上 下
14 / 69
第二章

第二章 ~『冒険者組合での評価』~

しおりを挟む

 門番から教えてもらった通り、冒険者組合は進んですぐのところにあった。周囲よりも一際大きな建物のため迷うこともない。目印代わりに置かれた甲冑の置物によって、雰囲気まで演出されていた。

 扉を開いて中に入ると、客の姿はない。空いていて幸運だと受付へ向かうと、カウンターに座る和装の女性がニッコリと笑みを浮かべる。

「はじめまして、冒険者組合へようこそ♪」

 受付の女性は黒髪を短く切り揃えている。年はアリアより一回り上だろうが、美貌は加齢によって損なわれていない。むしろ齢と共に磨かれているかのような美しさだ。

「はじめまして。でもどうして私がはじめてだと?」
「ふふ、こんなに可愛い女の子だもの。さすがに一度でも見たことがあれば覚えているわ」
「わ、私が可愛いだなんて、そんな……」

 褒められたことは嬉しいが、照れを隠し切れずに頬が赤くなる。

「初心な反応が愛らしいわね~、さっきの第七皇子の家臣たちとは大違いよ」
「彼らも来たのですね」
「横柄な態度で報酬を受け取っていったわ。でも、そのせいで他のお客さんが逃げちゃって……」
「なるほど。だから私以外に人がいなかったのですね」

 誰だってトラブルの火種と同じ空間にはいたくない。逃げた人たちの気持ちが理解できた。

「それで、冒険者組合にはどういった用件で?」
「魔物討伐の報酬を受け取りにきました。ついでに魔石の買取もお願いします」

 アリアは革袋から魔石を取り出す。オーク九体、ゴブリン二十五体分の魔石だ。驚きで受付嬢は目を見開く。

「これをすべてあなたが?」
「もちろん」
「見た目は可愛いのに強いのね」

 驚愕しながらも、受付嬢はルーペを手に取り、魔石をチェックしながら、書類に目を通していく。魔石は魂の情報が刻まれているため、個体ごとに異なる形状と魔力を帯びる。そのため過去に討伐された魔物の魔石と一致していなかをチェックし、不正を防いでいるのだ。

「うん、討伐履歴のリストにもないし、あなたが倒したことは証明されたわ。魔石の買取金額と合わせて、金貨百枚ね」
「予想以上に高額ですね」
「皇国は働く人にはきちんと報酬を与える国だもの」
「ふふ、納得しました」

 冒険者組合の財源は国家だ。つまり国がどれだけの金を冒険者に還元しようとしているかの意思が報酬に反映される。

 事実、王国なら同じ成果を出しても、十分の一以下の報酬しか得られなかった。皇国に移住して良かったと、改めて実感する。

「この成績ならランキングも更新されそうね」
「ランキング?」
「魔物討伐の貢献度を掲示しているの。ほら、これ」

 受付嬢の示した先には、ランキング表が壁に張り出されていた。名前と共に所属とポイントが記されている。

「所属は皇子の家臣だった場合に記載するの。もちろん所属なしの人もいるわよ」

 所属欄には第七皇子と第八皇子が並び、互いに競い合っている。だがその合間を縫うように、所属欄が空白の者たちもいた。皇子の家臣ではない所属なしの人たちなのだろう。

(私はシン様の師匠ですから、家臣ではありませんよね)

 所属欄は空白のままとした。目立つことで、変に迷惑がかかるのを嫌ったためだ。

「次にポイントについて説明するわね。これは倒した魔物のランクに紐づいているの。ランクFなら1ポイント、ランクEなら5ポイントと、功績を比較できるようにしているの」
「なら私は70ポイントですね」

 オーク九体、ゴブリン二十五体を討伐したのだから、単純計算でそうなるはずだ。

「そのスコアなら、ランキングだと十位になるわね。初回なのに凄いわ……ランキングを更新したいから、名前を聞いてもいいかしら?」
「あの、それって本名でないと駄目でしょうか?」
「別に偽名でもいいわよ。名前なんて、ただの記号だもの」
「なら――アリアンでお願いします」

 不用意に目立つと面倒事に巻き込まれる可能性がある。ただ本名から遠すぎると、登録名を忘れてしまうかもしれないし、呼ばれた時に違和感を覚える。

 そのため本名を少しだけ変え、アリアンと名乗ることにした。

 ランキング表の十位の名前が受付嬢の手により更新された。

「今後も期待しているわね、アリアンさん♪」
「こちらこそ、お世話になりますね」

 報酬の金貨を手に入れたアリアは、冒険者組合を後にする。何を買おうかと想いを馳せる彼女の足取りはいつもより軽かった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。

蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。 しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。 自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。 そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。 一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。 ※カクヨムさまにも掲載しています。

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。 それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。 誰にも信じてもらえず、罵倒される。 そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。 実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。 彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。 故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。 彼はミレイナを快く受け入れてくれた。 こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。 そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。 しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。 むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫
恋愛
孤児のルネは聖女の力があると神殿に引き取られ、15歳で聖女の任に付く。それから3年間、国を護る結界のために力を使ってきた。 しかし、彼女の婚約者である第二王子はプライドが無駄に高く、平民で地味なルネを蔑み、よりよい相手を得ようと国王に無断で聖女召喚の儀を行ってしまう。 高貴で美しく強い力を持つ聖女を期待していた王子たちの前に現れたのは、確かに高貴な雰囲気と強い力を持つ美しい方だったが、その方が選んだのは王子ではなくルネで… 平民故に周囲から虐げられながらも、身を削って国のために働いていた少女が、溺愛されて幸せになるお話です。 世界観は独自&色々緩くなっております。 R15は保険です。 他サイトでも掲載しています。

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み) R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。 “巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について” “モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語” に続く続編となります。 色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。 ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。 そして、そこで知った真実とは? やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。 相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。 宜しくお願いします。

処理中です...