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第四章

第四章 ~『グリフォン討伐』~

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 時は過ぎ、魔物討伐競争は最終日を迎えた。ポイントに大きな差はないが、一日で逆転するにはランクCの魔物を倒すしかない。

 追い詰められた状況で、アリアは賭けに出ることを決意する。アイアンスライムの捜索を諦め、さらなる強敵に挑戦することにしたのだ。

(この先にグリフォンがいるのですね)

 カイトに案内されてグリフォンが陣取る丘までやってくる。聞いていた通り、足元に金貨を貯めていた。茂みから観察しているが、動く気配はない。

「私たちが近づいていることに気が付いているでしょうか?」
「可能性は高いでしょうね」

 この一週間、アイアンスライムを発見できなかった場合に備えて、カイトたちはグリフォンから情報を収集してくれていた。

 その中でも特に有用な情報は、遠距離からの攻撃を察知する早さだ。離れた位置から弓を構えただけで、グリフォンは察知し、威嚇の声をあげてくる。

「魔物としての特性の可能性もありますが、魔力を発していたので、おそらく魔術によるものでしょうね」
「遠くの物を見通せる『遠視』あたりの能力でしょうね」

 空を飛ぶグリフォンにとって、遠くまで見渡せる力は相性がよく、定位置から動かずに相手の動向を探ることもできる。

(不意打ち対策なら有用な力ですが、ギン様なら正面突破できますから関係ありませんね)

 アリアはギンとシルフを召喚すると、カイトと共に茂みから飛び出す。この闘いの決着がバージルとの競争の結果にも繋がる。負けるわけにはいかないと、ギンが雄叫びをあげた。

「ギン様、お願いします!」

 アリアの命令に従い、ギンが突撃する。その援護のため、シルフも炎の弾丸をグリフォンに放つ。

「ギイイイイッ」

 グリフォンが魔力を含んだ叫び声をあげる。大気を震わせるほどの声に、炎は掻き消されてしまう。

(やっぱり今まで戦った魔物とは規格外の強さですね)

 アイアンスライムとは違う。純粋な戦闘力でランクCに君臨する怪物の強さを改めて実感する。

(でもギン様も負けてはいません)

 ギンが声に怯む様子はない。勢いを維持したまま、牙を剥き出しにして飛び掛かる。しかしグリフォンは空を飛んで、ギンの攻撃を躱す。

(空を飛ばれたのは厄介ですね……)

 ギンは対空攻撃の手段を持たない。同じ空を飛べるシルフの魔術もグリフォン相手だと掻き消されてしまう。

(狙うのはギン様を攻撃するために地上へ落下してきたタイミングですね)

 グリフォンは空を旋回してタイミングを伺う。何度か空を回った後、嘴を尖らせて、急降下してくる。

「ギン様!」

 重力で勢いを乗せた嘴が地上に突き刺さる。砂煙を巻き上げるほどの一撃だが、ギンはその攻撃を躱すことに成功していた。

(やっぱり加速の魔術は便利ですね)

 アイアンスライムから手に入れた魔術は、ギンに習得させていた。接近戦を主体とするギンだからこそ活かせる能力だと判断したためだ。

「いまです、ギン様!」

 グリフォンが上空に逃げるよりも前に一撃を加える必要がある。アリアの合図を受けて飛び掛かるギンだが、一瞬の差で、グリフォンが逃げる方が速かった。

「間に合いませんでしたか……」

 だがギンの牙が届きさえすれば倒せる。それをグリフォンも理解しているからこそ、上空へ逃げたのだ。

(ギン様なら次こそは……)

 僅かなタイミングの差ならギンは修正してくる。相棒の優秀さに確信しているからこそ、勝算を実感していた。

 グリフォンは再び上空を旋回する。獲物を狙うようにグルグルと回っていた。何を考えているのかと疑問を覚えていると、急降下を開始する。

(この方向……まさか、狙いは私ですか⁉)

 ランクCの魔物は知能も高い。指示を出しているのがアリアだと気づいたのだ。

 アリアの身体能力では躱せない一撃だ。死を覚悟して、目を閉じる。視界が闇に包まれるが、痛みは生じなかった。

 瞼を開くと、カイトが刀で落下してくる嘴を受け止めてくれていた。歯を食いしばりながら重い一撃に耐えている。

「カ、カイト様!」
「アリアさん、刀の治療を!」
「は、はい」

 嘴を止めている刀に亀裂が奔る。すべての魔力を集中させても、グリフォンの一撃に刀の耐久力が追い付かなかったのだ。

 アリアは回復魔術で刀を治療する。亀裂が消え、万全の状態へと復活するが、ピンチなのは変わらない。グリフォンは目の前におり、頼みの綱のギンとは距離があるからだ。

(このままでは負けてしまいます……)

 心が挫けそうになった時だ。刀を手にした新たな人影が近づいてくる。

「師匠もカイトも、良く持ちこたえてくれた」
「シン様!」

 どうしてここにとは訊ねない。呪いに耐えながらも、グリフォン討伐のために駆けつけてくれたのだ。

(でもランクCのグリフォン相手では……)

 過去の履歴では、シンがランクCを倒した記録はない。体調が万全の状態でないのに、格上にその力が通用するとは思えなかった。

「師匠、心配は無用だ。私も成長している」

 シンは刀を上段に構える。魔力が刀身に集まり、淡い輝きを放つ。

「綺麗ですね……」

 ポツリとそんな感想を漏らすほどに美しい魔力を放ちながら、刀が振るわれる。その一撃は視認できないほど速く振り下ろされた。

 グリフォンは空に逃げる暇さえなかった。肉体は両断され、周囲に魔素が散っていく。

(これが今のシン様の力!)

 ランクCの魔物を一撃で討伐したシンに見惚れていると、彼は魔石を拾い上げて、少年のように笑う。

「師匠、昔より強くなれたかな?」
「はい、さすが私の一番弟子ですね♪」

 グリフォンを倒したことを称えるように空から日が差す。眩しさを感じながら、アリアたちは勝利を喜ぶように笑い合うのだった。
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