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恋人からですか?
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シャリーを取り戻した翌々日、エルシーはホワイト侯爵家に戻りレノと夫人に無事な姿を見せた。
「心配したのよ、無事解決したなら良かったわ」
「エイダン様と王宮騎士団のお陰です。有難うございました」
「じゃぁ、お茶にして一部始終を聞かせて貰おうかしら」
「僕も聞きたいです。オリバーはどうなったの?」
メイドがお茶の用意をして、エルシーは二人に村で起こった事を話して聞かせたのだった。
*****
取り調べを受けて分かった事だが、ロージーはシャリーに洗脳されてはいなかった。
アン婦人も大丈夫で、かかったのはヴァルだけだった。
赤子のシャリーには説明できないから、どうしてなのかは分からない。
ロージーはヴァルがシャリーに洗脳されているのは知っていた。
シャリーが生まれた日、ヴァルの様子が大きく変わったからだ。
ヴァルの愛情は全てシャリーに向くよう洗脳されていた。
何があっても、シャリーを優先するようになっていた。
ロージーはそのシャリーの母親だ。
ロージーは、シャリーのオマケとしてヴァルに妻だと認識されたのである。
「ふぅ、よく10か月もロージーと暮らしていましたね」
取り調べを行っているエイダンの顔はウンザリしていた。
「親友の妹だし、妊娠していたので追い出せませんでした」
「洗脳もされていないのに、貴方は夫だと言い張っていますよ」
「俺が洗脳したようなもんです。フレッドに『俺が夫だ』なんて大嘘を言ったから」
とんでもない癇癪持ちで、我儘、母親の自覚も薄い。
人の話も聞かずシャリーは渡さないの一点張りで、教会やエイダンの説得にも耳を貸さず、ヴァルの元に帰りたいと泣いて喚き続けている。
今はシャリーと共に教会に預けられ、ロビンの到着を待っ状態だ。
教会は勝手にシャリーの目を封印することは出来ない。
保護者が承認書にサインしてから実行されるのである。
ヴァルはシャリーに会う事は禁じられた。
再び洗脳される恐れがあるからだ。
シャリーは神官たちが交代で面倒をみているそうだ。
ロージーはヴァルに来ていた手紙は全て勝手に破棄していた。
エルシーは勿論、ロビンの手紙も捨てていた。
ロビンにはヴァルの妻になって幸せに暮らしていると嘘の手紙を出していたので、ロビンは安心して妹をヴァル任せていたようだ。
数回送られてきたロビンからの生活費もロージーはヴァルには内緒にしていた。
いつかエルシーと王都で暮らそうと貯めていたヴァルのお金は二重生活で減って、家を購入する夢は先延ばしになった。
***
「ヴァル、お前の処分が決まった。1年間、減給3割、2か月停職処分にしてやるから嫁とやり直せ。本来クビで国外追放だけどな、リーブ伯爵を摘発できたのと、洗脳されていた事でこの程度の処分になった」
「有難うございます。申し訳ありませんでした」
解雇を覚悟していただけに団長の言葉は嬉しかった。
ロージーは国外追放に決定。
それほど洗脳・魅了の力を持つ【魔女の瞳】は危険視されているのだ。
ロビンが迎えに来るまではシャリー達は教会に滞在だ。
シャリー達と暮らしていた家から、もっと広い借家に引っ越してヴァルはエルシーとレノの3人で暮らし始めた。
村の屋敷はポールとマーサに任せてある。
エルシーも初めからやり直そうと言ってくれて、侯爵家で侍女として働きだした。
レノも元気になり、訓練生としてホワイト侯爵家の騎士団で訓練を受けている。
15歳になれば騎士学校に入れる予定だ。
「旦那様、奥様は誰ですか?」「エルシーです」
洗脳が消えたか確かめるためにヴァルは毎朝レノに質問されていた。
エルシーは笑って見ている。
ヴァルは家事を引き受けていたが、エイダンから暇だろうからホワイト騎士団の訓練に参加するよう言われて、専らレノの訓練相手をするようになった。
ヴァルとエルシー、まだぎこちない二人ではあるが、エルシーの男性苦手意識も薄れて本物の夫婦になるのも時間の問題だ。
暫くはシャリーと別れて寂しい気持ちはあったが、洗脳が解けたヴァルは直ぐに現実に向き合うようになっていた。
「恋人からですか?」
「そうだ、いきなり夫婦になるのは荷が重いだろう」
──エルシーはトラウマで苦しんでいた。
もう大丈夫だと言うけど、数か月前までは俺を避けていたんだから少しずつ俺に慣れてくれる方がいいだろう。
「じゃぁ、抱きしめて下さい」
そっと抱きしめてもエルシーは怖がっていない、大丈夫そうだ。
柔らかなエルシーの髪は良い匂いがした。
「ロージーさんとキスをしましたか?」
「え!」
エルシーにはロージーと関係は持っていないと説明したが、疑っているみたいだ。
──神に誓って俺はロージーとは名ばかりの夫婦で体の関係は一切なかった!だが、夫婦と思っていたから、ロージーの軽いキスは受けた。
「したんですか?」
下から見上げて来るエルシーの顔が可愛い。
「したんですね。私は頬にキスしているのを見ました。凄く悲しかった」
「うっ・・・悪かった」
「いえ、今からヴァルにキスをしますから!」
──こんなダメな夫にキスをしてくれるのか。
エルシーの手が俺の後頭部を押さえて背伸びをしている。
「チュッ」
────頬にしてくれた。
それだけで真っ赤になっているエルシー。
可愛すぎる…
「恋人同士ですから愛を囁いて下さい」
「・・・」
「好きとか、褒めて下さるとか」
──押し倒したいと言ったら嫌われるだろうな。
「大好きだ。愛してる。初めて会った時から、ずっと好きだった」
「本当に? 私も愛しています。今夜から一緒に寝てくれますか?」
「一緒に? 大丈夫なのか?」
「うん、手を繋いで寝ましょう」
「手を・・・わかった」
避けられていた頃を思うと格段の進歩だ。
結婚してからも月に2回、家で顔を合わすだけの兄妹のような仲だった。
何も焦る必要はない、お互いゆっくり夫婦の絆を深めていけばいい。
ヴァルはもう一度エルシーを抱きしめて額にキスを返した。
「心配したのよ、無事解決したなら良かったわ」
「エイダン様と王宮騎士団のお陰です。有難うございました」
「じゃぁ、お茶にして一部始終を聞かせて貰おうかしら」
「僕も聞きたいです。オリバーはどうなったの?」
メイドがお茶の用意をして、エルシーは二人に村で起こった事を話して聞かせたのだった。
*****
取り調べを受けて分かった事だが、ロージーはシャリーに洗脳されてはいなかった。
アン婦人も大丈夫で、かかったのはヴァルだけだった。
赤子のシャリーには説明できないから、どうしてなのかは分からない。
ロージーはヴァルがシャリーに洗脳されているのは知っていた。
シャリーが生まれた日、ヴァルの様子が大きく変わったからだ。
ヴァルの愛情は全てシャリーに向くよう洗脳されていた。
何があっても、シャリーを優先するようになっていた。
ロージーはそのシャリーの母親だ。
ロージーは、シャリーのオマケとしてヴァルに妻だと認識されたのである。
「ふぅ、よく10か月もロージーと暮らしていましたね」
取り調べを行っているエイダンの顔はウンザリしていた。
「親友の妹だし、妊娠していたので追い出せませんでした」
「洗脳もされていないのに、貴方は夫だと言い張っていますよ」
「俺が洗脳したようなもんです。フレッドに『俺が夫だ』なんて大嘘を言ったから」
とんでもない癇癪持ちで、我儘、母親の自覚も薄い。
人の話も聞かずシャリーは渡さないの一点張りで、教会やエイダンの説得にも耳を貸さず、ヴァルの元に帰りたいと泣いて喚き続けている。
今はシャリーと共に教会に預けられ、ロビンの到着を待っ状態だ。
教会は勝手にシャリーの目を封印することは出来ない。
保護者が承認書にサインしてから実行されるのである。
ヴァルはシャリーに会う事は禁じられた。
再び洗脳される恐れがあるからだ。
シャリーは神官たちが交代で面倒をみているそうだ。
ロージーはヴァルに来ていた手紙は全て勝手に破棄していた。
エルシーは勿論、ロビンの手紙も捨てていた。
ロビンにはヴァルの妻になって幸せに暮らしていると嘘の手紙を出していたので、ロビンは安心して妹をヴァル任せていたようだ。
数回送られてきたロビンからの生活費もロージーはヴァルには内緒にしていた。
いつかエルシーと王都で暮らそうと貯めていたヴァルのお金は二重生活で減って、家を購入する夢は先延ばしになった。
***
「ヴァル、お前の処分が決まった。1年間、減給3割、2か月停職処分にしてやるから嫁とやり直せ。本来クビで国外追放だけどな、リーブ伯爵を摘発できたのと、洗脳されていた事でこの程度の処分になった」
「有難うございます。申し訳ありませんでした」
解雇を覚悟していただけに団長の言葉は嬉しかった。
ロージーは国外追放に決定。
それほど洗脳・魅了の力を持つ【魔女の瞳】は危険視されているのだ。
ロビンが迎えに来るまではシャリー達は教会に滞在だ。
シャリー達と暮らしていた家から、もっと広い借家に引っ越してヴァルはエルシーとレノの3人で暮らし始めた。
村の屋敷はポールとマーサに任せてある。
エルシーも初めからやり直そうと言ってくれて、侯爵家で侍女として働きだした。
レノも元気になり、訓練生としてホワイト侯爵家の騎士団で訓練を受けている。
15歳になれば騎士学校に入れる予定だ。
「旦那様、奥様は誰ですか?」「エルシーです」
洗脳が消えたか確かめるためにヴァルは毎朝レノに質問されていた。
エルシーは笑って見ている。
ヴァルは家事を引き受けていたが、エイダンから暇だろうからホワイト騎士団の訓練に参加するよう言われて、専らレノの訓練相手をするようになった。
ヴァルとエルシー、まだぎこちない二人ではあるが、エルシーの男性苦手意識も薄れて本物の夫婦になるのも時間の問題だ。
暫くはシャリーと別れて寂しい気持ちはあったが、洗脳が解けたヴァルは直ぐに現実に向き合うようになっていた。
「恋人からですか?」
「そうだ、いきなり夫婦になるのは荷が重いだろう」
──エルシーはトラウマで苦しんでいた。
もう大丈夫だと言うけど、数か月前までは俺を避けていたんだから少しずつ俺に慣れてくれる方がいいだろう。
「じゃぁ、抱きしめて下さい」
そっと抱きしめてもエルシーは怖がっていない、大丈夫そうだ。
柔らかなエルシーの髪は良い匂いがした。
「ロージーさんとキスをしましたか?」
「え!」
エルシーにはロージーと関係は持っていないと説明したが、疑っているみたいだ。
──神に誓って俺はロージーとは名ばかりの夫婦で体の関係は一切なかった!だが、夫婦と思っていたから、ロージーの軽いキスは受けた。
「したんですか?」
下から見上げて来るエルシーの顔が可愛い。
「したんですね。私は頬にキスしているのを見ました。凄く悲しかった」
「うっ・・・悪かった」
「いえ、今からヴァルにキスをしますから!」
──こんなダメな夫にキスをしてくれるのか。
エルシーの手が俺の後頭部を押さえて背伸びをしている。
「チュッ」
────頬にしてくれた。
それだけで真っ赤になっているエルシー。
可愛すぎる…
「恋人同士ですから愛を囁いて下さい」
「・・・」
「好きとか、褒めて下さるとか」
──押し倒したいと言ったら嫌われるだろうな。
「大好きだ。愛してる。初めて会った時から、ずっと好きだった」
「本当に? 私も愛しています。今夜から一緒に寝てくれますか?」
「一緒に? 大丈夫なのか?」
「うん、手を繋いで寝ましょう」
「手を・・・わかった」
避けられていた頃を思うと格段の進歩だ。
結婚してからも月に2回、家で顔を合わすだけの兄妹のような仲だった。
何も焦る必要はない、お互いゆっくり夫婦の絆を深めていけばいい。
ヴァルはもう一度エルシーを抱きしめて額にキスを返した。
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