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第3章 獣王国編
第70話 男だけの3人旅
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2度目の旅立ちはエルヴィーノとリカルドに新しい仲間のフォーレ事フロリッシュドゥ・フォーレビアンだ。
いろんな事が有ったけどロリとの賭けに勝ったし堂々と旅立つ事が出来る。
目指すは獣王国バリエンテの港街リベルタで王都アレグリアに一番近くに教会がある街だ。
午後の良い時間に中央教会に集まったエルヴィーノ達は地下の転移魔法陣で移動する事となった。
「教会の魔法陣は関係者しか使えないはずですが・・・」
それを知っていたフォーレに種明かしする。
「ちょっと知り合いにコネが有ってね。それに”関係者”も1人居るだろ」
そんな話をしていると、パブロがやって来た。
「今回はリベルタだって? 時間は大丈夫か?」
「今回は調査なので安心ですよ」
パブロとリカルドの会話にエルヴィーノが入る。
「リベルタからアレグリアまではどの位かかるの?」
「そうですね・・・馬車で一週間ほどですか」
「そんなに遠いの?」
「結構近い方ですよ、あの国は我が国よりも広大な土地ですから」
「そうなんだ・・・」
世の中はエルヴィーノの知らない事だらけだ。
後で聞いたが以前聞いた王都イグレシアから近かったのは国境の街だった。
パブロに案内されて4人で転移する事になる。
転移先はいつもと変わらない風景とヒンヤリした地下室だ。
だが、階段を昇るとムワッとした空気が漂ってきた。
リベルタにある教会の1階は全ての窓と扉を開けて風を通しているがそれでも暑い。
「では皆さんお気を付けて」
パブロは笑顔で見送っていた。
(多分直ぐに帰るんだな・・・)
まさかこんなに暑いとは思わなかった。
(あっリカルドは法衣だからもっと暑いのでは?)
心配して見ると普通だ。
むしろ涼しい顔をしている。
「リカルド」
「ハイ」
「暑く無いの?」
「獣王国は熱いので対策を取ってあります」
「なんだと!」
「触って見られますか?」
法衣を触ると、見た目は同じだが素材が違う。
透けるような薄さでサラサラした手触り。
同様の素材で全部仕上げてあった。
「私もですよ」
そう言ってフォーレも自慢する。
「暑くは無いのモンドリアン?」
「暑いに決まっているだろ! 誰も教えてくれないんだもんな」
ジト目でリカルドを見た。
「申し訳ありません、直ぐに新しい装備の手配を致します」
「チョット待った。どうせなら、この町で買おう」
郷に入れば郷に従えと思い土地のモノを着てみようと張り切って歩くとぼやく者が居た。
「いいなぁ、私も買いたいなぁ」
「買えばいいだろ?」
自らの服や装備を見るフォーレ。
全て暑い土地でも快適に過ごせる装備だった。
それは冷却魔法が付与された服や鎧だ。
(後で複製してやろうと思ったが肌着位は買わないと)
そう思い服屋に行った。
流石に獣王国。
そして暑い国だ。
半袖、短パンが多い・・・
「リカルド」
「ハイ」
「なんか半袖しか無いけどさ長シャツ長ズボンとか、ちょっと見繕ってくれるか?」
「賜りました」
別々に店内を物色していると楽しそうに語りかけてくる男。
「モンドリアン! これも要ると思うぞ」
それは帽子で、売り場にはいろんな帽子が並んでいた。
エルヴィーノは、いつも布を額に当て耳を隠しているので帽子は被りたくは無いが、笑顔のフォーレに問われてついでに買う事にした。
「フォーレに任せるよ」
一通り買った物を試着室で着替えて外に出た。
「中々お似合いですよ」
透けるような薄い素材で砂のような色だ。
帽子は大きめで頭に巻いた布の上からでも被れ、首も隠れるほど”ヒサシ”が張り出さている。
後は肌着とタオルなどを選んでリカルドが清算した。
旅の費用は全てリカルドが担当する事になっている。
いつ、どこで、誰が、何を、いくら使ったか。
これを管理するように教会からの指示だった。
今回はフォーレの分も入るがエルヴィーノの”目的の為”なので”教祖”の許可も出ていた。
買い物を済ませ夕方近くになったので今日の宿を探す。
事前にリカルドが調べていたようで地図を元に案内されるのは街で一番良い宿だ。
宿に入り個別の部屋を用意させたのはフォーレと知り合って数日なので、まだ別々の方が良いだろうと考えたからだ。
エルヴィーノは自室から転移もするので誰も居ない方が良い事はリカルドも知っている。
リカルドの部屋で預かっていた大量の荷物を返し下の食堂に向った。
リカルドは整理してから来るらしい。
覚えたてのエスパシオ・ボルサ(空間バック)は容量が小さいのでエルヴィーノがリカルドの荷物を半分以上持っていた。
階段を下りて見渡せば既に薄暗い外の街並みに明るい食堂内。
流石に獣人が多い中でフォーレが手を振っていた。
「こっちですよ、モンドリアン!」
(子供じゃないから、そんなに大声で言わなくても解るし)
と思いながら近づく。
「何飲んでるの?」
「これはですね、穀物から作ったお酒ですよ」
「へぇ、何か泡立ってるよ?」
「そうなんです、それが特徴ですよ」
「じゃ俺も一杯貰おうかな」
カウンター越しに飲み物が届いた。
「「では乾杯」」
一口飲むと
「ヌルッ! マズッ!」
「ははははっ慣れると飲めますよ」
周りを見ると旨そうに飲む獣人が多い。
そして、ゲップ、ゲェェェェップ、ゲゲッッッップと飲んだ後にゲップしてる。
これはマナー的にどうなんだろうと思っているとフォーレもゲップしだす。
「モンドリアンは飲まないの?」
そもそも蒸し暑い店内で熱気を放つ獣人が犇めく中でヌルい酒を美味しいとは思わない。
エルヴィーノはグラキエース・マヒア(氷の魔法)で冷たくし氷も入れた。
「ゴクッゴクッ、ウン。冷たいと旨い!」
「えっ、そう?」
フォーレも真似した。
「確かに冷たい方が美味しいね!」
「「お変わりください!」」
ハモッた。
「モンドリアンこそ天才だね!」
「何が?」
「コレを冷たくして飲もうなんて誰も考えつかないよ!」
「そんなことないよ、所でさぁ」
「何?」
「回りの人が食べてるのは何?」
ほとんどの獣人たちが串に刺した物と煮物をツマミに酒を飲んでいた。
「私達も頼んでみましょう!」
店の店員に皆と”同じ物”を2人分注文した。
出て来たものは串に刺した赤くて長い物体を焼いてある物で片面に吸盤が沢山付いている。
それを甘辛酸っぱいタレに付けて食べる。
「「旨い!」」
そして泡の出る酒をグイッと飲む。
「「旨ぁい!」」
もう一皿は、いくつかの煮物だ。
これも辛いタレに付けて食べる。
「辛いけど・・・美味しいね」
「ウン」
食べながら返事をするエルヴィーノ。
どうやらフォーレも同様に旨い物が好きみたいだ。
「辛いタレを少な目にしたら良いんじゃない」
「俺はそのまま食べても、味が付いてるから美味しかったよ」
「そうですか、私もやってみます」
すると
「お客さん旅の冒険家かい? 」
「「ハイ」」
声を掛けて来たのは宿屋の持ち主兼、料理係りの獣人だった。
「あのぉ、つかぬ事をお聞きしますが変化の魔法は売っていないのですか?」
「あぁ、昔王都で事件があってな、魔法の販売・・・特に変化の魔法が全面禁止になったのさ」
エルヴィーノ達は顔を見合わせた。
「それで王都で何が有ったのですか?」
そう聞くと
「俺が言ったなんて誰にも言うなよ」
エルヴィーノ達は頷いた。
「良く覚えてないが数年前に城の姫様が何者かに攫われたそうだ。それでな、いろんな手段を使って攫ったヤツと行き先を探したそうだ。そしたらよ・・・何と、あの棘の王らしいんだ!」
エルヴィーノとフォーレはキョトンとして訊ねた。
「「棘の王!?」」
「あぁ? 知らねぇのか? 」
「「ハイ」」
「しかたねぇ、王都から遥か南に広大な棘の森が有る。そこに居るのは何千年、イヤ、何万年も生きていると言われる棘の王が住んでいるらしい」
「はぁ・・・」
「王族が金に糸目を付けず調べた結果がそれでよ、それからと言う物かなり熟練の冒険者や大勢の腕に覚えの有る者達が報酬目当てで向ったが誰も帰ってこないらしい。そしてもう10年近く立つのかな? 王都のギルドに行けば誰でも参加できる討伐と救出が依頼として出ているぞ」
(なるほど、そいつが原因か・・・)
「親父さん! なんだ? 棘の王ってどんなの?」
「さぁな俺も噂を聞いただけで詳しくは知らんからな。この町のギルドで聞いたらどうだ?」
「ありがとう親父さん。コレ10本追加ね!」
「ありがとよ」
「あっ酒も二つ追加で!」
「じゃ今用意して来るからな」
そう言って奥に入って行った。
「棘の王か・・・聞いた事有る? フォーレ」
「私はこの国に来たのが初めてなので、そのような存在が居る事自体知らなかったです」
「俺も」
しばし沈黙のまま2人は考えていた。
そこに遅れて現れたのがリカルドだった。
「お待たせしました」
「あぁ、随分遅かったな」
「済みません、いろいろと整理して時間が掛ってしまいました」
「先に頂いてますよ」
「では私も一杯頼みます」
エルヴィーノはニヤリとしながらフォーレに肘で合図を送り酒を注文した。
「リカルド」
「ハイ」
「この国ではググッと飲むのが習わしだから一緒に飲もう」
「畏まりました」
そして
「ではこれからの旅が順調に進むように、乾杯」
「「カンパーイ」」
三人はググッと飲み、エルヴィーノとフォーレはゴクゴクと喉を鳴らし、リカルドは一口で止まった。
「「ブハ――ッ」」
「クッ―旨いねぇ」
「全くです」
エルヴィーノ達を睨むリカルド。
「そんなに美味しいですか、これ? 」
「あぁ暑い時にはこの一杯だよなフォーレ」
「ハイ、リカルドもググッとやってください」
木のコップに入っているヌルい泡の出る酒を見るリカルド。
口に当てチビリ飲みをする。
「周りを見てみな皆美味しそうに飲んでるよ」
「そうですね・・・私には合わないようです」
そこに、さっき追加した酒と串が届いた。
エルヴィーノとフォーレは無言でグラキエース・マヒアを酒に掛けた。
それを見ていたリカルドは
「何しているのですか!」
「えっ、もっと美味しく飲む為に魔法を”自分”で掛けたんだよねーフォーレ!」
「はははっそうですよリカルド。自分の飲み物は自分で冷やすのです」
そして2人はゴクゴクと飲みブハーッとする。
羨ましそうに見るリカルドは実の所、グラキエース・マヒアが得意では無かったが意地を見せた。
(冷やすだけならば調節なので比較的に簡単ですね。これも乗り越えなければならない試練の1つでしょう。やりますよ、私も。美味しいお酒が飲みたいですからね)
心で叫びながら真面目な顔でコップを両手で持ちながら集中してリカルドは唱えた。
「グラキエース・マヒア!」
ピキッ
「あっ、凍った」
凍った酒を見ているリカルドに救いの手を差し伸べるエルヴィーノ。
「仕方ないな一杯はサービスだから、この国にいる間にその位は出来るようになりな」
「畏まりました」
しょげるリカルドに冷たい酒を造ってやった。
「そら、飲んでみな」
コップを受け取り口に当て飲むリカルドは目が見開いた!
そしてゴクゴクと一息に飲んで見せた。
「ブハーッ獣王国の酒はこんなに美味しかったのですか!」
冷たさと喉越しがたまらなく美味しかったリカルドは大きな声でそう言ったものだから、周りに居た獣人達が集まって来た。
「ほぉ俺達の酒がそんなに旨いのか?」
「ハイ、余りの旨さに一息で飲みましたよ」
「そうか、じゃ俺の酒も飲んでみな」
そう言って手渡ししたコップはエルヴィーノが受け取り、目で合図をしてリカルドに渡した。
そして”ごくごくごくっブハーッ”と飲み干した。
「なるほど本当に旨そうに飲みやがる。皆見たか?」
「オー!」
「俺達の酒をこんなに旨そうに飲んだ人族は初めてだな?」
「そうだそうだ」
「じゃ皆で飲むぞぉ!」
「オー」
次から次へと出てくる酒。
流石に5杯以上は苦しかった。
エルヴィーノはさっき話しかけてきた一番体格のいい強そうな黄色と黒模様のガトー族の獣人に話しかけた。
「あのぉ」
「何だ、どうした、飲んでるか?」
「ハイ、宿の親父さんに聞いたのですが棘の王ってどんな存在なのですか?」
「あぁ? クソ親父が余計な事を喋りやがって・・・お前ら何でそんな事が知りたいんだ?」
エルヴィーノは簡単に説明した。
変化の魔法が欲しくてこの国に来たら販売停止になっていて、理由を聞いたら姫様が棘の王に攫われたからだと。
「それで救出に沢山の冒険者が向かったが誰も帰ってこないから、どれだけ強いのかなって」
「と言う事は、お前達は冒険者か?」
「ハイ」
「フ~ム・・・」
考え込む黄色と黒で縞々の獣人。
「王都のギルドで正式に依頼を受ければいいだろう。この町では無く王都のギルドだったらある程度の説明はするはずだ」
「そうですか、ありがとうございます」
その夜、皆飲んだくれて最後はヌルい酒とも気づかずに飲んでいたリカルドだった。
明日の事も知らずに・・・
あとがき
次は王都ですか?
二日酔いですか?
エルヴィーノは既に成人なので酒精を嗜みます。
とは言え、3人の中で一番身長が低いです。(成長中)
ただし、一番年長者です。(種族が違うので)
いろんな事が有ったけどロリとの賭けに勝ったし堂々と旅立つ事が出来る。
目指すは獣王国バリエンテの港街リベルタで王都アレグリアに一番近くに教会がある街だ。
午後の良い時間に中央教会に集まったエルヴィーノ達は地下の転移魔法陣で移動する事となった。
「教会の魔法陣は関係者しか使えないはずですが・・・」
それを知っていたフォーレに種明かしする。
「ちょっと知り合いにコネが有ってね。それに”関係者”も1人居るだろ」
そんな話をしていると、パブロがやって来た。
「今回はリベルタだって? 時間は大丈夫か?」
「今回は調査なので安心ですよ」
パブロとリカルドの会話にエルヴィーノが入る。
「リベルタからアレグリアまではどの位かかるの?」
「そうですね・・・馬車で一週間ほどですか」
「そんなに遠いの?」
「結構近い方ですよ、あの国は我が国よりも広大な土地ですから」
「そうなんだ・・・」
世の中はエルヴィーノの知らない事だらけだ。
後で聞いたが以前聞いた王都イグレシアから近かったのは国境の街だった。
パブロに案内されて4人で転移する事になる。
転移先はいつもと変わらない風景とヒンヤリした地下室だ。
だが、階段を昇るとムワッとした空気が漂ってきた。
リベルタにある教会の1階は全ての窓と扉を開けて風を通しているがそれでも暑い。
「では皆さんお気を付けて」
パブロは笑顔で見送っていた。
(多分直ぐに帰るんだな・・・)
まさかこんなに暑いとは思わなかった。
(あっリカルドは法衣だからもっと暑いのでは?)
心配して見ると普通だ。
むしろ涼しい顔をしている。
「リカルド」
「ハイ」
「暑く無いの?」
「獣王国は熱いので対策を取ってあります」
「なんだと!」
「触って見られますか?」
法衣を触ると、見た目は同じだが素材が違う。
透けるような薄さでサラサラした手触り。
同様の素材で全部仕上げてあった。
「私もですよ」
そう言ってフォーレも自慢する。
「暑くは無いのモンドリアン?」
「暑いに決まっているだろ! 誰も教えてくれないんだもんな」
ジト目でリカルドを見た。
「申し訳ありません、直ぐに新しい装備の手配を致します」
「チョット待った。どうせなら、この町で買おう」
郷に入れば郷に従えと思い土地のモノを着てみようと張り切って歩くとぼやく者が居た。
「いいなぁ、私も買いたいなぁ」
「買えばいいだろ?」
自らの服や装備を見るフォーレ。
全て暑い土地でも快適に過ごせる装備だった。
それは冷却魔法が付与された服や鎧だ。
(後で複製してやろうと思ったが肌着位は買わないと)
そう思い服屋に行った。
流石に獣王国。
そして暑い国だ。
半袖、短パンが多い・・・
「リカルド」
「ハイ」
「なんか半袖しか無いけどさ長シャツ長ズボンとか、ちょっと見繕ってくれるか?」
「賜りました」
別々に店内を物色していると楽しそうに語りかけてくる男。
「モンドリアン! これも要ると思うぞ」
それは帽子で、売り場にはいろんな帽子が並んでいた。
エルヴィーノは、いつも布を額に当て耳を隠しているので帽子は被りたくは無いが、笑顔のフォーレに問われてついでに買う事にした。
「フォーレに任せるよ」
一通り買った物を試着室で着替えて外に出た。
「中々お似合いですよ」
透けるような薄い素材で砂のような色だ。
帽子は大きめで頭に巻いた布の上からでも被れ、首も隠れるほど”ヒサシ”が張り出さている。
後は肌着とタオルなどを選んでリカルドが清算した。
旅の費用は全てリカルドが担当する事になっている。
いつ、どこで、誰が、何を、いくら使ったか。
これを管理するように教会からの指示だった。
今回はフォーレの分も入るがエルヴィーノの”目的の為”なので”教祖”の許可も出ていた。
買い物を済ませ夕方近くになったので今日の宿を探す。
事前にリカルドが調べていたようで地図を元に案内されるのは街で一番良い宿だ。
宿に入り個別の部屋を用意させたのはフォーレと知り合って数日なので、まだ別々の方が良いだろうと考えたからだ。
エルヴィーノは自室から転移もするので誰も居ない方が良い事はリカルドも知っている。
リカルドの部屋で預かっていた大量の荷物を返し下の食堂に向った。
リカルドは整理してから来るらしい。
覚えたてのエスパシオ・ボルサ(空間バック)は容量が小さいのでエルヴィーノがリカルドの荷物を半分以上持っていた。
階段を下りて見渡せば既に薄暗い外の街並みに明るい食堂内。
流石に獣人が多い中でフォーレが手を振っていた。
「こっちですよ、モンドリアン!」
(子供じゃないから、そんなに大声で言わなくても解るし)
と思いながら近づく。
「何飲んでるの?」
「これはですね、穀物から作ったお酒ですよ」
「へぇ、何か泡立ってるよ?」
「そうなんです、それが特徴ですよ」
「じゃ俺も一杯貰おうかな」
カウンター越しに飲み物が届いた。
「「では乾杯」」
一口飲むと
「ヌルッ! マズッ!」
「ははははっ慣れると飲めますよ」
周りを見ると旨そうに飲む獣人が多い。
そして、ゲップ、ゲェェェェップ、ゲゲッッッップと飲んだ後にゲップしてる。
これはマナー的にどうなんだろうと思っているとフォーレもゲップしだす。
「モンドリアンは飲まないの?」
そもそも蒸し暑い店内で熱気を放つ獣人が犇めく中でヌルい酒を美味しいとは思わない。
エルヴィーノはグラキエース・マヒア(氷の魔法)で冷たくし氷も入れた。
「ゴクッゴクッ、ウン。冷たいと旨い!」
「えっ、そう?」
フォーレも真似した。
「確かに冷たい方が美味しいね!」
「「お変わりください!」」
ハモッた。
「モンドリアンこそ天才だね!」
「何が?」
「コレを冷たくして飲もうなんて誰も考えつかないよ!」
「そんなことないよ、所でさぁ」
「何?」
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それを甘辛酸っぱいタレに付けて食べる。
「「旨い!」」
そして泡の出る酒をグイッと飲む。
「「旨ぁい!」」
もう一皿は、いくつかの煮物だ。
これも辛いタレに付けて食べる。
「辛いけど・・・美味しいね」
「ウン」
食べながら返事をするエルヴィーノ。
どうやらフォーレも同様に旨い物が好きみたいだ。
「辛いタレを少な目にしたら良いんじゃない」
「俺はそのまま食べても、味が付いてるから美味しかったよ」
「そうですか、私もやってみます」
すると
「お客さん旅の冒険家かい? 」
「「ハイ」」
声を掛けて来たのは宿屋の持ち主兼、料理係りの獣人だった。
「あのぉ、つかぬ事をお聞きしますが変化の魔法は売っていないのですか?」
「あぁ、昔王都で事件があってな、魔法の販売・・・特に変化の魔法が全面禁止になったのさ」
エルヴィーノ達は顔を見合わせた。
「それで王都で何が有ったのですか?」
そう聞くと
「俺が言ったなんて誰にも言うなよ」
エルヴィーノ達は頷いた。
「良く覚えてないが数年前に城の姫様が何者かに攫われたそうだ。それでな、いろんな手段を使って攫ったヤツと行き先を探したそうだ。そしたらよ・・・何と、あの棘の王らしいんだ!」
エルヴィーノとフォーレはキョトンとして訊ねた。
「「棘の王!?」」
「あぁ? 知らねぇのか? 」
「「ハイ」」
「しかたねぇ、王都から遥か南に広大な棘の森が有る。そこに居るのは何千年、イヤ、何万年も生きていると言われる棘の王が住んでいるらしい」
「はぁ・・・」
「王族が金に糸目を付けず調べた結果がそれでよ、それからと言う物かなり熟練の冒険者や大勢の腕に覚えの有る者達が報酬目当てで向ったが誰も帰ってこないらしい。そしてもう10年近く立つのかな? 王都のギルドに行けば誰でも参加できる討伐と救出が依頼として出ているぞ」
(なるほど、そいつが原因か・・・)
「親父さん! なんだ? 棘の王ってどんなの?」
「さぁな俺も噂を聞いただけで詳しくは知らんからな。この町のギルドで聞いたらどうだ?」
「ありがとう親父さん。コレ10本追加ね!」
「ありがとよ」
「あっ酒も二つ追加で!」
「じゃ今用意して来るからな」
そう言って奥に入って行った。
「棘の王か・・・聞いた事有る? フォーレ」
「私はこの国に来たのが初めてなので、そのような存在が居る事自体知らなかったです」
「俺も」
しばし沈黙のまま2人は考えていた。
そこに遅れて現れたのがリカルドだった。
「お待たせしました」
「あぁ、随分遅かったな」
「済みません、いろいろと整理して時間が掛ってしまいました」
「先に頂いてますよ」
「では私も一杯頼みます」
エルヴィーノはニヤリとしながらフォーレに肘で合図を送り酒を注文した。
「リカルド」
「ハイ」
「この国ではググッと飲むのが習わしだから一緒に飲もう」
「畏まりました」
そして
「ではこれからの旅が順調に進むように、乾杯」
「「カンパーイ」」
三人はググッと飲み、エルヴィーノとフォーレはゴクゴクと喉を鳴らし、リカルドは一口で止まった。
「「ブハ――ッ」」
「クッ―旨いねぇ」
「全くです」
エルヴィーノ達を睨むリカルド。
「そんなに美味しいですか、これ? 」
「あぁ暑い時にはこの一杯だよなフォーレ」
「ハイ、リカルドもググッとやってください」
木のコップに入っているヌルい泡の出る酒を見るリカルド。
口に当てチビリ飲みをする。
「周りを見てみな皆美味しそうに飲んでるよ」
「そうですね・・・私には合わないようです」
そこに、さっき追加した酒と串が届いた。
エルヴィーノとフォーレは無言でグラキエース・マヒアを酒に掛けた。
それを見ていたリカルドは
「何しているのですか!」
「えっ、もっと美味しく飲む為に魔法を”自分”で掛けたんだよねーフォーレ!」
「はははっそうですよリカルド。自分の飲み物は自分で冷やすのです」
そして2人はゴクゴクと飲みブハーッとする。
羨ましそうに見るリカルドは実の所、グラキエース・マヒアが得意では無かったが意地を見せた。
(冷やすだけならば調節なので比較的に簡単ですね。これも乗り越えなければならない試練の1つでしょう。やりますよ、私も。美味しいお酒が飲みたいですからね)
心で叫びながら真面目な顔でコップを両手で持ちながら集中してリカルドは唱えた。
「グラキエース・マヒア!」
ピキッ
「あっ、凍った」
凍った酒を見ているリカルドに救いの手を差し伸べるエルヴィーノ。
「仕方ないな一杯はサービスだから、この国にいる間にその位は出来るようになりな」
「畏まりました」
しょげるリカルドに冷たい酒を造ってやった。
「そら、飲んでみな」
コップを受け取り口に当て飲むリカルドは目が見開いた!
そしてゴクゴクと一息に飲んで見せた。
「ブハーッ獣王国の酒はこんなに美味しかったのですか!」
冷たさと喉越しがたまらなく美味しかったリカルドは大きな声でそう言ったものだから、周りに居た獣人達が集まって来た。
「ほぉ俺達の酒がそんなに旨いのか?」
「ハイ、余りの旨さに一息で飲みましたよ」
「そうか、じゃ俺の酒も飲んでみな」
そう言って手渡ししたコップはエルヴィーノが受け取り、目で合図をしてリカルドに渡した。
そして”ごくごくごくっブハーッ”と飲み干した。
「なるほど本当に旨そうに飲みやがる。皆見たか?」
「オー!」
「俺達の酒をこんなに旨そうに飲んだ人族は初めてだな?」
「そうだそうだ」
「じゃ皆で飲むぞぉ!」
「オー」
次から次へと出てくる酒。
流石に5杯以上は苦しかった。
エルヴィーノはさっき話しかけてきた一番体格のいい強そうな黄色と黒模様のガトー族の獣人に話しかけた。
「あのぉ」
「何だ、どうした、飲んでるか?」
「ハイ、宿の親父さんに聞いたのですが棘の王ってどんな存在なのですか?」
「あぁ? クソ親父が余計な事を喋りやがって・・・お前ら何でそんな事が知りたいんだ?」
エルヴィーノは簡単に説明した。
変化の魔法が欲しくてこの国に来たら販売停止になっていて、理由を聞いたら姫様が棘の王に攫われたからだと。
「それで救出に沢山の冒険者が向かったが誰も帰ってこないから、どれだけ強いのかなって」
「と言う事は、お前達は冒険者か?」
「ハイ」
「フ~ム・・・」
考え込む黄色と黒で縞々の獣人。
「王都のギルドで正式に依頼を受ければいいだろう。この町では無く王都のギルドだったらある程度の説明はするはずだ」
「そうですか、ありがとうございます」
その夜、皆飲んだくれて最後はヌルい酒とも気づかずに飲んでいたリカルドだった。
明日の事も知らずに・・・
あとがき
次は王都ですか?
二日酔いですか?
エルヴィーノは既に成人なので酒精を嗜みます。
とは言え、3人の中で一番身長が低いです。(成長中)
ただし、一番年長者です。(種族が違うので)
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クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
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レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
勇者はいいですって言ったよね!〜死地のダンジョンから幼馴染を救え!勇者?いらないです!僕は好きな女性を守りたいだけだから!〜
KeyBow
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異世界に転生する時に神に対し勇者はやっぱいいですとやらないとの意味で言ったが、良いですと思われたようで、意にそぐわないのに勇者として転生させられた。そして16歳になり、通称死地のダンジョンに大事な幼馴染と共に送り込まれた。スローライフを希望している勇者転生した男の悲哀の物語。目指せスローライフ!何故かチート能力を身に着ける。その力を使い好きな子を救いたかっただけだが、ダンジョンで多くの恋と出会う?・・・
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
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訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
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自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
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