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脅迫状
しおりを挟む────昨年、ロージーの兄のロビンから手紙を貰ったのが始まりだ。
ロビンとヴァルは孤児院で兄弟のように過ごしていた仲間だ。
互いに運よく貴族に引き取ってもらえた。
近年は疎遠になっていたが、困った時は助け合おうと約束していた。
ロージーは養父母に決められた婚約者から逃げて、フレッドという男と駆け落ちしたのだが、これがクズの暴力夫だった。
それが理由で離婚を認められたがフレッドはいつまでもロージーに付き纏っていた。
ロビンは今は他国で仕事をしており、養父母と婚約者を裏切ったロージーを表立って救えないから、手を貸して欲しいとヴァルは頼まれたのだ。
手紙を受け取ったヴァルを頼って、直ぐにロージーはやってきた。
追い出すことも出来ずヴァルはロージーを家に迎え入れたのだ。
フレッドは直ぐにロージーを取り戻しに来た。
そこでヴァルはフレッドを叩きのめし、ロージーの夫だと嘘をついて二度と近づくなと蹴り出したのだった。
そして気が付けばロージーと夫婦になっていた。
通いで使用人の女性も雇っているが、ロージーはヴァルがいないと何をするか分からない。
妊娠が分かってからはすぐ癇癪を起こすのでヴァルはロージーの扱いに困った。
シャリーが生まれてからは自傷行為もあってヴァルはロージーから目を離せなかった。
エルシーの待つ村に帰らなければと思いつつ、縋る妻子を置いてどうしても屋敷に戻れなかった。
*****
王都に戻ったヴァルは直ぐにでも騎士団長に会いたかったが、ロージーとシャリーの様子を確かめてからにしようと思い家に寄ってみると、ロージーがベッドで眠っていた。
シャリーはどこだ?
そこにアン婦人がやって来て、自傷行為でロージーが倒れており、シャリーが居なくなったと聞かされた。
アン婦人はロージーの出産を手伝ってくれて、シャリーの秘密を知る人だ。
出産当日は近所の婦人達も手伝ってくれた。
その婦人達にも口止め料を渡してあり、幸い秘密は守ってくれている。
シャリーが生まれた日、ロージーは半狂乱になった。
シャリーは【魔女の瞳・妖精の瞳】と呼ばれる目を持って生まれた忌み子だった。
虹色に輝く、不思議な力を持つ瞳。
ただ生まれながらに視力は無い。盲目である。
この瞳を持つ子が生まれると教会に知らせなければいけない。
瞳に宿る強い力を奪わなければ災いが起こると言い伝えられる。
この世界では不思議な力を持つ子が稀に生まれる。
教会だって鬼じゃない。赤子の目をナイフでくり抜いたりはしないだろう。
だがしかし、ロージーは反対した。
『ダメよ教会はこの子の目をくり抜くわ。そんな残酷な事は嫌よ!』
『しかし、これはこの国の規定だ。気持ちは分かるが』
『なら、この子を連れて他国に行くわ。それまでは秘密にして!お願い!』
他国の兄であるロビンを頼るというので愚かにもヴァルは目を瞑った。
生れたばかりの弱弱しく泣く赤子の目を見て、それが最善だと信じて疑わなかった。
シャリーの敵は教会だけではない。
珍しい瞳のコレクターや異能者を操ろうとする者・・・
───そんな奴らに攫われたのだろうか。
「ロージー、お前は母親としてシャリーを守ってやりたかったんじゃないのか! 俺たちは何をやってるんだ」
アン婦人にロージーを任せてシャリーを探しにヴァルは飛び出した。
怪しい人物の目撃者はいないか近隣を尋ね回って、貴族風の男を屋台の老婆が見かけたという情報だけだった。
もう警備隊に応援を要請するしかないと思い、ヴァルはロージーにその旨を伝えに戻った。
家にヴァルが戻ると部屋は散乱しており、目が覚めたロージーがシャリーが消えたと知って興奮し大暴れしたようだ。
錯乱したロージが駆け寄って来る。
「ヴァル!ヴァル、この手紙を見て!」
知らない男の子が持って来たという手紙にヴァルは目を通した。
【赤子を返して欲しければ、エルシーと別れろ。別れたらエルシーを連れて村に帰れ。赤子とエルシーを交換だ。警備隊には知らせるな。知らせたら赤子は殺す。五日以内に村に来るんだ】
手紙からして、犯人はオリバーに間違いなかった。
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