私が妻です!

ミカン♬

文字の大きさ
上 下
3 / 14

クソ野郎に襲われた

しおりを挟む
ヴァルの住む家まで勢いでやって来たエルシーだったが不安で胸がいっぱいだった。
その不安を煽るように今日も家の中から赤子の泣き声が聞こえる。

思い切ってドアをノックすると昨日見た茶髪の女性がひょこっと顔を出した。

「誰?」

「あの、私はエルシー・ケントと申します」

「はぁ? 何か用?」

女性はエルシーを中に入れる気は無さそうだ。ドアに手をかけて入り口に立っている。
まるで自分の家だと主張するように。

「あの、ヴァルはいますか?」

「ああ、朝から出勤しましたよ。今日から日勤なの」
ふっ、と不敵に笑う女性の顔が歪んで見える。

「赤子はヴァルの・・・私の夫の子どもですか?」

女性はヒュッと息を飲むと睨むようにエルシーを見つめていたが────

「ええ、そうです。娘の父親はヴァルです。どうか私達からヴァルを取り上げないで!あの人がいないと私達は生きていけません。お願いします!」

打って変わって態度が変わり、女性は地面に膝をついてエルシーに縋った。
その必死な形相にエルシーは恐れを抱き、逃げ出したくなった。

「おぎゃ─ うぎゃぁぁ────」と部屋から火が付いたように赤子が泣いている。
まるで母親を虐めないでと叫ぶように、激しく泣いている。

(怖い・・・・・いやだ)


「奥様に触れるな!離れろ!この嘘つき!」

レノが女性を引き剥がしエルシーの前に立った

「あなたレノ君ね。私はロージー。いつもヴァルから話は聞いていたわ」

「うるさい!話しかけるな。奥様、旦那様の所に行きましょう」

「彼は王宮よ。夜まで会えないわよ」

赤子が泣き出したので荒々しくドアを閉めて部屋にロージーが戻ると、エルシーはレノに引っ張られ、来た道を戻って行った。

「あんなの嘘だ。嘘に決まってる」

嘘だろうか。
必死で縋って、あれはヴァルを慕っている顔だった。


「レノ、このまま帰ろう」

もう村に戻りたい、そう思った時─────

建物の影から男が3人現れた。


「ここに来ると思っていたよ、エルシー」

路地に立ち塞がったのはオリバーだった。


なぜ彼がここに? エルシーは膝が震えて、思わずレノの腕に縋った。

彼の後ろには人相の悪い護衛の騎士が二人立っている。
オリバーは嬉しくてたまらない顔でエルシーに手を伸ばした。

「逃げて!早く!」

レノがオリバーに体当たりするとオリバーは尻餅をついて、後ろの護衛が慌ててレノを押さえつけている。

「逃げて!」

「くそっ! お前ら、ガキを遊んでやれ!」

震えながらエルシーは大通りに向かって走った。
警備隊か誰かに助けを求めないとレノが殺される。

「助けて!誰か!」

大通りに出た所でオリバーに腕を掴まれて、バーン!と頬を殴られた。

「黙れ!いう事を聞かないと小僧を殺すぞ!」

髪を掴まれて口を押さえつけられ、過去の忌まわしい記憶がフラッシュバックする。

「ヴァルはここで愛人と暮らしてるじゃないか。お前捨てられたんだよ。俺が拾ってやるよ」


腰が抜けてエルシーが地面に座り込むと「やめなさい!」と声がして、精悍な騎士二人が素早くオリバーを押さえつけた。

「こいつは俺の女だ。どうしようと勝手だ!放っておいてくれ!」

「た…助けて、あっちでレノ、弟が捕まってるんです、助けて!」

騎士の一人が住宅通りを駆けていく、エルシも立ち上がりフラフラしながら追いかけた。

「レノ、レノ、無事でいて、レノ」


騎士がレノを背負ってこっちに戻って来るのが見えた。

「レノ!」

「酷い怪我だ。早く医者に見せないと」

男達に殴られてレノはグッタリしている。

「レノごめん・・・ごめんなさい」



大通りに戻ると年配の婦人が大きな馬車の横で仁王立ちして、大勢のやじ馬に遠巻きにされていた。

「あのクソ野郎は警備隊に渡したわよ。弟さんは?」

「酷いけがで気を失っています」
婦人の護衛騎士がレノを背から降ろすと横抱きにした。

「まぁ酷い、急いで帰るわよ。貴方も来なさい!」

助けてくれた婦人の好意を受ける事にした。今は何よりもレノが大事だ。

エルシーとレノを乗せた立派な馬車が大通りを走り去ると、やじ馬達も散っていった。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜

よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。  夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。  不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。  どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。  だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。  離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。  当然、慰謝料を払うつもりはない。  あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく

矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。 髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。 いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。 『私はただの身代わりだったのね…』 彼は変わらない。 いつも優しい言葉を紡いでくれる。 でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

処理中です...