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第3章 獣王国編

第94話 それぞれの行動3

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婚姻の儀式が終わって数日後の港町ゴルフィーニョのギルドでは・・・

街中をドタドタと走る腹の出た中年男性の向かう先はギルドだった。
建物に入るなり叫ぶ。

「ギルマスは居るか?!」
「只今来客中です」
「もしかして娼館のトバラオンか?」
「ハイそうです」
「だったら大丈夫だ」

急いで階段を駆け上がる宿屋の主バレイヤ。
ドンドンと扉を叩き叫ぶ。

「俺だ、バレイヤだ」
「入れ」

ギルドマスターの執務室にはギルマスのラゴスタと娼館のオーナーでトバラオンが椅子に座り腕組みをしていた。

「オ、オイこれ見たよな?!」
「あぁ俺もその件で来たんだ」

答えたのは娼館の主トバラオンだった。

「しょせん俺達の夢は儚く海に消えたのさ」

自らの夢がついえた事を理解して諦めたギルマスのラゴスタ。
この数年、八方手を尽くして探し回ったが見つからなかった者が、つい最近この国の国王になったのだから。

バレイヤが持って来たのは教会が国民に配布した物だった。

【聖女のロリ・ヴァネッサ・シャイニング様と新国王エルヴィーノ・デ・モンドリアン様は晴れてご結婚されました。そして全ての聖女を束ねる上位聖女して天啓の儀式で授かったサンクタ・フェミナ様(神聖女)とお呼びしましょう】と書かれてあった。

「なぁシャイニングって王家だよな?」
「そうだ」
「・・・」
「なぁ”あの2人”はどうするかな?」
「さぁとっくに”仕事”は止めてるし、国に帰るんじゃねぇか?」
「そっか」
所詮自分たちの都合の良い思惑だったと諦める三人だった。



その後しばらくして娼館の夫婦の前に2人の男が現れた。
1人は見るからに悪者の顔と雰囲気をかもし出していて、もう1人は今時のお兄さんだったが、身に付けている装備は一目で一級品と分かる物だった。
その2人に話しかけるトラバオン。

「それで、今日はどう言った御用で?」
「ウム、我らは夜のゲレミオ(組合)として、ある方の代理で来たのだが」
「夜のゲレミオだと?」
「そうだ」

そう言って悪者風の男は夜のゲレミオを説明した。

「それで、王都で娼館をやりたいと?」
「少し違うのだ」
「じゃ何だ?」

「トバラオンよ、お前に王都の娼館を任せたいのだ」
「はぁ! 俺に? 何でまた?」
「何でと言われても我らもお前を連れ来いと、夜の帝王に言われたからだ」
「夜の帝王だと?」
「そうだその方の指示で王都の夜は急速に変貌しているのだよ。お前が来るか来ないかはお前自身で決めろ」
「いや、ちょっと待て、それだけじゃ何も分からん」
「では、何が知りたい?」
「その夜の帝王って誰だ?」
「そんな事を簡単に言える訳が無いだろう?」
「じゃ王都の夜がどう変わっているのさ?」
「フム、私が知る限り過去に見ないほど賑わっておる。夜のゲレミオが出来てから僅か数日で、どれ程の金が動いているか想像も出来ん」
「・・・」
「よかろう、では自分の目で体験するが良い。思案する期限は2日で十分だろう?」
「おいおい、ここから王都まで何日かかると思ってんだ」
「これから我らと一緒に行けばよい」
「お前らと行っても同じだろ?」
「ふふふっ我らには特別な移動手段が有るのだよ」

信じていない顔の娼館夫婦の夫トバラオンと妻のコンシャ。
「とにかく用意をしろ。出かけるぞ」


渋々だが用意をして店の前に出てくると見慣れない物があった。

「おっ、やっと来やがった。じゃ後ろに乗ってくれ」

そう言って先に出て待っていた若い男の後に続く2人と悪者顔の男。

「じゃ準備はいいな? いくぞ!」

そう言って操縦する若い男。
それは王都の警備隊が使う2~3人乗り用よりも一回り大きいサイズのブエロ・マシルベーゴォ (飛行魔導具)で楕円形をしたコップ型をしていて夜のゲレミオ用は紋章が無い。

「おい! 浮いてるぞ!」
「アンタ怖いよ!」

ゆっくりと街の中を進み外に出る。
「さぁ飛ばすぞ!」
若い男の掛け声と共に物凄い勢いでクラベルに向かって飛んで行った。

娼館夫婦はしゃがみこんでしまっている。
そのまま教会の裏口から入り”特別な許可”で転移装置を使う。
中央教会から出た所で娼館夫婦が立ち上がると絶句だった。
なぜなら、そこは王都だったからだ。
しかも物凄い人だ。

一行はそのままティールーム・カラコルへ向かう。

「では2日後の昼にここで落ち合おう。その時に返事をくれれば良い」
「いや、ここが王都だって事は分かるが俺達は右も左も分からないし何処をどう探せば良いのやら」
「そうだな、じゃ夜の案内所へ連れて行ってやるよ」

若い男が昼の案内所へ連れて行き係りの者を呼んだ。

「オーイ」
「ハイ! あっ」
「暗くなってからここの裏手にきたらコイツが居るから聞いてください、案内してくれるので」
「そうですか」
「とりあえず、宿を案内して差し上げろ」
「了解です」

宿を取り街中を観光し夜の案内所へやって来た娼館夫婦。

「あぁ、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

案内係りのお兄さんに案内所の説明を受けて今夜の予定を説明された。

「まずはこちらのお食事店を予約してあります。その後グッズ店を見学し、ご主人様にはこちらの高級娼館でお楽しみいただいて、奥様にはこちらのレディースルームをお楽しみください」
「レディースルーム?」
「ハイ、人種を問わず若い男が女性のお客様とお酒を飲む店です」
「へぇ王都は凄いねぇ」
「時間が来たら迎えに上がりますので、最後は王都で一番高い超高級店でお酒をお楽しみください」

2人は思う存分王都の夜を味わって、最後は最初の食事に来た店の上の階に向った。
そこは王都で一番高い超高級店と言う店だ。
案内されて驚いたのは店内だ。
2人が見た事も無いキラキラと輝く装飾品で作られた内装に調度品。
触って壊せば店代で済まないと分かるようなたぐいの物が惜しげも無くふんだんに使われている。
案内された高級ソファで先ほどまでの事を思い出していた2人。
今まで食べた事の無い美味しい食事に初めて見る夜に、大人が使う道具の数々。


地元では滅多にお目に掛かれない美女が優しく対応してくれた娼館を思い出していた夫のトバラオン。
妻のコンシャも、ついさっきまで手を握りしめて又会いたいと耳元で囁いていた獣人の若い男にドキドキとトキメキを感じていた。
そしてこの店だ。
出てきた酒は普段飲む安物の葡萄酒では無く、冷たく泡の出る酒だ。
それに見るからに高そうな入れ物に入ったヴィノティント(赤い葡萄酒)とヴィノブランコ(白い葡萄酒)だ。
そして出てくる女性達を2人は目を見張った。
それは本当に美しく着飾った女性達で、立ち振る舞いも教え込まれているのが分かった。
トバラオンは最初戸惑っていたが女生と話すうちに会話も訓練されていると気づく。
コンシャも女相手でも対応する教育を初めて目の当たりにし教養の高さを実感していた。


そして現れた今日ゴルフィーニョから送ってくれた若い男。

「どうだったかい、王都の夜は?」
「兎に角、凄いの一言に尽きる」
「えぇ全くだわ」
「じゃ満足してもらえたって事で?」
「「大満足だ(です)」」

「では俺達と一緒にやるか?」
「あぁ王都の娼館は大したものだった。既に王都1だろう。だが俺が来るからには大陸1いや、世界1の娼館にしてみせるぞ!」
「合格だトバラオン。俺は夜の酒を扱う店を仕切っている”フォーレ”だ。宜しくな!」
「あぁ、こちらこそ」
「因みに今日いくら使ったか知りたいか? 別に金を払えと言う事では無い。参考までに、どの店がいくら位か知っておいた方が良いだろうと思ってさ」
「有り難い、是非教えてくれ」
「でも金額見てビックリするなよ」

大体の想像はしている夫婦は各店の金額と合計を見て「何だこりゃ!」そう叫ぶと皆笑っている。

「何がおかしい?」
「すまんすまん。お前も”まだ”一般人だって事さ」
「どういう意味だ?」
「この店の金額を見たか?」
「あぁ」
夫婦には考えられない請求金額だった。

「この店ではそれが”普通”なのさ」
驚きの夫婦。

「だから一般客は入れないし断っている。主な客は富裕層や貴族、大使がほとんどだ」
トバラオンは興奮したままだった。
一番安い料理屋でも”ありえない”数字なのだから。

「トバラオン良く聞け、俺達は最高のモノを探しだし、作り、出す。それを全体的に管理しているのが夜のゲレミオ(組合)だ。勿論ゲレミオ内での役割も有る。そして何より夜の帝王に忠誠を捧げる事が出来た者が幹部に成れる。お前達がどう成るかはお前達次第だ」

そう言い残しフォーレは席を立った。
置いて行かれた2人だったがトバラオンの眼光の奥には欲望の光が輝いていた。

「決めた俺はやるぞ! この王都でやってやる」
「あたしもやるよ、あんた!」
「よぉーし、今日は飲むぞ!」



一方クラベルでは
婚姻の儀式が終わった後、国民へ最初の通知と”出会いの町”として案内されているクラベルは大賑わいで、宿屋くらべるは大繁盛だった。
町長は宿屋を増やしたいと意見するが観光で来る人の目的が” 宿屋くらべる”なのだから、せっかく来た人達に増築か別館ないしは二号館を作るかで揉めていた。

宿屋の奥さんカタリナがロリの意向を伝えた。
「聖女様いいえ、サンクタ・フェミナ様は思い出の部屋と建物を残して欲しいと言われました。なので、別館が良いと思います」
宿屋の主人ミゲルもそれに賛同し町の理解を得られた。

元々、サンクタ・フェミナ様が来られた事で今がある訳だから全てにおいてサンクタ・フェミナ様の意思を尊重しようとなった。
プルガル司祭も新たな時代の幕開けに涙していた。
だがミゲルは1つだけ納得いかない事があった。
それは自らがリカルドの親衛隊長に成ったお祝いを出来ないからだ。

「リカルド様はお忙しい身なので、我らは待つしか無いですよ」
プルガル司祭も同じ思いだったのでミゲルを優しくなだめていた。


エルヴィーノの計画は順調だった。
自分が自由に暗躍出来るのはパウリナとの婚姻がロザリーとロリに知られるまでの1年弱。

その間に”夜”を整備し組織
して獣王国へ乗り込む事だったので、無駄な者、刃向かう者には即座に消えてもらい体制を強めていった。

既に”夜”の件は教祖一族に説明してあり、金を保管する場所として城を使う事を承諾してもらった。

もともと昼も夜もエルヴィーノの配下なので、王家の予算は爆発的に膨れ上がってこのまま行けば、たった数ヶ月で以前の2倍になる勢いだった。

それをしょげて見るリアム。
慰める母娘。

「今にきっとリアム殿のお力を借りる時が来ます」
エルヴィーノも一緒に心にも無い事を言っていた。
そんな充実した毎日のエルヴィーノに知らない所で不穏な動きがあった。






闇の足音。

時はさかのぼり数か月前。
闇の気配を纏い数人の得体の知れない者達が廃墟と成り果てたダークエルフのバルデモーサ城跡地と、元城下街であろう廃墟のエスタシオンに足を踏み入れていた。

「これは一体どういう事だ! 俺が居ない500年の間に何があったと言うのだ」

その男は憤慨していた。

「どこの奴らかは知らんが我らダークエルフの恐ろしさを思い知らせてやる」
「・・・オイ、一旦国に帰るぞ」

廃墟を前に復讐を誓う謎のダークエルフだった。









あとがき
闇の気配、感じますか?
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