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第4章 獣王国編2

第115話 彷徨う獣人と新たな火種?

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話しは少しさかのぼり、旅の宿エスピナ(棘)でベロベロに酔っぱらっている獣人の女が2人いた。

言い寄る男達を退しりぞけグダをいている。

勿論店主の庇護の元でだ。
2人は幼馴染で国を飛び出し、各地を転々としてきた。

”良く無い”仕事もした事が有るが、女だけで生きて行くためには仕方がないと腹をくくり働いていたが、”運命の出会い”をしてからは綺麗な仕事だけをするようになり自分たちの幸せを願っていたのだが、それも海の藻屑と消えてしまい流浪の旅に出ていたのだ。


ところが2人の意見が北へ行くか東へ行くかで揉めてしまい、言い争いになったが結局は南の故郷へ向かう事となった。

北は寒いから嫌だ。
東の人族は嫌いだ。

個人の想いから意見が分かれたのだが、西のエルフ国には心についた傷が更に深くなる事を懸念して躊躇ためらわせ、結局南になったのだ。

聖魔法王国の西端から歩いたり馬車を乗り継いだり、お金が無くなるとお手伝いをして稼いだら、また旅に出る暮らしだ。結局一年以上かけて戻ったのは”黒竜王”と呼ばれる次の獣王が結婚式を挙げる数日前だった。行く当ても無く街中を歩いていたら懐かしい声に呼び止められた。

「オイ! お前、もしかしてチャルタランか?」

振り返ると大きな体で義手の獣人が居た。
女の瞳からは大粒の涙が溢れ出し義手の獣人に抱き着いた。

「ガルガンダァ~!」
「何年ぶりだぁ? 久しぶりに会ったと思ったらどうした、そっちの子はたしかアミスターだったか?」
うなづく幼馴染の獣人。


一路旅の宿エスピナへ向かう事となったが、あまり綺麗とは言えない服装の2人を見て、帰り道に服を2人に買ってやったガルガンダ。

「「ありがとう」」
「気にするな、そのくらい」

(リカルドの部屋は”アッチ”と繋がっているし、モンドリアンの部屋もどこかと繋がっているようだからフォーレの部屋を使わせてもらうか)

既に宿は満室で三人の部屋しか空いていない状態だった。

(従妹の娘達が遊びに来たのでしばらくフォーレの部屋を使いたいが良いか?) 
エマスコでフォーレに手紙を送る。
 (了解。今度紹介してくださいね。ゲレミオには私から連絡しておきます)
(すまん、ありがとう)

チャルタランとアミスターをフォーレの部屋に入れて、お湯の入った桶を二つ用意してやる。
「まず綺麗にして着替えてから降りて来い」

薄汚れた服を脱ぎ持っていた石鹸で身体を綺麗にしたら、残り湯で着ていた服を洗い終え身だしなみを整えて下に降りて行く2人。
既に食堂は夕食の時間で客が一杯だった。
「「「おおおおおっ」」」
綺麗になった2人を見て客達が騒ぎ出した。

「うるせぇぞ、オメェら! 俺の”妹達”にチョッカイ出すなら覚悟しろよ」
ガルガンダが大きな声で言い放つ。
「カウンターでもいいか?」

2人分空いているのは、そこしか無かったのだ。
2人共両肘をカウンターに置き手で顔を支えてボーッとしていた。
そこに「そらよ、これでも喰ってろ」

目の前に出されたのは肉を焼いたモノで鉄板の上に乗っている。
熱々の鉄板に特製タレを掛けるとジュッジュワーッと良い音と匂いが2人の鼻腔を刺激すると、ギィュルルルルルッと何処からか2人分のお腹の音がした。

「「頂きまーす」」
「そら、これも飲め」

ガルガンダが”得意”の魔法で冷やしたこの国の酒だ。
2人は一心不乱に食べている。
「「おかわり!!」」
「何があったか知らないが食べて飲んでから聞かせろよ」



国を出て各地を彷徨さまよい、とある港町で出会った男を愛したが逃げられてしまった。2人して同じ男を愛してしまったのだが、その男は他の女と結婚してしまったそうだ。男を恨んではおらず今でも愛していると言う。そしてその男は手の届かない身分違いになったので国に戻って来たらしい。

「お前ら行く当てがないなら俺の所で働くか?」
「いいよ~」「は~い」
いい気分に酔っている2人。

「じゃ明日から研修に行ってくれ。場所は聖魔法王国の絶景の宿アルディリアだ。現地に行けば俺の知り合いのフォーレと言う奴が案内してくれる」
ガルガンダはこの2人を棘城の超高級旅館エスピナの表向きの店主しようと考えたのだ。
チャルタランはガルガンダのいとこだし、アミスターは産まれた時から一緒に居る姉妹みたいな関係だ。

ガルガンダはその事をフォーレにエマスコしたら(直ぐに行く)と連絡があったが、(部屋が一杯だから明日にしてくれ)と返信したら(明日一番に行く)と送って来た。遠い土地で浮かれ気分のフォーレが明日会う2人の事を考えながらグラナダと熱い夜を過ごしたのだ。

翌朝一番に転移してきたフォーレと打ち合わせしていたガルガンダ。
そこに2人が二階から降りてきた。

「おおっ」
思わず声が出たフォーレだ。
1人はガトー族の綺麗タイプでもう1人はペロ族の色っぽいタイプだ。
甲乙付け難いが今のフォーレならば”ガトー族”選ぶだろう。


「やあ、初めまして。私はフロリッシュ・ドゥ・フォーレビアンと申します。みんなからはフォーレと呼ばれているので同じ様に呼んでください」
すると2人は何かを感じてフォーレの周りを嗅ぎだした。

「オイ失礼だぞ」
ガルガンダの忠告を無視してチャルタランがフォーレに問いかけた。

「あんた、獣の匂いがする。獣人の女が居るでしょ!」
「間違いないわ。ペロ族よ」

アミスターが付け加える(ギクッ!) っと解るくらい驚いたフォーレ。
「なっ何の事かな?」
「しらばっくれても解ってんのよ。あんたからペロ族の女のイヤラシイ匂いがプンプンするわ!」
「そんな事は無い・・・何かの間違いじゃないかな」
と懸命に否定する。

「フォーレ・・・獣人の女は特定の男に特別な匂いを染みつけるのさ。普通はしないけどな。”特定”の男にだ。それに俺達は人族よりも鼻が良い」

ガルガンダから衝撃の事実を告げられて(ガーン!)と解るくらいに口を開けて固まっているフォーレ。

「いや、これはその、たまたまだよ、偶然なんだ、明日に成ったら消えると思う、だからその・・・」

言い訳がましい事を言っているが2人の眉間にはシワが寄ったままだ。

「2人共、フォーレは獣人の女がいるかも知れないが仕事は出来る男だ。それは信じていい。だが決して油断するなよ」

ガルガンダに持ち上げて落とされたフォーレの立場はボロボロだが、昨日の夜、張り切って頑張ったのが仇となったフォーレでした。



※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez



式典の後、重臣、貴族、部族長、近隣諸国からの使者との謁見があるが、その後に例の龍王杯闘技大会が有るから前倒しになって進められていた。片っ端から”儀式” のような ”洗礼”をおこないエルヴィーノの味方にして行った。数日間続いたが今日が最終日だ。そして最後には取っておきの趣向が有る。事前に何が起きても慌てずにその場にいて欲しいと義父と義母に伝えて予定の最後の謁見を終わる。


「みんな、実はもう1人どうしても合わせたい者がいるので呼ぶけど良いか?」

パウリナだけが解らなくてエルヴィーノに任せると言ってきた。

「では、この国にとって、俺にとって、パウリナにとって、運命的な出会いをもたらしてくれた者を紹介しよう。どうぞ!」

一瞬、間が空いてアレっと思ったが次の瞬間に空間が歪み、そこから1人の男が現れた。
近づいて来た男は両手を腰に置き堂々とした態度だった。


(パウリナ姫。久しぶりだね)

ハッとしたパウリナはそれが念話だと直ぐに理解した。

(もしかしてコラソンなの?) 

(ああ、そうだよ。ぼくも成長したんだよ)

 駆け寄るパウリナ。

(立派になったわ。素敵よコラソン) 

(ハハハッありがとう。ところで念話だと君のご両親が不思議がって見ているけど良いの?) 

「コラソン! 無事で良かったわ」
手を取りあって話す2人。

「龍人の腕輪は気に入って貰えたかい?」

「ええっ本当にありがとうコラソン」

2人が話している間に先代獣王夫婦に相手が誰か教えてあげた。



「何! するとパウリナを攫った張本人か! 」
「“ネル殿”、まずは聞いてください。その事は経過であって今が全てです。あの10年間が無ければ今が無かったのですよ」

腕組みをして唸っている“ネル殿”にアンドレアが宥めてくれた。

「あなた、結果良ければ全て良しですよ」
「それはそうだが・・・」

妻が諭すが納得がいかない”お父さん”だった。

「分かりました“ネル殿”には失われた10年を補う何かを渡しましょう」
「なぁにぃ本当か?」
「はい、今までが無ければ手に入らない物を考えて置きます」
「そうか、期待せずに待っておこう」

その顔は十二分に期待した顔だった。


しばしパウリナとコラソンが想い出話しに花を咲かせていたが(続きは監視室でしよう)とコラソンからの提案を受けて承諾する。

「2人に紹介したい者がいます。その者は新たに作る棘城にとても役に立つと思う者ですが、良いですか?」
コラソンからの提案に2人はうなづく。

「では、この地域の妖精王を紹介しましょう」

「何ぃー! 妖精王だとおー!」
ネル殿が突っ込んできた。

「そっ、それはあの幻の島に居ると言うアレか!」
「ええ、そうです。では来てください」



再度、空間が歪み中からパウリナと同等の背丈の美しい女性が現れた。
妖精王の周りには羽の生えた小さな妖精が飛び回っており、纏わりついているようにしか見えないが、警護しているのだと後から聞いた。エルヴィーノの前に近づいて膝まづく妖精王。


「初めまして黒竜王様。私は聖妖輪廻華王のヴィオレタ・ルルディと申します。代々転生を繰り返し、棘王を見守ってきた妖精の主でございます。この度は棘王を滅ぼしていただいて誠に感謝しております。つきましてはお礼をしたいのですが何なりとお申し付けください」

紫色の巻き毛が胸部を隠すほど長く、薄紫の瞳が妖艶な面持ち妖精と言うわりには背中には羽が無い。

「参ったなぁ」
いきなりそんな事を言われてもパウリナと相談するが特に欲しいモノは無く、ふと思った事を振り向きながら言ってしまった。

「妖精の”カラダ”って結構大きいんだね」
パウリナに言ったつもりが、ルルディは驚いた。

(からだ! 私の身体を差し出せと言うのか!) 

その場と”物がモノだけに”コラソンと念話していたルルディ。

 (仕方ないですね。モンドリアンさんがそんな趣味だとは知りませんでしたよ。しかしながら良いでしょう。ルルディを好きにしてください貴男のしもべとして、性奴隷にしても構いませんよ)


ニヤニヤと笑うコラソンが念話でエルヴィーノとパウリナに話していた。

「ちょっと待て、一体何の話しだ」

(モンドリアンさんの言霊はコラソンの名に置いて契約されました。今後聖妖輪廻華王ヴィオレタ・ルルディは貴男の性奴隷として従うでしょう)

「はぁぁ?!」
睨むパウリナに「ちっ、違う、俺は無実だ」

ヴィオレタ・ルルディは頬を染めて上目使いでエルヴィーノを見ていた。
そこからドタバタの騒ぎになるが、念話で聞かれたのがパウリナだけだから良かった。
周りには何を騒いでいるのか解らなかったらしい。

そうこうしていると、謁見を終わらせたら重臣、貴族たちが戻って来たのだ。
それも年頃の女の子を沢山連れてだ。
どうやら側室として二号、三号を狙っているらしい。

エルヴィーノはテンペストの予感がしたので、とりあえずパウリナを連れて避難した。
翌日以降も重臣、貴族、部族長、近隣諸国の全員が年頃の女の子を沢山連れて王城に駆けつけて来たのだ。
理由は解っているので、しばらくは留守にしておこう。













あとがき
いずれ妖精に手を出してしまうのか!?
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