5 / 5
5
しおりを挟む数日間もめたようだが、王太子殿下は聖女様を伴って帝国に戻って行かれた。
聖女様は暴言を吐く乱暴なサリエル王子に求婚され、恐ろしくてこの国に残りたくないと言ったのだ。
聖女様を解毒したのも帝国の薬だったのでこの国は何も言えなかった。そもそも大国である帝国に逆らうなど出来るはずもない。
エリサは教会の監督下、監禁状態で一生無償で働かされることになった。
サリエル王子は私の進言を聞き入れず聖女様を危険に晒し、帝国に攫われてしまった罪と公爵令嬢を貴族牢に監禁し公爵家からの後ろ盾を失った為、王太子候補から外されてしまった。
傷が癒えて動けるようになると迎えが来て私は帝国の王宮に迎えられた。
表向きは姉妹で世間を騒がせた罰で国外追放という処分だった。
両親も平民に落とされて国外に追放されたがその後の足取りは分からない。
レオナード王太子殿下に謁見すると今回の経緯について説明された。
約2か月前に王太子殿下は襲撃を受け、部下を数人亡くしたそうだ。
「側近の中にはアルフレッドもいた。彼はアルと呼ばれていた」
「アル・・・」
涙が零れた。
「彼はもういない」
「そうでしたか」
涙が止まらない。
もしかしたら帝国で亡霊のアルに会えるかもしれないと心のどこかで思っていた。私を救ってくれた王太子殿下はいろいろとご存じだった。きっとアルと通じていると思っていた。
静かに涙を流す私を、王太子殿下は見ておられたが「はぁ・・・」とため息をつかれた。
「だめだ、私は嘘がつけない。ついておいでアリス」
馬車で移動すると、立派なお屋敷に到着した。
王太子殿下と共に案内された部屋に車椅子の男性がいた。
「アル、調子はどうだ」
私の体が震えた。
会いたくて死ぬほど恋焦がれた亡霊騎士がそこにいた。
「アル・・・」
「アリス!ああどうして・・・レオ、私は死んだと伝えて欲しかった」
アルは王太子を守り瀕死の重傷を負い、意識が戻らず生還は絶望視されていた。だが奇跡的に意識が戻ったそうだ。
「暫くは記憶が混濁していたが、アルは私に夢を見ていたと話してくれた。それがアリスの事だった。聖女の話も聞いて夢では無いのかも知れないと思いあの国を調べさせたのだ」
「生霊というのかな、私の魂はアリスの元に送られた。夢じゃなかった。」
私はアルに駆け寄って手に触れた。温かい、確かに彼は生きていた。
あの日、女神さまは私に救いの手を差し伸べてくれたのだ。
それがきっとアルとの出逢いだった。
「どうして、どうして死んだなんて」
「もうアリスを守れない、私の足は一生動かないんだ」
「アルはね、君への想いが深すぎて傍にいるのが辛いんだとさ」
「レオ! 違うんだよアリス」
「待っている、いつまでも待ってると言ってくれたわ。嘘だったの?」
「いや、私はアリスの重荷になりたくないんだ」
「そんな言葉は聞きたくないの。貴方の本当の気持ち───それだけを」
アルは躊躇っていたが、私の目をみて手を強く握ってくれた。
「橋の上から見かけた時から、アリスには惹かれていた」
「私もよ。アルから目が離せなかった」
「アリス、私は7歳も年上だがそれでもいいだろうか」
「年なんか関係ないわ。大好きよアル!」
アルにそっと抱き着くと抱き返されて体中が温かくなった。
生きている・・・アルは今私の腕の中にいる。
***
数か月後、私はアルと結婚式を挙げ、帝国のエーベル侯爵夫人になった。
アルの足はリハビリを重ねて少しずつ動かせるようになってきた。
悪夢のような過去はアルの愛情で癒され、幸福な日々が続いている。
聖女様の名前はマリアンヌ様。帝国の第三王子殿下と近く婚約が決まりそうだ。
マリアンヌ様とも仲良くなりお互いの屋敷を行き来している。
私は王宮の浄霊師として王太子殿下の臣下となった。
呼び出されては浄霊の仕事を承っている。
アルは亡霊騎士では無くなった。今は私の最愛の夫だ。
最悪の悪女は過去の亡霊となった。私はアルの妻として生きていく。
────────終わり
最後まで読んで頂いて有難うございました。
2
お気に入りに追加
31
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?
青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。
二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。
三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。
四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。
侯爵令嬢セリーナ・マクギリウスは冷徹な鬼公爵に溺愛される。 わたくしが古の大聖女の生まれ変わり? そんなの聞いてません!!
友坂 悠
恋愛
「セリーナ・マクギリウス。貴女の魔法省への入省を許可します」
婚約破棄され修道院に入れられかけたあたしがなんとか採用されたのは国家の魔法を一手に司る魔法省。
そこであたしの前に現れたのは冷徹公爵と噂のオルファリド・グラキエスト様でした。
「君はバカか?」
あたしの話を聞いてくれた彼は開口一番そうのたまって。
ってちょっと待って。
いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないですか!!?
⭐︎⭐︎⭐︎
「セリーナ嬢、君のこれまでの悪行、これ以上は見過ごすことはできない!」
貴族院の卒業記念パーティの会場で、茶番は起きました。
あたしの婚約者であったコーネリアス殿下。会場の真ん中をスタスタと進みあたしの前に立つと、彼はそう言い放ったのです。
「レミリア・マーベル男爵令嬢に対する数々の陰湿ないじめ。とても君は国母となるに相応しいとは思えない!」
「私、コーネリアス・ライネックの名においてここに宣言する! セリーナ・マクギリウス侯爵令嬢との婚約を破棄することを!!」
と、声を張り上げたのです。
「殿下! 待ってください! わたくしには何がなんだか。身に覚えがありません!」
周囲を見渡してみると、今まで仲良くしてくれていたはずのお友達たちも、良くしてくれていたコーネリアス殿下のお付きの人たちも、仲が良かった従兄弟のマクリアンまでもが殿下の横に立ち、あたしに非難めいた視線を送ってきているのに気がついて。
「言い逃れなど見苦しい! 証拠があるのだ。そして、ここにいる皆がそう証言をしているのだぞ!」
え?
どういうこと?
二人っきりの時に嫌味を言っただの、お茶会の場で彼女のドレスに飲み物をわざとかけただの。
彼女の私物を隠しただの、人を使って階段の踊り場から彼女を突き落とそうとしただの。
とそんな濡れ衣を着せられたあたし。
漂う黒い陰湿な気配。
そんな黒いもやが見え。
ふんわり歩いてきて殿下の横に縋り付くようにくっついて、そしてこちらを見て笑うレミリア。
「私は真実の愛を見つけた。これからはこのレミリア嬢と添い遂げてゆこうと思う」
あたしのことなんかもう忘れたかのようにレミリアに微笑むコーネリアス殿下。
背中にじっとりとつめたいものが走り、尋常でない様子に気分が悪くなったあたし。
ほんと、この先どうなっちゃうの?
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
私は卑しい聖女ですので、お隣の国で奉仕活動いたします
アソビのココロ
恋愛
「いえいえ、私は卑しい聖女ですので当然のことでございます」
『贖罪の民』の女性は生まれながらの罪人だ。彼女らは『聖女』と呼ばれ、回復魔法で奉仕することで罪を贖わなければならなかった。その中でも聖女ヒミコの魔法の力は図抜けていた。ヒミコは隣国で奉仕活動をしようと、街道を西へ向かうのだった。そして死に瀕していた隣国の王子と出会う。
結婚式前日に婚約破棄された公爵令嬢は、聖女であることを隠し幸せ探しの旅に出る
青の雀
恋愛
婚約破棄から聖女にUPしようとしたところ、長くなってしまいましたので独立したコンテンツにします。
卒業記念パーティで、その日もいつもと同じように婚約者の王太子殿下から、エスコートしていただいたのに、突然、婚約破棄されてしまうスカーレット。
実は、王太子は愛の言葉を囁けないヘタレであったのだ。
婚約破棄すれば、スカーレットが泣いて縋るとおもっての芝居だったのだが、スカーレットは悲しみのあまり家出して、自殺しようとします。
寂れた隣国の教会で、「神様は乗り越えられる試練しかお与えにならない。」司祭様の言葉を信じ、水晶玉判定をすると、聖女であることがわかり隣国の王太子殿下との縁談が持ち上がるが、この王太子、大変なブサメンで、転移魔法を使って公爵家に戻ってしまう。
その後も聖女であるからと言って、伝染病患者が押しかけてきたり、世界各地の王族から縁談が舞い込む。
聖女であることを隠し、司祭様とともに旅に出る。という話にする予定です。
【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》
語尾に「好きです」がつく呪いがきっかけで氷の王太子様に溺愛されました。えっ、私が聖女ですか? ~殿下の尻尾、もふもふです
朱音ゆうひ
恋愛
妹姫が私を呪った。恐ろしい獣人相手に愛をささやいてしまう呪いだ。
おかげで私は「氷の王太子」と呼ばれる獣人の国の王太子イシャード殿下に「好きです」「お慕いしてます」と言ってしまった!
でもこの王太子殿下、すごく喜んでいる。もふもふ尻尾がパタパタしてる。えっ、可愛い。
触っていいのですか? 撫で撫で。
気持ちいいのですか、殿下?
しかも私は聖女らしいのです。
これは、美形王太子イシャードと不憫なお姫様アミーラのモフモフで可愛いラブストーリーです。
他サイトにも投稿しています( https://ncode.syosetu.com/n5288ig/ )
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる