かすり傷さえ治せないと迫害されていた回復魔術師。実は《死んだことさえカスリ傷》にできる最強魔術師でした!

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第二章 ~『正義のヒーローの成敗』~

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 悲鳴を聞いたアトラスは牛舎へと飛び込むと、殺されそうになっていた銀髪の少女を救い出した。

 少女は凛々しさを感じさせる赤い瞳と、輝くような銀髪の持ち主だった。突如現れたアトラスに戸惑いを覚えているのか、疑問が表情に滲ませていた。

「あ、あなたはいったい……」
「俺のことより状況を」
「こ、子供が……ぅ……そ、その……殺されて……」
「つまりあいつらは悪党で間違いないと?」
「は、はい」

 子供を殺す騎士が正義のはずがない。明確な悪を定めたアトラスは、成敗すべき獲物たちを見渡す。

「このクズども。死ぬ覚悟はできているんだろうなぁ?」

 地獄の底から湧き出るマグマのように、忠告は強い怒りを孕んでいた。言葉だけで死を錯覚するほどの恐怖に騎士たちは震え上がる。注意が子供たちから彼へと移った。

「こいつが使った魔法、聞いたことがある。おそらく《爆裂魔法》だ」
「あの魔法は使い手がほとんどいないはずだろ。なぜここに?」
「理由は問題じゃない。大切なのは、あいつが俺たちの敵だってことだ」

 《爆裂魔法》はウシオを学年最強足らしめた強力な魔法であり、それを駆使する魔術師が敵ならば、脅威となるのは間違いない。

「俺が様子見のために先陣を――」

 騎士の男が先に動こうとした瞬間である。アトラスの手が彼の顔をガッシリと掴んでいた。その手には膨大な魔力が練られており、《爆裂魔法》が発動する。

 爆炎で顔が包まれ、首から上を失った騎士は、膝から崩れ落ちた。

「ボンヤリとするなよ。お前たちの前にいる俺は、圧倒的なる強者なのだからな」

 騎士たちはゴクリと息を呑む。アトラスの動きを目で追うことさえできなかった彼らは、敗北の予感を覚え、背中に冷たい汗を流す。

「ふふふ、私も手伝いましょうか?」

 牛舎に現れたメイリスが、アトラスに救援を申し出る。

「不要だ」
「アトラス様ならそう仰ると思っていました♪」

 アトラスと騎士たちの間には天と地ほどの力の差がある。彼の武勇が楽しみだと、腕を組んで静観する。

 だが騎士たちの反応は違った。メイリスの登場をチャンスだと受け取り、白銀の刃を彼女へと向ける。

「おい、あの女を人質に――」
「私のことを舐めているのですか?」

 侮辱とも取れる言葉に、メイリスは怒気を孕んだ魔力を放出する。その魔力量は騎士たちとは比べ物にならないほどに大きい。彼女もまた怪物なのだと理解する。

「一斉だ。全員であの男に斬りかかるぞ」
「俺も余計な手間が省けるし、良いアイデアだな」
「その減らず口を黙らせてやるっ」

 メイリスを人質に取れないならば、アトラスと戦う以外に選択の余地はない。騎士たちは覚悟を決めると、剣を握りしめる。だが最初の一歩を踏み出す者が現れなかった。先陣を切った者が真っ先に殺されると理解していたからだ。

「怖くて動けないのかよ。弱者にしか剣を振るえないとは情けないな」

 向こうから来ないなら、こちらからと、アトラスの方から足を踏み出す。騎士たちに近づくと、果実でも摘むように、一人、また一人と顔を掴んでは爆破していく。

 一方的な虐殺が始まったことで、騎士たちはようやく動かないことが死だと理解する。震える手で剣を振り上げると、彼に斬りかかった。

 しかし魔力の鎧で守られている彼に生半可な斬撃は通じない。また一人、返り討ちにあった騎士の命が散るのだった。

「とうとう残り一人だぞ。子供たちを殺した報いを受ける覚悟はできたか?」

 たった一人を残して、すべての騎士が首から上を失っていた。仲間を失った惨劇に、最後に残された騎士の男は怒りよりも恐怖で歯をガタガタと鳴らす。

「お、俺たちにこんなことしていいと思っているのか!?」
「お前たちの方こそ、子供を殺して許されると思っていたのか?」
「た、大義のためだ。仕方のない犠牲だったんだ!」
「なら俺も信じる正義のためにお前を殺すぞ。文句はないよな?」

 男からの返答を待たずに、アトラスは騎士の頭を《爆裂魔法》で吹き飛ばす。宙を舞う血飛沫と肉片。彼はまるで虫を潰した後のような冷たい表情で、崩れ行く死体を見つめるのだった。

「これで全員始末した……さて、あんたは無事か?」

 泣いていたマリアに問いかける。彼女は血を浴びているものの、怪我はしていない。首を縦に勢いよく振るう。

「無事ならば何よりだ。あんた、名前は?」
「私はマリアです。あなたの方こそ、いったい何者なのですか?」
「俺はアトラス。通りすがりのヒーローさ」

 理想を体現するように、アトラスはニンマリと笑う。打算のない無邪気な笑顔は確かにヒーローのそれだった。
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