私が妻です!

ミカン♬

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記憶にありません

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目撃された貴族風な男はオリバーだ。
いつまでもエルシーに付き纏う陰湿な屑野郎。

「脅迫だ、警備隊に知らせる!」

「嫌よ!シャリーが殺されてしまうわ。エルシーさんに頼みましょうよ」

「何を言ってるんだ、エルシーは関係ないだろう。巻き込むな!」

「あの女と私達とどっちが大事なのよ。こうなったのはヴァルのせいよ。村に戻ったりしなければ、シャリーは無事だったのに!」

「ロージー、それを君が言うのか!とにかくエルシーは関係ない!」

「な、何よ、だってそうじゃない」

孤児院にいた頃から変わらない。
ロージーはいつもこうだ。なんでも他人のせいにして己を顧みない。
しかし、オリバーにもシャリーの秘密を知られてしまい、もうこの国にはいられない。

ヴァルは一刻も早くエルシーと離縁し騎士団を辞める事にした。


「とりあえず、先に騎士団を辞めて、離婚届を出してくる。君はロビンに連絡を頼む」

「他国に行くのね!今度こそ私達、本物の夫婦になれるわね」

「本物の夫婦? ロージー、俺がエルシーと夫婦だと知ってたのか?」

「え? あ、だって、エルシーさんが来たのよ。私の夫って言ったから」

「そうか、大人しく待っててくれ。しばらく戻れない」

「いやよ、夜には戻ってよね。一人は怖いわ」

「アン婦人に頼んでおく。五日以内に村に行かなければ」

「シャリーを助けてね。愛してるわヴァル」

返事が出来ずに黙ってヴァルは王宮に向かった。




王宮に到着し、騎士団長の執務室で待っていると副団長のエイダンがやって来た。

「団長は本日は時間が取れないので私が代わりに聞きましょう」

ヴァルは婚姻証明書を見せて騎士団を辞めると告げた。

「信じて貰えないと思いますが、俺はサインした記憶が無いんです。妻帯者手当を申請した記憶もありません。エルシーは義父から預かった大切な妹のような存在なんです。決して浮気などしていません」

「妻帯者手当の申請は貴方自身が手続きをしないと受理されません。団長が『おお、生意気にヴァルは結婚したか』と仰って承認しました。私は廊下ですれ違った時、貴方にお祝いの言葉を掛けました。貴方は『当分は別居なんですが』と言ってましたね」

「え?」

「忘れたとは言わせませんよ。私ははっきりと覚えています」
エイダンは紫の瞳でヴァルを真っ直ぐ見つめた。

「俺は・・・・・」

エイダンと見つめ合ったままヴァルは思い出そうとした。
しかしシャリーの泣き声がまた頭に響いて、どうでもよくなってしまった。

「もういいですか? 俺は騎士団を辞めるんです。お世話になりました」

「お待ちなさい。サインして頂く書類があります」

ヴァルに待つよう指示し、エイダンは長い銀髪を揺らして執務室から出て行った。


ヴァルは、シャリーのために急がなければと焦っていた。

シャリーはきっと今も泣いている。
エルシーは絶対に巻き込めない。
やはり警備隊に応援を頼もうか。一人で助け出すのは無謀だ。


シャリーの泣き声が頭の中を巡ってヴァルは眩暈がした。



     *****


                                                     一方、侯爵家ではエルシーはレノが元気になれば、屋敷で働かないかと夫人誘われていた。
レノもホワイト侯爵家の騎士団の見習いに入れてはどうかと言ってくれた。
レノが聞けば大喜びするだろう。だがこの件は彼の両親に相談してからだ。

最初はお断りした。ご厚意に甘えてばかりで申し訳ないと。


────ホワイト夫人は引かなかった。

「娘が二人遠方に嫁いでいてね孫もいるのよ。娘達家族の無事を朝から教会に祈りに行ったら、帰りにエルシーに出会って、これもご縁だと思ったのよ。年寄のお節介だから甘えておきなさい。私はレノ君も気に入ってるの、勇気があって主人思い。良い騎士になりそうだわ」

そう言われてエルシーはホワイト夫人に誠意をもって今後はお仕えしたいと思ったのだった。

「レノもお世話になっていますから、今から働かせて下さい。なんでも致します」
そう申し出たが、今はレノに付き添って面倒を見るように言われた。


目覚めたレノはやはりヴァルを信じると言った。

「エル姉もヴァルにぃと打ち解けて話せば分かると思う」

「ヴァルとは夫婦として向き合ったり、話したことがないわ」

「1回ぐらいやってみたら?思ったこと言ったらいいと思うよ。母さんみたいに」

「そうね、次に会ったらそうするわ。マーサみたいに」

「口が悪いのはマネしないでよ。ドン引きだから」

二人で笑うとレノは「いててて・・」と体をよじった。


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