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第二章 ~『村長から聞いた事情』~
しおりを挟むアトラスの《回復魔法》は欠陥品である。本来なら魔力を治癒の力へと変換するだけの効果しか持たないため、カスリ傷さえ残すことなく修復することができる。
しかし『死んだことさえカスリ傷』の魔術を習得するための代償だったのか、《回復魔法》は完治できない欠陥を抱えることになった。
これは怪我をしてもカスリ傷が精々の日常生活においては大きな欠点だ。だが状況によってはその欠点が無視できるほどに有用だ。
現に《回復魔法》は瀕死の状態だったフドウ村の人たちを救うことに成功していた。彼に救われた負傷者たちが、焼け野原になった広場に集まり、尊敬の眼差しを浮かべている。
「あなたのおかげで助かりました。皆を代表して礼を言います」
村人たちの代表である村長が一歩前へ出る。白髪の老父は杖を突きながら、目尻に涙を貯める。
「フドウ村はこの有様です……わ、我々は平穏に生きていたいだけだというのに……っ……」
「村長さん……」
「しかしアトラス様のおかげで、生き延びた者たちがいます。皆で力を合わせ、必ず再興してみます」
「その意気だ」
壊れた家や焼けた森を修復するには時間と労力が必要だ。仲間たちの死を乗り越え、絆を深めるためにも、村人たちは自らの手で復興しなければならない。
「アトラス様は回復魔術師なのですか?」
「ああ」
「では戦闘は不慣れでしょう。敵の中に《創剣魔法》を使う戦闘系の魔術師がいます。あの男はまだ健在なのですね……」
「いいや、あいつなら俺が倒したぞ」
「た、倒した! あの男をですかっ!」
「ああ。それに賊の残党が消えるのも時間の問題だ」
「時間の問題?」
村長の疑問を解消するように、焼けた家屋から金髪のエルフが顔を出す。その手には騎士の首が握られていた。
「こちらが最後の残党です」
「とのことだ。安心してくれ」
「あ、ありがとうございます」
放り投げられた生首に村人たちはゴクリと息を呑む。
「さて、危機は去った。だが原因を取り除かなければ、再び同じことが起きるかもしれない。どうしてこの村が襲われたかに心当たりがあるか?」
「あるにはあります……ですが……」
「言いたくないと?」
「なにせマリア様のご姉妹に関することですから」
「つまり姉妹での喧嘩の結果がこれかよ」
焼け野原と化した村の惨状が、姉妹喧嘩の末に引き起こされたモノだとしたら笑いごとではない。
「それほどにマリア様は過酷な人生を歩まれているのです」
「あいつがね……」
正義心に溢れた少女からは感じなかった印象だ。
「あ、あの、それよりも助けていただいた報酬なのですが……」
「これから村を再興しようって奴らから、金を貰えるかよ」
「で、ですが、本当によろしいのですか! アトラス様は冒険者なのでしょう?」
「冒険者……そっか。そう思われるよな……」
王国でエルフを連れている魔術師とくれば、冒険者だと思い込むのも当然だ。ただ誤解を敢えて解く必要はないため、その勘違いをそのまま受け入れる。
「冒険者は魔物や賊を倒して生計を立てる職業ではありませんか。仕事をしたのに、報酬が支払われないのでは困るのではありませんか?」
「なら村が再興した後に、出世払いでいいよ」
「で、ですが」
「くどいぞ」
「分かりました。アトラス様への御恩、子々孫々まで言い伝えさせて頂きます」
村人たちは一斉に頭を下げる。正義を果たすことができたのだと、アトラスの心は充足感に満たされていく。
「俺は帰るが、村の護衛は大丈夫か?」
「街へ出かけていた用心棒がそろそろ戻ってくるでしょうから」
「用心棒がいたのかよ……」
「ただ運が悪く、街へ買い出しに行った隙を突かれました。あの男がいれば、賊どもを返り討ちにできたでしょうに」
「そんなに信頼できる男が仲間なら安心だな」
アトラスは小さな笑みを零すと、村人たちに背を向ける。彼らは一斉に頭を下げて、その背中を見送る。
「メイリス、帰ろう」
「私たちの城に、ですね♪」
『千里の扉』を発動させて、ダンジョン最深部の魔王城へと通じる穴が開かれる。二人は村人たちに感謝されながら、フドウ村から帰還するのだった。
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