3 / 7
3
しおりを挟む
帝国に到着し、城に招かれると後宮に移されて側妃として部屋を与えられた。
後日、簡略的な式を挙げて正式に側妃になる。
だが好色な皇帝は到着した夜に私の部屋を訪れた。
60歳だと聞いていたが、太っているので皺が目立たず若く見える。
脂ぎった顔は下品で、大国の皇帝とは思えない。
前皇帝は世界に名を遺す賢王だったが、やはり好色なのは有名だった。
「妖精姫?どのような可憐な姫かと思っていたが、想像と違っておるな」
「申し訳ございません。大げさな噂が吟遊詩人達によって流されたのでしょう」
「残念だ。だがお前は・・・よく見れば美しい、一夜の伽は許してやろう」
皇帝は私をベッドに押し倒すとナイトドレスのリボンに手を掛けた。
「あぁぁ、やはり怖い。私には無理です!」
皇帝の手を払い除け、私はベッドの脇に身を滑らせた。
「不敬であるぞ。逃げられると思うか?」
私は部屋の中を皇帝の手から逃げ回った。身軽な私を運動不足な体の皇帝が捕まえられる筈もなく、息を切らせて走り回る滑稽な皇帝の姿に思わず嘲笑してしまう。
「ええい!護衛騎士はここに参れ!姫を捕らえよ!」
皇帝が大声で叫ぶと扉の向こうで控えていた騎士が2名「いかがされました?」と飛び込んできた。
「姫を捕らえて縛れ。動けなくするのだ!」
相手が騎士2名では分が悪い、しばらく逃げていたが、とうとう私は捕まってしまった。
「元気な姫だ。薬を与えて大人しくさせるか。寝台に縛り付けろ!」
「では縄を取って参ります」
「馬鹿者、ナイトドレスのリボンがあるだろう。それで縛るんだ」
皇帝が嬉しそうに私の胸のリボンに手を掛けたところを、足で皇帝の股間に一撃を与えた。次いで私の肩を掴んでいる護衛に頭突きをくらわすと、腰の帯剣を抜いて痛みで悶絶している皇帝の首に向けた。
「動くな!皇帝の首を飛ばすわよ!」
「貴様、何者だ!」
「私はマリエッタ、妖精姫よ?」
女だと甘く見た別の護衛が私に切りかかって来たが剣を払い ザシュッ! と脇腹を切りつけた。
「動くなと忠告したはずよ!」
ついでに這って逃げようとした皇帝の背中を白いガウンの上から軽く一刺しすると「ぎゃぁぁあ!」と叫んで皇帝は気絶した。
皇帝の背中を赤い血が広がっていく。
「ふん、黒い血では無かったのね」
一秒が数分に感じられる。緊迫した中で護衛達と睨み合っていると、廊下をバタバタと大勢の足音が聞こえてきた。
私は賭けに勝ったのか負けたのか。また利用されただけなのか。結果によっては自害も厭わない。
剣を握った手に力を込めた。
「マリエッタ!」
ベルクール殿下の声にあちらも首尾よく片付いたと理解した。
「遅かったわね」
「すまない、皇太子も捕らえた。皇帝は・・・殺したのか?」
「いいえ、気絶してるだけ。謀反は成功したの?」
「ああ、被害は最小限に抑えられた。協力に感謝するよ」
私は生き延びたようだ・・・好色皇帝は騎士達に運ばれていった。
「約束は守ってね、私を帝国騎士に」
「それは考え中だ」
やはりこの男も裏切るのか。剣をベルクールに向けると後方の騎士達も剣を抜いた。
「よせ、勘違いするな!君は私の従者にするつもりだ」
「私は遠回しの言い方やサプライズは嫌いなの!」
「悪かった。それにしても君は着痩せするタイプだな」
ナイトドレス姿────くっきりボディラインを映して下着まで丸見えだ。
「きゃぁぁあ」
「くっくっ・・・部屋を変えてゆっくり休んでくれ」
私とベルクールは船上でお互いに協力する約束で取引を行っていた。
クーデターは成功し、皇帝と皇太子は処刑。国家の枢軸まで食い込んでいた腐敗貴族達も排除された。
後宮は解体されて側妃には賠償金が支払われ、希望する者をベルクール殿下は帰国させた。
ベルクール殿下が新皇帝に即位し、私は護衛騎士として多忙な皇帝の傍で常に控えていた。
ミーティアと名乗るのは許されず、肩書はマリエッタ王女・・・元側妃だ。
好色皇帝を蹴り上げ、気絶させた私を<妖精姫>などと誰も言わなくなった。
1年が過ぎて帝国もようやく落ち着きを取り戻し、次は皇帝のお妃選びに話題が移った。
24歳、眉目秀麗でカリスマのある皇帝は令嬢達の憧れではあるが、父親と実兄を処刑した冷酷さに怯える令嬢も少なくなかった。
「マリエッタを皇妃に迎える。王女だし、強い、文句は無いだろう」
「私は元皇帝の側妃ですよ?お断りです」
「まだ結婚はしていないんだ、側妃ではないぞ?」
ベルクールを嫌いでは無いが皇妃など柄にもない役はお断りだ。私は騎士が性分に合っている。
「騎士の皇妃も面白いではないか。私の傍で私を守って欲しい。帝国は敵が多いからな」
皇帝の言葉は甘い求婚よりも騎士である私の心を揺さぶった。
好色爺と嗜虐皇子から守ってくれたベルクールには借りもある。
「かしこまりました、主君をお守り致します」
「今までは力で他国を押さえてきたが今後は信頼を築いていかなければならない。協力してくれるな?」
「はっ!喜んで」
こうして私はベルクールに騎士の誓いを立てて、婚約者となった。
後日、簡略的な式を挙げて正式に側妃になる。
だが好色な皇帝は到着した夜に私の部屋を訪れた。
60歳だと聞いていたが、太っているので皺が目立たず若く見える。
脂ぎった顔は下品で、大国の皇帝とは思えない。
前皇帝は世界に名を遺す賢王だったが、やはり好色なのは有名だった。
「妖精姫?どのような可憐な姫かと思っていたが、想像と違っておるな」
「申し訳ございません。大げさな噂が吟遊詩人達によって流されたのでしょう」
「残念だ。だがお前は・・・よく見れば美しい、一夜の伽は許してやろう」
皇帝は私をベッドに押し倒すとナイトドレスのリボンに手を掛けた。
「あぁぁ、やはり怖い。私には無理です!」
皇帝の手を払い除け、私はベッドの脇に身を滑らせた。
「不敬であるぞ。逃げられると思うか?」
私は部屋の中を皇帝の手から逃げ回った。身軽な私を運動不足な体の皇帝が捕まえられる筈もなく、息を切らせて走り回る滑稽な皇帝の姿に思わず嘲笑してしまう。
「ええい!護衛騎士はここに参れ!姫を捕らえよ!」
皇帝が大声で叫ぶと扉の向こうで控えていた騎士が2名「いかがされました?」と飛び込んできた。
「姫を捕らえて縛れ。動けなくするのだ!」
相手が騎士2名では分が悪い、しばらく逃げていたが、とうとう私は捕まってしまった。
「元気な姫だ。薬を与えて大人しくさせるか。寝台に縛り付けろ!」
「では縄を取って参ります」
「馬鹿者、ナイトドレスのリボンがあるだろう。それで縛るんだ」
皇帝が嬉しそうに私の胸のリボンに手を掛けたところを、足で皇帝の股間に一撃を与えた。次いで私の肩を掴んでいる護衛に頭突きをくらわすと、腰の帯剣を抜いて痛みで悶絶している皇帝の首に向けた。
「動くな!皇帝の首を飛ばすわよ!」
「貴様、何者だ!」
「私はマリエッタ、妖精姫よ?」
女だと甘く見た別の護衛が私に切りかかって来たが剣を払い ザシュッ! と脇腹を切りつけた。
「動くなと忠告したはずよ!」
ついでに這って逃げようとした皇帝の背中を白いガウンの上から軽く一刺しすると「ぎゃぁぁあ!」と叫んで皇帝は気絶した。
皇帝の背中を赤い血が広がっていく。
「ふん、黒い血では無かったのね」
一秒が数分に感じられる。緊迫した中で護衛達と睨み合っていると、廊下をバタバタと大勢の足音が聞こえてきた。
私は賭けに勝ったのか負けたのか。また利用されただけなのか。結果によっては自害も厭わない。
剣を握った手に力を込めた。
「マリエッタ!」
ベルクール殿下の声にあちらも首尾よく片付いたと理解した。
「遅かったわね」
「すまない、皇太子も捕らえた。皇帝は・・・殺したのか?」
「いいえ、気絶してるだけ。謀反は成功したの?」
「ああ、被害は最小限に抑えられた。協力に感謝するよ」
私は生き延びたようだ・・・好色皇帝は騎士達に運ばれていった。
「約束は守ってね、私を帝国騎士に」
「それは考え中だ」
やはりこの男も裏切るのか。剣をベルクールに向けると後方の騎士達も剣を抜いた。
「よせ、勘違いするな!君は私の従者にするつもりだ」
「私は遠回しの言い方やサプライズは嫌いなの!」
「悪かった。それにしても君は着痩せするタイプだな」
ナイトドレス姿────くっきりボディラインを映して下着まで丸見えだ。
「きゃぁぁあ」
「くっくっ・・・部屋を変えてゆっくり休んでくれ」
私とベルクールは船上でお互いに協力する約束で取引を行っていた。
クーデターは成功し、皇帝と皇太子は処刑。国家の枢軸まで食い込んでいた腐敗貴族達も排除された。
後宮は解体されて側妃には賠償金が支払われ、希望する者をベルクール殿下は帰国させた。
ベルクール殿下が新皇帝に即位し、私は護衛騎士として多忙な皇帝の傍で常に控えていた。
ミーティアと名乗るのは許されず、肩書はマリエッタ王女・・・元側妃だ。
好色皇帝を蹴り上げ、気絶させた私を<妖精姫>などと誰も言わなくなった。
1年が過ぎて帝国もようやく落ち着きを取り戻し、次は皇帝のお妃選びに話題が移った。
24歳、眉目秀麗でカリスマのある皇帝は令嬢達の憧れではあるが、父親と実兄を処刑した冷酷さに怯える令嬢も少なくなかった。
「マリエッタを皇妃に迎える。王女だし、強い、文句は無いだろう」
「私は元皇帝の側妃ですよ?お断りです」
「まだ結婚はしていないんだ、側妃ではないぞ?」
ベルクールを嫌いでは無いが皇妃など柄にもない役はお断りだ。私は騎士が性分に合っている。
「騎士の皇妃も面白いではないか。私の傍で私を守って欲しい。帝国は敵が多いからな」
皇帝の言葉は甘い求婚よりも騎士である私の心を揺さぶった。
好色爺と嗜虐皇子から守ってくれたベルクールには借りもある。
「かしこまりました、主君をお守り致します」
「今までは力で他国を押さえてきたが今後は信頼を築いていかなければならない。協力してくれるな?」
「はっ!喜んで」
こうして私はベルクールに騎士の誓いを立てて、婚約者となった。
59
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?
石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。
ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。
彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。
八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

貧乏子爵令嬢ですが、愛人にならないなら家を潰すと脅されました。それは困る!
よーこ
恋愛
図書室での読書が大好きな子爵令嬢。
ところが最近、図書室で騒ぐ令嬢が現れた。
その令嬢の目的は一人の見目の良い伯爵令息で……。
短編です。
婚約破棄の慰謝料を払ってもらいましょうか。その身体で!
石河 翠
恋愛
ある日突然、前世の記憶を思い出した公爵令嬢ミリア。自分はラストでざまぁされる悪役令嬢ではないかと推測する彼女。なぜなら彼女には、黒豚令嬢というとんでもないあだ名がつけられていたからだ。
実際、婚約者の王太子は周囲の令嬢たちと仲睦まじい。
どうせ断罪されるなら、美しく散りたい。そのためにはダイエットと断捨離が必要だ! 息巻いた彼女は仲良しの侍女と結託して自分磨きにいそしむが婚約者の塩対応は変わらない。
王太子の誕生日を祝う夜会で、彼女は婚約破棄を求めるが……。
思い切りが良すぎて明後日の方向に突っ走るヒロインと、そんな彼女の暴走に振り回される苦労性のヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:29284163)をお借りしています。
【完結】冷遇・婚約破棄の上、物扱いで軍人に下賜されたと思ったら、幼馴染に溺愛される生活になりました。
えんとっぷ
恋愛
【恋愛151位!(5/20確認時点)】
アルフレッド王子と婚約してからの間ずっと、冷遇に耐えてきたというのに。
愛人が複数いることも、罵倒されることも、アルフレッド王子がすべき政務をやらされていることも。
何年間も耐えてきたのに__
「お前のような器量の悪い女が王家に嫁ぐなんて国家の恥も良いところだ。婚約破棄し、この娘と結婚することとする」
アルフレッド王子は新しい愛人の女の腰を寄せ、婚約破棄を告げる。
愛人はアルフレッド王子にしなだれかかって、得意げな顔をしている。
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
愛を語れない関係【完結】
迷い人
恋愛
婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。
そして、時が戻った。
だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる