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第3章 獣王国編

第71話 獣王国バリエンテの王都アレグリア

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翌朝、昨夜の酒が残るが3人で港街リベルタを出発する。
如何にも具合の悪そうなリカルドを見て声をかける。

「どうしたリカルド」
「ハイ、頭がガンガンします」
「そうか、それは良かったな!」

いたたまれないフォーレは旅の知恵を教える事にした。

「リカルドさん」
「ハイ」
「インバリダ・ノルマール(状態異常無効)使えるでしょ? あれで軽減出来ますよ」
「本当ですか!」
そう聞いてリカルドは魔法を唱える。

「あっ、かなり痛みが無くなりました」
「熟練度が高くなれば頭痛は無くなりますよ」
「ありがとうございます、フォーレ様」

そんな会話をしながらエルヴィーノ達は進む・・・徒歩だ。

「しかしこの国は熱い!」
「まだ朝なのにもう暑い」

エルヴィーノとフォーレが文句を言いながらひたすら歩く3人。
獣王国のほとんどは荒地と砂漠らしいが木々も所々に点在している。
一定区間に水の湧き出る場所が有り、そこには村や町が出来ているそうだ。
たまに見かける魔物なのか動物なのか分からない生物もいるが、襲ってこないので動物だとフォーレが分析していた。
と言っても魔物もいて、昆虫系や蜥蜴みたいな奴らだがリカルドのグラキエース・マヒア(氷の魔法)を練習する教材としてエルヴィーノとフォーレが監修し特訓させた。

昼前に差し掛かった時、後ろから来た馬車に”追い越せれて”立ち止まる3人。

「俺達、なんで歩いてんの?・・・」

エルヴィーノのつぶやきに、2人から返事が無い。
宿を出る時エルヴィーノはインバリダ・ノルマール(状態異常無効)を使って平素をよそおっていたがフォーレも今朝顔を合わせた時と、宿を出る時では表情が違っていた。

「あーあ皆二日酔いだったのか」
「ボーっとしながら街を出たもんなぁ、馬車で一週間の距離を歩こうとするなんてさぁ」

馬車の事を綺麗サッパリ忘れていた。
(仕方ない)
エルヴィーノはエスパシオ・ボルサ(空間バック)から黒い毛布を取りだし魔素を送った。
柔らかな毛布が適度な硬さになり、その上に乗り座ってから呼びかけた。

「2人共乗って」
「なっ何ですかそれは!」

フォーレが宙に浮くエルヴィーノと”黒い板”を見て言った。

「魔法の毛布だよ。これ使うとさ冒険って言うか旅って雰囲気が無くなるんだよね~ 兎に角乗って乗って」
言われるままにフォーレとリカルドは黒い布に乗る。

「さぁ、飛ばすぞ!」
エルヴィーノは久しぶりに大空を駆け上った! 

「「どわぁー!」」
後ろから聞こえる声を無視して上空500m位に来ると遥か遠くに王都が見えた。

「よし! 行けー!」
物凄い勢いで王都目掛けて突っ込む様に下って行く。

すると何やら後ろから声が聞こえた。
「「たすけてくれー」」
錯覚だと思ったので無視して飛び続けた。
王都のかなり手前で低空飛行して近づく。

「さぁ着いたよ」
適当な場所で止まり振り替えると、男二人が目を閉じて抱きしめあっていた。
エルヴィーノは大地に立ち2人の背中を優しく叩いて言った。
「着いたよ」

ゆっくりと目を開けて2人は降り立つと怒鳴って来た。
「「何んて事をするのですか!」」

「えー俺が悪いのかよー」
「当たり前だ! 誰だって説明も無しにあんなことされるとビックリするでしょ!」
「そっか、そりゃ失敬、じゃ行こか」
「「おーいっ!」」
「なに!」
「だからちゃんと説明してください」
「面倒くさい」
「リカルドさん、貴方の苦労、察します」
「ありがとうございます、フォーレ様」

「ちっ、だから最初に言っただろ! 雰囲気が無くなるって。俺は冒険を体感したかったけど皆が二日酔いで馬車を忘れたから仕方なく奥の手を使ってあっと言う間に目的地に着いただけだろ?」

エルヴィーノの言い訳に睨み返すフォーレと頷くリカルドが質問する。
「では最初に急上昇する必要は有ったのですか? 」
「・・・と、当然だよ。全体の位置関係を知りたかったのさ」
咄嗟に出た嘘だ。

「・・・まぁ、良いでしょう。とにかくアレはもう止めてください」
「アレとは?」
「急上昇です」
「了解!」
次の機会は急降下をやってやろうと心に誓うエルヴィーノだった。

「さてと。王都アレグリアの城壁の前だぞ」
「流石に王都アレグリアの城門は大きいですねぇ」
「そりゃ王都だもん、この位無いとカッコつかないだろ?」

「ハイ、でもアレは驚きました」
「?何?」
「黒い板です」
「あぁ毛布ね」
「毛布?」
「そうだよ」
リカルドは知っているが乗ったのは初めてだった。

「アレにはいろんな魔法を使っているからね、怖かっただけだろ? なれると便利だよ」
「「結構です」」
「リカルドは慣れてもらわないと困るなぁ」

リカルドを憐れむ目で見るフォーレだった。
「では行きますか」
フォーレの呼びかけで歩き出す3人の向かう先は城門だ。

とても大きな城門には警備の獣人が沢山いて行商の馬車と一緒に並ぶ一行だ。
入国自体は3人がギルドの認識票を見せるとすんなり通る事が出来た。

「とりあえずギルドに行って棘の王の事を聞いて宿を探そう」

2人に確認をとり王都のギルドを人づてに場所を聞いて目指した。
そして辿り着いたギルドは流石に大きな建物で、中に入ると当然獣人が多いが人族も多少いてエルフも数人だが見られた。

掲示板を見ると”棘王討伐”が束になっていた。
すると1人、また1人その”討伐の紙”を持って行く冒険者がいた。
彼らの行動を見ていると、その用紙を受け付けに持って行って登録しているようだった。
エルヴィーノは2人の顔を見ると頷いたので早速用紙を取り受付に並ぶ。

受付に並んで順番を待つ。

「ハイ、今日は討伐ですか? それとも他の依頼ですか?」
と聞かれた。
よっぽど討伐が多いのだろう。

「討伐なんだけど、棘王の事を教えて貰えますか?」
エルヴィーノとフォーレが”打ち合わせ”通り受け付けをする獣人の女の子に微笑みかける。
女の子は2人を見ながら顔を赤らめ答えてくれた。

「え、えっと。詳しい事は何も解って無くて棘の森の中心に棘の城があって、そこにお姫様が眠らされていると言う噂です。棘の王と直接戦ったと言う記録はございません」

(なんだそりゃ)
口から出そうになったが我慢した。

「じゃ全て噂の話しですか?」
フォーレが優しく問いかけた。

「いいえ、お姫様が攫われた後に使者が来て【この者の命が欲しければ我を滅ぼせる者をよこして見ろ】って言ったらいしですよ。それで王様は力の有る者を次々に送り込んでいますが・・・もう10年近くになります」

「ちなみに攫われたのは誰ですか?」
「お姫様ですよ、当時は8歳だったそうです」
「そっか、じゃ今はもうボロボロだろうな」
「何言っているんですか! 姫様は眠り続けているらしいですよ」

「「「ふ~ん」」」
興味なさそうな2人。
そんな都合のいい話に興味ない。

「どんな状態でも連れ戻るか、その棘王を倒せば良いんだろ?」
「まぁそうですが、みんな帰らないですからね・・・」

「あっ期限は特に有りませんからユックリと準備されて行かれた方が良いと思いますよ」
そう言われて、とりあえず3人で登録した。

「王様に謁見する事は出来るの?」
「無理です」
「早っ!」
「誘拐されてからは外部の者とはお会いにならないそうですよ」
「でも、成功したら報酬は望みのままなんだろ?」
「あぁそれは・・・デマです」
「「「ええぇぇっ」」」

「誰が言いだしたのか解りませんが正規の依頼はギルドだけです・・・でもそのデマは王家にも届いているようで正式ではありませんが、助け出してくれるならソレでも構わないと城のお偉いさん達が言っていましたねぇ」
(なるほど・・・)

「じゃ棘の森や城はどんな敵が出て来るの?」
「棘の森はトレント系の魔物が多いそうですよ。後は暑さに強い魔物が多いので氷系の魔法が有効だそうです」
「なるほど、炎か氷の魔法だな。王都から棘の森までは遠いの?」
「馬車でゆっくり行けば一月位ですか」

まぁ近くは無いと思っていたが、2人の顔を見ると左右に振って拒絶反応をみせた。
エルヴィーノの考えが解ったのか黒い毛布を嫌がっている。

「大丈夫だよ、今度はゆっくり行くと約束するから」
2人は疑いの眼差しで見ている。

「チッ仕方ない。じゃ、もしも急上昇をしたら何か奢ってあげるよ。それで信じてくれるだろ?」
「急上昇と急降下もですよ」
フォーレが口を挟む。

「分かった、分かった」
「何を奢ってくれるのですか?」
「それは俺が約束を破ったらだろ?」
「そうですが一応確認の為に」
細かいリカルドだ。

「ではこうしよう」エルヴィーノは偉そうに言った。
「クラブ・エストレイヤを1回俺の奢りで連れて行こう」

予想に反するエルヴィーノの答えに2人は別人の様な笑顔を見せた。

「是非急上昇お願いします」とリカルドが言えば
「急降下も味わってみたいなぁ」とフォーレが続く。

「歩きにしようか?」
「ダメです」
「既に契約は成されました」

(まったく現金な奴らだ。まぁ馬車で往復2ヶ月と、クラブ・エストレイヤを2回奢る金額は天秤に掛けるまでも無く馬車の方が高いし日数も掛る。まぁ”みんな”が幸せになれば俺は構わないが、そうか急上昇と急降下が出来るのか・・・クククッ漏らすなよ)

エルヴィーノ達は昼食を食べてから王都のいろんな店を巡り、備品を買ってから宿屋の食堂に入る。
(単にフォーレがどんな物が売っているのか見たかっただけの様だが)

「何日かかるか解らないけど数日分の食糧と水は買ったから魔石の点検を各自して、戦闘の予測を立てよう」

エルヴィーノの提案で戦闘予測を三人で考えてみた。
まず棘自体が襲って来るらしいのでどのような対処をするか。
剣や魔法で切る、燃やすが可能なのか? 
盾でどこまで防げるのか? 

「アウルム(金)グラドス(ランク)やそれ以上の冒険者も居ただろうが誰ひとり帰って来ないとは普通の迷宮じゃ無いぞ。まず森の出口に魔法陣を作り、ヤバくなったら転移で戻る。次は進んだ場所に転移して更に進む。それの繰り返しで安全に少しずつでも進めるのはどうだ? 更に森の中で最悪の事態となれば1人でも引き返すルールでどう?」

「ダメです」
「なんでだよ」
「3人が一緒に安全な行動でないといけません」
リカルドが保守に回った。

「確かにそうですね。目的は分かりますが傷つき倒れては意味が有りませんから」
フォーレもリカルド側だ。

「じゃ何か方法は?」
「基本的には先ほどの案で構いませんが、逃げる時は3人です」
「そうですね」
2人からさとされた。

「じゃそれで」
結果的に戦闘予測では無く撤退時の合意になってしまいました。
エルヴィーノ達は必要な補充と装備を確認し翌朝王都を出発した。








あとがき
酒は、ほどほどにしよう・・・と三人は思った。
簡易ブエロ・マシルベーゴォ(飛行魔導具)の黒い毛布が大活躍です。
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