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第一章 ~『新しい武器と勇者の昇格先』~
しおりを挟む《一人旅》のスキルで、エミリスが店主をする武器商店を訪れる。日が暮れており、閉店間際だからか、店内には客がちらほらといるが混んではいない。
「ジンくん、久しぶりね。今日はどうかしたの?」
「《銅の剣》を売りに来たんです」
束ねた十本の《銅の剣》をカウンターテーブルに置く。ドシっという音が周囲の注目を集めた。
「随分と多いのね。でもどうやって集めたの?」
「それは秘密です」
「ふふ、ジンくんも商売人ね。以前と違って、自信も付いたようだし」
「色々とありましたからね」
クリフを見返したことで、ジンは自己肯定感を手に入れた。オドオドした彼はもういない。自分の意思で行動できる立派な男に成長していた。
「いいわ。買い取ってあげる。それと敬語もいらないわよ。私とあなたは対等な商談相手なんだもの」
「認めて貰えたようで嬉しいよ」
「でも私の可愛さに免じて、買取価格が安くても許して頂戴ね」
まとめ売りで、一本当たりの買い取り単価が下がることは覚悟の上だ。《銅の剣》は市場に出回らない希少性で値を上げているのだから、それを捌くのは、エミリスにとってもきっと簡単なことではない。
「なら十本すべてで、金貨一万枚で買い取りはどうかしら?」
「申し分ない条件だね」
「なら交渉は成立ね。きっと勇者様も喜ぶわ」
「《銅の剣》を十本も欲しがるなんて、随分と変わり者の勇者だね」
「違う、違う。この街には勇者様がたくさんいるの。だから一人に何本も売るわけじゃないの」
「そっか、ここは魔王城のすぐ近くだもんね」
勇者の使命は魔王討伐だ。終末の街エデンに集まるのも当然である。
「それと一度エリアを跨ぐと逆に進むことができないのも理由の一つね。なにせ勇者様は強いから、最終地点であるエリア9に到達できる可能性も高いもの」
一度、エリア9に踏み込んだ勇者は、別のエリアへと移動できなくなる。いつまでも定住することになるため、勇者の数が多いのだ。
「でも、勇者はそんなにも強いのかなぁ」
「勇者様の実力を疑っているの?」
「僕も元勇者パーティの一員だったからね」
「へぇ~、それは興味深いわね」
「剣の鋭さを増す《先鋭化》のスキルを持つ勇者だったよ。戦闘向きの良いスキルだとは思う。でもエリア9の猛者たちと比べると見劣りするとは思わないかい?」
クリフはオークにさえ苦戦していた。彼がエリア9に到達できるほどの強者に成長する姿を想像できない。
だがエミリスはジンの意見を聞いた上で、首を横に振る。
「勇者はね、レベルアップごとに成長する速度が、他の職業とは比較にならないの。お仲間の勇者も近しいレベルの人より優れていなかった?」
「それはまぁ」
「だからしっかりと各エリアで経験を重ねれば、エリア9に到達する頃には別人へと成長しているわ……ただし道さえ踏み外さなければね……」
「道?」
「昇格システムについては知っているわよね?」
「上位職への進化だよね」
職業はスキルや能力値の上昇に影響している。
例えば魔法使いなら魔法の習得をしやすく、剣士なら剣術が上達しやすい。スキルもまた職業に紐づいた力が与えられている。
この職業を進化させる手段こそ昇格システムである。現在の職業から一段階上の職種へと進化することで、能力値の底上げや習得スキルの変化などの恩恵を受け取ることができる。
一例を挙げるなら、魔法使いが賢者となれば覚えられる魔法の種類が増大するし、剣士が剣豪となれば剣の腕がより磨かれる。昇格は冒険者にとって大切な成長の機会なのだ。
「あれ? でも勇者は最終職業だから、昇格しないと聞いたけど……」
「知られていないけど、実は昇格先が存在するの……その名も《闇に堕ちた勇者》。非人道的な悪行を繰り返すことで到達する職業よ」
「勇者なのに悪いことをすると強くなるの?」
「人間に対してのみという制約付きだけどね。スキルも対人間向きの力に変化するそうよ」
「スキルが魔王との闘いには不向きになる。エリア9までわざわざ足を運ばないね」
「ふふふ、でもまぁ、冒険者として節度ある行動を心がけていれば、ただの杞憂で済む話よ。心配する必要なんでないわ」
「…………」
クリフの粗暴な性格だと悪い方向に転がる可能性もゼロではない。もし彼がスターティア地区で人類の敵となった時、冒険者たちは彼を止められるだろうか。
答えは否だ。有望な冒険者はすぐにエリア2へと旅立ってしまう。だからこそ戦力として期待できる者は少ない。
だからこそ、もしクリフが暴走したのなら、ジンが止めなければならない。そのためにも強くなる必要があった。
「あ、あの、《銅の剣》を売ったお金で武器を買ってもいいかな?」
「もちろんよ。むしろ買ってくれると嬉しいわ」
「なら防具が欲しい。それと剣もセットで」
「でも剣なら《ドラゴンスレイヤー》があるでしょ」
「無用なトラブルを回避するためにも目立ちたくないからね」
「うふふ、それなら要望にピッタリの装備があるわ。丁度、仕入れたばかりなの」
エミリスが戸棚から漆黒の外套と小刀を取り出す。二つでワンセットなのか、どちらも似た造形をしていた。
「この装備は黒龍の外皮を加工して作られているの。外套の頑丈さも、小刀の切れ味も申し分ないわ。でも一番の特徴はそこじゃない。この装備はね、使い手の望み次第で成長するの」
「成長って装備が?」
「切れ味を望めばよく切れる刀に、魔法耐性を望めば魔法使いの天敵になれる。長く使えば使うほど味の出る装備なの」
「面白い武器だね。それに地味なデザインなのもいい」
受け取った外套を羽織り、小刀を腰に提げる。その立ち姿は一流の冒険者のような風格を放っていた。
「黒の衣装がとても似合うわね」
「でも高いんじゃ」
「金貨五千枚よ。でもそれだけの価値はあるでしょ?」
「《ドラゴンスレイヤー》よりも安いんだね」
「《黒龍の外套》と《黒龍の小刀》は育てるのが大変だもの。だから同じ評価Aの装備でも価格が落ちるの。それから、これを渡しておくわね」
「これは?」
「お釣りよ。残りの金貨五千枚が入っているから。用心しなさいよね」
「は、はい」
革袋にどっしりと詰まった金貨を受け取る。これだけあれば当分、資金の心配をする必要はない。
「エミリスさんのおかげで宿代も払えるよ。ありがとう」
「宿代って、もしかしてまだ予約してないの?」
「予約?」
「エデンの宿屋はすぐに埋まっちゃうから。予約がないと泊まれないのよ」
「それは失敗したねぁ」
折角なら終末の街エデンの宿を体験してみたいと思ったが無理なら仕方ないと、ジンは早々に諦める。
スターティアに戻れば、空き宿はいくらでもある。泊まる場所に事欠かないからだ。
「ふぅ、仕方ないわね。ジンくんも野宿するのは嫌でしょ?」
「それはまぁ……でも僕は……」
「心配しないで。お姉さんに任せない。私の家に使っていない部屋があるから、泊まっていきなさい」
エミリスは有無を言わせぬ態度で宿の提供を申し出る。ジンはたじろぎながらも、彼女の厚意に甘えるのだった。
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