしていた。
「ロザリーの兄さんってどんなエルフ?」
困った仕草のロザリーは説明に悩んでいた。
「一言で言うならば狡猾かな?」
「えぇっ? 実の兄さんだろ?」
「でも本当の事よ。特に仕事に置いてはね」
「なんか面倒なエルフなの?」
「私は一応妹だからね、”大した事”は言わないけど、良く無い噂は父の代もあったわ」
ロザリーの困り顔でエルヴィーノの気持ちは決まった。会話をする前に魅力でねじ伏せてやろうと思ったのだ。
そして、謁見日の早朝。
コルト家の中庭に持参した魔導具を配置し魔法陣の準備をするプライヤ。
「魔導具は絶対に触らないようにしてください。動かすと戻れない可能性もありますから」
コルト家の執事に説明しコルトと従者を待っていた。
一行はコルトと執事に五人の従者と献上品が乗った荷車が二つだ。
警備の者は居ないので全員で転移するのにプライヤが掛け声をかける。
「では皆さん転移いたします」
人数も物量も解らなかったので念の為多めに魔石をプレイヤに渡して置いた。
一瞬で景色が変わり、辺りは農耕地帯のような場所で後ろは獣王国特有の荒地だった。
「では皆さん、こちらに移動してください」
用意してあった大型運搬用のブエロ・マシルベーゴォに荷車ごと乗り込む。
「それでは出発します」
徐々に上昇する乗り物に驚き騒ぎ立てるエルフ達。
「「「おおおっ浮いているぞ!」」」
暫らく上昇すると遠くに見えるその城の大きさに驚くエルフ達。
「アレがカスティリオ・エスピナなのか?」
遠くからでもその巨大さに驚くポルトンが聞いて来た。
「そうですよ。これから向かいます」
徐々に早くなり農耕地を越え森を越え棘も越えて巨大な城壁が見えてきた。
城壁の上で警備するのは様々なアベス族で、昼と夜では種族が違う。
ブエロ・マシルベーゴォでは城壁を越えてはいけない規則を作ってあるので必ず門を通らなければならない。
当然例外はある。
それは戦争だ。
勝利する為に規則は変更される。
高度を落とし堀に掛かる跳ね橋に着いた。
低空飛行で乗り物に乗ったままで進むと門の所で検閲に合う。
重装備で大きな体のペロ族が四人と軽装備のペロ族が四人。
種族は違うが特に”鼻の利く”者が門番に集められている。
誘拐など”同じ過ち”を犯さないように門番達は全員王族と握手している。
勿論匂いを覚えてもらう為だ。
事前に用意した”黒龍王の匂い付き”の通行手形を見せて説明し問題無く門を通り抜けた。
これは聖魔法王国アルモニアでも採用するか聖女達に提案したいと思っている。
紙や物は複製出来るが、目に見えない匂いは人族には解らないし誤魔化せないからだ。
両国とも巨大すぎるし、過去の歴史で未だに溝が有る種族達が居るからだ。
備えあれば憂い無し。
(ロリに相談しよう)
巨大で分厚い第二城壁を抜けると見えてきた城下街ペンタガラマだ。
いろんな種族の獣人に人族で賑わっている。
街並みも綺麗だ。
石作りの建物に石畳。
脇には木々が生い茂っている。
真っ白の街並みに緑が爽やかで清潔な印象に思えた。
そして獣人達が率先して掃除しているように見られた。
ポルトンは昔訪れた記憶の中にある王都アレグリアと比較して叫ぶほどだ。
「凄い! まるで異世界だ」
大通りには中型で屋根付きのブエロ・マシルベーゴォが複数台、街中を回り、老若男女が乗り降りしているのが見られる。
その道を同じ速度で城に向って進んで行く。
道端には露店が並び石造りの建物には何かしらの商店と上層階からは獣人達が顔を出しているのが解る。
「しかし、これほどの物とは想像もつきませんでした」
「そうでしょ。私も初めて見た時は同じ様に思いましたよ」
キョロキョロと見回すコルト家一行と前を向いたまま話すプレイヤ。
一本道だが街の流れに任せて進んで行くと第一城壁に着いた。
先ほどと同様に門を抜け進むと、目の前に聳え立つカスティリオ・エスピナを見上げ声を上げ感心するコルト家一同。
「「「おおおぉっ」」」
城の入口近くまで移動して着地する。
「ここからは徒歩に成ります」
流石に城の中まで魔道具には乗らないだろうと”常識的”に思っていた。
城の入口では一人の獣人が待ち構えていた。
「城内はロディジャさんに案内して頂けるので、私はこちらで待たせて頂きます」
プライヤが下がり、ロディジャが挨拶する。
「ロディジャと申します。コルト様、お待ちしておりました、皆様もこちらへどうぞ」
案内されるまま奥に通される。
待合室でロディジャが助言した。
「1つだけ忠告しておきます。この地では聖魔法王国アルモニア王の話しを為さらない方が良いですよ」
「ほう、それは又どうしてですか?」
「理由はご自身でお考えください。もっとも興味が御有りならご自身の命を供物として話されるのも貴男様の自由ですから」
ニッコリと微笑むロディジャと嫌な顔をするポルトン。
事前にロディジャには説明してあって”面倒だから”が本音だが、”筋道を通さず他国の話しをするのは万死に値する”と言ってある。
「では、こちらでお待ちください。献上の品はこちらの台に載せ替えて頂けますか? 準備出来次第お呼びいたします」
王城で待たされるのは極普通の事なので言われた通り従者が載せ替えている間、ポルトンは出された紅茶とお菓子でくつろいでいた。
コンコンッ。
返事を聞いて入って来たロディジャが告げる。
「それでは皆様謁見の準備が整いましたのでご案内いたします」
ゾロゾロと後を歩き、扉を開け部屋に入る。
「皆さんは中心に集まってください」
そしてロディジャは首に下げた魔石を握り「8階に転移!」そう告げると、壁に有った数字が替わっていた。さっきまでは1だったのに8に変わっていたのだ。
「ささっどうぞ」
ロディジャが扉を開けて歩き出す。
「こちらが黒龍王の間です」
コンコンッと大きな両開きの扉を叩くと、二つの扉が開きだした。
入口から壇上のまでは真っ黒で淵が金の絨毯が引いてある。
通常は赤の絨毯が一般的だが、黒龍王の間は黒と金の装飾で統一されている。
壇上の奥の壁には棘と龍の彫刻が施されていた。
両脇には先代から引き続き兼務する獣人の役人が並び、騎士たちが周りを囲んでいる。
新調した黒に金の細工された防具に身を包まれた騎士に、黒い素材に金の刺繍が入った豪華なマントを纏った役人達。
一応”黒龍王”のも用意されていたので、謁見の時は着用する様にネル殿から言われているのだが、ちょっと恥ずかしいのだ。
金の防具に黒い細工だ。
キラキラ感が凄いし重い。
嫌だと言ったら義父と義母に怒られたので渋々着ているのだ。
(派手好きのネル殿らしいが俺に強制しないで欲しいのだが、面子がどうたら煩いので着ている訳だ)
“翼の生えた金色の椅子”に座って待ち構えていると、ロディジャに連れられて入って来るコルト一行。
壇上前に来ると、ロディジャが紹介した。
「獣王国バリエンテ国王、エルヴィーノ・デ・モンドリアン陛下の御前である」
すると跪く一行。
つづけて順番に述べて行く。
「エルフ国メディテッラネウスからお越しのポルトン・デ・コルト様御一行でございます」
「黒竜王様、ポルトン・デ・コルトでございます。獣王国とは先々代獣王様の時代より商いをさせて頂いていますが、改めて御挨拶に参りました」
「コルト殿、遠くより参られてご苦労。今日はこの街でゆっくり休んでください」
(俺はウム何て言わないよ~)
なんて考えていた。
「陛下、献上品をご覧ください。古の時代から伝わる品や、遥か彼方の国の一品を取り揃えてまいりました」
自慢げに説明するポルトンだが、献上品を無視してゲレミオに協力する返事を聞いて来る黒龍王。
「そんな物はどうでも良い。連絡を聞いている限りでは、ゲレミオに協力するのかお前の口からハッキリとした返事は貰っていないぞ?」
「陛下はゲレミオを作った者と懇意だと聞いておりますが、お会いする事は出来ますか?」
王様と商人。
どちら質問が優先されるかなど考える必要も無いが、欲に目の眩んだ男は自分の事しか考えていないようだった。
「お前は一国の王の質問を無視して、自分の欲望を優先する愚か者だな。極刑に値する。取り押さえろ」
ガシャン!
重装備の鎧と剣を抜きポルトンの周りを取り囲む騎士達。
呆然とするポルトンの横に居た執事が懇願してきた。
「お待ちください黒龍王様。当家の不手際は私めの命で補うとして、主の質問は決して自分の欲望では無く、真実を知りたかっただけで、お会いする事が承諾と同じだと伝えております。現に今朝出かける際には憧れの黒龍王様に会える事を楽しみにしておりました」
死刑宣告。
晴天の霹靂と言うか思っても居なかったポルトンは固まったままだ。
騎士達を待機させてたずねた。
「では、ポルトンよ。お前はゲレミオに協力するのだな?」
未だ呆然とするポルトンに執事が肘打ちをした。
「返事をしてください」
「ハッハイ!」
「ではポルトンよ、言葉遊びは今後禁止だ」
「ハイ」
跪いて返事をするエルフのオッサン。
騎士達を下がらせて質問する黒龍王。
「ポルトンよ、ゲレミオの者に会ってどうする? くだらない要件では命が幾つ有っても無駄だぞ」
執事の助言で助かったポルトンだがまだ反抗する。
「エルフ国で一番の豪商コルト家の取引がくだらない要件では無く、必ず有意義な物となると考えております」
それを聞いて高笑いした。
「はははははっ、それはお前が思っているだけの事だ」
不愉快な顔のポルトンだが、同じ轍は撃たない。
「アルモニアにバリエンテと両国で成功されているゲレミオを作り上げた方と会って見たいと思うのは商人として純粋な気持ちです」
その眼は先ほどまでと違って真っ直ぐに”黒龍王”を見ていた。
「良いだろう。そんなに会いたいのならば合わせよう。今夜使いを出向くように依頼するから待って居ろ」
「今夜ですか! 献上する物が何も無いのですが」
物でしか取り入る事の出来ないポルトンにニッコリと微笑んで教えてやった。
「安心しろ。お前が持っている物で欲しい物は1つだけだ」
大体そんな言葉の意味は命だと相場は決まっている。
ごくりと生唾を飲んだポルトンに告げた。
「覚悟しておけよ。以上だ」
黒龍王はそう言って立ち上がり壇上の袖に消えて行った。
あとがき
ポルトンも魅力でイチコロにしてやる。
しかし、男にばかり使っているなぁ。
謁見しなくとも獣王国との取引は有り、さして困りはしないのだが、産まれてから500年以上”巨大な龍”を召喚したなど聞いた事など無かったので、年甲斐も無くワクワクしていたポルトンだった。
献上品の品々を念入りに確認していたら、フッと思いついた事が有った。
聖魔法王国アルモニアと獣王国バリエンテの国王が同じ名前で同一人物ならばアルモニアで会っても良いのでは?
エルフ国からはアルモニアの方が近いのだから、こちらとしては同じ人物に会うのだから近い方が、都合が良いので連絡係としてエルフ国に残っているプライヤを呼び聞いてみた。
「・・・なので、どうだろう? アルモニアでの謁見で良いかな?」
「黒竜王様とお会いなされるのであれば、カスティリオ・エスピナでなければお会いする事は出来ないと聞いております。アルモニアでは、かつてのマルソ様のように聖魔法王国の国王としての対処をされると聞き及んでおります。私はどちらもお会いした事は無いですが聞いた話しによりますと、国によって衣装と接し方が違うそうですが、そのお姿は威厳が有り、全てを見通す目と、圧倒的な力を感じさせられるそうです」
ポルトンは身を乗り出してプライヤの話しを聞いていた。
「しかし、献上品や謁見に同行する者がいるので何日も掛ってしまうから、無理を承知で聞いているのだ」
ニッコリと微笑んで答えるプライヤ。
「それでしたらご心配無く。エルフ国から獣王国までは転移魔法陣の設置を準備しております」
「なにぃ!」
「勿論ブリンクス王も内務大臣もご存知です。また、この件は極秘扱いされていますが、コルト様で有れば信頼できるので構わないとブリンクス王から許可を頂きました」
「ふ~む」
執務室にある椅子に、どっしりと座り直すポルトン。
(常に先手を打たれているか・・・)
「予定としましては、城下街ペンタガラマの外に転移して、お手数ですが城内までの移動となります」
「直接城に行くのでは無いのか?」
「ハイ、折角ですので簡単に街を見学されつつ城に向います」
「街の外からではかなり時間が掛ると思うが?」
「ご安心を。専用の乗り物をご用意致しますので、お時間は取らせません」
ポルトンは、どうせ馬車に決まっていると思っていた。
聖魔法王国のクラベルと言う田舎町がここ近年で急激に人口が増え、街が拡張して魔導具で人や物を運ぶ制度に組織も出来ていると情報が入っているが、魔素量の少ない獣人は扱えないし、獣王国で産出する高価な魔石を使っては意味が無いので、それは無いだろうと考えていた。
※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez
コルト家当主ポルトン・デ・コルトが黒龍王に会いたいと連絡を受け、条件に入っているなら会うしかないとフォーレに返事をした後で、ロザリーと打ち合わせしていた。
「ロザリーの兄さんってどんなエルフ?」
困った仕草のロザリーは説明に悩んでいた。
「一言で言うならば狡猾かな?」
「えぇっ? 実の兄さんだろ?」
「でも本当の事よ。特に仕事に置いてはね」
「なんか面倒なエルフなの?」
「私は一応妹だからね、”大した事”は言わないけど、良く無い噂は父の代もあったわ」
ロザリーの困り顔でエルヴィーノの気持ちは決まった。会話をする前に魅力でねじ伏せてやろうと思ったのだ。
そして、謁見日の早朝。
コルト家の中庭に持参した魔導具を配置し魔法陣の準備をするプライヤ。
「魔導具は絶対に触らないようにしてください。動かすと戻れない可能性もありますから」
コルト家の執事に説明しコルトと従者を待っていた。
一行はコルトと執事に五人の従者と献上品が乗った荷車が二つだ。
警備の者は居ないので全員で転移するのにプライヤが掛け声をかける。
「では皆さん転移いたします」
人数も物量も解らなかったので念の為多めに魔石をプレイヤに渡して置いた。
一瞬で景色が変わり、辺りは農耕地帯のような場所で後ろは獣王国特有の荒地だった。
「では皆さん、こちらに移動してください」
用意してあった大型運搬用のブエロ・マシルベーゴォに荷車ごと乗り込む。
「それでは出発します」
徐々に上昇する乗り物に驚き騒ぎ立てるエルフ達。
「「「おおおっ浮いているぞ!」」」
暫らく上昇すると遠くに見えるその城の大きさに驚くエルフ達。
「アレがカスティリオ・エスピナなのか?」
遠くからでもその巨大さに驚くポルトンが聞いて来た。
「そうですよ。これから向かいます」
徐々に早くなり農耕地を越え森を越え棘も越えて巨大な城壁が見えてきた。
城壁の上で警備するのは様々なアベス族で、昼と夜では種族が違う。
ブエロ・マシルベーゴォでは城壁を越えてはいけない規則を作ってあるので必ず門を通らなければならない。
当然例外はある。
それは戦争だ。
勝利する為に規則は変更される。
高度を落とし堀に掛かる跳ね橋に着いた。
低空飛行で乗り物に乗ったままで進むと門の所で検閲に合う。
重装備で大きな体のペロ族が四人と軽装備のペロ族が四人。
種族は違うが特に”鼻の利く”者が門番に集められている。
誘拐など”同じ過ち”を犯さないように門番達は全員王族と握手している。
勿論匂いを覚えてもらう為だ。
事前に用意した”黒龍王の匂い付き”の通行手形を見せて説明し問題無く門を通り抜けた。
これは聖魔法王国アルモニアでも採用するか聖女達に提案したいと思っている。
紙や物は複製出来るが、目に見えない匂いは人族には解らないし誤魔化せないからだ。
両国とも巨大すぎるし、過去の歴史で未だに溝が有る種族達が居るからだ。
備えあれば憂い無し。
(ロリに相談しよう)
巨大で分厚い第二城壁を抜けると見えてきた城下街ペンタガラマだ。
いろんな種族の獣人に人族で賑わっている。
街並みも綺麗だ。
石作りの建物に石畳。
脇には木々が生い茂っている。
真っ白の街並みに緑が爽やかで清潔な印象に思えた。
そして獣人達が率先して掃除しているように見られた。
ポルトンは昔訪れた記憶の中にある王都アレグリアと比較して叫ぶほどだ。
「凄い! まるで異世界だ」
大通りには中型で屋根付きのブエロ・マシルベーゴォが複数台、街中を回り、老若男女が乗り降りしているのが見られる。
その道を同じ速度で城に向って進んで行く。
道端には露店が並び石造りの建物には何かしらの商店と上層階からは獣人達が顔を出しているのが解る。
「しかし、これほどの物とは想像もつきませんでした」
「そうでしょ。私も初めて見た時は同じ様に思いましたよ」
キョロキョロと見回すコルト家一行と前を向いたまま話すプレイヤ。
一本道だが街の流れに任せて進んで行くと第一城壁に着いた。
先ほどと同様に門を抜け進むと、目の前に聳え立つカスティリオ・エスピナを見上げ声を上げ感心するコルト家一同。
「「「おおおぉっ」」」
城の入口近くまで移動して着地する。
「ここからは徒歩に成ります」
流石に城の中まで魔道具には乗らないだろうと”常識的”に思っていた。
城の入口では一人の獣人が待ち構えていた。
「城内はロディジャさんに案内して頂けるので、私はこちらで待たせて頂きます」
プライヤが下がり、ロディジャが挨拶する。
「ロディジャと申します。コルト様、お待ちしておりました、皆様もこちらへどうぞ」
案内されるまま奥に通される。
待合室でロディジャが助言した。
「1つだけ忠告しておきます。この地では聖魔法王国アルモニア王の話しを為さらない方が良いですよ」
「ほう、それは又どうしてですか?」
「理由はご自身でお考えください。もっとも興味が御有りならご自身の命を供物として話されるのも貴男様の自由ですから」
ニッコリと微笑むロディジャと嫌な顔をするポルトン。
事前にロディジャには説明してあって”面倒だから”が本音だが、”筋道を通さず他国の話しをするのは万死に値する”と言ってある。
「では、こちらでお待ちください。献上の品はこちらの台に載せ替えて頂けますか? 準備出来次第お呼びいたします」
王城で待たされるのは極普通の事なので言われた通り従者が載せ替えている間、ポルトンは出された紅茶とお菓子でくつろいでいた。
コンコンッ。
返事を聞いて入って来たロディジャが告げる。
「それでは皆様謁見の準備が整いましたのでご案内いたします」
ゾロゾロと後を歩き、扉を開け部屋に入る。
「皆さんは中心に集まってください」
そしてロディジャは首に下げた魔石を握り「8階に転移!」そう告げると、壁に有った数字が替わっていた。さっきまでは1だったのに8に変わっていたのだ。
「ささっどうぞ」
ロディジャが扉を開けて歩き出す。
「こちらが黒龍王の間です」
コンコンッと大きな両開きの扉を叩くと、二つの扉が開きだした。
入口から壇上のまでは真っ黒で淵が金の絨毯が引いてある。
通常は赤の絨毯が一般的だが、黒龍王の間は黒と金の装飾で統一されている。
壇上の奥の壁には棘と龍の彫刻が施されていた。
両脇には先代から引き続き兼務する獣人の役人が並び、騎士たちが周りを囲んでいる。
新調した黒に金の細工された防具に身を包まれた騎士に、黒い素材に金の刺繍が入った豪華なマントを纏った役人達。
一応”黒龍王”のも用意されていたので、謁見の時は着用する様にネル殿から言われているのだが、ちょっと恥ずかしいのだ。
金の防具に黒い細工だ。
キラキラ感が凄いし重い。
嫌だと言ったら義父と義母に怒られたので渋々着ているのだ。
(派手好きのネル殿らしいが俺に強制しないで欲しいのだが、面子がどうたら煩いので着ている訳だ)
“翼の生えた金色の椅子”に座って待ち構えていると、ロディジャに連れられて入って来るコルト一行。
壇上前に来ると、ロディジャが紹介した。
「獣王国バリエンテ国王、エルヴィーノ・デ・モンドリアン陛下の御前である」
すると跪く一行。
つづけて順番に述べて行く。
「エルフ国メディテッラネウスからお越しのポルトン・デ・コルト様御一行でございます」
「黒竜王様、ポルトン・デ・コルトでございます。獣王国とは先々代獣王様の時代より商いをさせて頂いていますが、改めて御挨拶に参りました」
「コルト殿、遠くより参られてご苦労。今日はこの街でゆっくり休んでください」
(俺はウム何て言わないよ~)
なんて考えていた。
「陛下、献上品をご覧ください。古の時代から伝わる品や、遥か彼方の国の一品を取り揃えてまいりました」
自慢げに説明するポルトンだが、献上品を無視してゲレミオに協力する返事を聞いて来る黒龍王。
「そんな物はどうでも良い。連絡を聞いている限りでは、ゲレミオに協力するのかお前の口からハッキリとした返事は貰っていないぞ?」
「陛下はゲレミオを作った者と懇意だと聞いておりますが、お会いする事は出来ますか?」
王様と商人。
どちら質問が優先されるかなど考える必要も無いが、欲に目の眩んだ男は自分の事しか考えていないようだった。
「お前は一国の王の質問を無視して、自分の欲望を優先する愚か者だな。極刑に値する。取り押さえろ」
ガシャン!
重装備の鎧と剣を抜きポルトンの周りを取り囲む騎士達。
呆然とするポルトンの横に居た執事が懇願してきた。
「お待ちください黒龍王様。当家の不手際は私めの命で補うとして、主の質問は決して自分の欲望では無く、真実を知りたかっただけで、お会いする事が承諾と同じだと伝えております。現に今朝出かける際には憧れの黒龍王様に会える事を楽しみにしておりました」
死刑宣告。
晴天の霹靂と言うか思っても居なかったポルトンは固まったままだ。
騎士達を待機させてたずねた。
「では、ポルトンよ。お前はゲレミオに協力するのだな?」
未だ呆然とするポルトンに執事が肘打ちをした。
「返事をしてください」
「ハッハイ!」
「ではポルトンよ、言葉遊びは今後禁止だ」
「ハイ」
跪いて返事をするエルフのオッサン。
騎士達を下がらせて質問する黒龍王。
「ポルトンよ、ゲレミオの者に会ってどうする? くだらない要件では命が幾つ有っても無駄だぞ」
執事の助言で助かったポルトンだがまだ反抗する。
「エルフ国で一番の豪商コルト家の取引がくだらない要件では無く、必ず有意義な物となると考えております」
それを聞いて高笑いした。
「はははははっ、それはお前が思っているだけの事だ」
不愉快な顔のポルトンだが、同じ轍は撃たない。
「アルモニアにバリエンテと両国で成功されているゲレミオを作り上げた方と会って見たいと思うのは商人として純粋な気持ちです」
その眼は先ほどまでと違って真っ直ぐに”黒龍王”を見ていた。
「良いだろう。そんなに会いたいのならば合わせよう。今夜使いを出向くように依頼するから待って居ろ」
「今夜ですか! 献上する物が何も無いのですが」
物でしか取り入る事の出来ないポルトンにニッコリと微笑んで教えてやった。
「安心しろ。お前が持っている物で欲しい物は1つだけだ」
大体そんな言葉の意味は命だと相場は決まっている。
ごくりと生唾を飲んだポルトンに告げた。
「覚悟しておけよ。以上だ」
黒龍王はそう言って立ち上がり壇上の袖に消えて行った。
あとがき
ポルトンも魅力でイチコロにしてやる。
しかし、男にばかり使っているなぁ。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~
秋刀魚妹子
ファンタジー
お腹が直ぐに空く女子高生、狩人喰は修学旅行の帰り道事故に合い死んでしまう。
そう、良くある異世界召喚に巻き込まれたのだ!
他のクラスメイトが生前のまま異世界に召喚されていく中、喰だけはコンプレックスを打開すべく人間を辞めて巨人に転生!?
自称創造神の爺を口車に乗せて、新しく造ってもらったスキル鑑定は超便利!?
転生先の両親祖父は優しいけど、巨人はやっぱり脳筋だった!
家族や村の人達と仲良く暮らしてたのに、喰はある日とんでもない事に巻き込まれる!
口数は少ないけど、心の中はマシンガントークなJKの日常系コメディの大食い冒険物語り!
食べて食べて食べまくる!
野菜だろうが、果物だろうが、魔物だろうが何だって食べる喰。
だって、直ぐにお腹空くから仕方ない。
食べて食べて、強く大きい巨人になるのだ!
※筆者の妄想からこの作品は成り立っているので、読まれる方によっては不快に思われるかもしれません。
※筆者の本業の状況により、執筆の更新遅延や更新中止になる可能性がございます。
※主人公は多少価値観がズレているので、残酷な描写や不快になる描写がある恐れが有ります。
それでも良いよ、と言って下さる方。
どうか、気長にお付き合い頂けたら幸いです。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる