私が妻です!

ミカン♬

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完結

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エルシーはヴァルから、ロビンが数日前に王都に到着したと聞かされていた。

ロビンはロージーとヴァルよりも3歳年上で商売人だった。
彼はロージーに育児の責任能力が無いとしてシャリーの保護責任者となり、承認書にさっさとサインをした。

なのでシャリーは目を取り出された。
そう聞くと残酷に聞こえるが『これで安全になったから良かった、他国でシャリーのために義眼を作る』とロビンは言ったそうだ。



それからまた何日かが過ぎた今日、ロビンがシャリーを連れて他国に戻るというので、別れを告げに二人で教会を訪れた。

あのロージーのお兄さんと聞いて、エルシーは不安だった。
それに教会にはロージーもいる、ヴァルがシャリーの為にまた離婚すると言い出しそうでエルシーは怖かった。
だから早く抱いて欲しいのに、ヴァルはその気が無さそうだ。

マーサからいろいろ教えて貰って覚悟はできている。
ベッドで手を繋いでこっちがドキドキしているのに、平気でぐっすり眠っている。
と言って、自分から誘惑するのも恥ずかしい。



ロビンと挨拶を交わすと、彼はエルシーに握手を求めた。
ヴァル以外の男性に触れるのはまだ躊躇したが、ロビンの手をそっと握った。

「こんな美しい奥さんがいるのではロージーは適わなかったな」

「ロージーは俺に頼りたかっただけだ。これからはシャリーを頼むよ」

「勿論だ。長いあいだ妹達の面倒見てくれて有難う」

ロビンは迷惑料も払うと言ったがヴァルは断って、ロージーにかかった生活費だけ貰っておいた。

話していると神官がシャリーを抱いて現れて、ヴァルはシャリーを抱かせて貰えた。

「シャリー元気でな」

「可愛い、私にも抱かせて」

エルシーにシャリーを渡すとロージーが現れた。


「ヴァル! やっと会えたわ。淋しかった」

化粧をしてて遅くなったロージーはヴァルに駆け寄ると当り前のように抱き着いた。
きっと毎日こうだったんだなと、エルシーは怒りが沸いた。

「私ね、今度こそヴァルの子どもを産みたいわ」

態とエルシーを無視である。
彼女がこういう非常識な人で良かった。素敵な人だったら夫は本当に浮気したかもしれないとエルシーは密かに思った。

「離してくれ、俺はもうロージーとは赤の他人だ。いや、最初から他人だった」

「酷い!私は奥さんでしょう? 私はずっとヴァルと一緒にいる!」

「洗脳は解けたんだ。君は奥さんなんかじゃない」

「ヴァル、シャリーの父親になってお願いよ!」

「やめてくれ!」

これはまずい。一緒に来て正解だったとエルシーは思った。
ヴァルはきっと押しに弱い、人が良いから面倒事を断れないのだ。

シャリーをロビンに渡して、エルシーは息を吸った。

「ロージーさん、お断りします! ヴァルは私の夫です!」

「上辺だけでしょう?妹みたいな存在だっていつも言ってたわよ」

「いいえ、もう本当の夫婦です。子どもだって直ぐに出来ます」

教会で嘘をつくのは心苦しいがロージーの未練を夫に残したくなかった。

「嘘、嘘でしょうヴァル?」

「本当だ。エルシーは俺の愛する妻だ。エルシーに似た可愛い子が生まれると嬉しい」

ヴァルはエルシーの肩を抱き寄せた。


「何よ!もういいわ。もっといい男見つけるから、ヴァルなんかいらないわ!」

「フレッドみたいな屑はもう御免だぞ。今度はもう誰もお前を助けてくれないからな」
ロビンは、こちらに向かって一礼し、教会を出た。

ロージーはまだ文句を言いながら兄の後を付いていく。

「ロビンはこれから妹に手を焼くだろうな。実家との確執もあるだろうが、もうロージーが頼れるのはロビンだけだ。ただ、シャリーには幸せになって欲しい」



ロージーが癇癪を起こしても、シャリーは泣かなかった。
きっとこれからはロビンの元で幸せになれる。

ヴァルの安堵した顔にエルシーもこれで洗脳は解けて、全て終わったと思った。


「ロビンさんは良い人でしたね」

「ああ、俺を弟のように可愛がってくれた。だから彼の妹を放っておけなかった」

「分かってます。私、教会で嘘をついてしまったので懺悔しないと」

「嘘にしなければ大丈夫だ。早く帰ろう」

「はい!」


レノには申し訳なかったが、エルシーは思い切って王都に出てきて良かったと、今は思えた。

村に隠れたままだとヴァルはロージー達と他国に行ったかもしれない。
いや、洗脳されたままシャリーと共に行ったに違いない。

村で後悔して泣いていただろう。

(誰にも夫は渡さないわ。妻は私なんだから)
幸せいっぱいの笑顔でヴァルの腕に縋るエルシー。


愛しいエルシーに腕に縋られて、幸せいっぱいなヴァル。

シャリーに魅了のような洗脳を受けていたが、今日抱っこしてそれも解けたと確信した。
新たな気持ちで王宮騎士団に入った時のようなやる気が満ちていた。

最後まで信じてくれたレノや愚かだった自分を許してくれた妻のエルシー、そして支えてくれた人たちの恩に報いるためにも、家族を大切にして主だと認められる男になろうと改めて決意した。


エルシーが歩きながら嬉しそうに話しかけてくれる。

「子どもはねレノみたいな男の子が欲しいの」

「そうだなレノは良い子だ。俺はエルシーみたいな可愛い女の子も欲しいよ」


ヴァルは女性経験が全くない童貞──

(初めてだけど、上手くいきますように)

(エルシーに嫌われませんように)

祈る気持ちで歩いていたなんてエルシーは知らない。



そんな二人は数年後には王都に屋敷を購入して可愛い子どもに恵まれ、幸福な家庭を築いていた。




────終わり。


最後まで読んで頂いて有難うございました。


    
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感想 10

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みんなの感想(10件)

ななし
2023.05.23 ななし
ネタバレ含む
2023.05.23 ミカン♬

ご感想有難うございました。

ヴァルが嫌われ過ぎて、いっそ離婚させて騎士団もクビになってた方が良かったかな?と思ったりしています。
クズ女は妊娠中と出産後だったのでヴァルはやってません。童貞です。

モヤっとさせてしまって申し訳ありません。

解除
カルボナーラ
ネタバレ含む
2023.05.23 ミカン♬

ご感想有難うございます。

ヴァルは本当にダメな夫です。同感です。
ただ誰とも体の関係は持っていません。完結に童貞だと暴露しています~。

解除
たまご
2023.05.23 たまご
ネタバレ含む
2023.05.23 ミカン♬

ご感想有難うございます。
サクッと読んで頂けて良かったです^^

未熟な訳アリ夫婦に問題が起こって、立場や意識のすれ違いで離婚の危機を迎えるが、周囲の助けを借りて乗り越え、夫婦愛を育んでいこうとお互いに寄り添っていくお話を書きたかったのですが、上手く書けなかったようで申し訳ありません。

解除

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