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第二章
第二章 ~『冒険者組合での評価』~
しおりを挟む門番から教えてもらった通り、冒険者組合は進んですぐのところにあった。周囲よりも一際大きな建物のため迷うこともない。目印代わりに置かれた甲冑の置物によって、雰囲気まで演出されていた。
扉を開いて中に入ると、客の姿はない。空いていて幸運だと受付へ向かうと、カウンターに座る和装の女性がニッコリと笑みを浮かべる。
「はじめまして、冒険者組合へようこそ♪」
受付の女性は黒髪を短く切り揃えている。年はアリアより一回り上だろうが、美貌は加齢によって損なわれていない。むしろ齢と共に磨かれているかのような美しさだ。
「はじめまして。でもどうして私がはじめてだと?」
「ふふ、こんなに可愛い女の子だもの。さすがに一度でも見たことがあれば覚えているわ」
「わ、私が可愛いだなんて、そんな……」
褒められたことは嬉しいが、照れを隠し切れずに頬が赤くなる。
「初心な反応が愛らしいわね~、さっきの第七皇子の家臣たちとは大違いよ」
「彼らも来たのですね」
「横柄な態度で報酬を受け取っていったわ。でも、そのせいで他のお客さんが逃げちゃって……」
「なるほど。だから私以外に人がいなかったのですね」
誰だってトラブルの火種と同じ空間にはいたくない。逃げた人たちの気持ちが理解できた。
「それで、冒険者組合にはどういった用件で?」
「魔物討伐の報酬を受け取りにきました。ついでに魔石の買取もお願いします」
アリアは革袋から魔石を取り出す。オーク九体、ゴブリン二十五体分の魔石だ。驚きで受付嬢は目を見開く。
「これをすべてあなたが?」
「もちろん」
「見た目は可愛いのに強いのね」
驚愕しながらも、受付嬢はルーペを手に取り、魔石をチェックしながら、書類に目を通していく。魔石は魂の情報が刻まれているため、個体ごとに異なる形状と魔力を帯びる。そのため過去に討伐された魔物の魔石と一致していなかをチェックし、不正を防いでいるのだ。
「うん、討伐履歴のリストにもないし、あなたが倒したことは証明されたわ。魔石の買取金額と合わせて、金貨百枚ね」
「予想以上に高額ですね」
「皇国は働く人にはきちんと報酬を与える国だもの」
「ふふ、納得しました」
冒険者組合の財源は国家だ。つまり国がどれだけの金を冒険者に還元しようとしているかの意思が報酬に反映される。
事実、王国なら同じ成果を出しても、十分の一以下の報酬しか得られなかった。皇国に移住して良かったと、改めて実感する。
「この成績ならランキングも更新されそうね」
「ランキング?」
「魔物討伐の貢献度を掲示しているの。ほら、これ」
受付嬢の示した先には、ランキング表が壁に張り出されていた。名前と共に所属とポイントが記されている。
「所属は皇子の家臣だった場合に記載するの。もちろん所属なしの人もいるわよ」
所属欄には第七皇子と第八皇子が並び、互いに競い合っている。だがその合間を縫うように、所属欄が空白の者たちもいた。皇子の家臣ではない所属なしの人たちなのだろう。
(私はシン様の師匠ですから、家臣ではありませんよね)
所属欄は空白のままとした。目立つことで、変に迷惑がかかるのを嫌ったためだ。
「次にポイントについて説明するわね。これは倒した魔物のランクに紐づいているの。ランクFなら1ポイント、ランクEなら5ポイントと、功績を比較できるようにしているの」
「なら私は70ポイントですね」
オーク九体、ゴブリン二十五体を討伐したのだから、単純計算でそうなるはずだ。
「そのスコアなら、ランキングだと十位になるわね。初回なのに凄いわ……ランキングを更新したいから、名前を聞いてもいいかしら?」
「あの、それって本名でないと駄目でしょうか?」
「別に偽名でもいいわよ。名前なんて、ただの記号だもの」
「なら――アリアンでお願いします」
不用意に目立つと面倒事に巻き込まれる可能性がある。ただ本名から遠すぎると、登録名を忘れてしまうかもしれないし、呼ばれた時に違和感を覚える。
そのため本名を少しだけ変え、アリアンと名乗ることにした。
ランキング表の十位の名前が受付嬢の手により更新された。
「今後も期待しているわね、アリアンさん♪」
「こちらこそ、お世話になりますね」
報酬の金貨を手に入れたアリアは、冒険者組合を後にする。何を買おうかと想いを馳せる彼女の足取りはいつもより軽かった。
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