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第4章 獣王国編2

第111話 アルモニア教

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聖魔法王国アルモニアの王都イグレシアにある中央教会では教祖エネロと大司教フェブレロが一部の高位司教達を集めて会議をしていた。


議題はマルソが持ち込んだ【獣王国バリエンテでは”棘王の騒動”で間違いなく龍の信仰が産まれる件】だった。


「国王からの提案で、聖魔法王国アルモニア以外で神龍を奉(たてまつ)る異教が産まれるのを黙って見ているのか、それとも信仰の対象となる神龍を”ひとくくり”にしてアルモニア教で黒龍の信仰も受け入れるか、教祖様や一族に決めて欲しいそうです。異教とした場合はいずれ・・・我らと敵対関係となる可能性が高いでしょう。取り込んだ場合、教徒の数は獣王国の半分以上が信徒になると予測されます。更に、かの大陸では周辺国家や部族にも噂が広まる一方なので、アルモニア教としての判断を早急に決めて頂きたい」


マルソも現地でその熱狂ぶりを確認していたので真剣だった。


「アルモニア教の神である神龍も他の龍も元を辿れば全て1つになると私も聞き及んでおります。我らアルモニア教は調和を意味する教えを説いているのであれば、国王の提案は理に適ったものであると同時に、獣王国での信者が爆発的に増え、教会の建築も過去に例の無い数を早急に作る必要が有ります」


エネロを中心にいろんな意見が交わされる。
感触はおおむね引き込む気でいるようだ。


「皆の者、良く聴け。今回の議題は我らアルモニア教にとって非常に重要な懸案じゃ。これはサンクタ・フェミナ(神聖女)様の意見も賜って決めるのが一番だと思うがどうじゃ?」

「「「「賛成」」」」

「ウム。ではどのような結果になろうともサンクタ・フェミナ様の意向に従うように。刃向かう者は聖なる制裁が待っておるぞ」

健康体になったエネロから威圧感たっぷりの下知に一同は解散した。



直ぐにエネロはロリの元に訪れて龍人のラソンに聞いて欲しいと相談すると、ソファに座ったまま背筋を伸ばし瞑想するかのように瞼を閉じた。

(ラソン様。ラソン様、聞こえますか?)

 (ええ、聞こえているわロリ) 

(アルモニア教の事で大事なお話が有ります) 

(獣王国での黒龍の事ね)

 (ハイ、そうです、ラソン様。黒龍も我らの教会で崇拝の対象にするのか否か答えを迫られています) 

(ふふふっ、安心しなさいロリ。我らの神にも賛成して頂いたわ。調和を司る白龍と、共存を司る黒龍として教えを説くのです。正しい行いには調和を、共存を乱す者には厳罰がもたらされます。調和には繁栄と慈しみを。共存には清き心と力の加護が有るでしょう。そして調和とは形の無い物を指し、共存とは形の有る物を示します) 

(ありがとうございますラソン様) 

(あ~ロリィ、また甘いモノが・・) 

(分かりました、近日中に娘を連れて伺います) 

(楽しみにしているわ)

パチッと目を開けて、紙とペンを取り出しサラサラと書いていく文字をエネロが読む。

「・・・・おおおおっ、そっそれはラソン様のお言葉か?」

「ハイ教祖様」



※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez



中央教会では
【新たなアルモニア教は調和を司る白龍と、共存を司る黒龍をたてまつり、正しい行いには調和が訪れ、共存を乱す者には厳罰がもたらされる。調和には繁栄と慈しみの加護が付き、共存には清き心と力の加護が付く。また、調和は形の無い物を指し、共存は形の有る物を示す】
と王家一同と教会幹部が教祖エネロの説明でラソンからの意思が伝授された。


「基本的には現状のままで、細かな戒律は獣王国との協議で決めるが良い。そして速やかに布教と教会の建設じゃ。皆、手分けして頼むぞ」


大司教フェブレロの号令で速やかに準備され各地に散らばって行く。
当然ながら獣王国はリアム殿とエルヴィーノの担当になったが、なんとかリアム殿にゆずるような方法を考えていた。

獣王国では王族関係、重臣、貴族、隣国の大使、部族長を獣王とアンドレアに選び出してもらい、友好か敵対かを書類にしてもらった。
そう聖魔法王国と同じだ。

ただ、今回は戴冠してからの謁見では無く先に”魅力”で支配しようと考えた。
それはアルモニア教の布教や教会建設をスムーズに行う為だ。

この大陸では絶対王者の獣王にひれ伏しているが、裏で敵対していそうな者も獣王”夫婦”に選んでもらい、中立の立場だった者達も別枠で会う事にした。
そして例によって棘の腕輪による魅力の力で虜にする訳だが余り時間も無いので”敵対組”と” 中立組”を別々に部屋で集めてもらい、まとめて”儀式”を行なった。

アンドレアの認識では敵対組は10人居て王国の方針や懸案に、時間稼ぎや妥協案などチマチマとした嫌がらせを行なっていた。
中立組は20人居て、どっち付かずの姿勢で責任回避を常に考えていた者達だった。
因みに”夫婦”に賛同する親族や部下は15人だ。
夫婦に不穏分子を集めさせて”儀式”が終わると、敵対組と中立組は一緒に”夫婦”の元に訪れて全員が膝と手と頭を地に付ける獣人にとって屈辱のポーズを示した。
完敗を認めるポーズとも言う。


「獣王よ、今までの我らの行いを許して欲しい。我らは今後新しく獣王となる方に誠心誠意、全てを投げ出してでも仕える所存です」


全員の気持ちを説明したのは獣王の弟バルバ・モンドラゴンだった。
自分こそが獣王に相応しいと派閥を作り陰で嫌がらせをしていた張本人。

その事を獣王本人は知らなかったが”賢い嫁”は知っていた。
なので、普段の態度と比べると別人の様な”物言い”に眉間にシワ寄せて睨んでいた”女性”が思わず声が出てしまった。

「一体どう言う事ですか? 彼方達は何か企んでいるの」
義姉上あねうえ、疑われるのも仕方ありません。しかし、我らは目覚めたのです。いえ、あの方に目覚めさせられたのです。世界に獣人が居る意味と、この国に何が必要かを」

(大した事は言ってないが魅力の力が過剰なまでに効果があったのだろう)

その場に居る全ての者が片膝をつき獣王夫婦をキラキラとした眼差しで見ていた。
「分かった。皆の気持ちが1つに成ればこの国は更に発展しよう」

単純な獣王の言葉に、まだ眉間のシワが無くならないアンドレア。
「しばらくは彼方達の様子を見させてもらいます」
「「「ハハァ」」」




リアム殿と打ち合わせし獣王国側にも教会の担当者を作ってもらう事になり、獣王の弟バルバ・モンドラゴンを推薦した。
ゆくゆくはこの大陸の大司教的な地位になるのであれば獣王に連なる者が良いに決まっているし、”あの男”は既に魅力の儀式を済ませてあるので信頼は出来ると判断したからだ。

新たに1つの国に教会を広めて行くのはとても大変でエルヴィーノとリアム殿、獣王夫婦はかつてない程に忙しかった。
それはもうすぐパウリナとの結婚式があるからで、城の整備も進んでいる中で教会側も段階を経て浸透させる為に、獣人族10人を聖魔法王国アルモニアの王都イグレシアにある教会の学校へ修行に派遣する事となった。
その中にはバルバ・モンドラゴンも居て、いずれこの国の大司教を目指し張り切っている。

新しい黒龍の石像や飾り付けの意匠は元々のアルモニア教の白龍の色違いで向きも替えて左右対称にした物を作り設置する事になった。
また、表裏に龍の模様が入ったコインも作り三ヵ国共通の通貨として作る計画も出ている。
結婚式は大体の準備が出来上がっているので、その次の日から始まる龍王杯闘技大会の準備はロディジャが中心で進められていた。
となると問題は棘城の設計だ。
流石に城の設計など分からないし、何をどうすれば良いのかサッパリだった。


リアム殿に相談すると
「国王には各国に先輩の王が居るではないか。先駆者達に聞いてみてはどうだろう?」

各国の先輩王と言われてピンと来た。
両親を忘れていたのだ。
エルフの城は大きくは無いが優雅で落ち着きのある風情が漂っているし、リーゼロッテに聞いてダークエルフの城を参考にしよう。
どんな城だったのかは分からないが、きっと参考になるだろう。
そう思い実家に転移して”家族”全員に説明して意見をだしてもらった。


結論から言うとダークエルフのバルデモーサ城は山の斜面を使った建物で外観は五階建てだが奥行きが無いので広さは無かったと言う。
エルフのバルバル城も同じだが地下室も有り個人的には狭くは感じなかった。
もっとも聖魔法王国の王都イグレシアの王城と比べると小さい。
規模は王都アレグリアにある獣王の王城も同様だが広い分移動が面倒だ。
やはり多少慣れたイグレシアの王城を目安にして考えようと思っていた。
妻達や龍人の部屋もそうだが、やはり中心はエルヴィーノとパウリナの城となるので新妻の意見を取り入れようと聞きに行った。
すると、城の話しよりもアルモニア教が気になっていたらしく聞いて来た。
ロリに聞けば良い物をと思いながら、ロリから聞いた事を簡単に説明した。



※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez



昔々有る所に、聖なる存在の子孫にあたる龍人が人族と愛し合った間に産まれた女の子がいました。
その子は成長して子孫を作りましたが、その子の子供が戦争の犠牲になって幼い命を落としてしまった。
その事に嘆く母親なった我が子が龍人に懇願したそうだ。

(なぜ幼い我が子が犠牲になったのか。自分の命と引き換えに蘇らせて欲しいと)

我が子の必死の形相と懇願に龍人が自分を創造した存在に聞いてみた。

(聖なる力で甦りませんか?) と。

別の場所でその事を聞いていた聖なる存在がその場に行くと言いだしたのだ。

龍種である子孫と人族の間に初めて交配が成功し、その孫に当たる幼子が争いの犠牲になった事に悲しみは大きく、自らの手を差し伸べようとしたのだ。

それを聞いて、あわてた龍人が「これより我が神が降臨なされる」と側に居る者達に告知した。
もとより神の信仰は有ったがその存在自体に直接会えるなどと誰も予測していなかった。
古びた建物に机と椅子が幾つかあっただけなので、本当にこんな所に現れるのかと疑問に思いながら用意して待っていた人族達。

そこに有った物は聖なる存在が座った椅子で、のちに崇拝の対象物「神の坐する場所」と呼ばれる前の何の変哲も無い椅子だった。

魔法陣が顕現し空間が歪み、中から美しい女性が現れた。
そして幾つかの魔法を唱えてから、もう1人神々しく輝く女性が出現した。
神の使徒がその場にいた者達に応えた。

「我らが神である聖白龍様である。皆の者控えよ」

率先してその前にひざまずく龍人に人族達も習った。
椅子に腰かけた神が龍人の子である母親に「ソナタにこの魔法を授けよう」

そう言うと”神の手”から光の玉が顕現して母親の身体に吸い込まれるように入る。

「あああ、これは! この魔法は・・」

「ではさっそく使うが良いでしょう」

「はい」

魔法を唱える母親。
「レスシタシィオン(甦生) 」

すると屍の娘が激しく光だす。

光が終息すると、目が覚めた幼子の娘が上半身を起こす。
その奇跡が聖魔法王国始まりの瞬間だった。
だが蘇生の魔法には欠陥があって、それは女性しか扱えない魔法なのだ。
さらに女児しか産めなくなると言う呪い染みた魔法だった。



※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez



「そしてアルモニア教が作られて、代々教祖が女系の王族は全てお婿さんなのさ」

「ふぅ~ん。流石に数千年続く国は歴史が深いニヤァ」

甘えた仕草で聞いていたパウリナが変な語尾で言ったが無視して棘城の事を考える様にうながすと、横目でこちらを見ながら寝室へ入って行った。

追いかけたいのは山々だが暫らく城の事を考えていると、待ちくたびれたパウリナに強引に連れて行かれたのだった。










あとがき
アルモニア教の生い立ちでした。
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