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 クライン王国には妖精姫と謳われる可憐な王女がいた。
 王様の一人娘で、それはそれは大切に育てられていた。

 王女の名はマリエッタ、私の義兄ガブリエルは王女の王配になる予定だった。


 私はミーティア、王国騎士団の女騎士。
 16歳になってから、マリエッタ王女の侍女兼護衛騎士となり9か月が過ぎていた。


 私の母は3年前に王国騎士団長の後妻となった。私は母の連れ子だ。

 母が再婚して私にはガブリエルとリカルドという義兄が出来た。
 もう一人の義兄のリカルドは私の婚約者である。

 義父は私を養子ではなくリカルドに嫁がせて義娘にしようと考えた。それは母にとっても嬉しい提案だった。
 リカルドも受け入れてくれて、私とリカルドは来年結婚する。
 2年後にはマリエッタ王女とガブリエルも婚姻を結ぶ予定で、小さな王国は平和だった。

 だが帝国からマリエッタ王女を側妃にしたいと要望があり、クライン王国は混乱に陥った。

 皇帝は多くの側妃を抱えた好色家だ。
 それも最近では孫のような年端も行かない娘を側妃にしている。マリエッタ王女もまだ16歳で小柄な妖精姫は更に幼く見えていた。

 一月以内に帝国に輿入れさせるよう通達があり、マリエッタ王女は部屋に籠って泣き暮らしていた。
 帝国に逆らうなど決して出来ない。この国の王族としてマリエッタ王女は側妃になる以外なかった。

 当然ガブリエルとの婚約も解消され、一度だけガブリエルは王女に会いに来た。元婚約者の腕の中でマリエッタ王女は泣きじゃくり、見ていた私も涙が止まらなかった。

「いやよ、死んだ方がマシだわ。お願い助けてガブリエル」
「生きていれば良いこともあります。死なないでマリエッタ。きっと・・・・」
 続く言葉は私の耳には届かなかった。

 ガブリエルが帰った後、マリエッタ王女の瞳に生気が少し戻った気がした。

 
 帝国に輿入れする王女から決して目を離さぬよう上司より命令され、私は昼夜マリエッタ王女の傍を離れず、王女のお体を気遣いながらお仕えしていた。


 王女が部屋に籠って10日目の夜にリカルドが私に会いに来た。17歳の彼も王宮の護衛騎士で昼間はマリエッタ王女に付いている。連日王女付きで疲れている私に夜勤の交代を申し出てくれた。

「大丈夫、朝までしっかり護衛を務めるわ。体力には自信があるの」

「ミーティア、少し眠った方が良い、全然眠っていないだろう?心配だよ」

 そう言ってリカルドは私を抱き締めて、休息室に連れて行った。

「俺に任せて、朝まで我儘姫を見張っているよ」
 私はリカルドを信じて数時間だけベッドに横たわった。そして・・・・

 目が覚めるとマリエッタ王女は姿を消していた。


「貴様は何をしていたんだ!」
 上司に殴られて気が付いた、私は愛する人に裏切られたのだと。


 箝口令が敷かれ、騎士団総出でマリエッタ王女の捜索が始まった。誘拐の首謀者はリカルドとガブリエル。王都から兄弟二人が消えていたのだ。

 私と母は城の地下牢に繋がれた。

「1週間以内に探し出せ!見つからなければ騎士団長の妻とその娘は斬首だ!」

 残酷な王命に騎士団長の義父は血眼になって捜索し、共和国との国境付近でガブリエルを発見したが、マリエッタ王女とリカルドは見つからなかった。
 ガブリエルは見つかったものの黙秘し、その場で首を切って自害した。

 帝国にはマリエッタ王女が病気だと嘘の報告をして時間を稼いでいたが、バレるのは時間の問題だった。


 1週間経っても二人は見つからず、失態を犯した私は斬首を覚悟していた。
 義父は地下牢に来て私と母に泣いて詫びた。

「共和国に逃げ込んだとすれば、秘密裏の捜索は不可能だ。直ぐに帝国にも知られるだろう。息子達の罪をこの身をもって謝罪する」

「貴方、私は良いのです。ミーティアだけは守ってやって下さい!」
「いいえ、私の失態です。母だけはどうか!」
 
「すまなかった、二人とも本当にすまなかった。全て私の責任だ。お前達を死なせないよう陛下に懇願した」

 為すすべも無く目の前で義父は腹をかき切り、苦しみながら息絶えた。

「ああ!貴方・・・」
「お父様・・・」

 母は気絶し、私は気が狂いそうだった。

 ガブリエルとリカルドはこうなると予想しなかったのか。
 あの三人は幼馴染で、兄弟はマリエッタを愛し、何よりもマリエッタが大切だった。何を犠牲にしてもマリエッタを救いたかったのだ。

「ああぁぁああ、許せない!絶対に許せない!」

 例え義父が一時この場を凌いでも、マリエッタが見つからなければ私達は処刑されるだろう。私は罰を受けて当然の身であったが母を道連れにするのが苦しい。
 
 「リカルド、貴方が憎い。命を絶ったガブリエルも許せない!兄弟そろって地獄に落ちるがいい!」

 牢の中で、私は呪いの言葉を吐き続けた。



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