14 / 16
第一章 ~『ダンジョンボスと勇者の闘い』~
しおりを挟む
グランドドラゴンを倒したアルクは第五階層の最深部を目指し、薄暗い道を進んでいた。これはダンジョンの核であるコアが最深部に配置されているからである。
「アルクくん、ここからが本番ですからね。気を抜いては駄目ですよっ」
「伝説のグランドドラゴンを倒したんだ。これ以上に強いドラゴンなんていないだろ?」
「どうでしょうか……ドラゴンダンジョンの最深部には未だ誰一人として辿り着いたことはありませんからね。グランドドラゴンを超えるドラゴンがいたとしても不思議ではありません」
「剣聖でさえ階段付近にいたグランドドラゴンと互角だったわけだからな。前人未踏の場所に初めて足を踏み入れるのが、まさか村人の俺になるなんてな」
「ふふふ、婚約者の私も鼻が高いです♪」
アルクたちは雑談を楽しみながら細道を進む。道は最深部へ近づくに連れて、細くなっていく。酸素も薄くなり、何だか息苦しさが増していた。
「ドラゴンを見かけなくなったな」
「アルクくんに怯えて逃げ出した……だけではありませんね。おそらくここから先は少数精鋭のドラゴンが待ち構えているのでしょう。数は時として障害にもなりますから」
ダンジョンコアを守護する警護のドラゴンを増やそうとすると、そのための広い空間が必要になる。
だが最深部のスペースを最低限に抑えれば、攻略に訪れることのできる冒険者の数を減らすことができ、戦線を絞ることも可能だ。
故にここから先は強者のみが踏み入れることを許される場所だ。アルクたちは躊躇うことなく、足を前へと進めていく。
「道が随分と細くなってきたな」
「そろそろゴールにたどり着く前兆ですね」
細道を抜けた先には、円形の空間が待っていた。土のドームで覆われた中央部にダンジョンの魂ともいえるコアが設置されている。
コアは紫色の宝玉であり、膨大な魔力を放っていた。その魔力に惹かれるように傍には守護する一匹のドラゴンがいた。
青い目をした白銀のドラゴンがアルクたちを見据えている。体から放つ魔力と全身から放たれる雰囲気から、そのドラゴンがグランドドラゴンよりも上位の存在だと知らせていた。
「やはりダンジョンボスがいましたね」
ダンジョンボス。それはコアを守護する存在である。ダンジョンによってはいないこともあるため、淡い希望を抱いていたが、現実は期待に応えてくれなかった。
「最初から本気で挑まないとマズそうだな」
「私も援護しましょうか?」
「いいや、クリスが動くのは最終手段だ。ひとまずは俺だけで戦いたい」
「……仕方ありませんね。アルクくんも男の子ですから♪」
もしダンジョンを攻略できても、聖女の助けのおかげだと、言いがかりを付けられてはたまらない。
それに何よりアルク自身が自分の力で正面からダンジョンボスを倒したいと願っていた。誰の力も借りない状態での、一対一の戦い。それこそが彼の望みだった。
「ふぅ、行くぜ」
アルクは腰の鞘から刀を抜くと、小さく息を吸う。ダンジョンボスはいまだ動きを見せないが、対峙して視線を交えることで、気の抜けない相手だと理解する。
緊迫した空気が流れる。アルクは機先を制すべく、最初の第一歩を踏み出そうとするが、その足は不意に背後から襲われた剣により止めることになる。
「ちっ、殺し損ねたか!」
「勇者!」
アルクを背後から襲ったのは宿敵の勇者であった。彼は全身に風の魔素を纏っている。事前に魔法を発動させていた証左である。
「魔法さえ使えれば、村人相手に後れを取る俺じゃねぇんだよ!」
勇者は風の魔素により切れ味を増した刀でアルクを斬りつける。一呼吸の内に何度も振るわれる刀は、風のように速い。
だがアルクは口元の笑みを崩さないままに、振るわれた刀を受け止める。
鍔迫り合いの状態でアルクと勇者は睨みあう。以前はここからアルクが勝利した。しかし勇者は風の魔法で強化している今ならば、自分に勝機があると信じていた。
「とっとと諦めろ。所詮、村人じゃ勇者には敵わねぇんだよ!」
「口だけは達者だな。強さなら剣で証明してみろよ」
二人の視線が交差し、目で火花を散らす。しかし勇者は突然一歩後ろに下がると、馬鹿らしいと鼻で笑う。
「はっ、止めだ、止めだ。誰がてめぇの相手なんかするかよ!」
「逃げるのかよ?」
「……認めたくないが、正面から戦うならお前は俺でも手こずるレベルの実力だからな。本目の獲物と戦う前に無駄な体力を使うのはごめんだ」
勇者はアルクからダンジョンボスへと視線を移す。彼は剣を上段に構えると、地面を蹴って駆けした。
魔法により一陣の颶風と化した勇者は、ダンジョンボスの元へと一瞬の間に接近し、勢いをそのままに剣を振り下ろした。
勇者はこれでドラゴンダンジョンを攻略したと確信し、観戦していたクリスも同じ感想を抱いた。
しかしアルクだけはしっかりと現実を見据えていた。勇者の剣は光の壁に遮られ、綺麗に折れて宙を舞う。
勇者の自信に満ちた表情が絶望の色に染まった。
「お、俺の剣が――」
勇者の言葉を遮るように、ダンジョンボスは無造作に前足を振るう。魔法でスピードを増しているはずの勇者よりさらに早い一撃が炸裂し、彼を彼方まで吹き飛ばす。
土壁に衝突した勇者は口から血を吐いて失神する。ダンジョンボスの圧倒的な力を前に、勇者は膝を折るのだった。
「勇者が一撃か……」
「アルクくん、やはり私もサポートをした方がよいのではありませんか?」
「いいや、心配しなくてもいい。俺はダンジョンボスの動きをしっかりと追えていた。俺が勇者の立場なら、あの攻撃は躱せたはずだ」
勇者を超える実力を手に入れたのだと、アルクは実感する。それを客観的に証明するためには、勇者でさえ敵わなかったダンジョンボスを討伐しなければならない。
「そこで見ていてくれ。俺は必ず勝つからさ」
剣を上段に構えたアルクはドラゴンの青い目と視線を交差させる。物静かなドラゴンは、瞳に強い闘争本能を浮かべるのだった。
「アルクくん、ここからが本番ですからね。気を抜いては駄目ですよっ」
「伝説のグランドドラゴンを倒したんだ。これ以上に強いドラゴンなんていないだろ?」
「どうでしょうか……ドラゴンダンジョンの最深部には未だ誰一人として辿り着いたことはありませんからね。グランドドラゴンを超えるドラゴンがいたとしても不思議ではありません」
「剣聖でさえ階段付近にいたグランドドラゴンと互角だったわけだからな。前人未踏の場所に初めて足を踏み入れるのが、まさか村人の俺になるなんてな」
「ふふふ、婚約者の私も鼻が高いです♪」
アルクたちは雑談を楽しみながら細道を進む。道は最深部へ近づくに連れて、細くなっていく。酸素も薄くなり、何だか息苦しさが増していた。
「ドラゴンを見かけなくなったな」
「アルクくんに怯えて逃げ出した……だけではありませんね。おそらくここから先は少数精鋭のドラゴンが待ち構えているのでしょう。数は時として障害にもなりますから」
ダンジョンコアを守護する警護のドラゴンを増やそうとすると、そのための広い空間が必要になる。
だが最深部のスペースを最低限に抑えれば、攻略に訪れることのできる冒険者の数を減らすことができ、戦線を絞ることも可能だ。
故にここから先は強者のみが踏み入れることを許される場所だ。アルクたちは躊躇うことなく、足を前へと進めていく。
「道が随分と細くなってきたな」
「そろそろゴールにたどり着く前兆ですね」
細道を抜けた先には、円形の空間が待っていた。土のドームで覆われた中央部にダンジョンの魂ともいえるコアが設置されている。
コアは紫色の宝玉であり、膨大な魔力を放っていた。その魔力に惹かれるように傍には守護する一匹のドラゴンがいた。
青い目をした白銀のドラゴンがアルクたちを見据えている。体から放つ魔力と全身から放たれる雰囲気から、そのドラゴンがグランドドラゴンよりも上位の存在だと知らせていた。
「やはりダンジョンボスがいましたね」
ダンジョンボス。それはコアを守護する存在である。ダンジョンによってはいないこともあるため、淡い希望を抱いていたが、現実は期待に応えてくれなかった。
「最初から本気で挑まないとマズそうだな」
「私も援護しましょうか?」
「いいや、クリスが動くのは最終手段だ。ひとまずは俺だけで戦いたい」
「……仕方ありませんね。アルクくんも男の子ですから♪」
もしダンジョンを攻略できても、聖女の助けのおかげだと、言いがかりを付けられてはたまらない。
それに何よりアルク自身が自分の力で正面からダンジョンボスを倒したいと願っていた。誰の力も借りない状態での、一対一の戦い。それこそが彼の望みだった。
「ふぅ、行くぜ」
アルクは腰の鞘から刀を抜くと、小さく息を吸う。ダンジョンボスはいまだ動きを見せないが、対峙して視線を交えることで、気の抜けない相手だと理解する。
緊迫した空気が流れる。アルクは機先を制すべく、最初の第一歩を踏み出そうとするが、その足は不意に背後から襲われた剣により止めることになる。
「ちっ、殺し損ねたか!」
「勇者!」
アルクを背後から襲ったのは宿敵の勇者であった。彼は全身に風の魔素を纏っている。事前に魔法を発動させていた証左である。
「魔法さえ使えれば、村人相手に後れを取る俺じゃねぇんだよ!」
勇者は風の魔素により切れ味を増した刀でアルクを斬りつける。一呼吸の内に何度も振るわれる刀は、風のように速い。
だがアルクは口元の笑みを崩さないままに、振るわれた刀を受け止める。
鍔迫り合いの状態でアルクと勇者は睨みあう。以前はここからアルクが勝利した。しかし勇者は風の魔法で強化している今ならば、自分に勝機があると信じていた。
「とっとと諦めろ。所詮、村人じゃ勇者には敵わねぇんだよ!」
「口だけは達者だな。強さなら剣で証明してみろよ」
二人の視線が交差し、目で火花を散らす。しかし勇者は突然一歩後ろに下がると、馬鹿らしいと鼻で笑う。
「はっ、止めだ、止めだ。誰がてめぇの相手なんかするかよ!」
「逃げるのかよ?」
「……認めたくないが、正面から戦うならお前は俺でも手こずるレベルの実力だからな。本目の獲物と戦う前に無駄な体力を使うのはごめんだ」
勇者はアルクからダンジョンボスへと視線を移す。彼は剣を上段に構えると、地面を蹴って駆けした。
魔法により一陣の颶風と化した勇者は、ダンジョンボスの元へと一瞬の間に接近し、勢いをそのままに剣を振り下ろした。
勇者はこれでドラゴンダンジョンを攻略したと確信し、観戦していたクリスも同じ感想を抱いた。
しかしアルクだけはしっかりと現実を見据えていた。勇者の剣は光の壁に遮られ、綺麗に折れて宙を舞う。
勇者の自信に満ちた表情が絶望の色に染まった。
「お、俺の剣が――」
勇者の言葉を遮るように、ダンジョンボスは無造作に前足を振るう。魔法でスピードを増しているはずの勇者よりさらに早い一撃が炸裂し、彼を彼方まで吹き飛ばす。
土壁に衝突した勇者は口から血を吐いて失神する。ダンジョンボスの圧倒的な力を前に、勇者は膝を折るのだった。
「勇者が一撃か……」
「アルクくん、やはり私もサポートをした方がよいのではありませんか?」
「いいや、心配しなくてもいい。俺はダンジョンボスの動きをしっかりと追えていた。俺が勇者の立場なら、あの攻撃は躱せたはずだ」
勇者を超える実力を手に入れたのだと、アルクは実感する。それを客観的に証明するためには、勇者でさえ敵わなかったダンジョンボスを討伐しなければならない。
「そこで見ていてくれ。俺は必ず勝つからさ」
剣を上段に構えたアルクはドラゴンの青い目と視線を交差させる。物静かなドラゴンは、瞳に強い闘争本能を浮かべるのだった。
10
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
村人召喚? お前は呼んでないと追い出されたので気ままに生きる
丹辺るん
ファンタジー
本作はレジーナブックスにて書籍化されています。
―ー勇者召喚なるものに巻き込まれて、私はサーナリア王国にやって来た。ところが私の職業は、職業とも呼べない「村人」。すぐに追い出されてしまった。
ーーでもこの世界の「村人」ってこんなに強いの? それに私すぐに…ーー
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】
青緑
ファンタジー
聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。
———————————————
物語内のノーラとデイジーは同一人物です。
王都の小話は追記予定。
修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」
物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。
★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位
2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位
2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位
2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位
2023/01/08……完結
禁断のアイテム『攻略本』を拾った村人は、プロデューサーのシナリオを壊せるのだろうか?
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
【攻略本。使うべきか、使わざるべきか】
十八歳の村人エッサは畑仕事の帰り道に本を拾いました。
この本に出会わなければ、この本を拾わなければ、そして、この本を読まなければ、今まで通りの普通の生活が出来たはずです。
でも、この世界の全ての真実を知ってしまった村人エッサは、もう普通の村人には戻れません。
団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました
毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作
『魔力掲示板』
特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。
平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。
今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる