2 / 14
思っていた以上に夫を愛していた
しおりを挟む
宿の部屋に入るとエルシーはベッドに倒れ込んだ。
二人部屋で傍にはレノがいるのだが気遣う余裕は今は無かった。
「エル 姉、僕はヴァルにぃが浮気するなんて思えない。何か訳があるんだよ」
赤毛で愛嬌のあるレノは弟のような存在だ。エルシーが結婚してからは敬語を使うように親に言われ、使用人として接してくるが今は素が出ている。
「あそこはヴァルの家よ。どんな訳があって女性と暮らしているの?」
「そうだけど・・・それでも信じられないよ」
あんなに親し気にキスまでしていたのに、エルシーはレノのように夫を信じる事が出来なかった。
「ごめんねレノ、一人にしてくれるかしら。夕飯を食べてくると良いわ」
「わかった。一人で大丈夫?」
レノに大丈夫だと言って部屋を出て貰った。
小窓から見たヴァルの表情を思い出しては胸が痛む。
激しい嫉妬に苛まれて涙が溢れ、思っていた以上にエルシーは夫のヴァルを愛していたことに気づいた。
───────ヴァルと結婚したのは曾祖父ケーシーの願いだった。
両親が亡くなってエルシーは親戚をタライ回しにされ、10歳で最後に辿り着いたのが曾祖父の元だった。
当時、オリバーに植え付けられたトラウマで、どんな男性もエルシーは恐れた。
翌年、ヴァルが15歳になって騎士学校の寮に行ったときはホッとした。
エルシーが立ち直ったのは使用人のマーサと彼女の息子のレノのお陰だ。
学校を卒業するとヴァルは曾祖父の養子になり、ヴァル・ケント子爵として王宮騎士団に入った。
養子にする際、曾祖父はエルシーとの結婚を条件にした。
恩ある曾祖父の命令をエルシーが断れなかったように、ヴァルも断れなかったのだと思う。
エルシーが16歳になると隣町で簡単に式を挙げて二人は夫婦になった。
婚姻証明書を確認すると安心して、年老いた曾祖父は息を引き取った。
『俺は今まで通り王都に住むから、エルシーはレノ達と村で暮らすと良い。生活は俺が面倒を見る、心配はいらない』
エルシーには有難い申し出だった。
夫はお金と土産を携えて月2回だけ村に帰り、自室で一泊すると朝にはまた王都に帰って行った。
女性に興味なさそうな夫に愛人がいるなんて考えもしなかった。
苦手意識はあっても2年以上夫婦でいると情愛も沸き、陰湿なオリバーに対し夫は防波堤のような存在で、とても安心だった。
明日は夫から事実を確認して、必要なら離婚を。
赤子までいるのだ、身を引くべきだろう。
オリバーが接近して来るなら、修道院に逃げようか。
エルシーは指に填められた結婚指輪をそっと撫でた。
今日は混乱して引き返したが、明日は冷静に話し合おうと決心した。
ドアがノックされてレノが夕飯を持って戻って来た。
「ここで少しでも召し上がって下さい」
(ずっと年下のレノに心配をかけてはいけない)
「ありがとう」
エルシーは少しずつ料理を口に運んだ。
翌朝、また決心は鈍っていた。
このまま知らないフリをして屋敷に帰りたい。
「レノ・・・やっぱり戻るわ。私達は王都には来なかった」
「それでいいのですか? 僕が旦那様に聞いてきましょうか? 僕は信じられません。旦那様は絶対に奥様が好きです。浮気なんてしませんよ」
あの光景を見ても、純粋でヴァルを兄と慕うレノはそう言い張った。
宿を出てエルシーは迷った。─────が、住宅街に向かって歩き出した。
「行くわ!ずっとこんな不安な気持ちのままでいるのは耐えられない」
「はい、行きましょう!」
馬車が行き交う大通りを、二人は石畳を踏みしめながら足早に進んだ。
二人部屋で傍にはレノがいるのだが気遣う余裕は今は無かった。
「エル 姉、僕はヴァルにぃが浮気するなんて思えない。何か訳があるんだよ」
赤毛で愛嬌のあるレノは弟のような存在だ。エルシーが結婚してからは敬語を使うように親に言われ、使用人として接してくるが今は素が出ている。
「あそこはヴァルの家よ。どんな訳があって女性と暮らしているの?」
「そうだけど・・・それでも信じられないよ」
あんなに親し気にキスまでしていたのに、エルシーはレノのように夫を信じる事が出来なかった。
「ごめんねレノ、一人にしてくれるかしら。夕飯を食べてくると良いわ」
「わかった。一人で大丈夫?」
レノに大丈夫だと言って部屋を出て貰った。
小窓から見たヴァルの表情を思い出しては胸が痛む。
激しい嫉妬に苛まれて涙が溢れ、思っていた以上にエルシーは夫のヴァルを愛していたことに気づいた。
───────ヴァルと結婚したのは曾祖父ケーシーの願いだった。
両親が亡くなってエルシーは親戚をタライ回しにされ、10歳で最後に辿り着いたのが曾祖父の元だった。
当時、オリバーに植え付けられたトラウマで、どんな男性もエルシーは恐れた。
翌年、ヴァルが15歳になって騎士学校の寮に行ったときはホッとした。
エルシーが立ち直ったのは使用人のマーサと彼女の息子のレノのお陰だ。
学校を卒業するとヴァルは曾祖父の養子になり、ヴァル・ケント子爵として王宮騎士団に入った。
養子にする際、曾祖父はエルシーとの結婚を条件にした。
恩ある曾祖父の命令をエルシーが断れなかったように、ヴァルも断れなかったのだと思う。
エルシーが16歳になると隣町で簡単に式を挙げて二人は夫婦になった。
婚姻証明書を確認すると安心して、年老いた曾祖父は息を引き取った。
『俺は今まで通り王都に住むから、エルシーはレノ達と村で暮らすと良い。生活は俺が面倒を見る、心配はいらない』
エルシーには有難い申し出だった。
夫はお金と土産を携えて月2回だけ村に帰り、自室で一泊すると朝にはまた王都に帰って行った。
女性に興味なさそうな夫に愛人がいるなんて考えもしなかった。
苦手意識はあっても2年以上夫婦でいると情愛も沸き、陰湿なオリバーに対し夫は防波堤のような存在で、とても安心だった。
明日は夫から事実を確認して、必要なら離婚を。
赤子までいるのだ、身を引くべきだろう。
オリバーが接近して来るなら、修道院に逃げようか。
エルシーは指に填められた結婚指輪をそっと撫でた。
今日は混乱して引き返したが、明日は冷静に話し合おうと決心した。
ドアがノックされてレノが夕飯を持って戻って来た。
「ここで少しでも召し上がって下さい」
(ずっと年下のレノに心配をかけてはいけない)
「ありがとう」
エルシーは少しずつ料理を口に運んだ。
翌朝、また決心は鈍っていた。
このまま知らないフリをして屋敷に帰りたい。
「レノ・・・やっぱり戻るわ。私達は王都には来なかった」
「それでいいのですか? 僕が旦那様に聞いてきましょうか? 僕は信じられません。旦那様は絶対に奥様が好きです。浮気なんてしませんよ」
あの光景を見ても、純粋でヴァルを兄と慕うレノはそう言い張った。
宿を出てエルシーは迷った。─────が、住宅街に向かって歩き出した。
「行くわ!ずっとこんな不安な気持ちのままでいるのは耐えられない」
「はい、行きましょう!」
馬車が行き交う大通りを、二人は石畳を踏みしめながら足早に進んだ。
130
お気に入りに追加
715
あなたにおすすめの小説

【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話

【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜
よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。
夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。
不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。
どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。
だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。
離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。
当然、慰謝料を払うつもりはない。
あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく
矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。
髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。
いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。
『私はただの身代わりだったのね…』
彼は変わらない。
いつも優しい言葉を紡いでくれる。
でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです
よどら文鳥
恋愛
貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。
どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。
ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。
旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。
現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。
貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。
それすら理解せずに堂々と……。
仕方がありません。
旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。
ただし、平和的に叶えられるかは別です。
政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?
ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。
折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる