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トーマス編
2-4 リアリス視点
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===★〈リアリス視点〉★===
「1年間お世話になります。宜しくお願い致します」
にこやかに両親と挨拶しているのは隣国のコートバル侯爵家のトーマス様。
どういうこと?私は城の地下牢で命を絶ったはず・・・夢じゃない。
夜会でファーレン殿下に猛毒を盛ったんだわ。次にスカートの中に隠していた短剣で憎いエヴリンの顔を傷つけて後は自害しようと思っていた。
その後のことを想像するのも恐ろしい、家族はどんな罰を受けたのだろう、弟のカシアンは・・・
「大丈夫ですか、顔色が悪いですが?」
トーマス様が心配して声を掛けて下さった。
嬉しい、またお会いできるなんて。大好きだった優しいトーマス様。
「・・・大丈夫です。トーマス様、ご無沙汰しておりました」
声が震えて泣きそうだ、あの夜会の半年前に時が戻っている。これは神様が与えてくれた慈悲だろうか。
私は犯罪者だ、どうしてあのような大それた罪を犯したのか…今は分からない。
婚約が決まった時は絶望した。殿下と幼馴染のエヴリン様が想い合っているのは有名だった。
政略結婚だ、そこに愛など無くてもいい。なのにいつからか私はファーレン殿下を狂おしいほどに愛していた。
なのに結果はどうだ、殿下はエヴリン様を愛し、私は自害した。
殿下が填めてくれた<王家の指輪>をそっと撫でた。
「え⁈」
私の指から深紅の指輪は消えていた。
紛失した?<王家の指輪>を・・・そうか、私の愛と共に指輪も消えたんだわ。
「どうしたの?また会えて嬉しいよリアリス様」
「私も嬉しいです。昔の様にリアと呼んで下さいトーマス様」
「では僕をトーマスと呼んで、リア」
───昔の仲良しだった私達に戻れた。
前回もトーマスは語学の勉強と他国交流を理由に留学して来られた。金髪碧眼の美しい方で物腰も柔らかく入学されるなり令嬢達の憧れの的になった。
父が婚約者はいないのか尋ねると『まだいません。うちの家系は女傑揃いで、正直僕は女性が苦手なんです』と笑いながら答えていた。
『リアとトーマス様が大人になったら結ばれてくれればいいと昔は思っていたのよ』
母は残念そうに言った。私もそう思っていたのに、どうして殿下なんかを狂うほど愛したのか。
トーマスは学園で虐げられる私を心配して何度も庇って下さった。
私はファーレン殿下に誤解されるのが嫌でトーマスを避けていた。
あまつさえ私に意見する家族やトーマスを疎ましいとすら思っていた。
さっきまで殿下を愛していたのに今は愛情は皆無、憎しみだけが心に燃え残っている。
私は狂っていた!そう思わないと今もまた狂ってしまいそうだ!
***
───今回はもう間違えない。
学園ではトーマスを案内してお世話する役目を申し出た。お預かりしている大切なお客様だ、疚しいことは何もない。今回彼には私の証人になって欲しかった。
思った通り早速エヴリンが私に絡んできた。
「あら王太子殿下の婚約者が他の男性と親し気に・・・はしたないわ」
私が言い返そうとするとトーマスが私の前に出た。
「どちら様でしょうか?挨拶も無しに失礼では有りませんか?」
「私はカストル公爵家のエヴリンよ。ファーレンとは幼馴染なの覚えておきなさい」
「幼馴染?ボーゲン侯爵令嬢は婚約者ですよ?どちらが立場が上か覚えておくことですね」
「なっ!公爵令嬢に向かって!お父様に言いつけてやるわ!」
エヴリンは怒りを露わに取り巻きを連れて去って行った。
「トーマス様、先手を打ちましょう。先に公爵家に抗議の手紙を出します」
「それは良いですね。コートバル家からも抗議の手紙を出しますよ」
学園の事務室で手紙を書き、学園から公爵家に送ってもらった。念のため父にも知らせておいた。
昼になればファーレン殿下がエヴリンを連れて文句を言いに来た。
「リアリス!貴様は俺の婚約者の立場を利用して好き勝手やっているようだな!」
「好き勝手しているのは幼馴染という立場を利用している公爵令嬢ではないですか?あ、恋人ですか?腕なんか組んで親しそうですね」
またトーマスが私の前に出て庇ってくれた。
「貴様は侯爵家の分際で俺に意見するのか!」
「僕は他国交流の留学生です。こちらで起こった事は我が国に報告させて頂きます。誰が『貴様』ですか?」
「うっ・・・」
「コートバル侯爵家は自国の王族と親戚関係にあります。こちらでの留学状況は王太子殿下が報告を楽しみにしているんです。まさか第二王子に『貴様』呼ばわりされるなんて」
「それは・・ぐぅう・・失礼をした・・・」
「もう結構です、楽しい手紙が書けそうだ。王太子殿下も喜んでくれるでしょう。ボーゲン侯爵令嬢、行きましょうか」
「はい」
「リアリス待て!お前にはまだ用事がある!」
「何でしょうか?」
「エヴリンに横柄な態度をとったそうだな、謝れ!」
「ああ、それなら僕です。申し訳ございませんでした。ボーゲン侯爵令嬢は一言も喋って無いですよ?」
「ぐっ、エヴリンどういう事だ!」
「だって・・・」
「もういい!行くぞ」
去っていく二人を見送りながらトーマスがつぶやいた。
「屑の極みだな。まだまだこれからだ・・・」
「トーマス、もしかして貴方にも記憶が?」
「え、リアにもあるの?」
私が過去に戻ったのはトーマスが奇跡を起こしてくれたの?
「1年間お世話になります。宜しくお願い致します」
にこやかに両親と挨拶しているのは隣国のコートバル侯爵家のトーマス様。
どういうこと?私は城の地下牢で命を絶ったはず・・・夢じゃない。
夜会でファーレン殿下に猛毒を盛ったんだわ。次にスカートの中に隠していた短剣で憎いエヴリンの顔を傷つけて後は自害しようと思っていた。
その後のことを想像するのも恐ろしい、家族はどんな罰を受けたのだろう、弟のカシアンは・・・
「大丈夫ですか、顔色が悪いですが?」
トーマス様が心配して声を掛けて下さった。
嬉しい、またお会いできるなんて。大好きだった優しいトーマス様。
「・・・大丈夫です。トーマス様、ご無沙汰しておりました」
声が震えて泣きそうだ、あの夜会の半年前に時が戻っている。これは神様が与えてくれた慈悲だろうか。
私は犯罪者だ、どうしてあのような大それた罪を犯したのか…今は分からない。
婚約が決まった時は絶望した。殿下と幼馴染のエヴリン様が想い合っているのは有名だった。
政略結婚だ、そこに愛など無くてもいい。なのにいつからか私はファーレン殿下を狂おしいほどに愛していた。
なのに結果はどうだ、殿下はエヴリン様を愛し、私は自害した。
殿下が填めてくれた<王家の指輪>をそっと撫でた。
「え⁈」
私の指から深紅の指輪は消えていた。
紛失した?<王家の指輪>を・・・そうか、私の愛と共に指輪も消えたんだわ。
「どうしたの?また会えて嬉しいよリアリス様」
「私も嬉しいです。昔の様にリアと呼んで下さいトーマス様」
「では僕をトーマスと呼んで、リア」
───昔の仲良しだった私達に戻れた。
前回もトーマスは語学の勉強と他国交流を理由に留学して来られた。金髪碧眼の美しい方で物腰も柔らかく入学されるなり令嬢達の憧れの的になった。
父が婚約者はいないのか尋ねると『まだいません。うちの家系は女傑揃いで、正直僕は女性が苦手なんです』と笑いながら答えていた。
『リアとトーマス様が大人になったら結ばれてくれればいいと昔は思っていたのよ』
母は残念そうに言った。私もそう思っていたのに、どうして殿下なんかを狂うほど愛したのか。
トーマスは学園で虐げられる私を心配して何度も庇って下さった。
私はファーレン殿下に誤解されるのが嫌でトーマスを避けていた。
あまつさえ私に意見する家族やトーマスを疎ましいとすら思っていた。
さっきまで殿下を愛していたのに今は愛情は皆無、憎しみだけが心に燃え残っている。
私は狂っていた!そう思わないと今もまた狂ってしまいそうだ!
***
───今回はもう間違えない。
学園ではトーマスを案内してお世話する役目を申し出た。お預かりしている大切なお客様だ、疚しいことは何もない。今回彼には私の証人になって欲しかった。
思った通り早速エヴリンが私に絡んできた。
「あら王太子殿下の婚約者が他の男性と親し気に・・・はしたないわ」
私が言い返そうとするとトーマスが私の前に出た。
「どちら様でしょうか?挨拶も無しに失礼では有りませんか?」
「私はカストル公爵家のエヴリンよ。ファーレンとは幼馴染なの覚えておきなさい」
「幼馴染?ボーゲン侯爵令嬢は婚約者ですよ?どちらが立場が上か覚えておくことですね」
「なっ!公爵令嬢に向かって!お父様に言いつけてやるわ!」
エヴリンは怒りを露わに取り巻きを連れて去って行った。
「トーマス様、先手を打ちましょう。先に公爵家に抗議の手紙を出します」
「それは良いですね。コートバル家からも抗議の手紙を出しますよ」
学園の事務室で手紙を書き、学園から公爵家に送ってもらった。念のため父にも知らせておいた。
昼になればファーレン殿下がエヴリンを連れて文句を言いに来た。
「リアリス!貴様は俺の婚約者の立場を利用して好き勝手やっているようだな!」
「好き勝手しているのは幼馴染という立場を利用している公爵令嬢ではないですか?あ、恋人ですか?腕なんか組んで親しそうですね」
またトーマスが私の前に出て庇ってくれた。
「貴様は侯爵家の分際で俺に意見するのか!」
「僕は他国交流の留学生です。こちらで起こった事は我が国に報告させて頂きます。誰が『貴様』ですか?」
「うっ・・・」
「コートバル侯爵家は自国の王族と親戚関係にあります。こちらでの留学状況は王太子殿下が報告を楽しみにしているんです。まさか第二王子に『貴様』呼ばわりされるなんて」
「それは・・ぐぅう・・失礼をした・・・」
「もう結構です、楽しい手紙が書けそうだ。王太子殿下も喜んでくれるでしょう。ボーゲン侯爵令嬢、行きましょうか」
「はい」
「リアリス待て!お前にはまだ用事がある!」
「何でしょうか?」
「エヴリンに横柄な態度をとったそうだな、謝れ!」
「ああ、それなら僕です。申し訳ございませんでした。ボーゲン侯爵令嬢は一言も喋って無いですよ?」
「ぐっ、エヴリンどういう事だ!」
「だって・・・」
「もういい!行くぞ」
去っていく二人を見送りながらトーマスがつぶやいた。
「屑の極みだな。まだまだこれからだ・・・」
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