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第2章 聖魔法王国編

第30話 もう1つの旅立ち

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エルフの国メディテッラネウスから山脈を挟んで大陸側に港町ゴルフィーニョがある。
更にそこから内陸に歩いて10日でクラベルと言う小さな町がある。
後日エルヴィーノと出会ってから聖魔法王国の聖女様が滞在していると、噂は近隣の村にまで届くようになる。


エルフの国メディテッラネウスは標高約3000m級の山脈のおかげで交通手段は限られているが、人族との争いも無かった。
山の向こうは聖魔法王国と言う巨大国家が存在する。
王家の直系は古代の神たる聖龍の血を引いていると信じている人族だ。
当然サント・マヒア神聖魔法ブランコ・マヒア白魔法に特化している。
これも当然だがオスクロ・マヒア暗黒魔法は使えない。
多分ダークエルフ以外で使えるのは魔族くらいだろう。


聖魔法王国アルモニアの王都イグレシア。
王宮の更に奥に一族だけが住む地域がある。
その一角に秘密の場所があり、長い階段で地下に降りると聖魔法王国の由来ともなる場所。
神聖なる場所であり崇拝の対象物【神の坐する場所】が有る。

ロリ・ヴァネッサ・シャイニングの母、祖母、曾祖母が【神の坐する場所】の前でロリに問いかける。

「我らの神聖な血を受け継ぐ者ロリよ」
「ハイ」
「我ら3人はそなたが産まれた時から運勢を占っておる。この5年ほどは誰が占っても同じような結果が出る。知りたいか? ロリよ」
「ハイ。曾御婆様」
「ウム。我らの出した占いは・・・」


「これより半年後、海沿いの港町ゴルフィーニョから一番近い町クラベルに、お前の運命を共にする男が現れるだろう。その男は漆黒の髪と、黒水晶のような瞳を持っておる。ただし・・・この者、かなり強い星の下に産まれておるのだろう、ワシも今までこれ程の強烈な運勢を見た事は無い。お前にとって良くない男かも知れんぞ。良く良く見定める事じゃ」

母親が助言する。
「ロリ・・・良くお聞き。私も貴女あなたと同じように亡くなった曾御婆様からご神託を頂いたわ。でも、それを信じるか信じないかは貴女次第よ」
「お母様はどうされたのですか?」
「フフフッ、知りたい? 貴女のお父様は、貴女にとって曾々御婆様達が占った男性よ」

微笑む親子。
「私と出会う前までは自分こそが最強の勇者とか言っていたけど、今では貴女や妹にメロメロでしょ? でも、貴女がその男に身も心も全て捧げるのか、もしくは敵対するかは、貴女が自分の目で見て、よく考えて判断しなさい。私達がそうしてきたように」



15歳で成人したが神聖魔法の奥義を取得するために1年半もかかっていたロリだ。
何故ならその魔法を取得しなければ聖女の位に就けなかったからだ。
聖女は20歳前に就く事が理想とされていた。
別に20歳を超えても構わないが、そこには一族の女としての意地が垣間見える。

聖魔法王国アルモニアで聖女とは・・・

禁忌とされている死者蘇生の神聖魔法レスシタシィオンを扱える事だ。
誰もが扱えない魔法で、誰にでも行使出来ない魔法だ。
魂の盟約で自然の摂理と秩序を守り、神に許しを請いその力を発揮出来る者。
それが聖女と呼ばれる女性達だ。

勿論その人数は少なく、王家の直系女子は聖女が多い。
因みに王家は女系で全て婿入りだ。
当然ながら聖女にも基準があり、駆け出しの聖女は蘇るだけから、高位の聖女は完全回復まで出来る。
この聖魔法王国アルモニアには王家を除けば100人程の聖女がいて全国の教会に散らばっている。
ロリの評価は5段階で言うなれば3。
まぁまぁの水準だが完全回復はまだ出来ない。

今年で18歳になるロリはエルフの血も入っているのか金色がかった薄ピンク色でボリュームのある髪をしている。
童顔の彼女はパッチリとした二重で瞳は青空のように吸い込まれるような碧眼と、薄紅色の口元はいつも笑みを浮かべている。
真っ白の布で金糸を使った刺繍が、襟、袖口、裾回り、帯に施されている法衣を纏っていた。
その身体を足元まで覆う法衣は魔法防御、物理攻撃防御の魔法が常時発動中だ。

サント・マヒア神聖魔法使い。
ロリ・ヴァネッサ・シャイニング、17歳と半年。聖魔法王国リアム・ガブリエル・シャイニング(父)と、 プリマベラ・ウリエル・シャイニング(母)の第1王女。
まだ5歳で妹のセリシャがいる。



※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez



そして、あっという間に5ヶ月が経ち、旅立ちの時が来た。
占いは半年後だったが厳密では無い。
すれ違いを考慮し一月前に町に行き待ち構える作戦を取る。

「お父様、お母様、お祖母様、お祖父様、曾お祖母様。ロリはこれから旅立ちます」
「ロリィ・・・ロリよぉ・・・」
メソメソする国王。

最愛の娘が男を探しに旅立つ姿を見て叫ぶ国王。
「なぜロリが男を探さねばならん。私は納得いか~ん! このような忌まわしき伝統など止めてしまえ!!」

泣きながらわめく国王に妻、祖母、曾祖母が文句を言う。
「「「お前(あなた)は自分の事も忘れて良くそんな事が言えるわい。(ますわね)」」」

妻達に睨まれて黙る国王。
「では、行ってまいります」
ロリが笑いながら挨拶を済ます。


とは言っても神聖魔法王国には神聖教会が有り、王国の町には必ず教会が有る。
そして教会には祭壇の地下に必ず転移魔法陣が設置してある。
向かったのは王都イグレシアの神聖中央教会大聖堂だった。


「大司教様おはようございます」
「おぉ来たか来たかロリよ。準備は整っておるぞ」
「ありがとうございます大司教様」
大司教は曾御婆様の婿さんで曾御祖父様だ。
これも代々決まっている。


直系の娘が婿を連れて帰ると王の交代。
若い国王には前国王から国の活性化と新しい発想を求められる。
前王は相談役兼大司教補佐になる。
次に大司教になる。
その後は自由人となり全ての権限を捨てて自由に生きる権利がもらえるが、既にヨボヨボだ。
介護が必要な老人である。
ただ、何もしなくともお金はもらえる。
教祖は曾御婆様ひいおばあさまで直系の女性だ。


「さて、ロリよ」
「ハイ、大司教様」
「ウム、クラベルと言う街の教会に司祭がおるからの。連絡はしてある。向こうで思うぞんぶん暴れてくるが良い」
「大司教様! 私は暴れに行くわけではありません」
「ハッハッハッハッ。お前はワシの嫁の曾孫じゃ。暴れない訳がない!」
「もう大司教様ったら・・・」
昔を思い出しいつまでもニヤついている大司教に「では準備をお願いします」とロリが言う。

ロリが着用するのは外出用で控えめのフード付きの純白の法衣で"白い糸"を使った刺繍が、襟周り、袖口、裾回り、帯に施されている。

王宮内に居た時と同じく足元まで覆う法衣は魔法防御、物理攻撃防御魔法が常時発動中だ。
そして、魔法の杖。
杖の先には銀の装飾とその中に5cm程の魔力石が入っている。
後は背負い鞄の中に、下着、お金、教会の本、お祈りの為の宝珠、布のタオル数枚、衣類数枚、飲み水入れ、大きな布など。

「ではロリよ。良き旅を」
「ハイ、大司教様。行ってまいります」

転移魔法陣が光出しロリは目をつむる。
光の本流が魔法陣から沸き立つと一瞬で光が終息するのを感じた。
目を開けると見慣れない場所。
狭い空間に祭壇と魔法陣だけが有る。
部屋の片隅にいた司祭が語りかけて来た。


「聖女ロリ様よくぞクラベルにいらっしゃいました。私はクラベルの教会で司祭をしておりますリカルドと申します。何なりとこのリカルドにお申し付けください」
「ありがとうリカルド。では、町を案内して頂けますか?」
「ハイ。では早速」

教会を出たロリとリカルド。
歩きながらリカルドに町の説明をしてもらう。

「クラベルの町は人口300人ほどでして、主に農作物の生産が主体の町です。決して裕福ではありませんが、餓えた事も有りませんし、極貧ではございません。港町ゴルフィーニョと交互取引もありますし、近隣の村には動物の飼育も行なっているので食料はかなり流通しております」

聖魔法王国は町や村単位で生産や飼育する動物などが決められていた。
大きな街は比較的災害も無く警備も多いが、点在する小さな村は一か所で全ての食糧をまかなう事も難しく、魔物の襲来等警備を置く余裕も無い。
今では国も栄え文化も発展してきたが、昔は魔物と戦いながら暮らして居たらしい。
今も魔物は存在するが昔のように頻繁に町や村を襲ったりはしないようだ。

これは昔の聖魔法王国の教祖や大司教が考えた案で、魔物の生息地と人の生活地を区分けする事で互いに干渉しなければ衝突や問題が起きないだろうと考案されたものだ。
新しい町や村を作っていた昔ならともかく今は平和だそうだ。
もちろん例外もある。

飢饉や天災だ。
これは人にも魔物にもどちらも起こる事態なので、飢饉が地方で起きる可能性があると、大きな街か王都から食料や兵士が派遣される。

こうして長い時間を掛けて巨大国家となった聖魔法王国の教祖直系の聖女がちっぽけな町にやって来たのだ。
そこの教会の司祭が緊張しない訳が無い。
いずれ教祖様となられる御方。
どんな小さな失敗も許される事では無いとリカルドは自覚しているし、司教様からも全てにおいて報告するようにと指令が出ていた。
小さい町の案内は1時間もかからない。
ロリは今回、重要な使命が有るので人と会うのは避けていた。
町長にも今日は合わなかった。
案内が終わると、これからの滞在する場所をリカルドに訊ねた。

「私はどちらで寝泊まりするのでしょうか?」
教会には宿泊施設など無いのでリカルドが答える。

「村に1軒しかない宿屋でのご宿泊になります」
「そうですか。宿屋が1軒しかないのなら占いの方もここに泊まるはずね。では宿屋で部屋を取りに行きましょう」サラッと重要な事を口走るがリカルドには意味不明だった。

そう言って先ほど通った道に戻り2階建ての宿屋の前に来た。
宿屋くらべる。
町の名前そのままだ。
宿に入り、受付に居た夫婦と思われる2人に声を掛けた。

「今日から暫く部屋を借りたいのですが空いていますか?」
「えぇ空いてますよ」奥さんらしき人が答える。

「やぁミゲル。カタリナさんも」
「おぉ、どうしたリカルド」
「部屋を借りたい。1番良い部屋を頼むぞ」
「うちは全部同じ部屋だよ」とカタリナと話していると
「リカルド、こちらの人は?」とミゲルが聞いてきた。

「あぁ、我らが聖魔法王国の教祖様直系の聖女であらせられるロリ様だ」
「せ、せ、聖女様!」ミゲルが後ずさりする。
「オ、オイお前、1番良い部屋にご案内しろ」
「あぁ? 全部同じ部屋だって知っているでしょ。何、舞い上がっているんだい、あんたわ」
「すみませんねぇ聖女様。うちみたいな宿屋で良いかい? ろくな設備も無いけどさぁ・・・」
「えぇ構いませんよ」
「そう言う訳だ。カタリナさん案内を頼む」
ロリを連れて2階の奥の部屋に案内する。

「なぁミゲル」
「なんだリカルド?」
「宿を全部貸切りたい」
「はっ? 本気で言ってるのか?」
「当たり前だ。教祖様直系の聖女様だぞ! ゆくゆくはこの聖魔法王国の教祖様になられる御方だ。もしもの事が有ってはならないのだ」
「まぁ金さえ払ってくれれば良いけどよ・・・他の旅人が来たらどうするんだ?」
「満室だって言えばいいだろ。金は払うんだから」
「一応、嫁に聞いても良いか?」
「あぁ後でな。金は今直ぐにでも払う。どうせ旅人など、ほとんど村に泊まらないだろ?」
「それを言うなよ」
「それから、もしも部屋を貸す場合は私にも言ってくれ、その時は私も泊まるからな。あと、聖女様の隣の部屋は絶対に誰も入れないでくれ。前の部屋もだ」
「解った」

「聖女様、こちらの部屋になります」
カタリナに案内されて部屋に入ったロリ。
狭い部屋だ。
大きくないベッドと小さなテーブルと椅子。
何かを入れて置く為の箱。
窓も、調度品も全て木で作られている。
質素で簡素な部屋だ。

「すみませんねぇ聖女様、うちは全部同じ作りなもので。だから角部屋にしておきましたよ。後、朝食は夜に、昼食は朝に、夕食は昼か夕方に教えてください。1階での食事になります。桶と水が必要でしたら教えてください。後で届けます」

「解りました。では1度下に行ってリカルドと今後の予定を話したいと思います」
そう言って2人は1階に戻ってきた。

「リカルド」
「ハイ、聖女様」
「ちょっと今後の事でお話がありますが・・・」
「では、こちらへ」

リカルドが案内したのは受付の前にある食事をする割と広い場所。
「カタリナさん何か飲み物を・・・」
「紅茶で良いかい?」
「あぁお願いします」

ロリとリカルドが打ち合わせで食堂に行くと、ミゲルがさっきリカルドと話した内容をカタリナに教える。すると
「いい話だよ、あんた。全部借りてもらって。桶も水も無料で用意するって伝えてよ」
「良し、解った」

リカルドに近づき先程の返事をするミゲル。
「さっきの話はありがたく受けさせてもらうよ。桶も水も毎日無料で用意するぞ」
「ありがとうミゲル」
そう言って答えるリカルドにロリが質問する。

「今回私がこの町に来た理由は知っていますか?」
「いいえ、聖女様。私のような者に聖女様の行動理由を知る必要はございません」

ロリは内心恥ずかしかった。
今の自分の行動理由・・・男を探しているなどと・・・・だから一応確認してみた。

「今回の目的は我らの聖魔法王国に多大な影響を与える者を捕まえに来たのです」
「なっ! そのような者が近くに居るのですか? まさか聖女様御1人で相手をされるのですか? そのような危険な真似は絶対に反対です」
リカルドが怒るのも無理は無い。
まるで犯罪者を捕まえに来たような言い方だった。

慌ててロリが訂正する。
「いいえ違いますよリカルド。その方は普通の方で、その方の協力を得たいのです。それこそが私の天命ですから」

“私の天命”。
その言葉を聞いたリカルドは驚愕し確認した。

「そっ、それはまさかっ、未来の国王ですか?」ロリは頷いた。
「そのような大事がこの町で・・・」ワナワナと震えるリカルド。
司祭であるリカルドは王国の慣わしを知っているので直ぐに理解したのだ。

「リカルド、良いですか?」
「ハイ聖女様。この事は他言無用です。我が一族しか知らない事。貴方がこの町の司祭をしていたのも天命でしょう」
「ハイ」
「そして、私の目的が成就するように手助けしてください」
「ハイ。この命に変えましても、聖女様のお役に立つよう頑張ります」
「ありがとうリカルド。期待しています」
「ハイ、何なりとお申し付けください」

その数日後、ロリは目的の男と戦う事になるとは夢にも思わなかった。













あとがき
ロリが男をあさりに町の入口に立つ。
黒髪、黒目を探して・・・
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