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第三章 ~『クロウとバロン弟の闘い』~
しおりを挟むクロウと対峙するように銀髪の巨漢、バロン弟もリングへ上がる。屈強な肉体はそこにいるだけで威圧感を覚えさせた。
「兄貴のお楽しみを邪魔しやがって。覚悟はできているんだろうな?」
「それはこちらの台詞だよ。君では僕に勝てない」
「威勢はいいな。だがあの女もそうだったが、最後には無様な姿を晒すことになる。その澄ました顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになるのが楽しみだぜ」
「……決めたよ。君には屈辱的な敗北をプレゼントしよう」
ルカを侮辱されたことで、クロウの怒りはピークに達する。闘志の秘められた視線を審判の教師に向け、試合開始を促す。
「二人とも準備はいいな?」
「もちろん」
「早く始めろ」
「では試合開始いいぃっ!」
教師が開始を宣言するのと、ほぼ同時のタイミング――クロウが動く。《加速魔法》で音速を超えた彼は、拳をバロン弟の顎に叩き込む。
掠めた拳はバロン弟の脳を揺らし、意識を刈り取る。三秒後、彼は膝をくの時に曲げて、地面にキスするように倒れ込んだ。
「しょ、勝負ありいいぃ!」
審判の教師がクロウの勝利を宣言する。彼はさも当然とばかりに、バロン弟を冷たい目で見下ろす。
「おめでとう。選考会における歴代最速の敗北記録は君のものだ」
人の噂というものは具体的であればあるほど広まるのが早い。選考会の試合開始と同時に敗れたバロン弟の噂はすぐに広まるはずだ。
これは屈辱を与えることだけが目的ではない。ルカの涙の敗北の印象を上書きすることも目的の一つであった。
「勝ったな。さすが俺の親友だぜ」
リングを降りたクロウをアトラスが出迎える。ルカは試合の疲れが溜まっていたのか、スヤスヤと眠っていた。
「しかもただ勝っただけじゃない。最高の勝ち方だった」
「僕の意図を見抜いたんだね」
「ルカを守るためだろ。これで選考会の話題になっても、言及される敗北はバロン弟についてだ。だがもう一つ、駄目押しが欲しいな」
「チームでの勝利だね」
選考会の話題に触れる際、チームの勝敗は大きなトピックになる。もしチームとして敗けてしまえば、敗因を深堀するために、ルカについても言及されるはずである。
チームの勝者となることで、勝利にのみスポットライトを照らさせる。ウシオに負けられない理由がまた一つ生まれてしまった。
「おい、カスッ! 早くリングに上がってこい!」
勝負を待ちきれないのか、ウシオはリング場で仁王立ちをしていた。一学年最強の絶対の自信が顔に滲み出ている。
「アトラス、頑張ってくれよ」
「倒してくるぜ」
リングへ登ったアトラスはウシオと対峙する。二人は互いに敵視の目を向け合いながら、火花を散らすのだった。
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