私が妻です!

ミカン♬

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それでも俺は君と離婚する

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 エルシーはもう一度ヴァルに告げた。

「妻は私です。貴方の家族は私とレノ達です! お揃いの指輪も填めています!」

 エルシーは手を掲げて金の指輪を見せた。

 だがエルシーが見たヴァルの指には、プラチナの指輪が填められていた。

「そんな・・・」

「金の指輪は確かに俺も填めていた。ロージーが失くしたと言って買い替えたんだ」



「ヴァルにぃ、僕は結婚式に参加したよ。エル姉が凄く綺麗で皆で見惚れたじゃないか」

 ────結婚式?

『エル姉、ヴァルにぃおめでとう!』
 今より幼いレノの顔が浮かんだ。

 『ヴァル、エルシーを頼んだよ。あれは心が弱い、守ってやってくれ』
   ケーシーの言葉が蘇る。

 そうだ、隣の町で式を・・・エルシーと?


 なんだ、どうしてエルシーの事を思い出せないんだ。

 エルシとの記憶を探るとシャリーの顔が浮かぶ。
 あの虹色の瞳が揺れて頭の中をシャリーの泣き声に支配される。


「違う・・・嘘だ!」



「ヴァル、貴方は洗脳されているんです!」

「副団長、俺は・・・」


「私と金の指輪を交換して、震える私にヴァルは口づけの代わりに頬を寄せてくれました」

「婚姻のサインもヴァルにぃが書いたんだよ。僕よりヘタクソな字で」

「俺が書いた・・・」

「そうだよ、思い出してよ、ヴァルにぃ!」

 エルシーを義父から託されて、幸せにしようと決心した・・・

 結婚したから・・・

 俺は騎士団の独身寮を出て家を借りた。

 結婚したから・・・

 家を借りた

 それから 

     それから

『ロージーです!ヴァル、久しぶりね。兄から手紙が届いたと思うんだけど』

 突然ロージーがやって来た。

 ロビンに頼まれて、俺は妊娠して不安定になっているロージーを預かった。


 そしてシャリーが生まれた。

『忌み子・・・何よこの目、気持ち悪い!あっちにやって!』

 俺は生まれたばかりの忌み子を教会に連絡しようとした。
 気持ちが悪いと言いながらロージーはなぜか教会に連絡するのを拒んだ。

 『ねぇ、この子はヴァルの子よね?そうだと言って!』

『馬鹿を言うな。金髪でフレッドによく似ているが・・可愛いな・・・』

 生まれたばかりのシャリーを抱いて、俺は虹色の瞳を覗き込んだ。

 ────あの瞬間、俺にとって赤子が俺の全てになった。

 ああ・・・忌み子だなんて関係ない。


『ああ…この子は俺の子だ』


『フレッドなんて関係ないわよね? 私達は家族よね? 愛してるわ、ヴァル』

 あの時から洗脳されていたのか?

 ロージーと夫婦だと思い込んでいたなんて。


『エルシーはあんたと本当の夫婦になろうと思って待ってたのに!こん畜生がぁ!』

  『私が妻です!』


 俺の妻は・・・

 エルシー

    エルシー

      シャリー

        シャリー

    ああ、可愛いシャリーの父親はフレッドだ。

     ロージーはロビンから頼まれた彼の妹だ。


 なんでエルシーを忘れていたんだ。
 ケーシーから託された大事な俺の妻なのに。

 それでも

     それでも

「エルシー・・・・それでも俺は君と離婚しなければならない」

 ヴァルは腕を掴んでいるエルシーの手をそっと外した。オリバーの条件は離婚だ。今はシャリーを助けるのが先決だった。

「ヴァル・・・やはりロージーさんを愛してるのね?」

「違う!・・・ごめん・・・訳は話せない」


「いいえ! その理由を聞きましょうか」

 エイダンがヴァルの胸ぐらを掴んで揺さぶった。
「これ以上奥方を苦しめてはいけません!」
「ふ・・副団長」

「貴方を洗脳したのは誰ですか。正直に答えないと場所を変える事になります」

 きっと団長だったら「はいはい、お前クビ」と執務室からヴァルを放り出しただろう。
 脳筋の団長だとヴァルの異変など気づかなかったはずだ。

「優秀な部下を失いたくありませんからね。さぁ、答えなさい!」


 きっとエイダンも何か異能を持っているとヴァルは感じた。
 決して他言するまいと決めたシャリーの秘密を打ち明けて、オリバーの脅迫の件も洗いざらい吐かされた。

「なるほど、では急いで攫われた赤子の救出に向かいましょう」

「副団長、手伝って頂けるのですか」

「【妖精の瞳】が真実なら、私もこの目で確かめてみたいと思います」


 エイダンは後ろに控える神官と頷き合った。

「赤子が生まれたのが2か月前なら、そう長い期間の洗脳ではありませんね。意識すれば己で洗脳は解けるでしょう。しかしその子はかなり強い力を持っています。早く封印した方が良いでしょう」

 神官がそう言い終わるとエイダンが話を続けた。

「洗脳の解除はまず洗脳だと自覚することです。ヴァル、気持ちを強く持って下さい」

「はい」


「では、ヴァル・ケント子爵の妻は誰ですか?」

「エルシーです」

「ロージー親子はヴァルの家族ですか?」

「いいえ、違います。シャリーは俺の子じゃなかった」

 ヴァルはエルシーを真っ直ぐ見て、プラチナの指輪を外した。


「もう結構です。ケント夫人は何か仰りたいことは有りますか?」

「ヴァル、ロージーさんは本当に恋人じゃないの?」

「絶対に違う! 彼女はシャリーの母親。それだけだった。孤児院にいた時からロージーは我儘で、俺は苦手だったんだ」

「私、絶対に離婚しませんよ」

 ヴァルは驚いた顔をした。

「俺を許せるのか?」

「初めからやり直したい。私達はまだ本当の夫婦になっていません」

「エルシー、すまなかった。本当に悪かった」

「いいえ、だって私達の2年間に比べてロージーさんと暮らした月日の方が、ヴァルと一緒にいた時間は長いもの。洗脳されて、私の記憶が消えたって不思議じゃないわ」


 フレッドから守るという理由があったにせよ、ヴァルが迂闊にロージーと同居した事をエルシーは責めているのだろう。
 ヴァルは後悔で何も言えず、部屋には微妙な空気が流れた。


「コホン、では急いで団長に知らせましょう」

 エルシーはホワイト侯爵家に残り、ヴァルの帰りを待つようにエイダンに言われた。

「私とシャリーちゃんを交換なんでしょう? 交換した後で私を助けて下さい」

「ダメだ! 危険すぎる!」
「そうですね。何が起こるか分からないですからね」

「オリバーは私を殺したりはしないと思うんです。でもシャリーちゃんはどうなるか、オリバーは人の心を持たない悪魔ですから」

「頼むエルシー・・・ここで待っていてくれ」
「ヴァル、私もオリバーと決着をつけたいの。私を守ってくれるでしょう?」

 エルシーの決心は固そうだ。

「良いでしょう。ケント夫人にも手伝って貰いましょう」
「有難うございます」

「爺さんに似て頑固だな・・・エルシーは俺が絶対に守る。オリバーには指一本触れさせない」

「まだ四日ありますから計画を練りましょう。まずはオリバーの近辺を調べるとします」

 エルシーに後で迎えに来ると言ってエイダンとヴァルは騎士団に戻っていった。



 部屋に静寂が戻ると、残されたエルシーにレノは問いかけた。

「大丈夫なの? オリバーと対決するんだよ?」

「怖いわ。でもヴァルが守ってくれるから大丈夫よ」

「そっか、でも誤解が解けて良かったね。洗脳なんてよくわかんないけど、二人には幸せになって欲しいんだ」

「有難うレノ。シャリーちゃんも無事に助け出さないとね」

「気を付けてよね」

「ええ」

 本心は震える程まだオリバーが怖かった。でもこの気持ちを克服しないとヴァルとは本当の夫婦になれないとエルシーは思うのだった。




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