53 / 60
第四章
第四章 ~『騒動の後のリフレッシュ』~
しおりを挟むミリアを見届けたエリスは、談話室のソファに腰掛ける。雲のような座り心地だが、彼女の疲れを取り切れるほどの癒やしは与えてくれなかった。
(色々と大変でしたね)
妹から恨まれ、殺傷沙汰にまで発展した負荷が肉体に押し寄せていた。天井を照らすシャンデリアを見つめていると、膝の上にシロが飛び乗ってくる。
「にゃ~」
「シロ様……慰めてくれるのですね……」
愛猫に心配をかけているようでは駄目だと心の手綱を締めようとした時、アルフレッドが談話室の扉を開く。その手にはグラスが握られていた。
「君のためにリフレッシュドリンクを作ったんだ」
「わぁ~ありがとうございます。この香りは生姜ですね」
「煮詰めた生姜にレモン汁やハチミツを混ぜ、炭酸水を加えている。私が疲れた時によく愛飲しているドリンクだ」
「ふふ、アルフレッド様は本当に優しいですね」
処罰を下したアルフレッドも辛い思いをしていたはずだ。それなのに、エリスを慰めることを優先してくれた彼の配慮に感謝する。
厚意のドリンクを受け取り、口をつける。蜂蜜の甘味と炭酸の刺激が舌の上で調和し、疲れが吹き飛んでいくようだった。
「とても美味しいですね」
「私の自信作だからな」
リフレッシュできたおかげで今度は睡魔に襲われる。欠伸を漏らしていると、アルフレッドが隣に腰掛け、距離を詰める。
「よければ私の膝を枕として使うといい」
「アルフレッド様にそんなことをさせるわけには……」
「君の疲れを癒やす一助になりたいのだ。駄目か?」
「ふふ、ではお言葉に甘えますね」
膝に頭を乗せると、視界に彼の整った顔が飛び込んでくる。頭を撫でられながら、彼の優しさに甘えていると、父のことを思い出した。
(私も幼い頃はお父様に可愛がられたことがありましたね)
膝枕をしてもらったこともある。幼き日の輝かしい思い出も、父を憎みきれない理由の一つだった。
「ミリアが逮捕されたことを、お父様は知るのでしょうか?」
「家族には連絡がいくからな。面会も家族相手なら許されている」
「私が魔力に目覚めたことも知られてしまうのでしょうか……」
「いや、私は秘密を貫き通してくれると信じている。あの時の謝罪に込められた想いは本物だったからな」
ミリアは心の底から謝罪していた。きっとケビンやルイン相手にも黙っていてくれるだろう。
「君もミリアの姉だ。面会は許されているが、会いにはいかないのか?」
「今はまだ反発されるだけでしょうから。でも必ず会いにいきます。それが数ヶ月後か、数年後かは分かりませんが必ずです」
思い返せば、幼少の頃は仲の良い姉妹だったのだ。
昔のような関係性に戻れる日がくることを願っていると、侍女が手紙を運んできた。封蝋からその手紙はロックバーン伯爵家が差出人だと分かる。
「君の家族からの手紙か……内容には予想がつくな」
「ミリアについてでしょうね」
手紙の内容を確認してみると、予想は的中していた。ミリアとの間に起きた出来事を謝罪するために訪問したいと、ケビンとルインの両名の署名が記されていた。
「不気味ですね……ケビン様はともかく、お父様が謝罪のためだけに訪問するなんて……」
領地運営で多忙の身だ。領主本人がわざわざ足を運んでまで謝罪したいとの申し出に違和感を覚えるが、アルフレッドは僅かに微笑んで、その疑問に答えを出す。
「ルイン伯爵も娘は大切ということだ」
「そうでしょうか……」
「間違いないさ」
アルフレッドに共感し、エリスもまた父の訪問を認める。この判断が大きな転機になるとは、この時の二人には知る由もなかった。
74
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。
黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました
夏見ナイ
恋愛
伯爵令嬢リリアーナは、強大すぎる聖女の力を隠し「地味で無能」と虐げられてきた。婚約者の第二王子からも疎まれ、ついに夜会で「お前のような地味な女は不要だ!」と衆人の前で婚約破棄を突きつけられる。
全てを失い、あてもなく国を出た彼女が森で出会ったのは、邪悪な呪いに蝕まれ死にかけていた一人の美しい男性。彼こそが隣国エルミート帝国が誇る「氷の皇子」アシュレイだった。
持て余していた聖女の力で彼を救ったリリアーナは、「お前の力がいる」と帝国へ迎えられる。クールで無愛想なはずの皇子様が、なぜか私にだけは不器用な優しさを見せてきて、次第にその愛は甘く重い執着へと変わっていき……?
これは、不要とされた令嬢が、最高の愛を見つけて世界で一番幸せになる物語。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる